16:リベンジ、リテイク、リスタート

「主人公とヒロインが、イケメンや美女じゃない(というかサングラスしてるので目元が分からず、顔だけだと判別すら不可能)」



「初対面かつ赤の他人にせびたお金で変身する(そのためだけに出合い頭に自室に強制連行する)」



「ジギャグ(=自虐+ギャグ)がブラック&多すぎる」



「変身シーンがバンクな上にグレイ◯Z並の長さ」



「敵によって倒すための武器やフォームを変えなくてはならない」



「シールと色を替えただけの、高額な安っぽい玩具(サウンドバスタ◯的な感じ)を一話で何個も出す、ただの通販番組」



「露骨に武器レポをする(『くっ……このカネンジャーブレードMARK46、同じく本日発売4600円が通用しないだと!? 売る気あるのか!?』といったセリフのオンパレード) 



「玩具の剣で料理をさせようとしたりする(シンケ◯の第四幕みたいな感じ)。無論、『この番組はフィクションです。実際には切れませんので絶対に真似しないでください』的なテロップは流れない」



「全部、一人でやってる(特にヒロインとおぼしき女装姿が醜悪で、コウメ太◯みたいな顔とプリキュ◯の妖精みたいな声で喋る)」



「棒読み」



「同じ場所に別のキャラがない(一つの画面に一人しか映らない)」



「無論、殺陣たてなど存在しない」



つなぎが雑」



「オープニングや挿入歌が、やっつけなパクリ」



「作品のクオリティ、膨大で不遇なアイテムなどの理由で、発売日から新品が劇的に値崩れする(そもそも最初に店に出す時点で特価で出す)」



「見慣れた部屋(恐らく監督の自室)でしか戦わない」



「ナパームもCGも無い」



「NG出しても意地でも使う」



「下ネタがキツい」



原稿スマホガン見」



「ルーズリーフでの落書きをスーツにしてる」



「肝心のマスクが、お金を貼っ付けただけ」



 以上が、玄野くろの世界の特撮の極端な参考例として出された『カネンジャー』の総括である。

 


 なんというか、想像を絶するとか、聞きしに勝るとか、そんな生易しい物ではなかった。

 これでは、他の世界に逃げて特撮を取り締まりたくなるのも必然と言えよう。

 だからと言って、玄野くろのの悪行を許すもりもいが。



 基本的にアンチにならない、他作品を出しにして推し作品をアゲたりもしない英翔えいしょうですら、冒頭から静まり返っていた。

 その瞳からはハイライトが消えており、一面、真っ黒。

 まるで、サンタクロースやキグルミなど、中の人を知った子供のようだった。

 もっとも、拘束されている手前、友灯ゆいには知る由もいが。



「さて、三八城みやしろ 友灯ゆい

 感想は?」

「鬼か、あんたは。

 こんな生ゴミ見せ付けられて、ポジい意見なんぞ出せっか」

「鬼教師だ。

 それより、早くしろ。

 第一、ズブの素人しろうとの意見に一喜一憂する岸開きしかいではない。

 元より、的を射た真っ当な解答は、お前に期待していない。

 安心して、毒にも薬にもならない答えをプラスしろ」

本当ほんとうに温度差激しいなぁ、この一人パンクハザー◯女!!

 ちったぁ歯に衣着せろっ、このぉ!」

「デンタル用の衣服が調達されたら、考えなくもない。

 なんならば、お前が実現させてみるか?

 元アパレル屋」

「トラ◯みたいな呼び方してんでねぇよ!!

 大体、ちゃんとレポしてしけりゃ、視聴と評価に堪える、ちゃんとした作品をお出ししろやぁ!」

「是非とも、現代の一部の製作者たちに届けてしい声明だ。

 いから、急げ」

あたし今、財布忘れた状態でカツアゲされてる気分なんだげどぉ!?

 だから、い物はいんだってばぁ!!

 こういうのは、専門家のエイトに求めてよぉ!!」

すでに、横で泡を吹いているが?

 あまりのこっ非道ぴどさに、失神してしまったらしい」

「エイトォォォォォオォォォォォ!!

 お前……! さっきから、なん大人おとなしいと思ったら、お前ぇぇぇぇぇ!!

 頼むぅ、死ぬなぁ!! あたしを置いてくなぁ!!

 っくしょー! 顔が動かせないって意味でも、顔向け出来できねぇぇぇぇぇ!!」



 かくして引き続き、回答権は友灯ゆいに委ねられる。 

 


 迷った末に、友灯ゆいが出したコメントは。

 

 

「ルーズリーフ製のスーツが、金爆のスパイダーマ◯2のコスプレ以下。

 大目に見ても、陣内が動画チャンネルでやってるレベル」

 ようは、とある最後の剣さえ勝てるクオリティでした」

如何いかにも凡人らしい、大して中身も面白味のい回答、感謝する」

「感謝してる感、微塵も伝わって来ねぇ!!」

「という訳で」



 椅子のロックを解除し、二人を解放する岸開きしかい

 倒れかけた英翔えいしょう友灯ゆいが支えたタイミングで、珠蛍みほとが切り出す。



「付け焼き刃だが、お勉強は済んだ。

 次は、本番だ。

 準備はいか?」

「せんせー。

 エイトくんがー、まだ目を覚ましませーん」

「ならば、お前一人で行け」

「おめーも来いや、責任取れや!!

 サラッと自分までマイナスしてんなやっ!!」



 喧嘩のすえ、3人で行くことになった。



「エイトー。

 そろそろ、起きろーい。

 いつまでもあたしにばっか、相手させんなー」

「面倒ならば、無視すればかろう?」

「したらしたで、機嫌損ねるだるぉ!?」

「そうだな」

「他人事ぉ!!」



 などと言い争っていると、不意に英翔えいしょうが目を覚ました。

 そのまま、何故なぜか周囲を見回し、首を傾げ、一人で納得した。



「あ、起きた。

 ったくやぁ。心配さすなよぉ。

 あと、どした?」

「起きたのならば、話は早い。

 とっとと、玄野くろのに要求をプラスしろ」

「もうちょっと、待ったれや!!

 てか、エイト。

 どしたん? ガチで」

「いや……」



 なにやら考え込みながら、神妙な面持ちで頭を抱える英翔えいしょう

 意図が取れず、友灯ゆい珠蛍みほとは互いを見合う。

  


「……ごめん。

 その前に、ちょっと二人に、話したい。

 ……ううん。

 話さなきゃいけない、ことる」



 思い詰めた表情のまま、英翔えいしょうは重い口を開く。



なんか、俺……。

 目覚めた、っぽい……」





 三八城みやしろ 優生ゆうは言っていた。

 社長がるのは、『自分ですらあずかり知らない、まったく別の場所』だと。



 知らされていなくて、当然だ。

 ラスボスがたのは、彼の故郷。

 こことは、違う次元なのだから。



 一様に特撮グッズを着用する、道行く人々。

 そのさまは、流行中のブランド物やファッション、あるいは童実◯町のデュエルディス◯のよう

 一方で、薄利多売を地で行った結果、そこかしこに無残に捨てられている、使い古しの玩具達。

 その光景に、友灯ゆいは胸を痛めた。



「コングラッデュエーション。

 まさか、ここまで追い掛け、追い詰めて来ようとは。

 君達がグッジョブなのか。

 はたまた、私がバッジョブだったのか。

 果たして、どちらだろうね」



 窓から町を一望しながら、渋味と貫禄のる声と物腰でげ。

 オフィスに玄野くろの 一郎かずろうは、三人に振り向いた。



大方おおかた岸開きしかいくんからグッジョブに説明されているのだろう?

 悔しいが今回のゲーム、君達の勝ちだ。

 今日をもっ友灯ゆいくんは任を解かれ、元の世界に帰り、平和な日常に戻る。

 めでたし、めでたしじゃないか」

「勝手に話を終わらせてんじゃねぇよ」



 ゆったりと進行させていた玄野くろのの眉が、ピクつく。

 それを予測した上で、友灯ゆいは挑発したのだ。



「品性、女性らしさの欠片かけらい口調だ。

 だが、しかし。今回は、無礼講、不問としよう。

 折角せっかくの慰労会に出席出来できなかったのでね」



 取り繕い、椅子いすに腰掛ける玄野くろの

 そうすることで自分を制御してるように、友灯ゆいたちには受け取れた。



「それで。

 今回は、どういったご用件かな。

 私が課したノルマを、君達はグッジョブにクリアした。

 先刻も言っただろう。

 勝負は、君達の勝ちだ。

 これ以上、私になにを望むのかね」

「再戦だ」



 迷う素振りも、両脇の二人とのアイ・コンタクトもしに、正面から友灯ゆいが言い切る。



 玄野くろのは、素直に感心した。

 どうやら、少しは備えて来たらしい。

 であれば、それを聞くのも一興かもしれない。

 丁度、溜飲が下がらない所だったのだから。



「詳しく、ご説明願おうか」

「『勝ったのは、あたしたち』。

 あんたはさっき、そう言った。

 けど、実際は違う。

 あたしたちは、『賭けに勝って、勝負に負けた』んだ」



 ここに来る途中に拾って来た玩具を持ちながら、友灯ゆいげる。


 

あたしは、やり方を間違えた。

 ああする他かったのは事実。

 けど、それでもあたしは、自店の大切な商品を、あんな形で販売するべきじゃなかった。

 全幅の信頼を寄せたみんなが、プレッシャーも感じずノリノリでこなしてくれたから、こときを得たに過ぎない。

 ともすればさらに目標が遠のく、経営が傾く危険も顧みず、スタンド・プレーがぎた。

 そもそも、そこまで『トクセン』を崖っぷちにしたのも、あたし

 みんなとの親睦も、特撮や経営の知識も深めないまま、猪突猛進し続けたあたしの落ち度。

 ようは、不戦勝みたいなもんなんだよ。

 たちはさておき、最後の最後で妨害を受けるのも、身から出た錆と言えなくもない。

 とどのつまり……不完全燃焼なのは、お互いさまってわけだ」

「だから、やり直そうと」

「そうだ」

「その所為せいで今度こそ、大切な同僚と過ごす時間を失うかもしれないのにか」

「強引に、大人気おとなげく掻っ攫っといて、なにを今更。

 あと、それに関しては心配無用だ。

 次は、なるはやでみんなの力を存分に引き出す。

 今年みたいな醜態は、意地でも晒さねぇよ」

「その、無謀とも取れる心意気や、グッジョブなり。

 器量、力量はさておき。

 ことガッツという一点に置いては、私の目は狂っていなかったらしいな」

「いや、ランダムだろ、あれ」



 自己陶酔中の玄野くろのに、真っ向から切り込みつつ、友灯ゆいは話を戻す。



岸開きしかいさんから聞いた。

 あんたの能力の期限は、確かに1年っきり。

 だが、その設定を引き継がせた上でのロープレも可能だと」

「左様。

 にしても随分ずいぶん、気を許したものだ。

 私には一向に懐かない野良猫を、こうも容易たやすく飼いならそうとは」

「お前は一度、みずからの黒歴史をプラスし直した上で、私に接しろ」

「ご挨拶だな。

 君を復活させてやったのは、この私だというのに」

岸開きしかいの世界ごと岸開きしかいを滅ぼしたのも、お前だろう」

「当然だ。

 あの世界では、どうもカタル死することが叶いそうになかったのでな」



 カタルシス。

 ピンチのピンチのピンチの連続も乗り越え、起死回生の大逆転、大団円を果たした際の高揚感や興奮、癒やし。

 


 ここに来て、友灯ゆいたちは理解した。

 玄野くろのに取り付いた異星人サクシャスの目的は、死ぬほどののカタルシスを覚えることるのだと。



 であれば、話は早い。



「だったら。

 あたしが、あたしたちが、浴びせてやるよ。

 お前を滅ぼさんばかりの、カタルシスを。

 お前だって、あたしの作った世界を、憎からず思ってるんだろ?

 だからこそ、途中で打ち切らずに完走させた。

 つまり、見込みはったってことだ。

 ポテンシャルだなんだと振り翳すもりはいがな」

「左様。

 確かに、新たなテクスターを設けるよりは建設的かもしれんな。

 それにしたって、豪胆だが」

「御託はい。

 やるか、やられるか。

 とっとと選べ」

「私に戦闘能力が備わっていないのを見越した上での、発言か。

 本当ほんとうに、恐ろしい人間だ」

生憎あいにく、プレイヤーの育成がなってなかったもんでな」



 生殺与奪の権利を握っている相手にさえ、物怖じしない、一歩も引かないメンタル。

 


 それを見せ付けられ、玄野くろの流石さすがに恐怖した。 

 どうやら自分は、彼女に鬱積うっせきを与え過ぎてしまったらしいと。

  


かろう。

 グッジョブにお引き受けしよう。

 そのリターン・マッチ。

 但し、条件が三つる」



 人差し指と中指を立てチョキを作り、玄野くろのは続ける。

  


「一つ。

 君の同僚達の記憶、信頼度、関係値をすべてリセットする。

 皆に見限られた君にとっても、その方がやり易かろう」

「そんなふうに仕立て上げたの、お前だけどな」

「二つ。

 年商ノルマを、『10億』に引き上げる。

 君は先程、『次は、なるはやでみんなの力を存分に引き出す』と明言した。

 方針が定まり、真面まともに連携が取れるようになって1ヶ月で、1億を稼いだ君たちことだ。

 1、2ヶ月で団結し、残りで毎月1億キープすればいだけの話。

 簡単だろう」

「あっそ。

 最後の一つは?」

「ただ再戦というだけでは芸がい。

 勝者には、それ相応の見返りがって俄然、燃えるのがゲームというもの

「同意見だ。

 つまり、戦利品が与えられるってことか」

「その通り。

 君達が勝てば、私の出来できる範囲で、望みを叶えて進ぜよう。

 逆に、君達が負けた場合、私の黒歴史となった、この世界はデリート。

 無論むろん森円もりつぶくんや岸開きしかいくんを始めとした、『トクセン』のスタッフたちもだ。

 そして三八城みやしろくんは、特撮のくなった元の世界で、謎に歳を取り、2年遅れで、張り合いのい生活を強いられるだろう」



 英翔えいしょう珠蛍みほとが絶句する。

 


 対等に見えて、まるで不平等。

 友灯ゆいが不利ぎるし、負けた際の代償が、でかぎる。

 


 そして、なにより。

 ここまで焚き付けられたら、勝ち気な友灯ゆいの場合。



「乗った。

 それでい」



 と。

 こんなふうに、二つ返事で安請け合いするに決まってる。



 知ってはいた。

 読んではいたのだ。     

 が、やはりショックは隠せす、英翔えいしょう珠蛍みほとそろって肩を落とす。



「以上が、最大の譲歩だ。

 では、君の要求を聞こう。

 君は私に、なにを望むのかね?」



 しかも、この場で報酬を明示させに来た。

 熟考、長考の余地すら与えないまま。



 流石さすがに我慢ならず、物申そうとする英翔えいしょう

 が、そんな彼を制するように、友灯ゆいが右手を横に伸ばす。



「そんなの、一つに決まってる。

 『K世界の復興、再建』だ」


  

 K世界。

 玄野くろのによって作られ、玄野くろのによって壊された、珠蛍みほとの故郷。

 その完全復活を、友灯ゆいは所望したのだ。

 婉曲えんきょく的にせよ、滅亡させた原因として。



「……三八城みやしろ友灯ゆい……。

 お前……」



 聞かされていなかった予想外の提案に、珠蛍みほとめずらしく狼狽する。

 友灯ゆいは、彼女に目配せをし、再び玄野くろのを睨む。

 


「分かってるとは思うが。

 ここで言う所の『復興』『再建』てのは、単に世界を戻すってだけじゃない。

 岸開きしかいさんの仲間は勿論もちろん、K世界の住人達も含め、そっくりそのまま、元通りに返還しろ。

 無論むろん、誰にも脅かされない、平和な日常を確立したままな。

 お前なら、それも可能だろうし、出来できなかろうが実現させる」

「なるほど。

 中々に面白いオーダーだ。

 ゴッジョブと言っても過言ではない」

「七面倒だから、ツッコまん。

 それは、了承と取っていんだな?」

「差し支えない。

 しかし、思い切った物だ。

 自分や、他の同僚のために行使せんとは」

うちのスタッフは、鋼メンタル揃い。

 あたしなんざなくても各々おのおの、やって行ける。

 それに、これはあたしためでもある。

 あたしは、岸開きしかいさんへのツケを清算したいだけだ」

「ふっ。

 物は言いようだな」

「じゃかしい。

 これで、話は終わりだ。

 とっとと、あたしたちを次の1年に送れ」

「構わんが。

 その場合、今の、今までの記憶は消失する。 

 岸開きしかいくんたちと積もる話でも、るだろうに」

「んなもん、向こうでいくらでも出来できらぁ。

 あたしは、コンマ1秒でも早くお前を大っぴらに処分したくてウズウズしてんだよ」

「ならば、この場で始末すればかろうに」



 玄野くろのもっともな意見を、友灯ゆいは鼻で笑った。



風情ふぜいぇ野郎だ。

 いか?

 お前を完封するには売上、正攻法でなきゃ駄目ダメなんだよ。

 ただチートに幅利かせてリンチするってんじゃ興醒めだ。

 第一、そうなった場合、この場で戦うのはエイトや岸開きしかいさん。

 あたしには、なーんの功績もぇ。

 不戦勝は、完勝とは言わねんだよ。

 間接的に二人を生み出しただけで、文字通り、あたしは戦ってすらいねぇだろーが。

 それじゃ、リベンジする意味がんだよ」

「言い得て妙だ。

 本当ほんとうに、面白い人間だ」

「てか、それを言ったら、お前もだろ?

 なんで、あたしたちを消さなかった?

 保美ほびちゃんや留依るいあたしの親は消したのに」

「知れたことを」



 勿体振った調子で、玄野くろのは返す。



「そんなふうに、雑にシナリオを終わらせては、詰まらんからだ。

 三八城みやしろくんたちは、曲がりなりにも、私という、未曾有の脅威に打ち勝った。

 勝利には、宴が付き物。

 最低限、エピローグまでは導かねば、嘘だろう。

 それが、敗者から勝者への、せめてもの手向たむけだ」

「の割には、バッド・エンドだったけどな。

 清々すがすがしいまでに、不満たらたらだったけどな」

「それは、君の失態だろう。

 私は、あそこからの仲直り、立ち直りを期待していたというのに。

 正直、拍子抜けだったよ。

 君なら出来できると踏んでいたのが」

「重要なことなにも明かしてない状態で、高みの見物決め込みつつ、遠距離偏愛爆撃ミサイルたんまりカブーンして、好き放題に引っ掻き回して、無理難題でしかない緊クエ押し付けて、競馬気分で人をさかなにして、あまつさえ勝手に期待して落胆してんじゃねぇよ」



 先程から、なんとなく感じてはいたが。  

 どうやら、まだ良心の欠片かけらは残っているらしい。

 そこら辺は流石さすが、人間に憑依しているだけはある、とでも言うべきか。

 だからといって、示談に持ち込もうなどとは一切、思っていないが。

 あそこまで大立ち回りさせられた以上、それは有り得ないだろう。



「さて。

 随分ずいぶん、与太話に興じてしまった。

 そろそろ、君たちを送るとしよう」


  

 友灯ゆいたちに確認も取らぬまま、両手を横に大きく広げる玄野くろの



 瞬間、3人の横に、中が白紙の巨大な本が2冊。

 正確には、真ん中から破られた、元は1冊だったとおぼしき本が出現した。

 さながら、3人を挟むように。

 


 しかも、足元にはインクの沼が広がっており、身動きが取れず、不可避。


  

 まさか、と思うより先に、珠蛍みほとが叫ぶ。


 

「目をつぶれ!!

 押し潰されるぞ!!」

「でぇすぅよぉねぇぇぇぇぇ!!」



 指示に従い、瞳を閉じる友灯ゆい英翔えいしょう



「では、新たなるプレイヤー諸君。

 ゴッド・ラック」



 パンッと手を合わせ、叩く玄野くろの

 それに呼応するかのごとく、引き寄せ合う2冊の本が、3人をページに取り込み。

 元の形に戻り、切れ目も直った後、やがて友灯ゆいたちと共に消失した。



「さて。

 楽しもうではないか。

 君たちが新たに紡ぐ、波乱万丈なる、ゴッジョブな人生ものがたりを」



 一人となったオフィスで、3人に乾杯し。

 玄野くろのは、静かにワインを堪能した。





 見るからに高級ですこぶるフカフカな巨大ベッド。

 だだっ広い専有面積と、ほのかに漂うアロマの香り。

 カーテン越しに程良く差し込む、朝の光。

 見慣れない部屋に置いてある、見慣れた家具の数々。



 そして特筆すべきは、取り分け目立つスクリーン。



『さぁ……お前の詰みを、数えろ!!』



 に投射された、半分こ怪人。



 聞かれたので一応、考えたが。

 強いて言うなら、『詰み』に該当するのは、『今』ではなかろうか。


 

「あ。

 おはよ」

「ふぇっ!?」



 油断していたら、ホット・レモンをたずさえ、カラフルな男が横から迫る。

 見た目に反してダウナーな彼は、同居中の彼氏みたいな、勝手知ったる顔で友灯ゆいの隣に座り、ポテチを食べ始めた。

 確か、初対面のはずだが。

 


「我が名は、岸開きしかい 珠蛍みほと

 突然だが、お前の左手をしばしマイナスする」

「うぇっ!?」



 と思いきや、逆サイドからアンドロイドみたいな女性(同じく面識がい)が急襲。

 友灯ゆいの左手を取り、謎のデバイスを装着させ、怪しい鍵を差し込み。



「……いや、情報量じょうほうりょぉ!!

 ちゃんと説明せぇや、お前ぁ!!」



 オフィスでの一件までの記憶を取り戻し、二人に盛大にツッコむ友灯ゆい

 一方、二人は呑気にポテチを食べ進める。

 


「トケータイの仕様を変更。

 人間にも対応させた。

 さらに、人間の記憶やスキルを内包した『ナゾトキー』を新たに開発。

 これにより、諸々の引き継ぎが完了した」

「相変わらずのネーミング!!

 てか、出だしから、ラスボスが定めた条件ガン無視してるんですけどぉ!?」

やつも、この程度は予測していたはず

 その上で、提示した。

 つまり、単なる形式上の物、気休めだったのだ。

 でなければ、最初から三八城みやしろ友灯ゆいそば岸開きしかいを送るヘマはしない。

 そんなことより、お前は、もっとありがたみをプラスしろ」

「分がっけどさぁ!!

 うれしい誤算だったけどさぁ!!

 あんな大見得切った手前、気不味きまずいってーかさぁ!!」

「……?

 ならば、そんなプライドをマイナスすれば済む話だろう?

 格好付けていたのが、今になって恥ずかしくなって来たのか?」

「ブレーキ踏め、岸開きしかいさん!!」



 無理矢理、話を終わらせ。 

 友灯ゆいは、二人に向き直る。

  


「作戦会議だ。

 これから、なにをすればい?」

ずは、『トクセン』従業員たちのスカウトだ」

「そっから!?」

「らしいな。

 現に、『トクセン』のグループRAINレインが消滅している。

 日付は、地続きのようだが」



 言われ、スマホで確認する友灯ゆい。  



 確かに、『トクセン』発足から一年は経過している。

 しかし、璃央りおを始めとする面々とのトーク履歴が残っていない。

 つまり、運命がリセットされたのだ。



 が、すべての歴史がくなったわけではない。

 すで英翔えいしょうの家に引っ越している辺り、多少は改変されている模様もようだ。

 


「……そうだね。

 ずは、みんなを呼び戻さないと」

「次に、従業員一同の好感度、信頼度を上げる必要がる」

さっきあたしみたいに、記憶を取り戻させたら?」

無論むろん、全員分のデータはすでに移してある。

 が、な」

「ごめんなさい」



 敵の裏工作もったとはいえ、自分の所為せいでもあるので、土下座する友灯ゆい

 ついで、英翔えいしょうも続いた。

 一方、珠蛍みほとは足と腕を組み、ふんぞり返る。



「ナゾトキーの欠点は、データをプラマイ出来できないこと

 よって、岸開きしかいたちの記憶を入れたり、都合良く記憶を改竄したりといったアクションは不可能。

 挙げ句の果てに、慰労会がアレ。

 つまり、ホンノウンなどに纏わる荒唐無稽な話を細部まで理解、許容出来できるまでにデレさせなくてはならないのだ。

 三八城みやしろ 友灯ゆいと共に働いた1年間をマイナスした、この世界でな。

 さいわい、岸開きしかい森円もりつぶ 英翔えいしょうは特異点。

 多少なりとも事情を理解した上で用意されたロボットだ。

 ゆえに、そこまで抵抗くダウンロード、最適化に成功した。

 岸開きしかいと違って、森円もりつぶ 英翔えいしょうはな。

 間接的にせよ、三八城みやしろ 友灯ゆいに故郷も仲間も奪われ、絶賛反抗期の岸開きしかいと違って」

「ごめんなさい」



 再び、土下座する友灯ゆい英翔えいしょう

 外方そっぽを向きつつ、珠蛍みほとは続ける。



「……正直、岸開きしかいは今でも、三八城みやしろ 友灯ゆいには思う所がる。

 が……その実、三八城みやしろ 友灯ゆいには、なんの非もい。

 生来の人格はさておき、三八城みやしろ 友灯ゆいれっきとした被害者。

 ゆえに、岸開きしかいの憤怒は、単なる八つ当たり。

 諸悪の根源は、やつだけだ。

 その上、三八城みやしろ 友灯ゆいは、岸開きしかいが奪われた居場所を取り戻そうとしてくれた。

 奴を倒した暁に勝ち取れる、折角せっかくの、願いを叶える権利を。

 自分でも、この世界の住人でもなく。

 散々さんざん三八城みやしろ 友灯ゆいを目の敵、目の上のたんこぶにしていた、岸開きしかいために使うと。

 そう、確約してくれた」

「いや、まぁ……そうだけどさ。

 さっきも、玄野くろのに言ったっしょ?

 あれは、単なる自己満足であって。

 それに、岸開きしかいさんも気付きづいてるだろうけど。

 その実、なんの意味もことなんだって」

おおいに結構。

 岸開きしかいたちが常日頃、追い掛けている特撮とて、同じ。

 自己満足、自己犠牲の塊。

 だからこそ、相手の人間性が垣間見える。

 奥仲おくなか 新凪にいなを始めとした、子供にも好かれる、人となりが」

「買い被りだよ。

 あたしは別に、そんな大層な人間じゃない。

 あ。ごめん、エイト。少し黙ってて」

「うぐっ」



 否定せんとした矢先に本人に阻まれ、顔を歪める英翔えいしょう

 まだジリツして時間は浅いが、すでに彼の扱い方、彼との付き合い方をマスターしつつある友灯ゆい

 流石さすがに、彼を生み出した張本人なだけはあるというべきか。



「このまま話してても、埒が明かない。

 その件は、手打ちにしない?」

「そうはいかない。

 岸開きしかいにも、負い目がる。

 なにかしないと、気がマイナスされない」

「『もっと協力したい』ってこと

 すでに、思いっ切り手助けしてくれてるじゃん」

「では、なに岸開きしかいにご命令を。

 可能な限り、応えてみせる」

「……」



 エイトに続き、またしても、このパターンか……。

 などとは思っても、口には出さない。

 それでは、珠蛍みほとに不義理だ。

 


 かといって、なにも思い浮かばない。

 自分やエイトを救ってくれたり、真実を教えてくれたり、トケータイやナゾトキーを用意してくれたり、これからの方針を考えてくれたり。

 たった今、本人に言った通り、すで珠蛍みほとは、かなり力になってくれている。

 その上で、追加オーダーを求められても、おいそれとは出来できない。 

 かといって、なぁなぁにするのも失礼に値する。 



 思案したすえに、友灯ゆいが導き出したのは。


 

「じゃあ、あれだ。

 あたしも、『ケー』って呼ばせてもらうってのは?」


    

 彩葉いろはが、珠蛍みほとに対して使っている愛称。

 その使用許可を、自分にも与えるという権利。

 これなら、そんなに難しくもないし、珠蛍みほとに対しての苦手意識がほとんくなった現れにもなる。  

 その場で思い付いた折衷案、落とし所として、悪くないのではなかろうか。


 

「……しからば。

 岸開きしかいも、そのご厚意に報いよう。

 改めて、よろしく頼む。

 ……『マスター』 」



 なにやら、相殺された気がするが。

 彼女の好意も受け取れたので、友灯ゆいは良しとした。



「うん。

 こちらこそ、よろしく。

 ケー」

「承知」



 立ち上がり、手を重ねる二人。 

 やがて、友灯ゆい珠蛍みほとに見詰められ、察した英翔えいしょうも、それに続いた。



「ちょっと。

 いつまで待ちくたびれさせるんですか?

 仲間外れにしないでくださいよ」



 と思ったら。

 気付けば、そこにさらに、誰かの手が加わった。

 不思議に思い、目を向けた先にたのは。


 

「いっ……」

彩葉いろはぁ!?」



 思わぬ参加者に、驚愕する友灯ゆい英翔えいしょう

 一方、珠蛍みほとわけ知り顔で、腰に手を当てドヤッている。


 

「前述の通り。

 エンジンには、人間のバディが設けられるのが習わしだ。

 岸開きしかいとて、同じ。

 この世界に遣わされた岸開きしかいにも、真実を語れる相手が、一人だけプラスされていた。

 岸開きしかいのパートナーに任命されたのは、他でもない。

 それは、保美ほび

 岸開きしかいが心を許した事情通であり、唯一、玄野くろのの干渉から逃れられる稀有な存在」

「っても、少し前まで消されちゃってましたけどね。

 正確には、記憶を消され、周りからも認識されない、幽霊みたいな状態でしたけどね。

 ケーちゃんとならさておき、友灯ゆいにネタバレしたのは、流石さすがにルール違反だったみたいでして。

 あ、でも、あれはあれで乙でしたよ、スニーキングみたいで。

 感知されないのをことに、友灯ゆいを存分にストーキング出来できましたし」

「透明化の使い道ぃ!!」



 友灯ゆいがツッコむ横で、珠蛍みほとかすかに臍を曲げる。



「文句をプラスする。

 何故なぜ岸開きしかいをストーキングしない?」

「だってケーちゃん、リアクション薄い上に、蜂の巣にして来そうなんだもん」

「別に、その辺りは一向に構わない。

 岸開きしかいの発明やテリトリーを台無しにされなければ」

「お前やぁ!!

 てか、彩葉いろは!!

 事情通だったのなら、なんで慰労会の時、あんな感じだったんだよ!!

 ケーみたいに、静観する手もったべや!!」

「そうは言っても、司令。

 あの状況で不自然に味方するのは、悪手通り越して禁じ手ですよ。

 今度こそ、本当に消されちゃうかもしれませんし。

 そもそも、あんなタイミングで切り出しても、誰も信じてくれないし、鵜呑みにされて追放ってなっても困るじゃないですか。

 私は、そこら辺を予見した上で、ああするしかかったんですよ。

 嘘じゃないです。

 信じてください」

本当ほんとうは?」

「一回、やってみたかったんですよねぇ。

 ああいう、『泣かされた友達をフォローしつつ、傷付けた友達を非難する人格者と見せかけて、そんな自分に酔いしれて承認欲求を満たしつつ、同時に人間関係を悪化させカオスを楽しんでるだけの、絵に描いたような愉快犯、偽善者オブ偽善者』みたいな性悪ポジ。

 あと、私に裏切られた時の友灯ゆいの絶望顔に、おおいに興味がってぇ。

 あの時の友灯ゆいの、悲痛そうな表情ったら……。

 なんていうか……その…下賎なんですが…フフ……。

 ご馳走様です……」

し。

 一発、殴らせろ」

むしろ、ご褒美ですけど?

 一発と言わず、どーぞ」

「お前、あたし好きぎんだろぉ!?」

いやだなぁ、友灯ゆい

 今日日、ラノベのハーレム主人公でも中々、言いませんよ?

 そんな、葉の浮くような勘違い台詞セリフ

「無敵か、おんどりゃぁ!!」



 責める友灯ゆいと、かわ彩葉いろは

 彩葉いろはの本性を知らず、英翔えいしょうは戸惑うばかりである。



「前座はさておき」



 いつもの、おしとやかモードに入った彩葉いろはげる。



「今回の一件でようやく、多少なりとも、不自由せずに済むようになりました。

 これからは、私も喜んで協力しますよ」

「……普段から、こういう感じ一辺倒だったら、楽なんだけどなぁ」

「一本調子なんて、楽しくないので。

 程々に、気楽にやりましょう」



 なんだかんだで、信用に足る人物ではある。

 ちょくちょく危なっかしい、疑わしい所はるものの、最低限のラインは守れる相手ではある。

 これまでの付き合いから、そう友灯ゆいは受け取った。




「だな。

 まぁ、よろしく。

 それと、さ。

 そのぉ、なんだ」



 決まり悪そうに後頭部を掻き明後日の方を向く友灯ゆい

 この場で、彩葉いろは珠蛍みほとに謝罪しようとしたのだ。



 そんな彼女に、彩葉いろはが唐突に猫騙しを仕掛ける。

 友灯ゆいの次の行動を瞬時に察し、封じた上で、自分に意識を引き付けたのだ。



「……そういうジメジメしたのは全員、揃ってから。

 じゃないと、非効率だし、フェアじゃない。

 第一、友灯ゆいにだけ非がわけじゃない。

 同じ職場で苦楽を共にしている以上、連帯責任。

 それに、さっきはああ言ったけど。

 友灯ゆいが私達にしたように、私達も、友灯ゆいを傷付けた。

 内通者みたいな便利ポジだったにもかかわらず、友灯ゆいを、きちんとサポート出来なかった。

 挙げ句の果てに公私混同、スタンド・プレーが過ぎて、一時的に出禁できん食らった。

 あそこまで追いやられるのは計算外だったとはいえ、肝心な時に動けなかった。

 ようは、お互いさま

 付け加えるなら、今は自己陶酔紛いの自己嫌悪に浸ってる場合でもない。

 違う?」

「……彩葉いろは……」



 憎まれ口や弁明を混ぜながらも、友灯ゆいを止める彩葉いろは

 最後は疑問形で締めながらも、反論を言わせないまでに論破、証明を完了させている。

 その、即興とは思えない程の機転、手際の良さ。



 母の見立ては、間違ってなかった。

 性格、趣味の悪さはさておき。

 保美ほび 彩葉いろはは、紛れもなく才女だ。

 少なくとも、友灯ゆいにとっては。

 


 自分の頭を小突き、友灯ゆいは気持ちを切り替えた。  

 彩葉いろはの言う通りだ。

 落ち込んでいられるほど、今の自分達は暇ではない。



「……ごめん。

 あと、あんがと。

 改めて、よろしく」

「他にり所もさそうだし。

 友灯ゆいあまりに不憫可愛かわいくてバリそそるし、見てて飽きないからさぁ。

 人生ってゲーム、アンストしようと思ってたけど、気が変わった。

 暇潰しがてら、お世話してあげる。

 にしても、ホント。

 手の掛かる愚姉ですこと」

「口の減らない、小悪魔で小猫被りでカメレオンな、生意気ヤンデレ妹め」



 喧嘩しつつも握手を交わし、再会を喜び合う2人。

 


 これで、4人。  

 正体が友灯ゆいであった都合上、優生ゆうは除外するとして。 

 こうして、『トクセン』のスタッフのおよそ半数は、そろった。

 残るは、6人。



「現状の役者はそろった。

 そろそろ、他のスタッフをプラスすべく、動く頃合いだ」

「別行動しましょう。

 スカウト班と、後方支援。

 ケーちゃんは、サポーターに徹して。

 初対面の時点だと、間違い無くデレさせられないから」

「……ホントにズケズケ言うね、彩葉いろはさん」

「今まで散々さんざん、セーブさせられましたからねぇ。

 これからは、ド派手に暴れ暴れ暴れ捲れるので精々せいぜい、振り落とされないでくださいね。

 もっとも、その方が、私にとってはなにかと高都合ですけどぉ?

 友灯ゆいを独り占め出来るしぃ」

「だから何故なぜ岸開きしかいを独占」

「今、そういう話してる場合じゃない。

 イチャイチャしたいなら、家でやって」



 三人の会議(?)に入らず、友灯ゆいは頭を回す。



 珠蛍みほとの言った通り。

 友灯ゆいたちは、他のスタッフも引き入れなくてはならない。

 玄野くろのが課した、年間10億という目標をクリアするためにも。

 そして、『全員、一丸となって』と玄野くろのに大言壮語をした手前。



 そのためにも、ず接触すべきなのは。



あたし拓飛たくとくんと詩夏しいなちゃん担当する」



 友灯ゆいの突飛な発言に、三人がそろって食らい付く。



「お、落ち着いてください、司令!!

 お気を確かに!!

 ここは手堅く、オカミさんや璃央りおさん辺りから攻略しましょう!!」



 驚きのあまり、何故なぜか小猫被りモードに逆戻りする彩葉いろは

 こういう場合は、素に戻るのが通例なのではなかろうか。

 彼女のメンタル、スイッチは一体、どうなっているのだろうかと、友灯ゆいは思った。

 が、今は触れないでおいた。

 そんな雰囲気じゃないし、なによりロジックを語られるのが怖い。



「ううん。

 二人が、い。

 いや……二人じゃなきゃ、駄目ダメなんだ」



 思い返してみれば、これまでの『トクセン』には二人を、ぞんざいにしていた節がる。



 無論むろん、毛嫌いというわけではい。  

 片や、無軌道で暑苦しくやかましい体育会系。

 片や、コイバナばかりしたがるスイーツ脳。

 二人を露骨に避けていたのには、理由がるのだ。



 しかし、だからなんだというのか。

 拓飛たくと詩夏しいなも、『トクセン』の一員。  

 前の世界で自分がスカウトした大切な同僚、仲間なのだ。  

 暴走している英翔えいしょうを止めようとする、優しい人間なのだ。

 いつまでも塩対応し続けるなんて、店長にあるまじき態度、職務怠慢ではないか。



「だったら、俺も。

 ただでさえ、二人には特に迷惑を掛けたし」

「はい、はい。

 英翔えいしょうくんは、璃央りおさんと紫音しおんくんを、お願いしますね。

 二人にもご迷惑を掛けてましたし、いですよね?」

「……どっちかってーと、向こうからも掛けられてる気がする……」

「なら余計、好都合じゃないですか。

 あと、あれは身から出た錆です。

 やり過ぎなのは、互いにです。

 これを機に、しっかり仲直り済ませて来てくださいね。

 私は、オカミさんとワカミさんを陥れ……落として来るので」

「……ケー。

 こいつ、厳重注意で。

 下手ヘタ打ち掛けたら、ぐに呼び戻して。

 なんなら、こいつのコレクション、人質に取っても構わない」

「心得た」

だなぁ。

 そんなミスしませんよぉ。 

 どこぞの替え玉こども店長と違ってぇ」

「お前あん時、さきあたしを慰めてくれたよなぁ!?」

勿論もちろん、本心ですよ?

 自分で言うのは気が引けますが親身、本心ではありましたよ。

 友灯ゆいを泣かせた手前、後ろめたさもりました。 

 でも、それはそれとして……立ち返ってみると、くふ……。

 ホント……とんだ、お笑いぐさだなぁって……。

 なんで私、写真とかムービーとか撮ってなかったんだろ、って……。

 折角せっかく後生、友灯ゆいいじり倒せる、マウント取れる、絶好の機会だったのに、って……」

「お前、嫌い!!

 絶交!!」

「嫌よ嫌よも好きの内って、ご存知ですか?

 それに、自慢じゃないけど自慢ですが。

 私を手放したら結構、苦労すると思いますよぉ?」

「大っ嫌いっ!!」

「あははっ!!

 それ、それ!!

 そういうのが見たかったの!!

 そういう、泣きっ面に女王蜂って顔!!」

たんのしそうだなぁ、おいぃ!!」



 やはりというか、案のじょうというべきか。

 毎度のことながら、締まらない面々。

 割とでもなんでもなくピンチなのに、まるで緊迫感がい。

 


 なにはともあれ。

 こうして、方針は定まり。

 友灯ゆいたちは、それぞれに動き出した。

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