11:倒産(たおす)か、卒倒(たおれる)か
同居人かつ相棒に対する、
ソシャゲ業界の第一線で活躍しているエイトとの不相応っ
皆が一様に「覚えが無い」の一点張りで、誰の仕事か分からぬまま置かれた、ソフビを始めとした、染色済みのホビー
まるで心当たりが
依然として店長たる振る舞いが一つも
目前に迫りつつある期限と、一向に進まない仕事と、未だ達成が困難なノルマからの、ストレスと焦り、睡眠の質の低下。
決して居直る、申し開きをする
ただ、そうなった要因の心当たりは
という、だけの話である。
それはそうとして。
大黒柱たる店長が、職場でいきなり気絶するなど、以ての
しかも、しがない小売でしかない『トクセン』に、保健室などという大層な場所が備えられている
今日も今日とて、
いや、まぁ、休憩室やマネージャー・ルームで転がっている
それに、この開発室は
だからって、こんな仕打ちは、あんまりなのではなかろうか……。
「……そんなに警戒せずとも、
心なしか、いつもと比べて、気持ちばかりソフトだった。
おまけに、作業に没頭する
一体、どんな心境の変化が
「……
「は、はいっ!!」
名前を呼ばれ起き上がり、正座する
相変わらず、どちらが立場的に上なのか分からない状況で、
「……もっと、楽にしてくれて
率直な意見を、
今日、
やはり、
「い、いやー……。
……どーかなぁ……」
「……そうなのだな」
「な、
「
返答に困った時、
今のが、それだ」
「うわぁ……」
決まりが悪そうに、目を逸らす
意味も
「……一因では、ある……。
……かな……」
「……そうか」
「で、でもっ!
それだけじゃないってーか!
それ以外は
そもそも、その件だって
「
しかも、それについて詳細な理由を一切、プラスせず、黙秘を決め込んでいる。
そんな
「それは、まぁ……そうだけどっ!
まるで説得力の
ここに来て
感情的になった
そんな中、コピペしただけの
彼女の体を倒し、布団を被せた。
「……同じ
今度ばかりは、
カバーしようとした結果、
そんなビジョンが、見えてしまったのだ。
だからといって。
「……
ちょっと素っ気なく、相性とタイミングが悪いだけ。
だからこそ、こういう、良心に語り掛ける
「……弱り目な
それより、見て
やや
照れてるんだな、と
数分後。
色が塗られていない辺り、未完らしい。
「
言うなれば、スマート・ウォッチの簡易版だ」
「……時計……?」
「失敬」
彼女は知らなかったが、それは
これは間違い
「スマホと同様の使い方が可能で、ほぼ
使用料金も一切、負担しなくて済む。
軽く頑丈で防水、防塵、熱も持ち
主にソーラーでバッテリーを蓄えるが、充電も可能な他、長持ちする。
ペアリングにより、周囲の電子機器の簡易操作も可能な、万能リモコン。
ルーターの役割も果たすので、制限知らず。
ディスプレイをポップ・アップさせ、貼り付けやリモートの他、画面を拡大、分割、複製、展開も可能。
特に
シュリンクの
なお、
例えば、未購入商品のコードは認識
他にも、非合法な使用を避けるべく、様々なロックを設けている。
アフター・ケアも万全だが、そもそも壊れないし壊せないし壊させない。
と、ユーザビリティ、及びコンバージョンは高いと自負している。
見ての通り、ペイントが済んでおらず、開発途中だがな」
「……途中の時点で、既存の
「造作も
「これで、『ちょっと』……?
これを、二日で作ったの……?」
「
サンプルならば、
無論、立案から開発まで、始めたのは昨日からだがな」
「……」
思い返してみれば元々、エンジニアとしての彼女の腕はピカイチだった。
その技術力、使い道、興味が
蓋を開けてみれば、
その結実とペースが、かなり企画、規格外だったのだが。
「で?
これを、どうすると?」
「『トクセン』で売りたい」
「……。
……はい?」
「『トクセン』で売る」
「二回も言わないで!!
しかも、決定事項みたいになってるし!!」
想定外の事態に、
が、やや経ってから、持ち直す。
「……あのさぁ、
そりゃ今までにも、ホビーの枠を超越した大人向けとかにも、ビクビクしながら触れて来たけどさ。
でも、ここまでではなかったじゃん。
そもそも、こんな高性能な物が出てた作品、今まで
「ゼロワ◯の100◯%の着けていた物を、参考にした」
「出てはいるのね。
なら、撤回する、ごめん。
で、それはそうとして、商品化は?」
「されてない。
大してクローズ・アップもされていないし、
というか、恐らく無名。
おまけに、現実的に」
「て
今までとは違う意味で、実現性に
そんなアイデアで上層部を黙らせる、唸らせられると思う?」
「通常の会議を素っ飛ばして30分で企画が通る。
そんな、変神パッ◯並みの、どんなミラクルも起き放題な
というか、起きろ、起こせ」
「あれこれ振っといて結局、ラストは
「
「未練、不満タラタラじゃないかよぉっ!!
そして、要らんわっ!!
そこまで野心
「それでも店長か?」
「ねぇ今、
店長だからこそ、必死にブレーキ掛けてるんですけどぉ!?
そもそも
直情的ながらも、
「……
ここで働く
「……あ……」
そう言えば昨日、言っていた。
大事な相棒を、失ったと。
腕を強く握り、
それはまるで、今まで遊び呆けていた、
「……
すっかり
「そんな、いじらしい、健気な姿見せられたら、言えないじゃん……。
ノーだなんて、そんな……」
下を向いていた
その瞳は、いつに
本気なんだ、と
「では……!!」
「掛け合ってみるよ。
で、なるべく前向きに検討して
元々、
まぁ確かに、変身アイテムっぽくはあるし存外、どうにかなったりするんじゃないかな?」
「……恩に着る……!!」
「
まさか、ここまで
棚ぼたも
でも、こうなった以上、いつまでも苦手でいてはならない。
これからは、きちんと積極的に接して行かないと。
一緒に働く、大切な仲間なのだから。
「
改めて、
まだ頭も体もメンタルも本調子ではないが、
「冗談はマイナスしろ」
いきなり
「な、
「……?
それは、
「
弁明しようとして、
思い出せないのだ。
ここに運び込まれた、その経緯を。
訳も分からないまま、
まるで先程まで、そこに
「……どうした?
頭痛が、プラスされていたのか?」
「……分かんない……」
「過度なストレス、強いショックやトラウマ、脳過労。
少なくとも、この前のケースとは、まるで異なっている
であれば、これ以上の追求は避けよう。
それと、もし頻発する
「……そ、だね……。
ありがと、
「……今回だけだ。
次からは、しっかり体調管理をプラスしろ。
少し、買い物に出る。
「フライド・ポテト……」
「……仮にも、病人なのでは?」
「平気……。
「どんな肉体構造をしている……?
だが、了解した」
すると、
「な、
「ホバク・ホーバーくん。
見ての通り、ホーバーク型の捕縛システムだ」
「そこじゃないっ!!
「知らん。
「そっちこそ、精密検査受けたらぁ!?」
「気が向いたらば。
では、失礼する。
決して、荒らしてくれるな。
「別に、好きで着てるんじゃないんですけどぉ!?
無理矢理、着させられてるんですけどぉ!?」
不服ではあるが、
にしても、だ。
一体、自分はどうしてしまったのだろう。
確かに、期限の
いや。
もっと他に、重大な
「……」
こういう場合、普段だったら
しかし現在、その
が、だからこそ話したい気持ちも
しかし、それより恐怖が勝る。
「あぁ〜……」
思いあぐねていると、不意にスマホの着信音が鳴る。
ベッド脇に置かれていたのを回収し、画面に表示された発信源を見て。
それはいつぞや、
あの時とは、
「……
※
「
久し振りね。
元気にしてた?」
「見ての通り。
変な開発者の変な発明品で、変な捕縛されてる」
「あら?
私には、
「どぉりゃぁっ!!」
まさかの体を張った自虐ネタに、ビデオ通話中の
「
それなら、寝返りを打って落っこちても安心だわ」
「そこぉ!?
てか、クッションやエアバッグや寝袋じゃないんだけどぉ、ぐぇっ!?」
よりキツく縛られ、
「で?
「心配で、電話したのよ。
「誰から?」
「……さぁ?」
「『さぁ?』て……」
雰囲気に当てられ、
昔から、そうだった。
といっても、天然具合であれば、(
「それより、
肉じゃが、コロッケ、フライドにジャーマン。
見ての通り、ポテト尽くしよ。
一緒に、食べましょう?」
「……
「気分よ、気分。
こう、匂いだけでも、どうにか届けられないかしらね?
う〜ん……えいっ、やぁっ、ちょあーっ!」
「無理だよ。
あと、スマホ持ったままポーズ取らないで。
画面酔いする」
「
きっと、
「主人公かヒロインみたいな補正入れんな。
「ん〜!
我ながら、
「食べてる、んでもって手前味噌……。
こういう、ケレン味の
自分は、ポテト大好き芋娘。
姉の
「
スマホを向かい側に置き、箸を進めながら、不意に
まるで、心を読んだ風に。
「特撮の
そんなあなたが、右往左往しながらも直向きに突っ走る姿に、
だからこそ、『トクセン』は今日まで、やって来れたんじゃないかしら?
そもそも、そうでもなきゃ、少なくとも一年なんて持たないわよ」
「……褒めてる?」
「褒めてるわよ。
それに、ポテトの
世界中で愛されてる、超人気食材じゃない。
それに、ビル◯世界のポテト株は、
今度、観てみなさい」
「……まぁ、うん」
「
確約だからね?」
「はいはい、気が向いたらね」
「もうっ!
「言っとくけど、
F2層間近で、そのムーブは、中々キツイかんね?」
「じゃあ、向こう3年は平気ね」
「ポジディブだな、ぐぇっ!?」
毒気もモヤモヤもすっかり払われ、
思い返してみれば、いつだって姉は、こうして自分を助けてくれてたっけ。
……まぁ、そもそも悩ませていた張本人も、大体は姉だったが。
「
「……いきなり、
いつもの
「じゃあ、それが消せないタイプで、修正液とか印鑑を用いずに、それを訂正する時、どうしてる?」
「二重線」
「そう。
それが、『大人』よね。
でも、『子供』は違う。
つまりは、そういう
「……
お決まりの説明ベタによる、中身が
そう言えば、
対する
見た目が頭脳に伴っていない彼女の
「これは、あくまでも私の見解だけど。
人間って本来、凄く複雑なのよ。
色んな感情がゴチャ混ぜに散りばめられ、
中でも程々に本音、核心を捉えた、取り分け大事な一言だけを抽出し、相手に日々、送り届ける。
その際、不況、不協和音を招く、リスキーな気持ちに蓋をするのよ。
綺麗で細くて
それが、『大人』という生き物であり、生き方。
ここまでは、理解
「大体は。
「立派な社会勉強だもの。
さほど、間違ってはないわね」
「こっち既に社会人なんですが……」
流麗なクラシックをバックに、上品な姿勢でソファに腰掛け、紅茶を嗜む
「これもまた、あくまでも私の感想だけど。
真に『大人』な人間なんて、存在し得ないと思うのよ。
自分の意見、主張ばかり、押し通してはいられない。
だから、押し殺す必要が
そうやって、本心を狭め、縛った結果、取らざるを得なくなるまで追い詰められた。
そうして導き出されたのが、『大人
「……」
どうやら、
先程や、普段の言動はさておき。
この話には、実も中身も
少なくとも、今の自分には、
「『大人』である以上、我儘のみを貫く
ましてや、
重責を果たすべき立場にある都合上、殊更、負担も不安も不満も増える。
でも、だからって四六時中、年中無休で演じる必要までは
定期的に、毒なりガスなり息なり肩の力なり抜かなきゃ、やって行けないもの。
今回は、それが図らずも暴発しちゃっただけ。
時には無条件に、思春期真っ只中の青少年に立ち返って、叫んだり、騒いだり、ぶつかったり、ぶつけたり、しても
傷付けた、傷付けられたミスを塗り潰す、塗り替える
人間なんて、その実、感情の塊なんだから」
ピタッと、ヒタヒタと。
「……
「……どうかしら。
私は、怒ったりしないし、
教えを説いといて
それもそうだ、と
かれこれ30年近く妹をしているが、これまで
大っぴらには決して言えないが、サンプルとしては外れである。
けれど、少なからず助かったのは確かである。
これからも、付かず離れず、良好な姉妹関係を維持する
「……あんがと、
ちょっと楽になれた」
「それは
私も、楽しかったわ。
久し振りに、水入らずで話せて。
それで、
次に気絶するのは、いつ頃かしら?」
「別に、イベントとかじゃないし、イレギュラーだし!
縁起でも
てか、そういうの
「そう?
なら、
てっきり、嫌われたのかと思ったわ」
「それは、ほら、アレだって。
こっちにも、色々と都合って物が
「そうよね。
お姉ちゃんとしては、ちょっと寂しいなぁなんて」
「シスコン」
「ご挨拶ねぇ。
まぁ、そういう所も、愛おしいんだけど」
「せめて『
「大丈夫よ。
そういう目では一切、見てないもの」
「信じるかんね!?
頼むよ、
色々とタブーだかんね!?
じゃないと、比喩とか誇張じゃなく、マジで困、ぐぇっ!?」
並々ならぬ危機感を覚えた結果、またしても
「ところで、
「ん〜?」
再び
「あなた、まだアパレル志望?」
「え?
そりゃあ、
「
「うん」
「その言葉と気持ちに嘘、偽りは
「
まぁ、
「そう。
それを聞いて、安心したわ」
「……なして?」
「
近々、
その時まで、楽しみにお待ちなさい。
サプライズのプライズ、略してサプライズよ」
「まんまじゃん」
謎の質問で
どこまでも、自由奔放である。
「今日は、楽しかったわ。
今度、また一緒にご飯しましょう」
「
「細かい
「ねぇさも
「そのネタ、好きよ。
でも、ちょっと薄味かしら。
お父さんと比べたら」
「比較対象が、おかしい!!
そもそも
産まれた時には、旅立ってたし!
「なるほど。
一理有るわね。
もっと練習して、また披露してね。
じゃあ、達者でね、
「最初に見せたの以外は、ネタじゃないわ!
てか、もう切ってるし!」
いつの間にか暗転していた画面に文句を言いつつ、
普段のバリキャリっ
よく、あんなフワフワした調子で、やって来れた物だ。
いや、今の
そんな心境に至り、ふて寝をする
すると、その拍子に、背後のドアからノック音が届く。
「全員じゃん……」
小声で自分にツッコミを入れていると、室内が静まり返った。
どうやら、自分の承諾が
律儀だなぁと思いつつ、
「どーぞ」
合図を受け、開かれるドア。
誰だか知らないが、妙に真摯である。
まるで。
「……っ!?」
そこに至り、
違う。
付け足せば、ドアの前まで来ているのに一言も発さない、勝手知ったる無口なタイプは
少なくとも、『トクセン』には。
そう。
現状、それらしい該当者はゼロである。
たった一人……同居先にしか。
「……ユーさん」
「
はい、これ。
頼まれた物」
「……あんがと……」
ベッドの下で腰を預け、
「……
「……」
数日間とはいえ、核家族チックとはいえ、一緒に暮らしていたから、分かる。
こういう時、いつもの
でも、今回は違った。
その原因が『怒り』に
それも、ただの『怒り』ではない。
そう、
自爆っただけなのに、
そんな時でさえ、彼は自身を責めるのだ。
間違っても、
またしても
「『
気付かぬ間に、
先程まで自分を封印していた
「
エイトは、
そんなん……どう考えても、明らかにおかしいだろ!?」
「俺は、ユーさんのバディだから。
そこまで追い詰められた
なのに、それを俺は怠った。
自分に怒って、当然じゃないか」
「だからっ!
そもそも、その認識と前提からして、違うんだって!
この件に関しては、エイトには
「……
腰掛けるのを止め、立ち上がった
見透かす
白状させる
「……ユーさん。
ずっと、俺を避けてた。
リビングにも、顔を出さなくなってた。
4日前……忘れ物を取りに、
昨日は、特に顕著だった。
オフにさえ、俺とは会わない
「……っ!!」
バレていた。
というか、露呈しない方が奇妙だ。
それ
「……ごめん……」
上手い言い訳が思い付かず、
逆撫でするだけだと、理解した上で。
「……俺……。
ユーさんに、
「違っ……そうじゃなくって!!」
「じゃあ、
追従する、
どうやら、掻い潜るのは不可能らしい。
「……なりたかったの。
エイトの同居人、相棒に見合う、一人前の大人に。
少しでも、早く」
思わぬ答えに、
「……ユーさんは、もう立派な大人だよ?」
「どこがっ!?
てんで
家事も不得手だし、だらしないし、色々と不安定!
しまいには、業務中に知恵熱出したり、無理が祟って気絶までしたり!
エイトとは、住む世界が違い過ぎるじゃん!!」
「……倒れたりするのは、
「ほら!
エイトだって、同感なんじゃん!!」
項垂れ、体育座りをする
口に出すと余計、その事実が重く伸し掛かった。
「……
店を、倒産させる
ここまで出遅れたのだって
だから、『トクセン』は、
まだ
……ううん。いつか、ここを旅立つ日が来ても、残しとかなきゃいけない。
ここを、
「だから、ユーさんを倒すの?
ユーさんが、傷付き倒れても構わないっていうの?」
「……今回は、ちょっとミスっただけ。
次からは、もっと
「気持ちだけじゃ足りない。
目標に気持ちが追い付かない。
だから、卒倒したんだよ?」
「……じゃあ……!!
じゃあ、どうすりゃ
我慢、勘弁ならず、
八つ当たりだなんて、百も承知で。
「分からない……!!
分からないんだよ、
特撮の
これからも『トクセン』で
力
「俺だって、同じだよ。
この前、分かった。
結局の所、俺はユーさんの
……パートナーとしてしか、見てなかったんだって。
プロフィールだけじゃない。
俺は、俺達は、互いに互いを無知
……でもさ、ユーさん。
だからって、悲観する
「『分からない』のは、悪い
きっと、『分かりたい』っていう願望の裏返しだから。
分からない上に不必要な
どうでも
大切だから、必要だから、
「エイト……」
「……だから。
だからさ、ユーさん」
真っ赤な顔で、少し
思い返してみれば、これまで、
けれど、今回は違う。
「難しいし、むず痒い。
煩わしいし、恥ずかしいし。
次の
そんな
きちんと、照らし合わせ、答え合わせしたいんだ。
だって……俺達は、
2週間近く前までは、確かに違ってたかもだけど、少なくとも今は。
俺達の世界は、同じで、一つだから。
「あ……」
身に覚えの
すっかり、失念してしまっていた。
彼が友達に
理不尽に孤独を強いられ、虐げられ続けていた、彼の過去を。
みっともない言い訳だってしない。
少し注意すれば、容易く避けられるケースだった。
自分の配慮が欠如していたに過ぎない。
自分だって、その辛さや寂しさを、身を
「……ごめん。
「故意じゃないよ。
それに、今のは俺の自爆」
「地雷原までリードしたのは
「分かった上で踏み抜いたのだって、俺だよ」
このままでは、水掛け論。
キャッチ・ボールやドッジ・ボール
「……ごめん
「
「グラビティ
昔の、ファンとは名ばかりの乞食みたいに、なってたりしない?
「だとしたら、夜遅くに、手作り持参で駆け付けなんてしない」
「もっと、頼っても、
「大歓迎」
「……
「ん。
今みたいに、甘えたがりの時は、特に」
「
誰が、そこまで言えって頼んだ」
「……難しい」
「せやな。
でも……だからこそ、
粗末にしちゃ、
「……だね」
コツンと、
感情の環境整備は、まだ途中だ。
見付けるのも大変だし、仕分けも難航してるし、包装だって困難。
しかも、それ以外に、本業がマルチ・タスク
一つ一つ解体、解決するには、案件が大型
断捨離するのに、まだまだ時間を要する。
年末年始の大掃除を通り越し、まるで引っ越しでもするかの
今まで、知らなかった。
知ろうだなんて、思いもしなかった。
自分の胸の中に、こんなにも多くの荷物が詰まっていただなんて。
しかも、どれもこれも、不鮮明で壊れ易く、取扱厳重注意で、それでいて重い。
送る相手とタイミングを見誤れば、
でも、と
エイトなら、大丈夫なんじゃないかって。
エイトなら、自分の積荷を余さず、喜んで受け取ってくれる。
それどころか、片付けにも積極的に参加してくれるんじゃないかって。
覚悟を決め直した面持ちで、彼と向き合う。
「最後に、一つだけ。
これが、メインなんだけど。
なるべく包み隠さずに、
「……してない。
と、思う。
俺の知る限り、もう秘密は
……多分」
「……そっか」
納得、満足には程遠い、曖昧な答え。
それでも
結局、エイトの
でも、細かい
エイトの
その本人が、こう断じているのだ。
であれば
「もう、平気?」
迷いを振り切った、晴れやかな顔色をする
腰に手を当て、
「おう!
悪かった!
これからも頼むぜ、相棒!!」
「喜んで、心得た。
ところで、ユーさん。
ちょっと、付いて来てくれる?」
「ポテト食べながらでも
「思ってた以上に元気になって安心した。
行こ?」
「りょ」
すっかり回復した
当人が
「エイト」
「うん?」
部屋を出、ドアを締めたタイミングで、
先程まで話していた開発室から、出た。
今日みたいに、腹を割って
でも。
それじゃ、足りないから。
今までと、変わらないから。
現状維持のままだと、先に進めないから。
せめて、予定が
また近い内に、風の向くまま気の向くままに、
だって、そうではないか。
自分達は、特撮の話をする
「今は、ちょっと無理かもだけど。
今度、聞かせて。
エイトの
エイトの好きな、特撮の
余さず、教えて
エイトの好きを、分かち合いたい。
分かち合って、
エイトが、大切で。
……大好き、だから」
別に、そういう意味ではない。
異性としてはさておき、依然として、恋愛対象としては見ていない。
でも、彼を好いている、求めている
きっと、ご都合主義なポジションのみならず、彼の人柄などにも惹かれつつあるのだろう。
もっと、彼を勉強したい。
今以上に彼を好きになりたい、彼に好きになっても
我ながら、笑える。
こんな思考、普通に考えたら、バカップルの
だというのに、そんな色めき、浮き足立った趣は
これでは、「子供っぽい」と
自分達は一体、
ただ、契約更新したいのだ。
もっと、安心、安定した間柄になる
もう二度と、誰かに穴を突かれない
「……俺も。
ユーさんに、聞いて
ユーさんの話を、聞かせて
ユーさんか、大切で……大好き、だから」
変な話だ。
と、
あれだけ知りたかった本音、不安がっていた言葉が、こうもあっさり引き出せるとは。
立ち返ってみれば、
大多数の人間は好感度、貢献度、信頼度などにより、相手との接し方、距離を変える。
今日みたいに、詰め寄れる、大っぴらに話し掛けられる、隙を見せられるだけの
とどの
これからの徒労を思うと、
大体が自分の
それでも、
隣に
「にしても、ポテト美味しいな。
結構、時間経ったのに、アツアツでホクホクでサクサクだし。
しかも、フレーバー違うし」
「俺も、食べて
「作ったの、お前だろ?
シェアすっぺし」
「ありがと」
「だぁかぁらぁ」
「……ところで。
俺とユーさんって、ユーさん
「そりゃー、お前……。
……誰だっけ?」
「……ま、
「だな。
その内、思い出すだろ」
やっぱり、妙な関係だ。
堪らず笑いながら、
※
「うぉぉぉぉぉ!!
ご総和ください、我の力をぉ!!」
「あははぁ。
シィナァ、その
八舞姉◯みたぁい」
「ちょっとぉ!
とんだダーク・ホースだわ!!
腹立たしいぃっ!!」
「
「リオ
「そ、そんな
ちょっと、前衛的
私は、好きですよっ!
チャーミングでっ!
「
高額商品
「違うのよぉ!!
ちょっと、今回のがディティール的にベリハだっただけなのよぉ!!
「高難度をプラスした張本人。
「この、ロジハラ女!!
あんたこそ、もっと集中力マイナスしなさいよぉ!!
「確かに、見事な出来栄えですね。
経験でも、お
差し
「
それに関するデータはマイナスされており、バック・アップも残っていない。
以前、誰かにプラスされた
……やはり、不鮮明だ。
だが不思議と、不愉快ではない」
「はーっはっはっはぁっ!!
「一緒にするな。
近寄るな、鬱陶しい。
それ以上、詰め寄ってみろ。
「だ、
どうか、ご勘弁をぉっ!!」
「あははぁ。
今日も『トクセン』はぁ、おいしろにデリシャッてるぅ」
にも
顔や手を、カラフルに塗りたくりながら。
ホビーの、リペイントを。
「
してんの……?」
戸惑っている
そのまま一斉に、振り返る面々。
倒れ掛けた
「店長さん!!
ご無事だったんですねっ!!
良かった……!!
私……私ぃ……!!」
嗚咽しながら、盛大に涙する
オーバーだなぁと思う反面、心配を掛けたのは事実なので、その背中を
「ごめん。
あと、あんがと。
めちゃ
てか、普通に馴染んでんね、
今更だけど」
「当たり前だろう、店長。
私の自慢の娘だ」
「ごめん、オカミさん。
誇らしいのは、
「……エイコンなボスが言う?」
「シオコンな
立ち上がった
「
「『連れて来るな』とはプラスされてない」
「
まぁ、一向に構わん。
元より、そこまでの成果を期待していない」
「
ユーさん……」
「あー、はいはい、いらっしゃい。
喧嘩売るなら、ちゃんと相手を見極めて、入念に用意を済ませてからにしなさいよ。
てか、
二人をナデナデしつつ、困った
きっと、
自分みたいな天邪鬼が、センチになる
「そもそも
揃いも揃って、サビ残しやがってやぁ……」
「見ての通り、単なるお絵描きだよ、店長」
「特撮マニアなら、誰もが一度は通る、憧れる道よねぇ?
従って、とやかく言われる筋合いは
「仕事の範疇には含まれない、です……」
「はーっはっはっはぁっ!!
ご心配には、及びませぬぞぉ!!
自分は最初から、存分に
「シィナもぉ、そぉ
バリカタ、マシマシに、デコデコにエンジョイってたぁ」
「私もぉ……。
最近、
僭越ながら、特に苦ではなかったですぅ……」
「ここ自体が、
一人として、
こんなの、常軌を逸脱してる。
こんなサプライズ……捻くれ者な自分でさえ、泣かされるに決まってる。
その方法を見付けるには、どうすれば
そんなの、考えるまでも
心機一転、一丸となって、働く。
ただ、それだけで
自分には、こんなにも頼もしい、正しい、楽しい仲間が、付いているのだから。
一緒に模索し、改善に努めれば
「バーロー……。
通りで、誰も見舞いに来なかった
店長に無断で、粋な内職しやがってからに……」
照れ隠しに、憎まれ口を叩く
そんな店長の元に、一同が集まる。
「がははははっ!!
精が出るなぁ、息子達!!
明日は非番なんで、加勢に来たぜぇ!!
色塗りなら、俺に任せときなぁ!!」
「夜分遅くに、失礼します。
即席ではありますが、夜食をお持ち致しました。
それから、爺で
現れたのは、
「がははははっ!!
元気にしてたかぁ!?」
「棟梁には負ける」
「がははははっ!!
当ったりめぇよ!!
こちとら、気力と腕力だけが取り柄だからなぁ!!」
「はーっはっはっはぁっ!!
父上ぇ!!
「がははははっ!!
おいおい、
それを言うなら、『足』じゃなくて『腕』だろぉ!?」
「はーっはっはっはぁっ!!」
これは、
「がははははっ!!」
「はーっはっはっはぁっ!!」
「がははははっ!!」
「はーっはっはっはぁっ!!」
「……」
シンプルに。
マッチョボケも。
だが、こうしてはおられない。
店長として、歓迎の意を示さないと。
といっても恐らく、呼んだのは
「初めまして。
店長の、
「がははははっ!!
こいつは、ご丁寧に!!
いつも息子達が、世話になってんなぁ!!」
「ええ、まぁ、それなりに」
「がははははっ!!
ストレートな姉ちゃんだ!!
「はーっはっはっはぁっ!!
父上ぇ!!
今のは、『
「がははははっ!!
おうよ、
お前も、筋肉道が
「……」
困るから、少し静かにして
こんなに、
「『孤独に打ち
だよね?
ユーさん」
「〜!!
お前が
エイトのバーカ、バーカ!!」
またしても心の内を見抜かれ、
それはそうと。
職員でもない相手にここまでご厚意を賜って、
例えば、クーポンを差し上げるとか。
……クーポン?
「……あ〜っ!!」
全員で夜食を囲んだタイミングで、
「……ユーさん?」
「ど、どうしたんですか?」
「思い付いたんだよっ!!
こっから巻き返す
取って置きの、打開作をっ!!」
大見得を切りながら、アイデアを熱烈にスピーチする
数秒後。
彼女以外の全員から発せられた叫び声が、こだまとなり、『トクセン』を掛け巡るのだった。
※
秘策を思い付いてから、3日。
1月は終わり、ついに2月となり。
緊張が走る、『トクセン』。
ストレッチをしたり、メモを確認したり、お茶を飲んで一息入れたり。
そういった具合に、
相変わらず、開発室の主である
これから始まりしは、『トクセン』以外でも前代未聞となろう戦い、その初日。
スタッフ総出という、万全の態勢で迎え撃つ所存ではある。
が、やはり少なからず不安は付き纏う。
発案者である
けれど。
いつまでもビクビクはしていられない。
こういう場合こそ、店長である自分が、景気なり血気なり付けなくては。
覚悟を入れ直し、
「すみませーん。
遅れましたー」
と、その時。
この場に
チカチカと点滅するゴーグルを額に装備し。
カラフルな差し色だらけの白衣を身に纏い。
全員の視線を独り占めにしながら、
「ごめんなさい。
ちょっと、予期せぬトラブルに巻き込まれちゃって。
でも、ご安心ください。
不肖、
只今、『トクセン』に帰還しました。
今後とも、改めて、
「ううん。
来てくれて
ごめんね? 実家から戻って、
しかも、
「とんでもないです。
私が急いで予定を済ませて来たのは、1日でも早く『トクセン』に復帰する
「いや、まぁ……そう言ってくれるのは、ありがたいんだけどさぁ……。
「その辺にしておきましょうよ、ボス。
煮え切らない一方の
普段はシオコン一直線だが、こういう時は決まって仲立ちしてくれるのが、中々にありがたかった。
「しっかし、
まさか、
「だって、時代錯誤なんですもん。
今時、強制送還かつ寿退社とか、尊厳破壊でしかないじゃないですか。
おまけに、
搦手まで使って、意地でも私を跡取りに嵌め込もうとして」
「『髪と目がオレンジ色だから、きっとお気に召す』。
あんたの
「そうなんですよ!
汚いさすが縁者きたない!」
「当たりかい。
自分のだけじゃなくて、親戚の尊厳も大切にしろよ」
「今は、どうだって
「まぁ、『今だけ』なら
で?
指し詰め、ウイッグかカラコンで偽造してたとか?」
「それだけじゃないです!
てんで似合ってないし、やっつけ感しか
具体的に言えば、カズラバ星のコウタ神ばりに似合ってなかったんですよ!」
「
「鎧◯のみならず、ウィザー◯のネタまで入れて来るぅ!
これは、ホビ・ポイント高いですね!!」
「キ◯・ポイントみたいに言うな」
「すみません、話戻しますね?
久し振り会った
おまけに、相手も相手で満更でもなくて、鼻の下伸ばしてるんですよ!!
もう、思い出すだけで腸切りたくなる……!!」
「せめて、煮えくり返らせなさいよ。
どこのリゼ◯の
あと、テンションとキャラの移り変わり激しい」
「しかも、
もう
今に、目にもの見せてやる……!!
今度は向こうから求婚させて、完膚
「ピッコ◯さんかい。
じゃあもし、仮に、
「検討の余地はありますね!」
「
「関係
オレンジは、
オレンジと特撮の前に、障害なんて
「あんたは一生、結婚しない方が
よしんば、それらしい相手と出逢えても、ゴールインは無理よ?
「あ、すみません。
お気持ちは
それに、
「そういう意味じゃないわよ。
てか、性格的にも合わないわよ。
「ごめん、そろそろ
いつまでも続きそうだったので、
忘れかけていたが、開店数分前である。
「ところで、
ずっと気になってたんだけどさ。
それ、
「あー。
ケーちゃんです」
「……んぅ?」
あっけらかんと返された予想だにしない答えに、首を傾げる
いや、確かに、髪色とかは背丈とかは同じだが。
「
で、私も私で、今までケーちゃんには袖にされてばかりだったので、悪い気もしなくって。
つまり、ギブ&テイク、Win-Winですね」
「はぁ……」
……
てか、その
「安心してください。
仕事はきちんとする
しかも、それだけじゃないんですよ。
ほら、ケーちゃん。
「……分かった」
「
ほ、本物だぁ!?」
赤ちゃんモードを止めた彼女は、一行の前に立ち。
「『トクセン』の皆さーん!!
こーんにーちはー!!」
いつもの無愛想さが吹っ飛ぶ、司会のお姉さんとなった。
司会のお姉さんならぬ、
目を閉じ、腰に手を当て得意気、満足気に胸を張る、後方母親面の
「お姉さんねー。
普段は、ちょっとアレだけどー。
大好きな
今回
手を後ろに回し、意味も
「とまぁ、こんな調子に、レジを受け持ってくれるらしいので。
大人に対しては、それなりに受け答えしてくれるらしいので。
これで、今度こそ万全ですね」
「まぁ……。
……かなぁ?」
思わぬ助っ人の登場に、
あと、
これで、『トクセン』のメンバーは揃った。
「それじゃあ、店長。
気合いの入る掛け声を1発、お願いするよ」
「うへぇ!?」
オカミさんからのまさかの提案に、
無茶振りも
かといって、特撮の知識も
「あれー?
どうしたのかなー?
君ならー、もっと大きな声、出せるよねー?」
そこに、
今度は
悩みに悩んだ結果。
「……シュワッチ」
と、ウルト◯兄弟に応援された鳥羽◯郎みたいなリアクションを取ってしまい。
「デアーッ!!」
「デュアッ!!」
「フーンッ!!」
「トゥアーッ!!」
「ヘァッ!!」
「テァーッ!!」
そっち方面に明るい、ネタに飢えている6人も、速攻で乗る。
彼女から
こうして、
やや締まらない形ではあったが。
ここから、『トクセン』のターン、ステージが始まった。
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