8:バーサス! バーチャル! 実家談判!

「はじめまして。

 友灯ゆいの母、結貴ゆきです。

 こっちが、父の悠一ゆういちです。

 いつも、友灯ゆいがお世話になっております」

さっき、スマホで話しました」

「電話を初対面にカウントすんな」



 両親との顔合わせだというのに、初っ端から天然を炸裂させる英翔えいしょう

 いつも通りの緩さに当てられ、条件反射的に友灯ゆいもツッコんでしまう。



「えと……面白い方ですね。

 先程、お話した時から薄々、感じてはいましたが」


  

 母は強し、とでも言うべきか。

 一瞬、呆気に取られるも、ぐに笑顔を取り繕う結貴ゆき

 一方、厳格な悠一ゆういちは、今日も今日とて無言で腕組みをしながら、存在感をアピールしている。


  

 見慣れた光景。 

 唯一、慣れていないのは、実家に英翔えいしょうるという違和感いわかん

 それも、こんな状況下で、正座している友灯ゆいと違って、普通に炬燵こたつに足を入れている余裕っり。

 ともすれば英翔えいしょうは、自分よりも度胸がるのではなかろうか。

 それが、両親を変に触発しなければいのだが。



えず、友灯ゆいも楽になさい。

 なんだか、あなたのがお客様みたいじゃない」

「あ……。

 う、うん……。

 ありがと……」



 言われた通り、友灯ゆい炬燵こたつに入った。

 どうやら、悪いムードでもないらしい。

 少なくとも、今の所は。



「して、森円もりつぶさん。

 先程、軽くはお聞きしましたが。

 あなたと、友灯ゆいのご関係は?」

「トコシエです」

「トモコイ以上シエン未満、でしたか。

 それについては、特に言及しません。

 出来れば、一報くらいしかったのだけど。

 まぁ……友灯ゆい友灯ゆいで、色々ったみたいですし。

 大変だったわね、友灯ゆい

 本当ほんとうに、お疲れ様」

「へ!? 

 えと、その……!

 ……ありがと……」



 ねぎらわれるとは思っておらず、狼狽する友灯ゆい

 やはり、怒り心頭というわけではない模様もようだ。

 そして一体、英翔えいしょうはどの辺りまで説明したのか。

 あらましか、はたまた全部か。



「前述の通り。

 私は、友灯ゆいが元気、健康に、幸せで長生きしてさえくれれば、万々歳なのよ。

 前までは、お姉ちゃん離れが出来できなくて心配だったけど。

 今は、森円もりつぶさんみたいな頼もしい、楽しい、正しい人がてくれてるみたいだし、安心だわ。

 お二人がきちんと話し合い、合意の上で決めたのであれば、私から口出す必要はいわ。

 主人はさておき、ね」

「……まるで、俺だけが一方的に悪者、臍曲へそまがりみたいな言い草だな」

「あら、だ。

 これは、失礼。

 つい、本音を零してしまいました。

 てっきり、友灯ゆいが『トクセン』に入った時みたいに、猛反対されるのかと」



 まったく反省の色のいまま、口元を手で隠し、ポーズだけ詫びる結貴ゆき。 



 友灯ゆいは、思う。

 自分の気の強さは、ほぼ確実に結貴ゆき譲りだと。

 


 それはそうと。

 ここに来て開口した悠一ゆういちは、研ぎ澄まされた眼光で、英翔えいしょうを捉える。



森円もりつぶさんだったか。

 いきなり、こんなことを尋ねるのは、我ながら気が咎めるが。

 あんた、お仕事はなにをされてるんだ?」

「『appri-phoseアプリフォーゼ』です」

「はぁぁぁぁぁ!?」



 ここに来て、まさかのビッグ・ネームに、友灯ゆいが素っ頓狂にも大声を上げる。

 が、ぐに気を取り直し、三人に謝罪し、縮こまる。



「『appri-phoseアプリフォーゼ』ってのは、あれだろ?

 世界的に親しまれてるっていう、ゲームのサブスク。

 あれの、スタッフさんなのか?」

「リーダーというか、ワンオペというか……」

「……あんたが全部、やってるってのか?

 ……たった一人で?」

「まぁ、結果的には。

 少し前までは、チームで進めてましたが」

「その割には、特にペース・ダウンもしていないようだが?」

「元々、他の方々は、接待メインだったので」

「……」



 言葉を失う、三八城みやしろ家。



 ここに来て、やっと友灯ゆいは理解した。

 如何いかにして彼が、あれだけの速さと品質で、『特トーク』を用意したのかを。



 一方、そんな胸中を知ってか知らずか。

 なおも物怖じせずに、英翔えいしょうは続ける。



「ところで、もしかして、ユーザー様だったりします?」

「じゃなきゃ、ここまで言えんだろう。

 あれは、実にい。

 今の時代に合っていて、ユーザーもスタッフも協賛会社も皆、楽しんで進めている。

 俺みたいな老いぼれでも知ってるような、古いのも仰山ぎょうさん、入ってるしな。

 暇な時とかに年甲斐もく、気付きづいたらつい、ポチポチ、ピコピコしちまって。

 おかげで最近、ゲームにご執心な俺に、母さんはおかんむりだ」

「『古いゲーム』じゃなくて、『レトロ・ゲーム』です。

 あと、老いぼれだなんて、思っていません。

 大事なお客様ですし、お優しい方だとお見受けしたので。

 それと、ゲームは老若男女楽しめる、万人向けの、今や世界規模のスポーツとして認識されている、立派な趣味です。

 年齢なんて、関係りません」



 友灯ゆいの父だから、ユーザーだからという建前のみならず、人となりを見ての、ぐな発言。

 それにより、息を呑む悠一ゆういち



 実際に面と向かって、まだ10分と経過していない。

 が、この場は、すで英翔えいしょうが掌握しつつあった。

 それも、計算でも謙遜でもなく、本心から溢れた言葉で。


 

「それと。

 友灯ゆいさんが『トクセン』に入る件で、猛反対されたとお聞きしましたが。

 もしかして、特撮は女性向けではないと、お考えで?」

「あ、ああ」

「確かに、一理ります。

 現に、そういう風潮もりました。

 しかし、それは昔の話です」



 何故なぜか立ち上がり、演説でもするように、英翔えいしょうは続ける。



「女性ライダーが初期からレギュラーだったり。

 宇宙農業ゴリラと戦う際、銀河最強クラスのキャプテンを筆頭に、女性チームが一致団結したり。

 スピンオフとはいえ、女性戦士だけで構成されたドラマも作られたり。

 イケメンや、可愛いロボが一世を風靡し、市場を席巻せっけんしたり。

 特撮好きOLが主人公の漫画がドラマ化され大人気を博した結果、怒涛の再放送の嵐、果てにはDVD化までされたり。

 恥も人目も醜聞しゅうぶんいとわず、特撮好きを公言する女性タレントが増えたり。

 そういう兆しが、見え始めているんです。

 特撮話をするのが恥ずかしい、難しかった、長きに渡る黒歴史は、終局しつつあるんです。

 もっとも女性に限らずネタ、ダダ滑り、空気、腫れ物扱いされる傾向も根強いですが。

 そんな過渡期とも黎明期とも取れる曖昧、大事な時だからこそ、『トクセン』が存続する意義、必要が生まれるんです。

 俺にとって、謂わば『トクセン』は、新時代の救世主、開拓者のようなシンボルなんです。

 そして友灯ゆいさんは、『トクセン』のトップに任命された、すごい人なんです。

 俺は、そんな彼女を、心から尊敬しています。

 お二人の娘さんは、俺の誇りです」



 突拍子もい、長ったらしい、飛躍した論理。

 隣に座る友灯ゆいは、いたたまれない気持ちになりそうなのを、必死に我慢した。


  

 彼の熱意が、届いたのか。

 腕組みした後、悠一ゆういちは顔を綻ばせた。


 

「驚いたよ。

 こんな出来できた人がるとはな。

 それも、人と人との関わりが希薄きはくになり、道端で誰かが倒れても素通りされがちな現代で。

 おまけに、友灯ゆいの同居人で、しまいには結婚願望もく家事もこなせると、ほとん友灯ゆいの理想通りとは。

 まるで創作めいてるな」

「言えてますね」

「あんたが言うな。

 自分が、張本人だろ」

「あ。

 お菓子作って来ましたけど、食べます?」

「いや、でっかぁ!

 ケーキ、でっかぁ!!

 まさかの、ホール!!

 しかも、4つの味!

 いや、ピザかサーティーワ◯かよ!!」

「……まさかとは思うが。

 あんた今日、ここにピクニックか女子会、お誕生日会でもしに来たってんじゃないだろうな?」

「……あ。

 お父さん、洋菓子の方が好きでしたよね?」

「『お父さん』言うな。

 あと、なんで少し考えた?」

「大丈夫です。

 きちんと、『義父』とは呼んでません」

「そこじゃない。

 だが、出来でかした。

 い配慮とモラルだ。

 妙に親しみ易いが、分別と礼節、順序を弁えているのは、感心する。

 それはそうと何故なぜ、俺の好みを把握している?

 友灯ゆいの差し金か?」

「ち、違うからっ!

 あたしも、知らないからっ!

 本当ほんとうに!

 心の中でしか、言ってないから!!」

「じゃあ、結貴ゆきさんか?」

「うふふ。

 うれしいわねぇ、『女子』だなんて」

結貴ゆきさん、そこじゃない。

 今でも綺麗なのは否定せんが」

「あら?

 あなたも充分、素的ですよ。

 それと、私もなにも言ってませんよ」

「じゃあ、何故なぜだ?」

「……勘?」

「リトル◯ーデンでドルドルにスタンプした麦わらか、おのれは!!」

「あ。

 これ、美味おいしい。

 当たりだ」

「んで、自分が用意したからって、人ん家への土産を率先して食べんな!!

 アメリカ帰りに球友に会いに来たノゴローくんか、おめーは!!

 大体、作ったのお前だろうが、味見しとらんのかい、どこの小美おい 詩夏しいなだ!!

 よくもまぁ、この土壇場で、そんな暴挙に出られたなぁ!?」

「あら、本当ほんとう

 素晴らしいわ」

「うむ。

 実に美味びみだ。

 もう一個、頂こう」

「どうぞ、どうぞ、どうぞ。

 一個と言わず、全部」

「すっかり馴染んでんなぁ、毎度のことだが!!

 まるであたしだけが適応してないみたいだなぁ!?」



 予想とは違う意味で気疲れをし始めた友灯ゆい

 これはこれで、不満というか、不安である。



 自分の扱いはさておき。

 これで第一ラウンドは済んだ。

 問題は、ここから。



「それはそうと、友灯ゆい

 そろそろ、本題に入りましょうか」


 

 お菓子を食べ終え、口元を拭い、結貴ゆきが切り出す。



 いよいよ、始まる。

 本当の強敵……『氷のクイズ女王』との、戦いが。

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