17:最下位(ポーン)、再開(リスポーン)、再会(リーサル・ウェポン)
これは、
人間は、意図的にも無意識にも、相手をランク付けし。
何度かのテストの
例えば。
仕事とか、血縁とか、趣味とか、コネとか。
そうやって、見ず知らずの誰かと邂逅し。
ルックスや声、財力などを勘定に入れない場合。
大多数の人間は、相手を、ヒエラルキーの最下位としてカウント、認識する。
コンタクトを済ませ、『トクセン』に招き、共に職務に奔走し、時に食卓を囲み、同じ目標を達成し。
そんな、濃密な1年を丸ごと失った以上。
それで
自分が仕出かした不始末とはいえ、あんな最低最悪の夜を経て、合わせる顔が
弁明の余地は
けど。
だからといって。
だからこそ。
無視する
野放しには
宙ぶらりんのままでは、いられない。
曖昧模糊として二の足を踏んでいては、同じ
ちゃんと、向き合わねば。
「……
深呼吸し、目的の場所へと足を踏み入れる
向かう場所は、ただ一つ。
強者
「ごめんください。
先程ご連絡を差し上げた、
こちら、名刺です。
あと、つまらない物ですが、よろしければお召し上がりください」
「がははははっ!!
あいつなら今、外で一服してるぜぇ!!
声掛けやってくんな!!」
差し入れを渡すと、棟梁は
ここまで元気に応対されると、緊張してるのが馬鹿馬鹿しく思えて来る。
棟梁の言葉を頼りに、オフィスの外に出る
探していた
ブルー・シートを広げ、以外にもフルーツ・サンドと紅茶を嗜んでいるではないか。
中々にギャップの
そういえば
その頃から恐らく、二人は
「初めまして。
本日は、あなたをスカウトに上がりました。
営業スマイルを送ると、
「初めましてっス。
ご多忙の中、足をお運び頂き、あざっス」
「……うん?」
あれ?
この、妙に礼儀正しい、
他の兄弟、
「大丈夫っスか?
どこか、具合でも?」
「え!?
あ、いや、全然!!
ちょっと、思ってた感じと違ってたから、戸惑ってるだけ!!」
「あー。
やっぱり、驚くっスよね?
大体の人は、そうなんっスよ。
店長も、そうっスよね?
どうやら、都合良く勘違い、解釈してくれたらしい。
後ろめたいが、この場は素直に流れに乗っておく
「……そ、そう!
そんな感じです!」
「だと思ったっス。
立ち話も
あと、
手前味噌になるっスが、自分の彼女のスイーツ、絶品なので。
多くの女性はスイーツを好むと聞き及んでるっスが、全員とは限りませんし。
無理強いはしないっスが、もし、苦手とかアレルギーとかでなければ。
こっちは、まだ自分も、手と口を付けていないので」
「あ……は、はい……。
大好きです……。
頂きます……」
依然として
ひょっとして、あれだろうか?
歴史のみならず、性格まで改変されたのだろうか?
などと
「……すみません。
実は
失礼ながら、もっと弾けたお方とお見受けしたのですが」
「あー、それで。
通りで、先程から不思議なお顔をされていた
「どんな顔!?」
「お気になさらず。
で、その件なんスけど」
素直な所はそのままに、
「……会って早々に、自分語りというのも、アレっスが。
自分、幼少の時に、喘息で死にかけた
「えっ!?」
「っても命
こんなガタイなので、信じて
昔は、病院暮らしだったんっス。
おまけに、活字も苦手で。
なので、
病気が治って、どんな悪にも屈しない、
「……もしかして、それで……」
「はい。
けど、理由は他にも
あの状態で
入院している時も、そうでした。
いつもは、
それが、
で、
兄さんのみならず、知り合いが
こんな
「なるほど……」
思い返してみれば、
以前、最初に声を掛けた時も、
彼が
決して、無駄などではなかったのだ。
「
おまけに、病気にも寒さにも暑さにも睡魔にも負けない、常に万全な体に進化したんっス。
それだけで飽き足らず、どれだけ食べても太らないし、満腹にもならないし、かといって空腹にもならないし飢餓感も
家内安全ならぬ、かなり安全と言うべきか。
バレー・ボールのピンが頭に降って来ても、ビクともせずケロッとしてて。
保健室に行かずシレッと教室に戻り、先生を驚かせた
回復も含めて、そうなった理由は、謎に包まれたままなんスが」
「ま、まぁ……。
健康になったのなら、良かったんじゃないですかね……」
「
自分だけが助かっても、意味が
この世には、難病に苦しんでいる人達が、まだまだ
その人達を励ます
思った通り。
自分は、こと二人に関して、特に無知
「なので今回の誘い、すっげー
自分の、皆のヒーローになるチャンスが、また自分に訪れるなんて、夢の
丁度、父を手伝いつつ、新しい仕事を探していた所なんで」
「じゃあ……!!」
「自分で
「是非!!
「こちらこそっス。
隊長
やはり、どうにもコレジャナイ感は
こうして
「して、隊長
姉さんと兄さんには、
「あー、うん。
「それなら、良かったっス。
あの二人には、是非とも幸せになって
「……?」
双子の兄と、その妻。
二人の幸せを願う、誠実な弟。
そこだけ切り取れば、ありふれた構図である。
しかし、
「
「ええ、まぁ。
にしても、慧眼っスね。
「……昔、病気で死にかけてたって言ったじゃないっスか。
その時、どうやら自分、『初恋も
で、それを耳にした兄さんが、その……」
「……女装したの?」
「そうなんっスよ。
しかも、バッチバチにガチってて。
それ
他の人が、
自分にとっては、自慢の兄なんっスよ」
「
「そう思うのは、隊長
このエピソードを明かすと、何人かは引き攣るんで。
まぁ、そういう
今度はマカロンを食べ進めつつ、
「兄なんっスけど。
小学生の時に、初恋の人が
元々、
そんな兄が初めて、自分に教えてくれたんっスよ。
前の席の人が、そういう意味で気になるって」
「もしかして……リオ様?」
「やっぱり、ご存知なんっスね。
ご名答っス。
二人は、出席番号が近かった
俗に言う、幼馴染って
「そうだったんだ」
筋金入りでは、あると思っていた。
しかし、まさかそこまで入れ込んだ関係だったとは。
「じゃあ、その時から、付き合ってたの?」
「いや。
恋人同士になったのは、高校に入った辺りからっス。
なんてーか、まぁ……色々、
いや、まぁ、ここまで出会い頭で勝手に曝け出しといて
最低限のプライパシーは、身内として保持しなきゃなんで。
「……そだね」
基本的に素直な
向こうにとっては日の浅い自分が、軽々しく聞いて
後で二人に怒られない
「そんなこんなで紆余曲折、苦節を経て、
まだ挙げてなかったけど、結婚式も秒読みってタイミングで、働いてた遊園地の閉園が決まって。
別に、それを咎める
なので二人には、自分の得意分野を活かせる、安定した仕事に就いて
「それで、
「そうっス。
二人の最大の理解者、結婚式のスピーチも任せて
「盛り上がりそうでは
余興として」
「結構、ぶっちゃけるっスね」
「君には負けるよ」
「当然っス。
自分は、
「ポジティブだな!?」
「どうせ生きるなら、楽しんだもん勝ちっスもん。
ただでさえ自分は、幼少の時点で充分、苦しめられたっスし。
てな
食べ終え、ティッシュで口を拭き、合掌する
「『条件』だなんて、偉そうに言う
二人を、どうか、幸せにして
これから、後付で増えるかもっスけど。
現状、自分が隊長
その
出会ったばかりの相手と、食事をし、苦労話を明かし、身内の
誰でも、誰にでも
彼は、本当に強い。
身も、心も。
「……分かった。
だからさ、
立ち上がり、上半身を戻させ、
「
二人を、幸せにしよう。
大事な、大事な、君の家族を」
今度は、間違えない。
逃げないし、見逃さない。
「……うっス!!
「これこれ、これだよっ!!
これを、待ってたんだよぉっ!!」
まさか、これを切望する日が訪れようとはなぁ。
などと思いつつ。
こうして
リベンジの初陣を、勝利で飾るのだった。
※
「
そろそろ、スイーツ以外も作ってみないかなぁ?」
「残念、だけどぉ。
シィナが、惹かれるのわぁ。
お菓子、だけなのぉ、ですぅ」
「そっかぁ。
誇りを持ってるのは素晴らしいんだけどさぁ。
そうは言っても、材料費がさぁ。
あと、サービスにしては、量とクオリティが釣り合ってないかなぁ」
「お気遣いぃ、お構い
パルフ◯の、ま〜姉ちゃ◯もぉ。
してた、からぁ。
その内ぃ、
「じゃあせめて、和菓子にしよっかぁ。
ここ一応、和食レストランだからさぁ」
「悲しい、かなぁ。
シィナわぁ、大のぉ、和菓子嫌いぃ。
なの、だぁ」
「我が家、嫌いなのかなぁ。
好きでいて
「可も
不可も
「どっちかなぁ。
まぁ、
「……」
厨房で繰り広げられる、フワフワした喧嘩。
それを見ながら、
いきなり『ほのぼぉの』にまで来たのは、攻め過ぎたかもしれないと。
「わぁ。
デリシャスそうなぁ、ご新規さんだぁ。
いらしゃいませぇ。
空いてるお席に、どぉぞぉ。
お
特別ぅ、だよぉ」
「勝手に決めないで
「お気持ちだけ受け取っときます。
きちんと、お支払いするので」
「おいしろぉ。
ごゆっくりぃ」
「
ゆっくりでも
「パパのぉ、鬼ぃ。
その内ぃ、バリカタにぃ、退治するぅ」
「用心しておこうかな。
それと、そこのお嬢さん、アレかな?
悪いけど、ちょっと待ってくれるかな?
もう少しで閉店だし、そろそろ落ち着くと思うから。
話なら、その後にして
それまで、内の料理食べるなり、スマホ弄るなりして、待ってて
「パパのぉ、ドケチぃ」
「だから、
面白いなぁ」
「でしょぉ。
シィナ、おいしろいのぉ」
……よく、生存競争で勝ち残れてるな、この店。
これが日常茶飯事な辺り、色々と不安なんだが。
などと思いつつ、
食事を済ませた後。
明日の仕込みを済ませるべく、父が裏に下がり。
残業で遅れた恋人みたいに、
身動きが取れぬまま、超至近距離で。
「あははぁ。
もしかしてぇ、マシマシにぃ、ド
「……してる……」
「あははぁ。
バリカワァ」
「『バリカタ』みたいに、言わないで……」
軟式のテニス・ボールみたいな柔らかい感触の胸に、
余談だが、
この場に彼女が
それはそうとして。
やはり時期尚早だったと、
そこまで情報収集も済ませぬまま、ぶっつけで挑むなんて、愚の骨頂。
もっと、きちんと調べてからにすべきだった。
やろうと思えば、
対する
これでは、忠実に今まで通り、平行線。
あの、悪夢の一日、マイナスからのスタートではなくなった、というだけではないか。
しかし、ここで退く
「ねぇ、ねぇ、お
お
シィナのぉ、名前の、由来ぃ」
などと思案したいたら、向こうから話題を提供してくれた。
それも、返答次第では円滑にコミュニケーションを図れそうな類の。
しかし、
「あははぁ。
お
再び、
どうやら、返答を
「じゃあぁ。
お
シィナからぁ、ヒントをぉ、サービスサービスゥ」
言い
その再現度は、お世辞にも高いとは言えず、
「シィナのぉ、パパのぉ、
……つまり、アレか?
パルフ◯で言う所の夏海◯海的な、脱力系ラノベみたいな感じか?
言うなれば、『決して離婚はしない、名前では損をさせない』という、不退転の決意というべきか。
とどのつまり。
「それもう、答えじゃん!!」
悦に入ったらしく、
「やたぁ。
やっとぉ、お話
シィナァ、
「はっ……嵌めたなぁ!?」
「シィナのぉ、トラップにぃ、いらしゃいませぇ。
PCゲームからぁ、でしたぁ」
「しかも、詐欺ったなぁ!?
「おいしろなぁ、パティシエだけにぃ。
話作りも、おいしろぉ」
「座布団一枚!」
「やたぁ。
またのお越しをぉ」
「来んわっ!!
あと、さては元ネタ、アリアズ◯ーニバルだな!?」
「
ご
「
言っとくけど、難易度バグってるからな!?
それでいて、個別ルート行ってもバッド・エンド一直線かもだかんな!?」
またしても、されるがままにナデナデ攻撃を受ける
距離感が近過ぎるのも、考えものである。
完全に
普通に話せる
ゆるふわ系の
ここから、会話の糸口を……。
と、
「『アレキシサイミア』。
ってぇ、知ってるぅ?」
再び、
料理の知識の
よって、その線で探り当てるのは無謀。
「……ごめん。
分からない」
「あははぁ。
だよねぇ。
簡単にぃ、言うとねぇ。
シィナわぁ、『失
他にも、色々ぉ、ハンディなのぉ。
自分の名前もぉ、忘れそうなまでにぃ」
「……。
……え」
平時の笑顔で、普段のトーンで、フワフワ、ホワホワした雰囲気で。
とんでもない爆弾を、投下する
その異常さから、
今度こそは、詐欺られてなどいないと。
「……感情が
って、
「んぅん。
でもぉ、分かんないのぉ。
心とかぁ、
シィナにわぁ、
だからぁ、今でも、こんな感じぃ。
少し前までぇ、誰とも、お喋りぃ、
誰も、シィナとぉ。お喋り、してくれなかった、からぁ」
「……」
こんな
店長にあるまじき態度だと、承知している。
それでも
一部の少女漫画やケータイ小説みたいな口調だなぁ、と。
ここに来て
彼女は、恐らく遊園地で働くまで、コミュニケーションという物に触れられなかった。
それでは、人間性など育つ
おまけに、他にも障害が
「でもぉ。
ある日、シィナにねぇ。
魔法がぁ、掛かったのぉ」
「……魔法?」
「んー。
シィナわぁ、頭、
得意とか、特技とかぁ、
お菓子の、作り方だけがぁ。
分かる
それも、
あとぉ、自分の、気持ちもぉ。
段々ぅ、分かる
どうしてかわぁ、今でも、分かんない、けどぉ。
それで、シィナ、バーッて、バーッてなってぇ。
パパと、ママにぃ、プレゼントしたのぉ。
そしたらぁ、二人共、笑ってくれてぇ。
シィナをぉ、
そこで、初めて、分かったんだぁ。
シィナの『心』は、これだぁって。
それこそが、シィナの『心』なんだぁ、って。
シィナの、周りの
そのまま、シィナに、直結するんだぁ、って。
だからぁ」
飛び切りの笑顔を、
「だから、シィナわ、笑うのぉ。
楽しぃとか、
シィナが、笑えばぁ。
そしたら、シィナもぉ。
晴れて、幸せぇ、だからぁ」
つまり、彼女にとって知人とは、自身の心を映す鏡の
だとすれば。
慰労会の席で、彼女の目の前で、
あれは、
「……っ」
今この場で土下座したくなる気持ちを、
そんな
今の自分は、
壊れても、不格好でもいけない。
ちゃんと、していなければ。
「お
お
シィナを、スカウト、するのぉ?」
「そう。
その
「だったらぁ。
シィナわぁ。
「……っ!
それは別に、あなたの
結果的に、そうなったってだけで……!!」
「んーん。
シィナが、原因ぅ。
いきなり凸ってぇ、雇って
いつも、そぉなんだぁ。
シィナわぁ、
シィナが、
シィナわ、笑顔になれない、けどぉ。
シィナが、
だからぁ。シィナわぁ、そっちに、行けないのぉ。
こうでもしなきゃ、シィナわぁ。
誰とも、
だから、ここに
オーダーされてもいない、メニューにもない、色々とそぐわないのに。
デザートと笑顔を、振り撒き続けるというのか?
その場限りの気休め、社交辞令の
そういう形で求められる
残されたり、断られたり、厚かましく文句言われたりもしてるのに?
一方的に
単なる『
エイトや
前回までの、自分みたいに?
「……
「お
「
そんな
自身の胸に手を当て、立ち上がり、
「
彼、あなたの作ったお弁当を、
あなたと関わって、
「二人がぁ、
中にわぁ、意地悪さんだって、
「そんなの、身を
でも、だからこそ!!
一人っきりでなんて、
そういう、いざって時、助け合う
一緒じゃなきゃ、
「シィナわぁ、誰も、助けられないぃ。
助けられてばっかわぁ、
「
だからこそ、今でも
ママさんは分かんないけど、パパさんだって!
喧嘩してばっかでも、困らされる一方でも、ワガママ放題でも!!
事情知ってるから、そんなにトゲトゲしてないんじゃん!!
それに、
勢い余って、要らぬ
そんな彼女を、
「……お
「いや、そのっ……!!
……話してて、楽しかった!!
楽しいんだよ、ちゃんと!!
「それわぁ。
お
まだ、出会って、浅いからぁ。
ここの、お客様達と、
お
その内、シィナをぉ、嫌いになるよぉ」
「ならない!!
肩で息をして、断言する
そこまで向き合ってくれる人間が、初めてだったのだ。
「……
してくれる、のぉ?」
このまま、真実を明かしてしまおうかと。
しかし、踏み止まった。
彼女は、想像力、読解力に欠けるタイプ。
それを抜きにしても、あんな話を、初対面で振るべきではない。
「……
そういう子と、ずっと接して来たの。
1年間だけね」
こうする
「正直、苦手だった。
大多数がするみたいに、あしらってた。
でも、ある日……その子に、取り返しのつかない
……ううん。
自分は、不幸と破壊を
大切な人達を、
だから、もう……あんな思いは、二度と御免。
したくないし、させたくないし、させられたくもない」
思い返してみれば、今だって、そう。
自己満足の
その
自分が出しゃばらなければ、多少は楽しい、平和な毎日を送れたかもしれないのに。
敵に打ち勝つ
結局の所、単なる罪滅ぼしの面が強い。
自分は、自分の
またしても、
我ながら、呆れる。
自分は一体、どこまで
でも。
それでも
勝ち続けなくてはならないのだ。
本当の自由を、幸福を、奪い返す
今度こそは
「
あなたの笑顔ばっか映す、依怙贔屓とご都合主義極まりない、折れても折れても倒れない、傷付いても
腰に手を当て胸を張り、
「それに、安心して。
きっと、
多忙を極めながらも、あなたを見守ってくれる。
店長の
それに、大丈夫。
内の店、近くに警察署も
今の時代、身の危険を感じたら防犯上、
万が一にも、意地悪さんに、心にもない
速攻で駆け付けて、ヤクザキックお見舞いして。
そんで
『
んでもって、その後、今度は拳を突き出して、上から飛び乗って、やっつけて、警察署に突き出して、くさい飯食わせてやる」
「それわぁ、やり過ぎじゃあ?」
「あー、
そういう手合いは、
最初から実力行使あるのみだよ。
ただでさえ女は、何かと報われないんだからさぁ。
それ
この町ただでさえ、ダメ
「論点ぅ、逸れてるぅ」
「
「あははぁ。
でも……んー。
お
シィナの直感ぅ、
話したのがぁ、お
お
おいしろく、笑えそぉ。
シィナの、ペコテン、満たされたぁ」
「それじゃあ……!!」
「んー」
「『チィフゥ』。
シィナを、デリシャスに、
おいしろに、調理してぇ。
マシマシに、笑顔にしてぇ。
マンテン通り越して、マウンテンにしてねぇ」
相変わらず、意味の通らない言葉。
それでも、
彼女は今、自分を認めてくれたのだと。
「……任せろ。
こちらこそ、
その……『
「あははぁ。
シィナ、初めてぇ。
お呼ばれされ、ちゃったぁ」
「名前の
決して、それ以外でも以上でもなぁい!!」
「どっちでも、
「
履き違えんなっ!!」
「マジ、おいしろぉ。
それより、チィフゥ。
シィナ、眠いぃ……。
おやスピー……」
「この流れで!?
しかも、もう寝てるし!!
うぉぉぉ、起きろぉ!!
せめて、
このままだと、色々と
てか、
静かな店内に、
そんなこんなで。
程無くして、
こうして『トクセン』は、再結成に向け、動き出したのだった。
※
自分から志願しておいて、今更だが。
それは
そういう、メンヘラ染みた独占欲や、子供っぽい嫉妬などだけではなく。
自分のルーツ、トラウマに
成り行き上とはいえ、そんな自分が進んで、この場に
改めて考えてみても、矛盾している。
が、今更、手ぶらでは帰れまい。
女にだって、二言は
と。
そんな
「
「ああ。
家事で目をマイナスした隙に、逃げたらしい。
状況から判断するに、家出や、衝動的な理由ではないらしいが。
そもそもターゲットが、二人揃って、捜索に当たっているのでな」
スマホ越しに届いた、悪い知らせ。
まさか、こんなイレギュラーに見舞われるとは。
正直、こうなる危険性も視野には入れていたが。
それは、あくまでも『いつか』であって、『今』ではないのだ。
「……どこまでも、イライラさせてくれる」
「気持ちは分かる。
だが、落ち着け。
そろそろ、居場所を特定
好都合なので、
「
自宅から程近い薬局、『マツモト・ウキョヒロ』だ」
「
てか、薬局?
あんな小さい子が、
「分からん。
だが、急げ。
また撒かれたら、辿れるか分からん。
「オッケー。
そっちは任せた」
通話を終え、
タイムリーに、
これまでなら、「
しかし、今は、そうは行かない。
二人は現在、
少なくとも、
にも
ともすれば、こっちの方が異常事態かもしれない。
「……イーちゃん?」
「!?」
かと思えば、今度は名前を呼ばれた。
それも、数日前までと同じ、
これは、
確か社長によって、『トクセン』のスタッフの記憶は消された
ーー待てよ?
はたと、
そして、
従業員の孫、娘であっても。
つまり。
その理屈だと、
いやはや、恐ろしい。
まさか、こんな落とし穴、抜け穴が存在するとは。
まだ他の面々と再会する前に、見抜けたのが
そうでなければ、
そこまで来て、
どうして
その、真の
「もしかして……。
お母さん達の記憶を、治そうと……?」
おまけに、状況が状況。
病院になんて行っても、門前払いの
仮に、医者との面会が叶っても、拙い語彙力で伝えられる内容ではない。
そもそも、
一体、どれだけ辛く、怖かった
ある日いきなり、母親と、懐いている祖母が、職場や同僚の
無職であるが
定職に就け笑顔を見せる
しまいには、
どう考えても、並大抵の度胸ではない。
「……なんだか、へんなの……。
バーバも、マーマも……。
ユーちゃん、エーくん、しらないって……。
きっと、わるいびょうきなの……。
だから、ニーナ……おくすり、ほしくて……。
でも、ニーナ……おかね、なくて……。
そういうおくすりも、ないって……。
ニーナ……なにも、できないの……
わるいこなの……」
「
彼女は、感情的になりそうなのを抑え、
「……そんな
お仕事で今まで、何人も見て来ましたが。
一等賞ですよ。
少なくとも、昔の私に比べたら、
て……実際の所、今も大して変わりませんけど」
否定してくれると思った。
自分を頼ってくれたのは、単に『宛が見付かったから』というだけではないのだと。
「やっぱり、
ご褒美に、特別に、
ここまで頑張った
バーバとマーマの思い出の、魔法の薬。
それを、私の相棒が、作ってくれました」
「……ホント?」
「
今まで私が、
「……おもちゃ、かしてくれなかった。
イーちゃん、『なんでもさわっていい』って、いった」
「そ、それは、まぁ……。
時と場合によります」
「いまも、うそついた。
イーちゃん、うそつき。
でも、かっこいいうそつき。
だから……ニーナ、しんじる」
「あ、ありがとうございます?
私は、スパイとかではな……くもないですが……」
出会った日の
大人の意地を見せつつ、
「もう少ししたら、バーバとマーマの思い出は治せます。
1つ。それまで、ユーちゃん
2つ。今回みたいに、勝手に
3つ。次にお出掛けする時は、バーバやマーマ、
この3つを守ってくれるなら、きっと
「いつ?」
「それは、
「……あやしい」
「こ、今度ばかりは、ホントですよー。
人を、嘘
「じーっ」
顔を離し、セルフ効果音付きで、
不用意な発言は慎むのが、
こういう無垢な眼差しには逆らえず、
「……明日、とか?」
末恐ろしい一面を見せられ、こんな幼子に根負けさせられ、
「
不意に轟いた、金切り声に近い叫び。
振り向けば、
「
一人でお外になんて出たら、危ないでしょ!?
マーマも、お義母様も、どれ
到着して早々に、
それを、
「……待ってくださいよ。
その言い方は、
そんなに
そもそも、『怒鳴る』のと『怒る』のとでは、似て非なる、雲泥の差なんですよ。
てか、叱る前に
それと、
こういう所だ。
向こうにとっては見ず知らずに該当する
それでも怒らずに、
どうやら、さほど響いてなかったらしい。
この場合、一体どちらの運が悪かったのか。
「……そうですね。
失礼しました。
そして、重ね重ね、すみません。
あなたは……?」
「
「なるほど。
それは、失礼しました。
……今ので、納得し、気を許すのか。
年齢差も、共通項も、出会った
まぁでも、反省はしたらしいし、これ以上は耐えるとしよう。
が、理由に理解を示さぬまま、一方的に罵倒するのは、主義に反する。
それでは、
「……ご両親が?」
「はい。
物心が付く前に、他界しました。
父は、身篭って
病弱だった母も、私を産むと同時に、この世を去りました。
元より、命を賭して、私を出産する覚悟だったらしいですけど。
なので私は、幼少の時分から、祖母に厳しく躾けられ、縛られて続けて来ました。
それはもう、時代錯誤な
近くのベンチに座り、まだ
余談だが。
前述の通り現在、
従って、セール前日に復帰した際の『お見合い云々』は、
「だから、ムカつくんですよ。
っても、私の言い分も大概ですけどね。
こんなの、単なる私の憂さ晴らし、自己満足、リベンジ、過去改編
今日は、涙腺の調子が悪い。
またしても、
こういうメソメソした自分が嫌いだから、小猫被りの擬態を身に着けたというのに。
自分のメンタルは、本当に不安定だ。
だからこそ、
あれだけ悲惨な目に遭って
ドロップ・アウトし、あと少しで人生クランク・アップ寸前だった、自分とは対象的に。
などと自己嫌悪に浸っていると、隣から啜り泣きが聞こえ。
まさかと思い振り向けば、
感情移入し
呆れて物も言えない
次第に
一通り話して、スッキリしたのか。
それまでのムカムカが、綺麗さっぱり無くなった。
目の前に
ただ、それだけだった。
「なぁに言ってるんだい」
油断していたら、ふと、オカミさんに頭を撫でられた。
「あんたは、飛び切りに
露悪的に
「イーちゃん、いいこ!!」
「だそうだよ。
今まで運悪く、周囲に恵まれなかっただけさ。
言っても分からない手合いなんざ、無視すれば
ちゃんと話せる相手だけ、大切にすれば
「……オカミさん……」
「
「……有名人ですから」
「やれやれ。
顔が割れ
それより、
オカミさんの言葉に、
別に、図った
これは、チャンスなのでは。
そう思い、
「では、お二人とも。
私の、同僚になってください」
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