9:氷のクイズ女王
今までのは、単なる余興、前座であり、前哨戦。
これより相手するは、我が家の実験を独り占めしている
フィクションでは、にこやかなタイプが実は断トツで怖かったりするが、
怒らせたくないのは、実は
実際、
そんな、裏ボスが
その証拠として、
これは、
これから臨むのは言うなれば、こんにゃ◯の羽山◯己ルートのワン・シーンみたいな物なのだから。
「繰り返す
どうして、
どうして、
多忙を極める身であるのは存じてますし、私のお小言を嫌い
だとしても、メールや電話の一通
「えと……」
確かに、その通りだ。
そんな彼女が、同居人や引っ越しについての説明を怠り、結果的に両親に心配を掛けたのは、紛れも
しかも、
これを黙っていた、隠していたとなれば、どれだけ善良な人間でも、
といっても、
……冷静に考えると、中々にデタラメだな、自分。
などと思い、言葉に詰まる
助け舟を出そう、
先程までのコメディチックな流れは一転。
状況は、すっかり
そんなムードを作りながらも痺れを切らした
続いてテレビを点け、
「では、次のニュースです。
本日、結婚詐欺の疑いで、男性が逮捕されました。
逮捕されたのは、
調べによりますと被告は、同時に複数の女性を
被告は、依然として容疑を否認している
また、怪物を模した緑色の何かと、白い服を着た女性が犯人を追い詰めたという情報が入っておりますが、詳しい
続報をお待ち下さい」
「……あ」
「あー……」
ここに来て、二人は理解した。
一体、
「少々、見て
母の目は
これは、どう見ても
この、怪物と女性というのは、あなた
「はい……」
「相違
「つまり、あなた
にも
少し考えれば、分かる
候補として彼を紹介した私にとっても、責任問題だというのに。
万が一にも私が昨晩、ニュースを観ておらず、この事実を知らなかったら、どうするお
まさか一生、騙し通すお積もりだったとでも?
ともすれば私は、間接的に、自分の産んだ娘を手に掛けてしまっていたかもしれないんですよ?
その償いをさせず、
あんまりじゃあ、ありませんか?」
徹頭徹尾、正論である。
自分達、取り分け
だというのに、それを放棄していた。
これを怠慢と呼ばずに、
この体たらくでは、
「……すみません。
少し、話し
では、今度こそ本題です」
立ち上がり、ブリザードでも呼び起こしそうな冷たい瞳で、
その圧迫感は、ただ事ではなかった。
「
すみませんが、
あなた
世界は、あなた方だけで回っている
あなた方は、二人だけで生きているのでは、断じてありません。
どうやらお二人は、スマホの画面に付いた
もっと、周囲に注意し、敬意を払い、配慮すべきです。
臨機応変といえば聞こえは
先程は、
私は
その性格上、
二人が出会ったタイミング的に仕方無いとはいえ。
それに、ご近所さん伝いに耳にしましたが、
もしあの場に、
「……
「……あ」
知らない名前に、ポカンとする
これを見逃す
「……それみた
だから常々、言ってるんですよ、
もっと周囲を見ろ、頼れ、話せ、関心を持てと。
あなたは、
今日の反応を見る限り、
それはあくまでも、現状を楽しみ、安住してるだけなのではありませんか?」
「そ、そんな
「『彼の
そう、豪語するのですか?
では、答えてみなさい。
彼の誕生日は?
彼の出身は?
彼の血液型は?
彼の星座は?
彼の十二支は?
他にも、履歴書に乗せられそうな彼のプロフィール、エピソード、アピール・ポイントなどを一つでも言って見事、的中させてみなさい。
さすれば私も、諸々の発言を即座に撤回致しましょう」
「そ、それは……」
繰り出される、質問攻め。
これが、『氷のクイズ女王』の異名を冠した
自分達が話している内容は、あくまでも趣味趣向の
現に
楽しい、明るい話題ばかりで、後ろめたい
「
こんな
あなたが必要としているのは、『
現状、『
彼の
あなた方は、目先の享楽、快適さばかり優先し
互いの
それでは、双方にとって失礼ですし、あなた方の
大体、
自分から進んで電話もせず、こんな遅くまで寝るなど自堕落に過ごし、
あなたは、合いの手を入れているだけじゃないですか。
そういう態度が、『甘え』だと言っているんです。
彼は、あなたの心の翻訳家ではない
それはつまり、趣味に
万人向けなパーソナルなデータを
「……っ!!」
悔しいけど、言い返せないし、言い負かせない。
自分は、
彼の趣味、共通、性格にしか、興味を持たなさ
「本来、
上述の通り、その相手と
しかし、だとすれば、新しい方を探せば
一時の快楽に身を委ねたいが
危険と隣り合わせな今の社会に、無防備で独り身な愛娘を平気、笑顔で送り出す母が、どこに
有事の
同性だろうと、異性だろうと、屈強な方だろうと、トコシエだろうと、関係
現時点では、私はあなたを、あなた方を徹底的に許しません。
それが
この場で、絶縁しなさい。
二度と、ここに足を踏み入れるんじゃありません。
さぁ。覚悟が決まったのなら、
片方でも、両方でも。
私も、
どのような選択でも、私は一向に構いませんので」
「……」
万事休す。
八方塞がり。
今度ばかりは、分が悪
事前の準備が圧倒的、致命的に足りなさ
だからといって、ここで父に助力を願える
最早、手札が
自分達では、母に太刀打ち
思いが、場数が、執念が違う。
こんな所、こんな場面、こんな理由、こんな結末で、
だからといって、社会的にとはいえ、
今の自分には、店長としての責任が伴っている。
スタッフ
家族に絶縁された事実が明るみに出たら、『トクセン』は廃業待った
そんな人物が店長を勤める場所を、誰が好んで訪れようか。
終わりである。
せめて『トクセン』だけは、どうにか存続
今度からは、自分一人で。
「……」
そんな逡巡を
どうやら、道を違える決意を固めたらしい。
遺恨は残るが、やむを得ない、さもありなん。
ここまで付き合い、健闘してくれた彼を糾弾する
深呼吸し、
彼から、次に発せられた言葉は。
「……東京です」
「ーーは?」
意図が取れず、間の抜けた声を出す
鳩が豆鉄砲を食った
「水瓶座で、未年で、AB型。
誕生日……は、置いといて。
「へ!?
えと、東京、水瓶座、未年、AB型。
誕生日は、不明」
「そこは
あと、ありがと。
さて、お母さん。
以上が、俺のパーソナル・データです。
そして、その4つを、
つまり、あなたが提示した『一つでも答えろ』という必要条件は、十分以上に満たしました。
100点中400点です。
よって、俺と
異論は
はい、Q.E.D」
……。
…………。
……………………。
「……はぁぁぁぁぁ!?」
まさかの、ラグ
これを受け、発狂する
身を乗り出し
「そんなのは詭弁、欺瞞です!!
そのテストは、
娘には、もう受験資格さえ
第一、仮にチャンスが奇跡的に残っていたとしても、今のは
「『カンニング禁止』なんて
「
普通、考えなくても分かるわぁ!!」
「なら、俺達が普通じゃないだけ。
俺達の業界では、ご褒美ですね。
次からは
敗者に
「このっ……!!
ああ言えばこう言う論の宣教師か、貴様……!!」
「
先程までの、親馬鹿っ
「
そっちがそう来るなら、こっちも新たな策、柵を
「あ。
頭固いの、認めた」
「お黙り、若造。
今度は、
「宮城県。
……8月3日、未年、獅子座、AB型」
「させおったぁぁぁぁぁ!?
「ジョイウーマ◯ですか?」
「ちゃうわ!!
お前
「そもそも、出会って一週間も経ってないのに、知ってる方が不可解、不自然では?」
「じゃぁかしい!!
この期に及んで、
大体、ただならぬ関係であれば、知ってても、そこまで不思議じゃないだろ!!」
「少しは、不思議なんじゃないですか」
「揚げ足を取るな!!
ブラック・リスト入り、
「今の例えは、さっきより気持ち
ちょっとくどかったけど」
「
「……ホーム・ページに記載されてて……?」
「そんな
個人情報、明けっ広げ
まだ芸能人じゃないんだぞ!?
てか、思いっきり丸っきり疑問形だったろうが!!」
「……じゃあ、勘?」
「『じゃあ』って
お前の勘、
こよなく恐ろしい、
「……俺も正直、
今度こそテストをパスしましたし、もう
「いや、帰らすかぁ!!
今のお前、ただただ、娘のストーカーだぞ!?」
「ゴーストみたーい。
略して、ゴーストーカー」
「
割と上手い
そんな中、
「
こいつは、どんなシリアスな場面も
おまけに偏屈だし、
ちょっと時間差
「だ、だからといって!!
娘の幸せを守れない
「結婚に反対する頑固親父みたいでした、今の」
「とりま、黙るぇぇぇぇぇ!!」
「まぁまぁ
「今更のこのこ、しゃしゃり出て来んな、この
「んぐぉぉぉぉぉっ!?」
「お父さぁぁぁぁぁん!?」
「あ。
ハン、バー、ガー」
まさかの、八つ当たりからの両手グーパンチ。
それを食らい、迫真のヤラレ芸を披露しつつ、倒れる
憂いる
勝手にネタと取っている、
事態は、
「あの、お母さん」
「お前に『お母さん』呼ばわりされる筋合いは
「そういう時代錯誤な寒いノリ、
ちょっと、聞いてください」
「お前が振ったんだろがいっ!!
しかも、拒否権
「まぁまぁ、母さん」
「だから、
「んうおぉぉぉぉぉっ!?」
「お父さぁぁぁぁぁんっ!?」
「ワン・オー・エイトー。
俺、エイトー。
そーのーちーの、さーだーめー」
根性無しみたいに言われながら、今度はガトリングをお見舞いする
冒頭からの貴婦人たる
それはさておき。
どうやら聞く耳は持つらしく、腕を組み
「確かに、俺は未熟です。
まだ守れないかもしれません。
……けど」
そこまでするとは思わず、
が、
「……今、ここに確約します。
俺は、
この世界の、他の誰よりも。
俺の命が、続く限り。
俺の持てる、
それは最早、
そんな
どう考えても、普通じゃない。
しかし。
この場で
「……もう結構です。
これじゃ、まるで
あなたを打ち負かすには、私の寿命が
いえ……
「お母さん……!!」
「それじゃあ……」
姿勢を正し、
そのタイミングで目覚めた
「……
くれぐれも、
あと二人共、もう少し落ち着いて、社会人らしく、節度
それさえ遵守
渋々、
……認めるわ」
「あ。
父さんは、最初から別に問題視してなかったから」
「あなた今回、ただスイーツ堪能しただけのお飾りでしたね」
「人を
「失敬。
でも、あれは、あなたが悪いんですよ?
女の戦いに、無粋にも邪魔張りして」
「何を言っているんだ?
顔を上げ、痴話喧嘩を繰り広げる夫婦。
「ところで、エイト。
あんたの誕生日、いつなの?」
「……」
まるで、フリーズでもしたかの
「えと……。
……言わなきゃ、
「うん」
「……どうしても?」
「不平等だし、遠慮だよね?」
「い、いやー……。
……どーかなぁ……」
「エイトー。
「……」
急に、選手宣誓ばりに手を上げる
つまり白旗、降伏という
「いつ、ってーか、そのぉ……。
……今日?
……的な?」
「……」
今日は、1月25日。
そして、
つまり。
今日こそが、
「はぁぁぁぁぁ!?
「……
「ったり前だろがいっ!!
てか、要るわ!! めちゃくちゃ必要だわっ!!
誕生日、馬鹿にすんな!!」
「……俺のだけどね」
「お前が、自分に興味持たな
「……
「お前が言わない代わりになっ!!
てか
「……もう、
「チャラい!!
だが、嫌いじゃない!!」
いつも通り、平坦ボイスで語る
が、少し憂いを帯びた眼差しで、決まりが悪そうに告げる。
「……俺、
物心がついた時にはもう両親|他界済みだし、育ててくれてた祖父母も見送ったし、兄弟や姉妹、従兄弟も
それに、前述の通り、友達や彼女も、
だから……
……ごめん」
明後日の方を見ながら、神妙に身の上話をする
それを聞き
「……っ」
「……
無言で、
訳が分からず、視線を戻しながら受け止める
激情のままに、思いの丈をぶつけたい。
けど今は、今だけは、何としてでも抑えなくては。
「……都合良く利用してるのは、
いつも、いつも、エイトを便利に扱ってる。
エイトが、ノリノリで活用されたがるのを
今更、この関係を崩したりは
ほぼ完璧なエイトに、
エイトがしてくれた分に見合うかどうかも、
……けど、それでも
せめて
借りを、恩を、きちんと返したいな、って。
そんな絶好の機会が、やっと来たんだ。
お
……
母が言っていたのは、間違い
自分達は、少し
目先の楽しさに気を取られてばかりで、周りを見ていない。
互いの
そういう流れが生まれない限り、しんみりした過去、気持ちなんて、把握
この一週間で自分は、これだけの体たらくを、臆面も
もっと、話したい。
もっと、打ち明けて
特撮だけじゃなく、バディとしてでもなく、エイト自身の
もう、手遅れかもしれない。
自分達の関係を見直し、改善して行く
だとしても。
変わりたいという気持ちが
そう、信じたい。
であれば、この席で自分が言うべき一言は。
プレゼントの代わりになりそうな
今、最も、主賓に届けるべき言葉は。
そんなの、パッと思い付く。
「……お誕生日おめでとう、
……産まれて来てくれて、ありがとう。
……
「……
少し離れ、彼の胸に顔を当て、両手を繋ぎ、精一杯、
全身全霊で、感謝の意を表する。
自分は、頭も要領も、口調も性格も悪い。
でも、今日
彼を、
そんな心境を、汲み取ってくれたのだろう。
アイ・コンタクトを取り、
「お誕生日おめでとう、
「おめでとう、
ただ、そういう
あなた
腕組をし、少しバツの悪そうに頬を掻き、
「……それと、来年からは
同僚さんやお友達も呼んで、盛大にリベンジしましょう。
あなたはもう、立派な家族だもの」
「……お母さん……」
「それは禁止」
「……難しい……」
「悔しければ、もう少し好感度を上げられる
「つまり、レスバ……」
「言ってる
バトル漫画方式で仲良くなろうとするんじゃありません」
またしても火花を散らしそうな二人。
「……あ。
あと、1分」
「
誕生日、おめでとよぉぉぉぉ!!」
こうして、いつも通り締まらない形にはなったが。
※
帰り道。
一仕事終え、
「いやー、
どうにか、耐え抜いた、生き抜いたっ!!
これで、
「犬井ヒロ◯?
そぉーれはどうかなぁ~?」
「ハリケンジャ◯出てたクイズ番組!
あと、文脈入れろ!
これ、
てか、
「それ」
ヒョイッと掲げられたのは、最早お馴染み、ビム
この時点で、
「お前……。
……まさか……?」
「我、
「
何回、友達に増やしに行くんだよぉ!!」
「夏休みに旅行に行き
「クイズ形式で元ネタ当てるの、
てか、
「それはそれ、これはこれ。
節度、大事」
「このっ……!!
このぉぉぉぉぉっ……!!」
言葉を失う
念の為に沿えておくが、完全に理不尽である。
ムシャクシャした
差出人は、母。
「……」
見たくない……でも、見ないと連れ戻される……。
背に腹は代えられず、確認する
瞬間、言葉を失った。
「……
立ち止まった
スマホをしまい、
「ちょっと、スマホ忘れた!!
取って来る!!」
「今、持ってた……」
「じゃなくて、えと……!!
お前、ムカつく!!
別行動!!
先、帰れ!!」
「
「うっさい、バーカ!!」
「満点回答」
マイ・ペースな
玄関にて、
「お母さん!!」
年甲斐も
「『エイトには言えない、大事な話』って、
メールの文面を、そのまま読み上げる
「
「
多分、エイトが待ってる!!
まだ、外で!!
あいつは、そういう
早くしないと、あいつ……あいつ、風邪引いちゃう!!」
気遣いを無視し、促す
今でこそ一戦を退いたが、母は元々、心理学の第一人者、エキスパートだった
高名かつ公明正大な、この町では知らない人が
「……
けど、彼は……明らかに、何かがおかしい。
それが
けど、これだけは確かよ。
彼は、私達とは、似て非なる存在。
占いとか予知能力とか、そんな生易しい、チャチな
もっと遥か先を行く、恐ろしい、現代の文明、人知を超えた存在……。
もしかしたら……」
「……『もしかしたら』?」
視線を泳がせ、自身のコートを脱ぎ
体ではなく、心……芯から凍えそうな、一言を。
「
ーー『人間じゃあ、ない』ーー。
……かも、しれない……」
「ーーえ」
雪の降り頻る町にて、新たに生まれる疑い。
突如として刻まれる、カウント・ダウン。
謎に満ちた相棒、
彼の真実が明かされる時は、刻一刻と、目前に迫りつつあった。
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