2年目:「決戦」編

14:後付(こじつけ)春めくifトゥルート

 天国。

 存命の内は誰も肉眼では観測出来できない、不可思議な場所。

 


 そのイメージは、千差万別。  

 友灯ゆいの場合は、金髪ナースの紫音しおんを服ビリ状態で何人も侍らせているような感じだろう。



 が、結局の所それらは単なる願望でしかなく。

 実際の天国は、ハイテク機械に溢れたSFチックな場所だったらしい。



「ひっ!?」



 などとアレな思考を持っていたら、不意に聞こえる開扉かいひ音。

 見れば、そこには珠蛍みほとが立っていた。

 彼女は、友灯ゆいに向けて微妙に視線を上げ、ぐに戻した。



「……起きたのか。

 図太さだけでなく、しぶとさまで見上げたものだ」



 相変わらずの歯に衣着せぬっりに、友灯ゆいは苦笑いした。

 そして、理解した。

 どうやらここは、天国ではなく、彼女の自室(?)であると。



 つまり……自分は、助かった?

 ……珠蛍みほとによって?

 あれだけ嫌われてるのに?



「いやいやいや、ぐえっ」



 失礼なことを考え手を横に振る友灯ゆいの脳天に、ピーナッツが炸裂。

 いつの間にか珠蛍みほとの手には、拳と銃と落花生がテーマの玩具がにぎられていた。

   


「『デコピナツ・クルンガー』。

 トリガーを引くと、ナックルがデコピンで落花生を飛ばす。

 ちなみに、ピーナツは自動装填式」

「また、出自も何もかも珍妙な物を……」

「ドンブラってる3話とスパイシー×ファミリー」

「オーコメみたいなの入った!?」

「因みに、ガトリング砲としても機能する」

「節分シーズン限定で爆売れしそう!」



 どこのディディーコン◯だろうか。

 今にもエレキ・ショッカーを掻き鳴らしポポーしていそうではないか。



「助けてもらった相手には礼をプラスする。

 それが人間のルールではないのか?」



 コント風の自社製品PRをめ、本題に戻る珠蛍みほと



 相変わらず、自分は失礼千万な割に、他者には常識を強いるアンフェアっり。

 が、義を見てせざるは勇無きなり。

 礼儀と恩義を欠いては、何事も成立しない。

 ゆえに、友灯ゆいは従った。

 


 余談だが、そこに至って友灯ゆいようやく、自分がベッドで寝ていたのだと把握した。



「あ、ありがとう。

 岸開きしかいさん」

「……構わない。

 行き掛けの駄賃だ。

 岸開きしかいも、あの場に用がった」



 こめかみの怒りマークが取っ払われ、やや話しやすくなった岸開きしかい

 ホッとする友灯ゆいだったが、それも束の間。

 安心している暇などことを思い出し、ガバッと起き上がる。



「エイトは!?

 それに、『トクセン』は!?

 ぐに、戻らないと!!」



 布団ふとんを退け、向かおうとする友灯ゆい

 が、軽い立ち眩みを起こしてしまう。



「病み上がりは、無茶をするな

 まだ治療が済んで時間も浅い。

 しばらく、横になっていろ。

 その間、順を追って、なしくずし的に話さなきゃならないこと山程ほどる。

 そちらも既に、違和感いわかんをマイナス出来できない部分が、いくつか生まれている頃合いではないか?」



 友灯ゆいを寝かせ、布団ふとんを被せる岸開きしかい

  


 そういえば、面と向かって話す機会が、さほどかった。

 今日まで互いに、意図的に避け合っていた。

 まさか、こんな、面倒見のい一面がろうとは。



 ……自分がだらしないだけな気もするが、今は置いておこう。



ず、我々の職場だが。

 跡形もく、全焼した。

 復興はままならないだろう。

 巻き込まれた人間が他になかったのが、不幸中のさいわいだった」

「……だよ、ね……」



 分かっていた。

 あんな、キャンプ・ファイヤーなど可愛かわいく見える規模で燃え盛っていては、残骸など余るはずいと。

 それは『トクセン』自体もだが、中にった数々の商材も同様。

 時間こそ短いが、かなりの大損害だ。

 しかも、その犯人がエイトな上に、彼もまた砕け散った。

 このショックは、あまりにでかい。



 気落ちする友灯ゆい

 そんな彼女に向け、珠蛍みほとは続ける。

 


「次に、森円もりつぶ 英翔えいしょうだが。

 さいわい、無事だ」

「……ぇ……」



 消沈、傷心中の友灯ゆいに、まさかの吉報が入る。

 しかも送り主は、自分を目の敵にしていた珠蛍みほと



「知っての通り、肉体は滅んだが、メモリを既に取っておいた。

 初対面で敵対しつつあった岸開きしかいのみならず、保美ほびたちにまで喧嘩腰だった昨日の態度が、妙に気になっていた。

 ゆえに、森円もりつぶ 英翔えいしょうを調べ、そのデータをひそかにインプットし、バック・アップとして備えていた。

 新たな器も、先に用意した。

 後は、そっちにプラスするだけだ」

「ほ、本当ホントにぃっ!?」



 終わらぬ夜に包まれたような静寂と暗闇に、珠蛍みほとが一筋の光を当てる。

 友灯ゆいは再び起き上がろう……とする前に珠蛍みほとが顔面に踵落としをお見舞いして来たので、再び横になった。



「聞く耳を、プラスしろ」

「ごめんなさい……」

「分かれば、い。

 ちょっと、失礼する」



 友灯ゆいの左手首を取り、何かを装着する岸開きしかい

 それは丁度、流星のロック◯ンのトランサ◯のようなデバイス。

 先月、試作品として見せられた物の、完成版。



「『トケータイ』。

 どういう類いかは、読んで字の如し」

「あはは……」



 いつも通り、センス……。

 いや、短いだけ、増しマシか……。



 などと思いつつ、友灯ゆいはノー・コメントを貫く。

 みほは、少し離れた場所からペアリングを開始。

 椅子に座しながら、友灯ゆいのトケータイを遠隔操作し、目の前にポップを表示させた。



「『ホンノウン』。

 今回の事件の黒幕にして諸悪の根源で、宇宙からの外来種」

「え、あ、そういう系統?

 いやまぁ、ロボット出て来てる時点で、話が日常離れするのは覚悟してたけど」

「因みに命名者は、岸開きしかいではない」

「その情報、要る?」

「余計な濡れ衣を避けるためだ」

あたしそんなに疑ってかかってるかな!?」

「一度、自分の顔を鏡で見てみろ。

 それと、無理だとは思うが、なるべく私語はマイナスしろ。

 何分、長くなるのでな。

 喋る時は簡潔、最小限を意識しろ。

 話を戻すぞ」



 立体映像として投射されるは、どう見ても人外な、トゲトゲしたエイリアン。

 


 友灯ゆいは、気を引き締め直した。

 なんとなく予見していたが、どうやら自分が思っていた以上に大事おおごと、一大事らしい。



「『サクシャス』。

 宇宙ギャング『アストロシアス』が一派、『ウォンデッド』に属するホンノウンだ」

「はい?」

「宇宙ギャングのアストロシアスのウォンデッドのホンノウンのサクシャスだ」

「……はい?」



 そんな、『パルスのファルシのルシがパージでコクーン』みたいな感じで言われても……。

 てか、順を追っていないよーな……。 

 あと、細分化されぎなよーな……。



「アストロシアスとは、こことは違う次元に存在する宇宙ギャングだ。

 どれも粒揃いで、中でも厄介なのがウォンデッド。

 名前の通り、『不死身のお尋ね者』たちだ。

 それぞれが別々の何かをエネルギーに変換させ生き長らえており、おのが命を得るために、あらゆる場所で悪行の限りを尽くしている。

 悪さをしている自覚がまるで無く、それを全うするのがレゾン・デートルかつアイデンティティで、連中が訪れる世界、延いては住人達に問題がいでもないのが実情だ。

 それにしたって、やりすぎではあるが」

「はぁ……」

「現状、観測されているのは、ホンノウンと『リセイド』のニ種。

 リセイドとは、名前の通り、『ド』が過ぎた『理性』の持ち主で、何よりも『規律』『制度』を重んじる。

 なんでも『ケガレベル』という、『穢れ』『怪我』の程度をサーチし、それに従って世界と生物を浄化するのが使命である。

 ようは、ギャラクトロ◯みたいな連中だ。

 個人的には、ドシリーズっぽいので手強そうな印象を受ける」

く分からんし、少なくとも今のは、語りたかっただけだよね?」

「悪いか?」

可愛かわいいからり」

「ならば閉口していろ。

 で、本題のホンノウンだが」

「ちょっと拗ねた?」

やかましい。

 ホンノウンとは、名前の通り、生物の『本能』を糧としている、『本能』のままに動く『アンノウン』。

 まず最初に生物に取り付き、その人間の本能をラーニングし一体化、本能を満たすために暗躍する。

 本能だけで動いている都合上、全員、感情が無く、人間に取り付かなければ会話さえ不可能。

 助かるかどうかは、『本の運』。

 そのうちの一体の固有名詞が、サクシャスだ」

「トリプル・ミーニングなんだ。

 で? そのホンノウン? サクシャス? が、どうしたの?」

「この世界を作った」

「いきなりスケールでかい割に身近ぎだろ!?

 さっきから!

 黙ってたけど!」



 友灯ゆいの額に、またしてもピーナッツがヒット。

 どうやら、騒ぐと食らうらしい。

 次からは、枕で防ぐとしよう。

 出来できれば。



「サクシャスの能力は、新たな世界の創造。

 試験者である『テクスター』を選定、封印。

 閉じ込めたさいの取り込んだ情報を元に、自分のテーマ、設定、世界で、どんな行動を取るのかを観察、ジャッジする。

 ただし、その世界を維持出来できるのは、基本的に一年間のみ」

「パワプ◯のサクセス?」

「大体、合っている。

 今回の場合、テクスターとして攫われたのが、他でもない。

 我らが、三八城みやしろ 友灯ゆいだ」

「あー……。

 なんか、やっとこさ飲み込めて来た……。

 思ってた以上に入り組んでるなぁ、これ……」

岸開きしかいが本編に出て来たタイミングで思い付き、プラスした後付らしいがな。

 その方が、何かと都合がかったそうだ。

 まるで春映画、究極の歴史改変ビーム並みになんでもりだ」

「ごめん、これ以上、特濃な情報、入れないでくれるかなぁ!?

 今こっちの脳内、この前のセールとキャンペーンばりに大混雑してるからぁ!

 捌くだけで一苦労だからぁ!」



 友灯ゆいの迫真のツッコミが入った所で、閑話休題。

 


「テクスターを、自分の設定とテーマの下、一年に渡り動かし、その評価によっては、そのテーマとキャラの存亡が決まる。

 上述の通り、それがサクシャスの能力だ。

 ただし、サクシャスが決められるのは設定だけで、理由付けやバック・ボーンも特に無く、キャラの出番の配分なども滅茶苦茶で、おまけに精神力や想像力でパワー・アップも出来るなど、その実かなり杜撰だ」

「ワナビってーか、エアプってーか、材木座ってーか」

「揶揄は、その辺にしておけ。

 自分の取り憑き先であり織り込み先、『織人オリジン』として、サクシャスが最初に目を付けたのは、『特撮』の老害。

 ノスタルジジー、クロノスタルジジー、クロノスタシスジジーだ。

 特撮以外にも考え方が旧世代過ぎるタイプで、男性寄りの口調を女性が用いるだけで発狂する。

 時代やニーズに合った動きなどを度外視しており、保守的。

 奇抜さばかり優先する。瞬間完全燃焼。瞬瞬必生。

 そんな、生ける化石だ」

ひどぎ笑う笑えない」 

「奴は、他の世界で『特撮』をジャッジしていた。

 ドラマ仕立てにして鑑賞していたのだ。

 この世界での特撮は、奴の基準では特に歪んでおり、最初から滅ぼさんとした。

 が、半世紀にも長きに渡る歴史に敬意を払うべく、情状酌量の余地として試験を開始。

 テクスターとして三八城みやしろ 友灯ゆいが選定され。

 彼女の補佐として、多岐の分野からエキスパートを生み出す。

 特に肝な玩具分野においては、近未来、別次元の開発者を用意した。

 それが、すなわ岸開きしかいだ」

「そこまで、出来できるぅ!?

 てか、するぅ!?」

「奴ならば。

 そのためだけに岸開きしかいは、自分の世界がサクシャスに滅ぼされた後、蘇らせられ、この世界で演技を求められた。  

 岸開きしかいの世界、仲間、及び他の人間達は、退場シーンもいまま、歴史も存在もマイナスされたのだ。

 三八城みやしろ 友灯ゆいのサポート。

 ただその前提のためだけに」

「おうほぉぉぉうぉぉぉ……」


 

 なにやら雲行きが怪しくなり、椅子に足をぶつけた霞ヶ丘◯羽みたいな妙な呻き声を上げる友灯ゆい

 嫌な予感は、ものの見事に的中し。



岸開きしかいた世界を、『K世界』とする。

 K世界では、特撮熱が上がると、どこからともなく『バグルマ』が飛んできて反転、暴走、『アンチャー』となってしまう」

「どこのデジモンカイザ◯!?」

「アンチャーは感情を吸い取ってしまい、近くにいては戦意喪失待ったし。 ゆえに、『遠隔無人ロボ・スーツ』、略して『エンジン』でないと戦えない。

 このエンジンこそが、岸開きしかい、及び森円もりつぶ 英翔えいしょうの元ネタだ」

「お前もロボットかよっ!

 通りで、駄弁ってる空気感がなんかエイトと似てると思ったよっ!

 ここで衝撃の真実サラッと明かす所とか、特にっ!

 てか、どこのGTロ◯だよっ!?」

「これを作った組織が、『トッケー』こと『特撮警察』の一組織であり、岸開きしかいの前職『ハート・マータ』。

 敵対する組織が『特撮殲滅軍』、略して『トクセン』。

 余談だが、この世界で『トクセン』が違う意味を持ったのは、岸開への当て付けでしかない」

「めっちゃ関係ある余談!

 矛盾!」

「設定としては面白そうだったが、『緊張感に欠けアクションが映えない』という、作る前から分かり切っていた理由により打ち切られるという、とんでもない憂き目にあった。

 無人のガッツ・イカロスが次回作で有人になったのと、似たようなケースかもしれんな」

「うわぁ……」

岸開きしかいも、当初は蛍ばりに明るい開発者だった。

 が、一話でお蔵入りにされ、ロボットとして便利に蘇らせられ、敵組織の名を関する『トクセン』で働くのを強制され。

 極め付けに、肝心要の三八城みやしろ 友灯ゆいが店長、特撮の素養が全く無い嘘吐きの意地っ張り見栄っ張り。

 このように、次から次へと報われなかったせいで心をマイナスされ、岸開きしかいは今、絶賛、無我の境地となってしまっている。

 因みに、ロボットにされたのは、『四六時中キリキリ働かせるため』『単に面白そうだから』。

 とのことだ。

 マジくたばれ、あのイャンパクト老害、アホンノウン、ドアホンノウン」

「もぉ……もぉ、めてぇ……。

 あたしが全部、悪かったからぁ……。

 あたしもう、岸開きしかいさんに足向けて寝られないよぉ……」

「と言っても、当人はなにも知らなかった。

 ゆえに、今回は不問とする。

 次からはけろ」

「女神か、あんたは!?

 あんたこそ、騙されないようけなはれやぁ!?」

「どの口が」



 友灯ゆいは、ここに来て初めて、珠蛍みほとの寛大さを理解した。

 優しくなければ、ここまで、黙っても許してもくれないだろう。



岸開きしかいの話は、これくらいい。

 もう、気は済んだ。

 やり方はさておき、三八城みやしろ 友灯ゆいは、最後の最後でノルマを達成した。

 てっきり、岸開きしかいを馬車馬にして発明でボロ儲けするとばかり思い込んでいたので、意外だった。

 それに昨日、森円もりつぶ 英翔えいしょうを助けんと無計画に奔走する姿勢には、感服した」

「上げ下げ激しいなぁ!?」

「今更だ。

 それより、次は森円もりつぶ 英翔えいしょうの話だ。

 三八城みやしろ 友灯ゆいが煮えきらない態度を貫くのは『この世界の特撮に魅力が無いから』だと判断し、サクシャスも一度は、この世界を滅ぼさんとした。

 が、それでも諦めない三八城みやしろ 友灯ゆい森円もりつぶ 英翔えいしょうを呼び寄せた事で、保留する。

 その理由は、一つ。

 サクシャスにとって、森円もりつぶ 英翔えいしょうの参戦は、計算外だったからだ」

「エイトが生まれたのは、サクシャスにとって誤算だった?

 確かにエイトは、あたしと出会うタイミング遅めだし、終わりかけに出て来た割に出番マシマシだったけど。

 同時期に知り合った、若庭わかばと比べても」

「奴の正体は、『オーダー・メイド・ガイド』、略して『オメガ』。

 この世界において、テクスターの気力や強運などによりもたらされる救済措置にして修正パッチ。

 最後にして最強の助っ人だ」

「オメガ……」



 その名を刻み付けるように、友灯ゆいは口にした。



 それが、エイトの正体。

 自分が最も、望んでいた真相。



「エンジンには、世界中の知恵を高速で検索する『ラヂエル』、バディの心を瞬時に読む特殊スキル『リンク』が備わっている。

 それを活用し徹底的にフォローしてくれる他、バディの望む情報をリアルタイムで提供出来できる。

 と言っても、バディが秘密主義者なのをリンクで察した結果、森円もりつぶ 英翔えいしょうのラヂエルはまだ微塵も作動していない様子だが。

 森円もりつぶ 英翔えいしょうのバディは……言わずとも知れてるだろう」

「あー、うん、そだね、あたしだね。

 エイト、あたし絡みだと妙に察しかったね。

 さながらアーニ◯みたいだったね。

 お父さんが洋菓子好きなの読み取ったり」

「続いてオメガには、見た目、声、性格、得意分野、財力など細部に至るまで、テクスターの趣味嗜好によりその都度、整えられる。

 三八城みやしろ 友灯ゆいがお嬢様学校上がりであり、前職でも同性としか関わって来ず、おまけに二次元の嫁が沢山おり、元にすべき範囲が広ぎるが故に参考にならず。

 仕方なく、周囲にいる異性の中で特に気を許している守羽すわ 紫音しおんをベースに作った結果、森円もりつぶ 英翔えいしょうが彼に似てしまった。

 というカラクリだ」

「改めて聞くとあたし、とことん救いよういってか業が深いなっ!?」

森円もりつぶ 英翔えいしょうが妙に『友達』にこだわっていたのも、三八城みやしろ 友灯ゆいの深層心理の裏返しだ。

 同僚、家族、恋人、友達。

 いずれの分野でも華々しい不成績を残した、正真正銘、悪女の『天才』。  

 それが、三八城みやしろ 友灯ゆいである。

 具体的には、一周して芸術点高いほどに」

先生せんせぇ……。

 皮肉が……皮肉さんが、息してません……。

 助けてくだせぇ……」

「現状を打破したい、相手と仲良くなりたいという願望を汲み取った結果、今の森円もりつぶ 英翔えいしょうが形作られるに至ったのだ。

 それも、岸開きしかいの世界の技術を流用し、ご丁寧にロボット、鋭感かつ頑丈になった状態でな。

 溜め込んでばかりの都合上、言及せずとも汲み取ってくれる相手を望んだ結果、リンクを宿したエンジンが抜擢された、というわけだ。

 ただし、強い欲望に覚悟と実行力が追い付かず。

 それを補うべく、本来なら繋がらないはずのエンジン要素まで呼び込むアクシデントが発生。

 その所為せいで、森円もりつぶ 英翔えいしょうは不完全な状態で生まれた。

 具体的には、彼は自分のルーツを忘れてしまい、ローディングとラーニングが不完全なので、少し考えてから喋ったり、疑問形にするくせった。

 三八城みやしろ 友灯ゆいの両親に対する呼称が同じだったのも、森円もりつぶ 英翔えいしょうのオリジナルだったから。

 つまり森円もりつぶ 英翔えいしょうは、冗談ではなく本当ほんとうに、三八城みやしろ 友灯ゆいにとっては、心の翻訳者だったのだ」

「ちったぁ助けろやぁ!

 それが無理なら、少しはノれや、バッキャロー!!」



 頭にピーナッツ、テイク3。



「落ち着いた頭で、考えてもみろ。

 同僚、家族、恋人、友達。

 この中で、初対面でもっと違和感いわかんい関係としていて提示するとしたら。

 どれが該当すると思う?」

「すみません、選択肢一つしかぎやしませんかねぇ……」

「家事万能。

 ATM。

 トモコイ以上シンエン未満、略してトコシエ。

 特撮講座、すなわちトッコウのコーチ。

 タメ。

 好青年。

 天然。  

 無邪気。

 ほぼ怒らない。

 都会帰り。

 世界的アプリのワンオペ開発者。

 乱造可能なロボット。

 中性的な可愛かわいい系イケメン。

 七色の声とボイパと声真似マネと演技力と歌唱力とルックスと人間性を誇るイケボ。

 真面まともな対人経験少ない所為せいで作られた暴走コミュお化け。

 ほとんど異性を感じない。

 記念日とか気にしない。

 ソウル・メイト。

 口下手。

 玉の輿。

 名探偵。

 万人向け。

 出合い頭にビリッと運命、感じる。

 ピンチに颯爽と現れるヒーロー。

 基本、なんでも出来できる。

 頼まずとも頼んでもなんでもしてくれる。

 なんでも速攻で作れる。

 徹底的なサポーター。

 ネタバレ大歓迎。

 美味しい所だけ摘み食いしたいファスト系。

 オフは趣味に没頭したい派。

 デートも結婚も億劫。

 ラブコメ、クマ好き。

 趣味趣向が似通っている。

 共通項が多い。

 100の質問、ほぼ一致する。

 30歳いいとしでクマのパジャマ似合う。

 人間関係まで直してくれるアドバイザー。

 構ってちゃん。

 優しく気遣い屋。

 正しい意味で紳士。

 隠しこととかい正直者。

 豪邸持ち。

 生活費などを諸々受け持ってくれる神対応者。

 とことん便利。

 ご都合主義オリンピック日本代表にして金メダリスト。

 全体的に無欲。

 オアシス。

 マスコット。

 呼び出しフリー。

 定期連絡マメ。

 ぐ駆け付けるハイヤーもどき。

 自由と個性を尊重する放任主義者。

 ほぼ使用人。

 パシリ。

 さっぱりした良識人。

 ゾーニングしっかりする常識人。

 無干渉。

 自己犠牲しい。

 人畜無害。

 褒め上手じょうず

 プチ別居中。

 話を聞くだけでお金くれる程度の変人。

 絶対ぜったい的、徹頭徹尾イエスマン。

 常に味方な理解者。

 い意味でやり甲斐搾取するヒモの主。

 人生というクズゲーの無料救済パッチ(三八城みやしろ 友灯ゆい専用)。

 あたしのかんがえたさいきょうのぎじぎゃくはー。

 それが、三八城みやしろ 友灯ゆいのタイプという訳だ。

 見付けるのは至難のわざだろうが、生きている内に、現実でも出逢えるといな」

たまるかぁ!!

 そんな、七大ななたいの役満漢全席みたいなのが、現実にぃ!!

 元の世界てんで不向きぎる、売れ残った理由が明白ぎる、現実世界の親に申し訳立たなさぎる、いっぺんマジで死んどけぎだろあたしぃぃぃぃぃ!!」



 トーリロボばりに、のたうち回る友灯ゆい

 透かさず、彼女の全身目掛けて、ピーナッツの嵐が巻き起こる。

 


「人の家を、荒らすな」

「煽ったの、そっちじゃん!!」

「黙れ。

 何も違わない。

 岸開きしかいは、なにも間違えない」

「どこの無◯様!?」

「もう一度、森円もりつぶ 英翔えいしょうを手放したいか?

 言っておくが、他のバック・アップの隠し場所を明かすもりまではいぞ?

 何故なぜそこまで、岸開きしかいが義理立てなくてはならない?

 恨みや不満、殺意こそれど、三八城みやしろ 友灯ゆいに、恩義などいというに」

「さーせん!!」

「最初から、分かっていろ」



 英翔えいしょうのバック・アップの入ったメモリを人質に、友灯ゆいを手懐ける岸開きしかい

 恐らく、そんな気など更々、いのだろうが、ゾッとするからめてしい。

 あと、サラッと『殺意』とか言わないでしい。

 ほふっても許されるだけの動機が、すでいくつも与えられているのだから。

 

  

 呼吸を落ち着かせ、意味もくゲンド◯ポーズを取りつつ、友灯ゆいは話し始める。



「一旦、整理しよう。

 あたした現実世界を、『U世界』だとして。

 あたしは元々、U世界の住人?」

「そう」

「で、別次元の宇宙ギャングのサクシャスが、あたしをテクスターとして、今の世界に連れて来た?

 つまりあたしは、生きた異世界転生者?」

「そう」

「『トクセン』のみんなは、U世界には存在しない、あたしために新たに設けられた、サポート・キャラ。

 つまり、記憶などもすべて、捏造?」

「そう」

「エイトと岸開きしかいさんはロボット。

 取り分けエイトは、あたし好みの仕様に作られた救世主、オメガ?

 更に、リンクによってあたしのリクエストを随時、受付中なエンジン?」

「そう」

あたしに存在を気取られそうだったから、ホンノウンは、保美ほびちゃんや留依るいたち、お母さん達を消した?」

「そうだ。

 しかし、後になってから必要に駆られ呼び戻す辺り、やつのスケ管の杜撰ずさんさが際立っているがな。

 ちなみに、やつの干渉能力を多少なりとも弱めたことで、すで三八城みやしろ 友灯ゆいの記憶は修正されている」

「ありがと。

 で、あたしが苦しめられた人間関係も、すべてはサクシャスが原因?」

「ノー。

 それは、U世界の三八城みやしろ 友灯ゆいのデータを引き継いだ所為せい

「そこは、違うのかよぉ!!

 チッキショーめぇ!!

 なんなんだよ、現実のあたしはやぁ!!」



 こうして友灯ゆいの体に、再び落花生のマークが増えた。



「てかさ。

 冷静に考えてみたら、おかしくない?

 サクシャスの目的は、『それぞれの世界の特撮のジャッジ、いては滅亡』でしょ?

 それに、サクシャスが取り付いた人間は、なにからなにまで超古代な価値観の持ち主なんでしょ?

 その割には、お膳立てしぎじゃない?」

「テクスターを選定するのは、奴の能力ではなく、その世界のテーマ事情。

 ようは、ガチャだ。

 昨今のイケメン俳優や豪華声優、アーティストの起用、奇抜さや可愛かわいさの猛アピールにより、U世界では女性の特撮ファンが増加傾向にあった。

 その風潮により、特撮の知識もポテンシャルも三八城みやしろ 友灯ゆいが選ばれた。

 しかし、結果に納得出来できなかったサクシャスは、すでにU世界の特撮に見切りを付けつつある。

 だからこそ、完膚無きまでに好条件に整えた上で、三八城みやしろ 友灯ゆいを徹底的に叩きのめす方向へとシフトしたのだ」

「……つまり?」

「レシピと知識が所為せいで、折角せっかくの厳選素材を台無しにし、生放送かつ世界中継の料理番組で生き恥とメシマズと変顔を晒し、あらゆる食を全自動やレトルト、数多のシェフを無職に追い込んだ、どうしようもい救いようのい哀れなピエロ。

 さしずめ、サクシャスが演出せんとした三八城みやしろ 友灯ゆいの真の役回りは、そんな所だろう」

「ほほぉ……。

 |随っ分、舐めてくれてんなぁ、おいぃ……」



 握り拳を作り、沸々と怒りを貯める友灯ゆい

 


岸開きしかいの知っていることは、ほぼ話した。

 その上で聞こう、三八城みやしろ 友灯ゆい

 今の結果で、本当ほんとうに満足か?

 あんな終わり方を、ハッピー・エンドと銘打てるか?

 パラレル染みた真のルート……ifトゥルートで再挑戦し、仕返すもりはるか?

 あのような方法でしか売上を達成出来できなかった自分を、心から誇れるか?

 この一年、本当ほんとうに全力全開だったか?

 同僚たちと、もっと早く、深く打ち解けたかったという後悔はいか?

 少なくとも、岸開きしかいは不満だ。

 岸開きしかいの、未来由来の技術で薄利多売紛いのことを強いられかけた、現状が。

 10ヶ月近く、サクシャスに踊らされていただけという、屈辱的な黒歴史が」



「……あたしだって……!!」



 悔しくないわけい。

 満ち足りるなんて、有り得ない。

 


 あの程度のやり方でしか、みんなを、『トクセン』を、特撮を守れなかった。

 そんな不甲斐無い結末で、終われるはずい。



 あの日、友灯ゆいは思ってしまった。

 もうすべて、燃えてしまえばいい。

 一時でも、そう願ってしまった。



 それが、英翔えいしょうを突き動かしてしまった。

 性懲りも無く自分の罪を、彼に一方的に背負わせてしまった。

 彼を、死に追いやってしまった。



 これでなにも感じないほど

 友灯ゆいは人間を、自分を捨ててはいない。



「……お願い、岸開きしかいさん。

 あたしを、エイトに会わせて。

 今度こそ、きっちり済ませて来る」

「今ならば、信用出来できる。 

 岸開きしかいの開発室に、エンジンのスペアが残っている。

 トケータイにメモリをセットし、エンジンが付けているトケータイに触れろ。

 そうすれば、森円もりつぶ 英翔えいしょうは復活する。

 けた肉体も、忘却した記憶も、忠実に再現した上でな」

「ありがと」



 メモリを受け取り、挿入する友灯ゆい

 互いに頷き合い、歩を進める。



 舞台と手筈は整った。

 あとは、調理のみ。

 今度ばかりは、メシマズらされてなるものか。



 友灯ゆい岸開きしかいのリベンジ。

 その一歩目が今、始まる。



「ところでさ。

 春映画って、そんなになんでもりなの?」

「ケンバコとジョニアがラ・ゾ・ナしてるだけのツッコミ紹介コント動画で泥酔疑惑が浮上するレベル」

「この胃凭いもたれしそうな継ぎ接ぎ感、エイト味有り過ぎる!!

 さっきから絶えず思ってたけど!!」



 二人の仲が、すこぶるリセットされた状態で。

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