10:何者か、何故(なぜ)なのか

・出会う前から、何故なぜ友灯ゆいの特徴を知っていた



友灯ゆいとの共通項、一致する利害と趣味の多さ



友灯ゆいの心を見抜いたかのような、あまりにタイムリーかつ正確な、不審な言動の数々



・初対面な上に(一時は)敵対中の、友灯ゆいの両親を揶揄からかう、妙に堂に入った態度



友灯ゆいの情報を網羅しているようで、不都合ないしはコンプレックスについては把握していないこと



・世界的ソシャゲを、たった一人で安定して運営出来できていたという、常人、常識離れした実績



・基本的に反対したりしない、徹底したまでの友灯ゆい至上主義っ



「とまぁ、簡単に思い付くだけでも、かなりるわね」

  


 森円もりつぶ英翔えいしょうとは何者なのか。  

 その実態を突き止めるべく、喧騒から離れた隠れ家的なカフェで行われた秘密会議。  

 主催者である結貴ゆきは、会した一同に、思い付く限りの心当たりを掲示し、優雅にコーヒーをたしなむ。

 その隣に座る、友人代表の留依るいは、いつにもましておごそかな雰囲気で、開口する。


 

「私の職場に、森円もりつぶくんが訪れた。

 その時に対応し困らされたのが、明夢あむの旦那。

 同僚のよしみ明夢あむに彼を紹介した手前。

 私には、森円もりつぶくんの人となりを確かめる義務が発生した。

 だから先日、その名目でも、二人の家にお邪魔した。

 百聞は一見にしかず」

「その義理堅さは美徳だけど。

 くだんの彼は、今日は同席していないのね」

「『同居人の権利をミヤさんから剥奪しそうだから』、と断られました。

 同性は募集していないと分かっていても、あきらめ切れない様子で」

「あー……。

 まぁ確かに、魅力的なプランだものね。

 良心の呵責かしゃくに苦しんでいたのね。

 不運だこと……」

「おまけに絶賛、この場に強制連行を敢行せんとする明夢あむ結愛ゆめに抵抗、反抗中です。

 本人が梃子てこでも動かない、妙な頑固者なので正直、望みは薄いですが。

 それを彼も分かっているので、こうして私を先んじて派遣、駆り出しているのでしょうし」

「大変ねぇ、あなたも」

「お母様と比べたら、全然です。

 友灯ゆいから掻い摘んでは聞きましたが、かなり手こずらされたご様子ようすで」

「……思い出したくもないわ。

 出来れば彼とは、面と向かわない距離で、くれぐれも密接ではない、適切な関係を維持したいわね。

 我ながら、みっともなかったわ。

 あそこまでキャラ崩壊したのは、人生初よ。

 優生ゆうを産んで前線を退いた時だって、あそこまで同様はしなかったのに。

 本当ほんとうに、恐ろしい相手だったわ」

「氷のクイズ女王たる、あのお母様の口から、そんなワードが出るとは……。

 私が対していた時は、そこまで脅威には感じなかったですが」

「あなたが、そこまで攻めてなかったからじゃないかしら?

 この前、あなたが訪問した時は、あくまでも受け身だったらしいじゃない。

 私は、ガッチガチに攻めた結果、しっぺ返しを食らい、間抜けを晒してしまったわ」

「私も、驚きました。

 よもや、お母様の尋問を掻い潜るほど猛者もさだったとは」

さっきから、私に対するイメージがちょいちょいおかしいのは、保留するとして。

 そろそろ、当事者の意見も拝聴したいわ。

 友灯ゆい。あなたは、彼をどう思っているの?

 なにやら、時計ばかりチラチラ見ているけど、他に来客でもるの?」

「え?

 あー、まぁ……」

「遅れて、すみません。

 質問責めするケーちゃんを振り切るのに、手間取っちゃいました」



 二人の話に半分くらい、意識を傾けていた友灯ゆい

 彼女が苦笑いしていると、不意に新たなる重要参考人が現れた。

 友灯ゆいの同僚かつ信者、そして数日前からは留依るいの親友にもなった、保美ほび 彩葉いろはである。

  


 余談だが、LEDが目まぐるしく点滅するゴーグルと、カラフルな白衣を纏っていない彼女の私服に、友灯ゆいはまだ慣れていない。

 更に余談だが、蛍光色好きの彼女がイロイロせぬよう、今日はモダンなスポットを選んだ。



随分ずいぶん可愛かわいらしい方ね。

 して、友灯ゆい。このご来賓は、どちらさまかしら?」

「『トクセン』が誇るリペ担当、保美ほび 彩葉いろはさん。

 この件に関わっていそうだから、顛末を軽く説明した上で、来てもらったの。

 あと留依るいとは、この前、すでに打ち解けてるんだ」

「初めまして、お母様。

 ご紹介に預かりました、保美ほび 彩葉いろはと申します。

 司令……友灯ゆいさんには、いつもお世話になっております。

 お会い出来できて、恐悦至極です。

 素的な友灯ゆいさんの、さぞかし素的だろうお母様に一度、お目見えしたいと常々、思っていました。

 といっても、こんな形で実現するとは、流石さすがに計算外でしたけど。

 なにはともあれ今日、そして今後とも、何卒、よろしくお願い致します」



 礼儀正しさの中に、そこはかとなくアレな下心が見え隠れした、やや重めの長文。


 

 程度や理由はさておき、彼女もまた一筋縄では行かない、只者ではないことを、結貴ゆきは瞬時に察した。



「自己紹介、お褒めの言葉、ありがとうございます。

 内の娘と随分ずいぶんねんごろなのね」

「そこについては、長くなるので割愛させて頂きます」

「話が早くて助かるわ。

 お見受けした通り、ご聡明であらせられるわね。

 こちらこそ、よろしく、保美ほびさん。

 それで、友灯ゆい

 どうして、保美ほびさんをお招きしたの?」

「前述の通り。

 あたしの見立てでは保美ほびちゃんも、エイトの関係者だったから」



 結貴ゆきに疑惑を突き付けられてから、早2日。

 休日を控えた今日まで、友灯ゆいは気が気ではなかった。



 無論むろん、仕事に差し支えないようには努めていたもりだ。

 曲がりなりにも店長を仰せ付かった以上、それに応える責任が生じる。  

 だが休憩中、みんなほとんどコンタクトが取れていない。

 その食べっりに最初こそ戸惑わせてしまったが、それも含めて折角せっかく、改善されつつあったというのに、逆戻りしてしまった。  

 おまけに家でも、英翔えいしょう真面まともにコミュニケーションを取れないでいる始末。  

 これは、不本意である。



 勿論もちろん結貴ゆきを責めたいのではない。

 といっても、思う所の一つや二つ、いでもないが。

 


 確かに『トクセン』の経営は現在、破綻しかけている。

 そんな時に、悩みの種を増やされ、不愉快ではある。

 が、それは全て、自分の不届きさによる物。

 その点を結貴ゆきに指摘されて日も浅いので殊更、それを痛感してしまう。


  

 これ以上、プライベートでまで追い詰められたくない。

 この件については今日、この場で折り合いをつけなくては。

 そんな意志の下、仕事終わりのクタクタの身で、ここに来ているのだ。



 そもそも、コンディションなど逃げ口上にすら劣る。

 彩葉いろは留依るいとて仕事上がりだし、絵に描いた真人間である母は、この時間に起きているのは年齢的にも過酷。

 3人とも、それを重々承知の上で、無理とスケジュールを押して、参加してくれたのだ。

 それを無下むげになど、出来できようものか。


 

友灯ゆい

 あなたは今、『彩葉いろは森円もりつぶくんの関係者』だと言った。

 それは、どういう意味?」

「正確には、『関係者の関係者』。

 エイトに直通してそうな人物の代理として、保美ほびちゃんには来てもらったの」

「つまり、見先みさきくんの名代として馳せ参じた私と同様、ということ

 では、その直通者を呼べなかったのは、何故なぜ?」

「……性格と相性に、難しかいから。

 天邪鬼あまのじゃくだし気分屋だし、度を越したマイ・ペース。

 一月前に予約しないと、頑として予定を空けてくれないタイプ。

 自分は慇懃無礼なのに、相手には礼儀を強いる重んずる、ヴォルデモー◯みたいな理不尽さ。

 尖った正論ばっか言うし、不機嫌な時は摩訶不思議な方程式まで多用するし。

 どのグループにもそうな、憎まれ役を買って出る反面教師。

 極めつけにあたし、出会った当初から一方的に目の敵にされてる」

「……毎度毎度、うちのケーちゃんが、ごめんなさい。

 同居人、同じ『プレパン』出身として、恥ずかしいです」

いの。

 どこにだって、相反する人種は存在し得る。

 不倶戴天の敵なんだから、もううどうしようもない。

 さいわい、仕事に関しては、最低限の線引きとアポさえ維持していれば、そこまで苦ではないし」



 友灯ゆいの苦労を推し量り、言葉を失う結貴ゆき留依るい

 こうして、この件については、暗黙の了解でノー・タッチとなった。


 

「前置きは、これくらいにして。

 そろそろ、本題に入るね。

 で、『トクセン』で断トツで耐性付いてそうな事情通、なおかつ先に今回の事情も確認済みな保美ほびちゃんはさておき。

 二人には、かなりっ飛んだ内容だと思うんだけど。

 ちょっと、聞いてしい」



 おちゃらけた印象の強い友灯ゆいが、シリアスな雰囲気を醸す。

 結貴ゆき留依るいも、気を引き締めた。

 


 束の間、訪れる静寂。

 それを破り、友灯ゆいが話した結論は。



「ここだけの話さ。

 ーーロボットだと思うんだよね。

 エイトの正体」

「「…………」」



 前言通り、大層にっ飛んていた。


 

 先程よりと長い、重苦しい沈黙に包まれるテーブル。

 二人は勿論もちろんこと、母と親友を唖然とさせた罪悪感により、友灯ゆいも無言になってしまう。

 そんな中、彩葉いろはが気丈に、明るく振る舞う。

  


うちのケーちゃんは、天才発明家なんです。

 彼女の頭脳はベガパン◯並み、何百年も未来を行っているんです。

 お二人は、MCU版のアイアンマ◯を観たことりますか?

 丁度、あんな感じの人材なんです。

 それはもう、『危ない密輸組織に誘拐されそう』とか、『彼女を引き金に世界規模で争いが起こりそう』とか、そんなレベルなんです。

 今昔の同居人、同僚の贔屓目をしに、そうなんです。

 あまりに傲岸不遜で有能ぎる、コスパとニーズ、周囲の意見を度外視しぎた結果、『トクセン』に左遷された経歴の持ち主なんです。

 そんなケーちゃんなら、人間と遜色そんしょくないスペックを誇るロボットなんて、朝飯前なんです。

 惜しむらくは、その才能の矛先、周回してもドロップしなさそうな素材、そして当人の攻略難易度、生活力のさなんですが……。

 もう少し、人当たりさえ良くなれば今頃、エジソ◯さえ上回る歴史的な開発者になっていたでしょうに」



 あ、駄目ダメだ。

 話せば話すほど、フォローすればするほど、ドツボに嵌まって行く。

 二人から、どんどん集中力が抜けていくのを感じる。

 すでに、口から魂が出ているような状態だ。



 やはり、もう少し順を追って説明すべきだったのではないか?

 散りばめた伏線で仄めかした上で、種明かしをすべきだったのでは?

 少なくとも今回は、プレップ法の限りではなかったのでは?



 などと友灯ゆいが早まった自分を責めていると、不意に前方から、母の咳払いが聞こえた。

 若干ながらも意識と冷静さを取り戻したらしい。



「ま、まぁ……。

 なんとなく、理解しました。

 突拍子、現実味が無さぎて、にわかには信じがたいですが」

「わ、私も……。

 確かに、『トクセン』に並べられていた発明品は、現代の知識を逸脱し過ぎていましたし……。

 コンセプトと用途は謎でしたが……」

「そんなに、不思議なの?」

「お母様、先日、森円もりつぶくんにIDを渡されていませんでしたか?」

「え、ええ。

 いきなり届いていたから、驚いたわ」

「あれも、その人物の発明です。

 彩葉いろはを介して、彼女の作ったアイテムを、森円もりつぶくんが手にしたみたいなんです。

 それにより、彼のIDがお母様に送られていたんです」

「……なるほど。

 確かに、微妙だけど恐ろしい使い道ね。

 なんとなく、掴めて来ました。

 そうですか……。

 これは、中々……」

「ええ……。

 物凄い展開になりましたね……」



 それだけ話すのがやっと、という状態の二人。

 どうやら、これ以上は本気で不味いらしい。

 


 さいわい、軽いドリンク以外、他のオーダーもい。

 ここらで、お開きにした方が良さそうだ。



「いきなり、変な話をして、ごめん。

 今日は、これくらいにしとこっか」

「どうにか予定を取り付けてもらえるよう、私からも改めて、ケーちゃんに頼んでみます。

 なるべく、こんがらがらない、穏便にとも。

 私さえれば、ケーちゃんも、そこまで苛烈にはならないので」

「……あれで?」

「まだマイルドな方ですよ。

 私が仲良くなる以前は、目も当てられなかったので」

「仲良しって、なんだっけ……?」

「ほら?

 私だけ、フル・ネームじゃなくて、名字呼びですし」

「分かりづらっ」

「ですよねぇ。

 でも、その真偽はさておき、本当ほんとうに、多少なりとも変わったんですよ。

 もっとも、比較対象からして間違ってるって言われたら、そこまでですけど」

「てかそれ要は、保美ほびちゃんをスケープ・ゴートに利用しろってことだよね?」

「どーんと任せてください。

 これでも、メンタルは強い方だと自負しているので」

「根本的な解決には至っていない、気が進まない、って話なんだけどなぁ」

「話が進まないよりかはマシじゃないですか」

「上手いこと言って、逸らさないでくれる?」



 新たな議題が上がってこそいるものの。

 こうして友灯ゆい彩葉いろはのコントで、第一回秘密会議は締められ。

 軽食を済ませるという名目の下、友灯ゆい彩葉いろはは残る旨を伝え。

 精神的ダメージの色濃い結貴ゆき留依るいを、二人が笑顔で見送り。



「とまぁ、前哨戦は、これくらいにしてだ。

 さて、



 兜の緒を締め直し、友灯ゆいが詰め寄る。



「そろそろ、洗い浚い、暴露してもらおうか」


「……やっぱり、そういう感じだったんだね。

 大方おおかた、そんな所だと思った。

 そうでもなきゃ、私まで呼ぶ理由が い。

 時間はかかるかもだけど、お二人に説明するだけなら、友灯ゆいだけでも事足りたはず

 留依るいも『トクセン』でケーちゃんの発明に触れているから、尚のこと

 つまり、英翔えいしょうくんについての会議は、大義名分染みた建前。

 本題の一つではあるものの、本番ではない。

 てことで、合ってる?」

本当ほんとうに、話が早いね、彩葉いろはは」

「今日はホビホビともイロイロとも無縁。

 それに、ユイユイしてる場合でも無さそうだし。

 それで? 今度の議題は、なに?」



 本当ほんとうに頼もしい。

 恐ろしいほどの、察しの良さ。

 敵にだけは回したくないと、友灯ゆいは心から思った。



 もっとも、これからのやり取り次第では、そのルートにも分岐し得るのだが。



 冷静になれ。

 一つ一つ、確実に、ことを成して行け、三八城みやしろ 友灯ゆい

 そう自分に言い聞かせ、友灯ゆいは覚悟を決める。



「聞きたいことは、いくつかる。

 でも、その前に、腹を割ってくれない?

 じゃないと、こっちもやりづらい」



 上述の通り、彩葉いろはは察しがい。



 だからこそ、きっと見抜いていたのだろう。

 どう取り繕えば、よりスムーズに周りに取り入れられるかを。

 以前の、飲み会の時の自分語りさえ、自分がほだされるのを見越し、期待した上での誘発。



 彼女の本性は、当時のクラスメートたちの評価同様、多少なりともじゃない猫被りなのだ。

 カメレオンみたいに自分を変幻自在、変えて行かなきゃ生き残れない。

 直隠しにした本性は見破られぬよう、あの手この手で、オーバー気味にオープンに振る舞っていないと、心許こころもとない。

 そうかたくなに決め込んでいる、捻くれた人種なのである。

 もっとも、彼女の場合、まだ善人寄りらしいが。


 

 何故なぜ友灯ゆいが見抜けたか。  

 その理由は、実にシンプル。

 コッテコテの淑女など今時、白馬の王子様並みの絶滅危惧種であり人間国宝。

 早い話、男の脳内か創作の中にしか生存していないからである。

 そもそも、先程の結貴ゆきに対する言動もそうだが。

 彼女もその実、演技が下手ヘタなのだ。



「……ホンット。

 変な人だね、友灯ゆいって」


  

 それまでの柔和な物腰を一変させ、声のトーンも下げ、やや億劫そうに頬杖をつき、底の知れなさを出し。

 そんな風に、分かりやすく態度を変えながら、彩葉いろははシニカルに自白する。


 

「そこ、少しでも突く必要った?

 今、この場に置いても。

 メリットくない?

 大人おとなしく、見て見ぬ振りしてればいのに。

 今まで通り、暴走気味なのが玉にきずな、可愛かわいい妹、良識人、フクロウ扱いしてればいものを。

 どうして態々わざわざ、自分から率先して損をしに行くわけ?」

「したくてしてるわけじゃない。

 気になったことはストレートに言わなきゃ気が済まないたちなんだよ。

 この数日で余計、それを思い知らされた。

 気付いた以上、仕方ないだろ。

 どうしても、気になっちまうんだから」

本当ホント……そそっかしいなぁ。

 今のとか、特に。  

 どうせ、私が拒まない、否定しないのを踏まえての発言したんだろうけど。

 随分ずいぶん、思い切った、大見得切ったね。

 ケーちゃんのみならず、もし私にまで切られたら、嫌われたら、どうするもりだったの?」

「説き伏せる」

馬鹿バカ?」

「今更?」

「まさか。

 第一印象から、絶えずそうだったよ。

 こんなんで、よく一年近く持ったよね」

「ペシミストとニヒリストが同居人かつ同僚としてやってけてるっていう、純然と横たわってる事実のが謎じゃない?」

「さぁ?

 似た者同士ってやつじゃない?

 知らないけど。

 てか、エゴイストに言われたくないし、今は友灯ゆいの話でしょ。

 まったく……ヒヤヒヤするったらありゃしない。

 ま……だからこそ、っとけないし、惹かれたんだろうけどさ。

 私と大差い見栄っ張りのくせに、ドン引かれる部分さえひけらかせる、その胆力に。

 我ながらチョロ甘ぎて、悔しいし、ムカつくけど。

 あと、オレンジ色の目」

「そこら辺も、素なんだ……。

 本当ほんとうに、強化してただけなんだ……」



 ツンデレかつ小生意気に外方そっぽを向く彩葉いろは

 何故なぜだろう。

 友灯ゆいは今、一番いちばん、彼女と親しくなれているように思えてならなかった。


 

「……何、笑ってるんだか。

 どんっだけ勿体ないことしたか分かってるのかねぇ、本当ホントに。

 この、変人エゴイスト」



 前のめりになり、意地悪な顔で、友灯ゆいの鼻をつま彩葉いろは



 それは丁度、世間を騒がす赤い快盗を彷彿とさせる仕草だった。

 といっても相変わらず、友灯ゆいには少しもピンと来ないし、彩葉いろはもそれを理解している。  



 つまり、これは単なる自己満足でしかない。

 けど、それで彩葉いろはは満足だった。

  


 元ネタも、メタ・メッセージも、読み取れなくてい。

 ただの気まぐれ、ご褒美、ファンサみたいな物なのだから。

 ほんの一遍だけでも、届けばい。

 それこそ今みたいに、親指と人差し指分でも、なにかが伝われば。



 ここに来てようやく、自分が真に心を開き始めた。

 それだけでも、通じればい。

 

 

「で?」

 友灯ゆいを解放したあと彩葉いろはは再び彼女を見た。

「他の質問って、なに?」



 心待ちにしているのは、自分の返答か、反応か。

 いずれにしても、物憂げと楽しさが同居してるような、そんな表情を示す彩葉いろは



 どう考えても、普通じゃない。

 こんな時に、不謹慎だ。

 他の人間は、そう捉えるに違いない。

 先程の二人とて、きっと同様だ。



 けど、自分は少し違う。

 自分は、きちんと先読みしている。

 彩葉いろはが他人事みたいにしているのは、どうでもいからじゃない。

 事情を、多かれ少なかれ把握しているからだと。



 だって、そうではないか。

 岸開きしかい 珠蛍みほと一番いちばんの理解者は、他でもない。

 目の前にいる、保美ほび 彩葉いろはを置いて、誰もない。

 そして、あれだけの要素を兼ね備えた英翔えいしょうを用意出来できる逸材なんて、自分の身の回りには一人しかない。



 やはり、自分の思った通り。

 この件に、珠蛍みほとたずさわっている。

 程度、経緯までは知らないが、確実につながっている。



 詰まる所、これは質疑応答と見せ掛けたテスト。 

 友灯ゆいは今、彩葉いろはに試されているのだ。

 


「……岸開きしかいちゃんは、何者?

 どうしてあたしに、エイトを送り込んだの?

 あなたは、あなたたちは、どこまで関わってて、どこまで知ってて、なにが目的なの?」

「『遠慮』って知ってる?」



 話が長い、と遠回しにディスったあと、窓の方を眺めつつ、彩葉いろはは語る。



なにもかも、知り尽くしてる。

 なんて、うそぶもりはい。

 別に、ケーちゃんのことならなんでもお見通し、なんて自惚うぬぼれてないし。

 そこまで断じて、ただの大ホラ吹きでしたーとか、そんなオチは勘弁。

 ついでに言うと今、そこら辺を明かしちゃうと、何かと不都合なんだよね」

「要は、『まだ言えない』ってこと

 そっちのが余程よほど、遠回しじゃんか。

 じゃあ、なん態々わざわざ、来たんだよ」

友灯ゆいの慌てふためくご尊顔を拝みに。

 ってのは何割かは嘘だけど」

「割合、言えや」

だよ。

 折角せっかくの楽しみが薄れる。

 精々せいぜい、やきもきしてなよ」

い性格してんなぁ」

「ありがと。

 で、目的だっけ?

 強いて言えば、釘刺しに、かな?」



 再度、顔を正面に戻し。

 それまでの愉快犯めいた顔付きを止め、彩葉いろはは忠告する。



友灯ゆい

 なんく、もう見抜いてるだろうけど。

 友灯ゆいが思ってる以上に、根は深いし、闇も深い。

 ついでに大本は、かなり不快。

 多分、この店での会話も、遅かれ早かれ、みんなの記憶から消されると思う。

 友灯ゆいだけは免れる、逃れられるけど」

「……」



 薄々、予感はしていた。

 詳しいことはまるで不明だが、なにやらただならぬ思惑がうごめいていると。



 自分達の背後に、恐ろしい影が潜んでいる。

 彩葉いろはの言った、『記憶を消される』というのも、誇張などではないのだろう。

 それだけの脅威を自分は今、あるいは近い内に、相手取らなくてはならないのだ。



 だとすれば。

 これ以上はなにも察知出来できない、にっちもさっちもいかない自分に出来できるのは。



「……当面は、当初の予定通り、売上達成にだけ専念すれば

 そうだよね?」



 彩葉いろはは、無言でうなずいた。

 そこには、強い信念、信頼が見て取れた。



「今の私に出来できるのは、ここまで。

 これ以上、下手ヘタを打ったら、記憶どころか、存在すら残らないかもしれない。

 それは、流石さすがに御免被りたい。

 友灯ゆい狼狽うろたえる表情、まだまだ見足りないし」



 ヘビーな空気を、意図的に緩和する彩葉いろは

 そのさまは、自分と似ていた。

 大きく異なっていたのは、友灯ゆいは天然で、向こうは打算ありきという点のみだった。



「一言、余計だっての」

「嫌いじゃないくせに」

うっさい」

「どっちが」

「ぐぇ〜」



 互いに鼻や頬、耳や顎を引っ張り、軽く首を絞めたり、苦しんだ振りをしたりと、たわむれる二人。



 やがて飽き、どちらからともなく離れ、ひとしきり笑ったあと

 しんみりと、彩葉いろはは告げた。



「……負けないでね、友灯ゆい

 分からなくてもい。

 分からなくなってもい。

 みんなや、我を忘れても。

 迷っても、血迷っても。

 泣いても、泣き叫んでもい。

 それでも、決して負けないで。

 めげないで、曲げないで。

 果てずに、バテずに。

 最後まで、自分を貫き通して。

 そうすればきっと、未来を勝ち取れるから。

 神様なんて、私は信じてないし、大嫌いだけど。

 友灯ゆいなら、なれるよ。

 みんなを導く、勝利の女神に。

 少なくとも、私は。そう、信じてる。

 今も昔も、この先も、ずっと。

 こんな、絢辻さ◯の二番煎じみたいなのに好かれても、なんだって話だけど」



 ……ほら。

 やっぱり、睨んだ通り。

 


 絶対ぜったいに、二番煎じなんかじゃない。 

 ちょっと極彩色カラフル、小生意気になっただけ。



 いつだって、今だって、変わらない。

 保美ほび 彩葉いろはは、可愛かわいい妹だ。


 

 友灯ゆいは、なにも語らなかった。

 ただ、見惚みとれていた。

 消え入りそうな、儚い、されど力強い、眩しい笑顔に。





 カーテンから忍び込んだ朝日に照らされ、友灯ゆいは起床した。



 今までにくらいに、頭が冴え渡っていた。

 昨日、仕事帰りに見付けたい喫茶店で、リフレッシュ出来たからかもしれない。

 行き付けになってしまいそうな、シックで素晴らしい場所だった。

 昨日はソロだったが今度は、みんなで行くとしよう。

 手始めに、エイトと二人だけで足を運ぶのも乙かもしれない。



「ん?」

   


 スマホを確認すると、2件の通知が入っていた。



 1つ目は、『アカユヒ』の仲間からの、当日デートの誘い。

 友灯ゆいは、二つ返事でオッケーを出した。

 


 2つ目は、父からのメールだった。

 どうやら、自分を案じてくれているらしい。

 幼い時分から片親だったため、気持ちは分かるが、そろそろ子離れしてしいものだ。



 えず、朝食にするとしよう。

 大方おおかたいつも通り、タイミングを見計らって、エイトが出来たてを用意してくれていることだろうし。



 などと考えて伸びをしていると、不意に着信が入る。

 電話の相手は、驚くことに、岸開きしかい 珠蛍みほと

 片思いならぬ片嫌いの相手だった。



「も、もしもし!?」



 まさかの展開に動揺しつつ、えず出る友灯ゆい

 電話の向こうの珠蛍みほとは数秒、無言を続けたあと、重たそうに口を開いた。



「……おはよう、三八城みやしろ 友灯ゆい

 今、少し、時間をマイナスしても構わないか?」

「え、は、はい、勿論もちろんです、寧ろ光栄ですっ!!

 あ、す、すみません!!

 おはようございますっ!!

 挨拶を忘れていましたっ!!」

「構わない。

 それより少々、不躾、込み入った確認をしたい。

 冷静に、落ち着いて、いくつかの質問に、答えをプラスしてしい。

 頼めるか?」

「え!?

 あ……はい」


 

 なにやら普段と異なる空気に当てられ、しおらしくなる友灯ゆい

 心なしか、珠蛍みほとの声が、くぐもっているような気がした。

 まるで、声の調子が悪いような……。



 ほんの数秒前までどころか、現在進行系で、泣いているような……。



ず、1つ目。

 ……母は、存命か?」

「え?

 あたしの母親なら、もうないけど?」

「……それは、いつからだ?」

「えっと……」



 記憶を反芻するも、辿り着けなかった。

 しかも、ロックがかかってるとか、そういうんじゃない。

 まるで、最初から存在していなかったかのようち、綺麗さっぱり無くなっていた。

 それどころか、思い出そうとすると、スッキリしていたはずの頭に激痛が走った。

 拒否反応を示しているような、なにかをしきりに訴えているような。

 


 何故なぜだろう。

 記憶力には、そこそこ自信がったのに。

 自分の、親のことなのに。

 間違いく、大事なことはずなのに。

 顔や職業どころか、名前すら覚束おぼつかないなんて。

 


 まさか、母親がないなどと?

 だとすれば、そもそも自分さえ存在しないではないか。



「……ごめん……。

 ……覚えて、ない……。

 ……なんで、思い出せないんだろ……」

「……いや。

 こちらこそ、失礼した。

 質問を変えよう。

 次からは、深く考えずに、条件反射的に、早押しクイズ感覚で答えてくれ。

 ……三八城みやしろ 友灯ゆいが所属してる、幼馴染グループの名前は?」

「『アカユヒ』」

「……それは、正式名称か?」

「ううん。

 本名は、『空前絶後の疾風迅雷のマジ最強な永久不滅のアカユヒ帝国』。

 でもこれは、若気の至りってか、初期も初期の物だし、我ながら恥ずかしいなぁ、などと。

 てか、ごめん。

 さっきから、なに

 別に怒ってるとかじゃなくて、シンプルに疑問なんだけどさ」

なんでもない。

 それより、最後の質問だ。

 現在の……『トクセン』の構成員の人数は、『9人』である。

 ◯か、✕か?」

「え?」



 岸開きしかいさん。

 リオ様。

 紫音しおんくん。

 オカミさん。  

 ワカミさんこと若庭わかば。  

 詩夏しいなちゃん。

 拓飛たくとくん。

 あと、自分。

 


 以上で、フル・メンバーだから。



「違うよ。

 正解は、『9人』じゃなくて、『8人』だよ。

 めずらしいね。

 まさか、『電卓の岸開きしかい』ともあろう人が間違えるなんて。

 岸開きしかいさん、数字関連はノーミスだったのに。

 も、もしかしてあたし、外されてた?

 あたしを、きらってるから?

 あるいは、店長だから、スタッフとは言い辛いから、除外した?

 さもなくば……まさか、婉曲な退職願!?

 そ、それだけは、どうか平にご勘弁をぉっ!!」

「理由はともかく生憎あいにく、その予定はい」

「いや、るじゃん!?

 辞めたがってはいるんじゃん!?」

「誰でも、どこの職場でも、そんな物だろう。

 働く必要がくなれば皆、進んで仕事なんぞするか。

 それより、相違いか?

 本当ほんとうに、少しも、間違ってなどいないか?

 誰か、忘れてはおるまいか?

 例えば、リペ……リペアやリペイント担当。

 セブンガ◯みたいなゴーグルと、ゼンカイザ◯みたいな白衣がトレード・マークの。

 ホビーやオレンジ、三八城みやしろ 友灯ゆいを見るだけでヒスる。

 三八城みやしろ 友灯ゆいにご執心な、中途半端に仮面優等生な、サークラの姫みたいな妹分は、なかったか?」

だなぁ。

 そしたら、ノーカンなわけいじゃん。

 そんな可愛かわいい困ったちゃん、忘れたくても、忘れられないよ。

 いくなんでも、属性盛りぎ、カラフルぎ。

 フィクションだったら確実に扱いに困るパターンじゃん。

 おまけにあたし、ずっと妹に憧れてたから、一層、一生、大事にしたくなるって」



 あれ?

 だよね?

 あたし、間違ったこと、言ってないよね?

 ちゃんと、合ってるよね?



 てか、さっきから本当ほんとうに、なんだというのだろう。

 さながら、自分が家族を、友人を、同僚を忘れているとでも言いたじゃないか。

 そんなはずいのに。

 去年は色々とったけど、今年こそは、みんなと仲良く楽しくと、決心したのに。



「あ……あれ……?」



 いつしか友灯ゆいの両目から、涙が零れていた。

 


 意味が分からない。

 記憶を疑う前に、記憶に疑われてるとでも?

 なんで、こんな、君の名◯みたいなことに……?



「……前言をマイナスする。

 今度こそ、最後の質問だ。

 ……『保美ほび彩葉いろは』。

 この名前に、聞き覚えは?」

「ほび……。

 いろ、は……?」



 まるで、ホビー関連の仕事に就くために生を受けたかのような名前。

 つなげると『ホビイ』になるのも、面白い。

 ひょっとして先程の、妙にビビッドな人物のことだろうか?



「あ、分かった!

 その子、もしかしなくても、『プレパン』時代の岸開きしかいさんの同僚でしょ!?

 その子を、『トクセン』にスカウトしたいって話!?

 いよ、いよ、もち大賛成!!

 ぐ紹介して、ぐ引き入れよう!!」



 湿っぽい雰囲気を打破せんと明るく振る舞うも、珠蛍みほとは相変わらず、ノリが悪かった。



「……残念だが、それは無理だ。

 岸開きしかいの相棒は……保美ほびはもう、この世に存在しない」



「え……」



 まさかの一言に、友灯ゆいは絶句した。



 いや、違う。

 予想外に驚いていること自体に、驚いている。



 何故なぜ

 珠蛍みほとに同調、同情した?

 あるいは、感情移入してしまったとか?



 ……ううん。

 そうじゃない。

 多分、これは、そういう類いではない。

 誰かの影響などでは、断じてない。



 このショック、切なさは、紛れもなく自分産。

 三八城みやしろ 友灯ゆいから、生まれた感情だ。



 だのに。

 自分には、その全貌が、微塵も捉えられない。

 まるで、記憶喪失にでもなったようや心持ちだ。



 だとしても。

 今、自分が言うべきなのは。



「……ごめん。

 辛いこと、思い出させた」

「……三八城みやしろ 友灯ゆい所為せいではない。

 すべては、岸開きしかいの不徳、不足の致す所。

 岸開きしかいがもっとプラスに働いていれば、あるいは、保美ほびを……!!

 ……彩葉いろはを奪われずに、済んだのにぃっ!!」



 ドンッと、テーブルに強く打ち付ける音。

 続いて、複数の落下音と、小さな爆発、破裂、発火音。

 


 未曾有だった。

 あの、珠蛍みほとが。

 影でサイボーグと呼ばれていた、鉄仮面が。

 発明室に無許可で長居された時くらいしか怒らない、あの珠蛍みほとが。

 いつもみたいに不満、摩訶不思議な方程式さえ並び立てずに。

 ここまで、激情を表に、形に出すなんて。



「……岸開きしかい、さん?」

「……三八城みやしろ 友灯ゆい

 心して、聞け」



 得体の知れない理不尽に静かな怒りを燃やしながら、命を擦り減らしてでもいそうな、鬼気迫る声で。

 珠蛍みほとは、危機を知らせる。



森円もりつぶ 英翔えいしょう

 一緒に暮らす分には、問題ない。

 だが金輪際こんりんざい、奴について詮索するな」

「……エイトを?

 なんで?」

なんでもだ。

 いか?

 これは、フリでも命令でも、ましてや忠告でもない。

 岸開きしかいからの、一生、後生の懇願だ。

 もし、森円もりつぶ 英翔えいしょう絡みで少しでも気掛かりがれば。

 かならず、迷わず、いの一番いちばん岸開きしかいに相談しろ。

 不審な点、不信感など、持たないに越したこといがな。

 如何いかんせん、ことことだ。

 その件に関してなら、いくらでも、いつでも相談に乗る。

 岸開きしかいの時間など、喜んで差し出そう。

 元より岸開きしかいの命など、すでに相棒に余さずくれている。

 彩葉いろはの無念を、少しでもマイナス出来できるというのなら。

 岸開きしかいすべてを、望んで、謹んで捧げ、委ねてみせよう」

「な、なんで、岸開きしかいさんに?」

三八城みやしろ 友灯ゆい

 森円もりつぶ 英翔えいしょう

 そして、岸開きしかい

 この3人だけが治外法権、この世界で無傷であることを許されている特異点だからだ。

 頼むぞ?

 絶対ぜったいに、他者には持ち掛けるな?

 これ以上、いたずらに犠牲者を増やしたくないのなら」

「なに……それ……」

「聞いての通りだ。

 いや……ともすれば、聞きしに勝る、かもしれんな。

 かく、そういうことで頼む。

 岸開きしかいとて、奴の思惑通りに進むのは、不本意なのでな。

 ……すまない。少々、しゃべぎた。

 あるいは今頃、また誰かが、見せしめに消されているかもしれん。

 それについては、この場で謝罪、生きてさえいれば後に陳謝する。

 だが、安心しろ。

 三八城みやしろ 友灯ゆいには、岸開きしかいが付いている。

 今まで燻っていたが、どうやら、どうにも本腰を入れねばならんらしい。

 ……あるいは、それもやつの狙いか。

 本当ほんとうに……どこまでもいけ好かない、腐れ外道だ。

 一体、岸開きしかいからいくつ、宝物を奪えば気が済むと言うんだ」

「ま、待ってよ!

 さっきから、なんの話!?

 こっちは、さっぱりだよ!?

 ちゃんと、説明してよ、岸開きしかいさん!!」



 友灯ゆいの言葉を無視し、切られる通話。


 

 依然として事情、状況は測り兼ねるが、えず友灯ゆいは、珠蛍みほとに従うことにした。



「……ユー、さん?」



 ビクッと、肩を揺らす。

 気付けば英翔えいしょうが、ドアの向こうから声を掛けていた。

 どうやら、彼からの連絡を素通りしていたらしい。



「ご、ごめんっ!

 今、行くっ!!」



 大丈夫。

 なんでもい。

 いつも通り振る舞えば、怪しまれたりなんてしない。



 そう。

 さいわい、今日はオフ。

 エイトや同僚との予定もい。

 複雑だけど、一緒に気軽に遊びに行けるような両親とてないし、友達との約束もい。

 今日は、ゆっくり休みつつ情報を纏め、明日からの戦いに備えよう。

 そう決意し、友灯ゆいはドアを開けた。



 家族、親友、そして同僚。

 たった2日で、掛け替えのない身内を6人も失い。

 残った面々との記憶の操作、捏造までされていることに、気付けないまま。



 日常に紛れ込んだ、何気ない、そしてさりげない悪魔によって、平穏ならとっくに崩れ去っている。

 そんな現状を、見落としたまま。

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