7:トモダチタチ

 友灯ゆいの部屋を訪れ、彼女の回復を三人が肉眼で確認した頃。



「では、お待ち兼ねの自己紹介ターイム。

 うちは、見先みさき 明夢あむ

 配信でボロ儲けしてまーす。

 で、あっちが娘の結愛ゆめ

 君が、モリマルくん?

 この前は、旦那が世話になったし。

 だってのに、今日は来れんくて、マジごめん系だし。

 しかも、今はユヒまでご厄介になってるとか、マジ感謝だし」

「我は、布袋野ほたいの 栞鳴かんな

 トレーナーやインストラクター、栄養士と、手堅く手広くやらせてもらっている。

 さいわい、今日の席には、体調不良者はらなんだとお見受けした。

 皆、ご壮健でなによりだ」

「同じく、ユヒの友達で、『アカユル』のリーダー、『アッセンボー』職員、間田はざまだ 留依るいと申します。

 本日は、代理として上がりました。

 急な来訪にもかかわらずお招き頂き、陳謝致します。

 ちなみに『アカユル』とは、四人の名前から一文字ずつ取って組み合わせた、我々のグループ名のことです」

「いや、『ユヒの友達』って誰も言ってないし!

 それなのに、『同じく』て!

 同じくないし!

 ウケる!」

「あなたたちが、しっかりしてないから。

 私、いつも割りを食わされてばかり。

 私だって、少しは楽がしたいのに。

 い加減、煮え湯以外も飲ませてもらいたい」

「ハル、大袈裟だし!

 ウケる!」

「あなたが大雑把なだけ」

「まぁまぁ……」



 軽い口喧嘩を始めた二人を、彩葉いろはが制する。

 隣に座る英翔えいしょうは、改めて三人を見た。



 ずは、見先みさき 明夢あむ

 あだ名は、『アユ』。

 性格と口調と名前はギャルだが、見た目は黒髪ロングでスーツと硬派(本人曰く、「ギャップ萌えを狙った正装」)。

 実は旧家出身で、その家事力を遺憾無く発揮し先程、追加料理を作ってくれた。

 色んな物を特集する配信者で、彼女の取材を受けると高確率でバズるので、一部では「先見の明夢あむ」などと呼ばれるに至る。

 コミュ力お化けで顔が広く、彼女の紹介でバズった小説の出版化が決まった際には、彼女の伝手で絵師が決まったりするとか。

 ほぼ毎日、何かしらの更新をしている。

 職業こそフワフワしているが、子持ちで、旦那は職安のエリートで、その気にさえなればどんな職種にも就けるポテンシャルの高さも兼ね備えているなど、その実、四人の中では断トツで古風な道を進んでいたりする。

 そんな、常にトロピカってる茜ヶ久保 も◯みたいな存在である。



 続いて、布袋野ほたいの 栞鳴かんな

 あだ名は、『ホティ』。

 仕事のみならず、『アカユル』の体調管理も務めている、女騎士のような、細身ながらもたくましい人。

 微細な変化さえ見逃さず、電話での第一声で体調不良を見抜かれたりするので、注意が必要そう。

 ただし、コンディションは見抜くが、その原因までは話を聞くまで把握出来ず、早計で恋だと決め付けるのが悪癖らしい。

 また、体裁の悪いことさえサラッと言う、一周回って決まる、ダサカッコイイ部分もる。

 現在、精神科医の免許も取ろうとしているが、恋愛脳であるがゆえに望みは薄く、悪戦苦闘中とのこと



 最後に、間田はざまだ 留依るい

 あだ名は『ハル』。

 彼女は『アカユル』のしっかり者で、仲を取り持つのが得意。

 クールな姉御肌。

 トラブルが発生した時は真っ先に相談を受ける、『アカユル』のリーダー格。

 友灯ゆいが都会から出戻る際には、自分から同居を持ちかけ、先週までは実際に彼女と一緒に暮らしていた様子。

 纏めるのが得意で非の打ち所がいが、それが逆に欠点になっており、取っ付きにくい所があると思っている。

 消去法により結果的に仲立ちをしているにぎず、そろそろ荷が重いと感じている様子。

 職安『アッセンボー』で働いており、明夢あむに旦那を紹介した張本人でもある。



 そして、明夢あむの娘、結愛ゆめ

 好奇心旺盛な元気っ子。

 前に友灯ゆいが言っていた、『お子様対応の特訓相手』というのは、状況から判断して、結愛ゆめことだろう。

 そんな結愛ゆめは今、すっかり仲良くなった新凪にいなと共に、英翔えいしょうの自作グッズでブンドドしていた。

 市販のソフビではないのを一目で見抜いたらしく、二人は先程からすこぶる楽しんでいる模様もよう

 伝えられるだけの語彙力を持っていないだけで、子供というのは存外、大人よりも記憶力が優れていたりするものなのだ。

   


「やっほぉ。

 美味おいしぃデザート、バリ持って来たよぉ。

 たぁんと、召し上がれぇ。

 まだまだるからぁ、遠慮しないでねぇ」

詩夏しいな殿どの!!

 自分も、つえぇ運びまする!!」

「あははぁ。

 いつもぉ、ありがとぉ、拓飛たくとくん。

 じゃあぁ、美味おいしくお願ぁい」

つえぇ御意!!」

拓飛たくとくんにはぁ、チャレンジ・スイーツよぉの、新作もぉ、用意よぉい、してるからねぇ。

 残さずぅ、美味おいしくぅ、完食してねぇ。

 美味おいしく期待ぃ、してるよぉ」

つえぇ心得たで候!!」



 次に、残りの二人。



 小美おい 詩夏しいな

 若庭わかばが加わるまで、(誰かがウェイターとして駆り出されるピーク時以外では)『トクセン』のダイナーを一人で守り切っていた天才パティシエ。

 何かに付けてよく笑う。

 「ペコテン」(=「ペコペコテンション」と「ペコペコでコテンパン」の略)、「ベコテン」「おいしろ〜」(「美味しい+面白い」)、「バリカタ」「マシマシ」「デリシャスってる〜」などが口癖。

 健啖家。

 造語盛り沢山。

 笑いのツボが特殊。  

 色んなことに興味を持つ。

 基本的に感覚や直感、ノリやイメージだけで、知識や計量もしに料理を美味おいしく、健康的に作れる天才。

 ユルフワ系だが、常に元気とやる気を持て余している。

 惜しむらくは、スイーツしか作れないことと、他者に教えるのが絶望的に下手ヘタこと

 料理人らしく、「上手い」を「美味しい」と言う。

 実家は定食屋『ほのぼぉの』。

 常に何か手作りのお菓子や料理を持ち歩いている、無類のスイーツ好き。

 料理欲が強過ぎる、作り過ぎ系。

 カロリーの悪魔だが、彼女の作るスイーツの魔力には、あの珠蛍みほとでさえ逆らえない。

 ちなみに、友灯ゆいにはひそかに「恵麻さ◯」「ま〜姉ちゃ◯」とか呼ばれていたりする。



 そして、守羽すわ 拓飛たくと

 スーアク担当で、紫音しおん璃央りおよろしく、ヒーロー・ショー出身のマッチョ。

 古風な熱血系。

 超ポジティブ。

 えずうるさい。

 典型的な脳筋。

 程度を「強い」「弱い」で表し、「勝」の入ってる用語を多用し、「◯◯ねば、男ではない」が口癖。

 常に何かに挑み、記録を更新したがる。

 会社にも徒歩で出勤している。

 その特性、性格上、トクセンで誰よりもカロリー消費が激しいので、小美のお菓子の餌食となっており、後に彼女と付き合い始めた経緯を持つ。

 新たに記録を塗り替えた際には「前世を超えた」などと言う。

 暑がりなのもあって、気合が入ると無意識に腕まくりをする。なんなら真冬でもする。

 ちなみに彼の父親は以前、英翔えいしょうの豪邸を建てた、気のい大工の棟梁である。

 また、紫音しおんの双子の弟でもあり、「父の男らしさ成分は拓飛たくとに奪われた」というのが『トクセン』の総意である。

 英翔えいしょうから言わせれば、「シンケンブル◯と彦馬さんを足して2で割らなかったような人」である。

 


 気付けば、かなりの大所帯となってしまった室内。

 あれから時間はぎ、会話は弾み、それぞれの波長や趣味の元、グルーピングが行われ。

 さながら、入学式の教室のような光景となっていた。



「そうなのよぉ。

 なによ、詩夏しいなぁ。

 あんた、思ってたより話、分かるじゃないのよぉ。

 もっと早くアタックしとくべきだったわぁ」

「あははぁ。

 恋バナ、マジ美味おいしろぉ。

 シィナ、デリテンゥ。

 璃央りおちゃんぅ、明夢あむちゃんぅ。

 バリカタに大好きぃ」

うち、奇跡的にベスト・マッチだし。

 もう、グループ作るし。

 恋バナ連合」

「あははぁ。

 安直ぅ、安直ぅ」

「だが、断らない」

「ところでぇ、璃央りおちゃんぅ。

 今度ぉ、二人でぇ。

 おいしろなラブコメ、デリシャスに仕上げなぁい?」

「名案ね。

 ペン・ネームは、そうねぇ……詩夏しいな 璃央りおね」

「マジまんま、超ウケる。

 うちも、それ読みたい。

 今度と言わず今、作るし。

 思い立ったが吉日だし」

「任せなさい」

「あははぁ。

 超デリシャスってるぅ」



 恋バナをさかなに、へべれけになっている三人は、すでにID交換のみならずグループ作りにまで発展。



「実に、く引き締まった肉体。

 それでいて、この細さ。

 なんとも興味深く、神秘的。

 特に、業物わざものような、一級品の両脚。

 まるで、月歩や嵐脚が出来できそうではないか。

 聞く所によると貴殿は、膝に人を乗せながら片足でホッピング移動出来できるとのこと

 この小さい脚で抱えられながら、スクワット5万回してしい」

「あ、あのぉ……。

 お触りは、程々に……。

 リオねぇに、怒られるので……。

 は……恥ずかしい……」

「そして、弟君の方は、筋骨隆々の体現者。

 こちらも、中々どうしてそそられる……。

 たとえ極寒の海に落とされようともビクともしなさそうな、見事なボディ。

 黄金期のジャン◯のような巨躯。

 我が肩に載った状態で、懸垂5万回してしい」

「はーっはっはっはぁっ!!

 つえぇありがたきつえぇ幸せ!!

 それは、さしものつえぇ自分でもよえぇ未踏、謂わばつえぇ新記録、つえぇ自分のつえぇ後世!!

 次の非番の日にでも、是非ともつえぇチャレンジさせてもらいたいくつえぇ存じまする!!」

「いやはや、実に目の保養であった。

 惜しむらくは、お二方共、すでに恋い慕う姫君がこと

 我は恋愛脳ではあるが、横恋慕は主義に反するのでな。

 またいずれ同士として、トレーニングにてお目にかからんことを。

 我はいつでも、ジムで待っているゆえ

 それでは、失礼つかまつる。

 我も、恋バナ連合に入隊したいので」

「あ、あのぉ……。

 ボクたちも……」

つえぇそうですな、兄者!!

 自分たちも、キント連合を作りましょうぞ!!」

「素晴らしい提案、僥倖ぎょうこう

 こちらからも何卒、よろしくお願いしたい。

 では、スマホを用意されたし」

折角せっかくなので、つえぇ運動しながらつえぇ交換しましょうぞ!!

 ここでつえぇ決めねば、男じゃねぇぇぇぇぇ!!

 で、ございますよっ!!」

「賛成、です……」

「うむ。

 妙案であるな。

 さもありなん。

 我は、女だが」



 筋肉チームは、酒が一滴も入っていないのに恋バナ連合よりもカオスになっていた。



 そして若庭わかば、オカミさん、新凪にいな結愛ゆめは、未だにヒーローごっこをしている真っ最中。



 現状、真面まともに話せるのは英翔えいしょう保美ほび留依るいだけだった。



「申し訳ありません。

 ぐにおいとまするもりが長居してしまい。

 挙げ句の果てに、ツレが多大なるご迷惑を。

 事実上アポ無しで押し掛けた実情も含め、なんとお詫び申し上げればよろしいか」

「とんでもないです。

 皆さん、心から満喫しているので。

 それに、うちの職場は恋バナや筋肉とは無縁で、こういった話を普段は出来できないので……。

 こちらこそ、お恥ずかしい限りです」

「そもそも、後者が出来できる職場はおよそ限定されると思う……」

「それは、確かに」



 クスッと、留依るいは口元を抑えて微笑ほほえんだ。

 本音をこぼしたりする所からも察していたが、意外と親近感の湧くタイプらしい。



「それで、留依るいさん。

 そろそろ、本題に入らせて頂いても、よろしいでしょうか?」


 

 場が和んで来たのを見計らい、仕掛ける彩葉いろは

 気後れ気味に、英翔えいしょうも引き締める。

 留依るいは、意表を突かれた表情をしたあと、姿勢を正した。



「お見逸れしました。

 すでに、気付きづいておいででしたか」

「当然です。

 なにか大事な要件がって、馳せ参じられたんですよね?

 だって、本当ほんとう英翔えいしょうくんへの挨拶程度なら、見先みさきさん親子だけで事足りたはず

 つまり業務外、プライベートでの別の案件……てか、友灯ゆいさんのことですよね?」

保美ほびさん、割とズバッと来ますね。

 正しい意味での、大和撫子でしたか」

「お褒めに預かり、光栄です」

「なお、実態は」

英翔えいしょうくん、うるさいです。

 ちょっと黙っててください。

 茶々も刺激も、不要です。

 ホビホビ、イロイロしないよう、必死に抑えている所なんですから。

 折角せっかくの見せ場を私に掻っ攫われて心中穏やかでないのは分かりますが。

 年上勢がこぞってサボってる内に、私だって、ユイ・ポイントを稼ぎたいんですよ」

「キビ・ポイン◯みたいに言わないで」

「すみません。

 先程から一体全体、どういった意味なのでしょうか?」

「お気になさらず。

 ちょっとした、恋煩いのような類なので」

……?

 、の間違いだと思う……」

英翔えいしょうくーん。

 だ・ま・れ」

彩葉いろはさーん。

 こ・ま・れ」

「し・ま・れ」

「と・ま・れ」

「う・ま・れ」

「へ・ま・れ」

「すみません、その辺で。

 特に、彩葉いろはさん。

 中々に、過激になっているので」



 肉弾戦が始まりそうだったので、間髪入れずに待ったをかける留依るい



なんとなく、察しました。

 では、ノー・タッチということで」

「話が早くて助かります。

 英翔えいしょうくんと違って」

い人で良かったです。

 彩葉いろはさんと違って」



 ひそかに英翔えいしょうの手をつねり、力尽ちからずくで捻じ伏せる彩葉いろは

 負けじと、彩葉いろはの足を軽く踏む英翔えいしょう。 


 

 テーブルの下で行われる微笑ほほえましい、可愛かわいらしいやり取りに、留依るいは思った。

 中々に難儀な場所で、ユヒは働いているんだなぁと。



「もう、なんとなく汲めているかもしれませんが。

 ユヒは元々、私達の中にはなかったんです。

 私達は幼稚園で、ユヒは保育園。

 ユヒと出会ったのは、小学校……三人でのグループが、すでに出来つつあった時点でのことだったんです」



 そうだろうと、英翔えいしょうは睨んでいた。

 先程から三人は愛称で呼び合っているが、友灯ゆいだけ、ほぼそのままで呼び捨てにされていたから。

 それに、友灯ゆいが倒れ不在でも、三人での関係は滞りく回っていた風に思えた。



 恐らく、彼女が自分から願い出たのだろう。

 変な気を遣わなくていとか、そんな感じに。

 彼女は、嘘吐きで頑固で気遣い屋だから。



「そういった背景がるからか。  知り合って20年以上も経過してるのに、まだどこか遠慮がるみたいで。

 確かに、一人だけ都会に行き、こっちに戻って来た体裁の悪さとかもるとは思うんですが。

 どうにも、それだけじゃない様子で。

 正直、私達にも、心当たりがるんですが。

 具体的には、この8年近く、三人だけで過ごして来たからとか。

 学生時代でも、ごく稀に三人だけで遊ぶ機会を設けたりとか。

 ユヒが体調不良でキャンセルしても、普通に予定通りデートしたりとか。

 多分、その辺りかなぁと」



 決まりの悪そうに、自白する留依るい

 


 気持ちは、分かる。

 別に友灯ゆいをお邪魔虫扱いしたいのではないけれど、結果的に、そうなってしまったのだと。

 確かに、最初から輪が出来ていた手前、三人だけの関係を大事にしたいのも、うなずける。

 俺ガイルで言えば、葉◯不在の三人組みたいな物だろう。



 でも、なんだろう。  

 それだけでは、ない気がする。

 もっと闇が深い、面映ゆいなにかが隠蔽されているような……。



 そう、英翔えいしょうが考えを巡らせていると。

 

 

「あ〜……」



 なにかを察知したらしく、彩葉いろはが意味深に呻き声を出す。



「やっぱりか〜……。

 大方おおかた、そんな所だろうと思ったんですよ……。

 同性だからこそ、友達だからこそ、言い辛かったわけですね……」

「はい。

 あまりに、しょうもなかったので」

「分かりますよ。

 しょうもないし、けど大事だし譲りたくないし、周りから『しょうもない』認定はされたくないんですよね」

「そうなんです。

 彩葉いろはさんも、そういった経験がおりで?」

「まぁ、何度か、お誘いが。

 生憎あいにく、私にはちんぷんかんぷんだったので、すべて丁重にお断りさせてもらいましたけどね」

「……?」



 話が見えず、困惑する英翔えいしょう

 そんな彼に、彩葉いろはは告げる。



英翔えいしょうくん。

 今までではさておき、こればっかりは、決して意地悪とかじゃありませんが。

 この真相、男性が辿り着く、解き明かすのは、至難の業かと思います」

「……てーと?」

「つまり、あれです。

 ようするに、鮮度が怪しい、豆腐的な趣味。

 早い話、BでLな感じです」

「あ〜……」



 ここに来て、英翔えいしょうは把握した。



 確かに、それは口にするのが憚られる。

 いくら気心の知れた間柄でも、破綻し兼ねないリスクが伴う。

 


「と、言いたい所ですが。

 それは、あくまでも友灯ゆいさん個人の見解、偏見であって。

 実際には、似て非なる要因なんですよね?」



 感心する英翔えいしょう他所よそに、更に切り込む彩葉いろは



 対する留依るいは、お手上げといった顔色を見せた。



「そこまで、お見通しでしたか。

 流石さすがに、感服致しました」

「確かに、そっちの趣味をお持ちの主婦もます。

 が、今の時代、それは新たなスタンダードとなりつつある。

 昨今でも、子供を連れながら堂々と、あるいは母娘おやこで耽美を嗜む購入層が少なからずます。

 まぁ、『教育上よろしくないのでは?』という別の事案も発生しますが。

 それは個人の自由、責任なのでお咎めし、無干渉に徹するとして。

 つまり、皆さんが後ろめたい要因は、他にる。

 すなわち、現状の中途半端さ、ニッチさです。

 焦れったい作風は好きですが、そういうやり口は苦手なので、最初から全問正解狙いで行きます。

 栞鳴かんなさんは、行為自体ではなく、男の肉体美メインの筋肉フェチ。

 明夢あむさんは、GLやBLを脳内でTLに変換する、TSしまくってカップリングを楽しむタイプの夢女子。

 そして留依るいさんは、本番ではなく過程こそイタダキ・ドストライクな、ブロマンス、ロマンシス寄りの、間怠まだるい雰囲気をこよなく愛する、寸止め派。

 私の見立てでは、さしずめ、そんな所でしょうか」

「……」



 ……え?

 それだけ?



 それだけのために、BL映画を観に行ったりしてたの?

 全員、本来の主旨から外れてない?

 それって、セーフなの?

 作者さんに対して、失礼に値しないの?

 てか、他の二人はさておき、栞鳴かんなさんは分かりやすくない?

 逆に、なんで今日まで直隠ひたかくしに出来できてたの?



「甘いですよ、英翔えいしょうくん。

 この際だから、頭に入れておいてください。

 女という生き物は、ともすれば男性よりダンチで業が深かったりするんですよ。

 まだ世間には明るみに出てないだけで。

 認知度が低いだけで。

 一日だけでも、本屋で働けば分かります。

 私も昔、オレンジ目当てで、ブックをオフしてましたので、分かります」

「もしかして、彩葉いろはさん」

「ええ、ありますとも。

 タイトル、背表紙買いしようと手に取った作品が、実は耽美だったと知り、途端とたんに恥ずかしくなって、床に投げ付けかけたり」

「ノーマルな同人誌を購入したもりが、そっち系を掴まされたり」

「純粋な意味で推してた作品が、思いっ切り不純な解釈違いで本に書き起こされて、その場で破り捨てたくなったり」

「何巻にも渡って一途に恋し続けてた主人公が、そっち系のヒロインに、にべもくフラれて炎上して打ち切られたので全巻、ちり紙交換に出したり」

「そっち派の人間が上層部に所為せいで、子供向けにもかかわらず、それっぽい描写を、ことろうに映画館でゴリ押しされて、追っ掛けるのを本気で止めそうになったり」

「大ファンの声優さんが、そっち系のドラマCDにも声を当ててて、複雑なジレンマに陥ったすえ、お布施だけして未開封で封印したり」

「同性なので多少なりとも理解は示すものの、あまりに趣味に走り過ぎたおぞましいイラストを目にして、気分を害されたり」

「とんでもなく下品かつストレートな表現で、カーテンとかもしに棚にいくつも面展されてるのを見て、軽蔑、嫌悪、ドン引きしたり」

「ただ漫画アプリを漁ってるだけなのに、そういった宣伝や広告を見せられて、ひたすら表示を停止し、あまつさえご意見を送ったり」

「男性作家のアレ寄りな表現に食い付き、噛み付いている、棚上げ底上げしまくり、ブーメラン刺さりまくりな、自称ゾーニング系に幻滅したり」

「最近、増加傾向にある、そっち系ヒロインに、『その、流行はやりに乗じただけの設定、る?』ってなったり」

「その設定しでも見応え抜群なのに、それってだけで勧めづらい上に、勇気を出して宣伝した結果、仕事に差しつかえそうなまでに気不味きまずくなった上に、しばらく誤解、曲解され続け、蹴落としたいだけの部外者にデマまで拡散されたり」

「……」

「……」

留依るいぃっ!!」

彩葉いろはぁっ!!」



 生き別れた姉妹と運命的な再会を果たしたみたいなテンションで、熱く抱き締め合う二人。

 これが数分後、『ルイロハ』というグループRAINレインを結成した二人である。



 その光景を見ながら、ぼんやりと英翔えいしょうは思った。

 留依るいが最初に感情を言葉で表した感動的なシーンが、こんな際どいギャグで充てがわれて良かったのだろうか。



「な〜に〜……。

 エイト、うるさい……」



 このタイミングで、さらなる唸り。

 意識も肉体も回復した友灯ゆいが、寝ぼけ眼でやって来たのだ。



「え……?

 ……え……?」



 目を擦り、パチクリとさせる友灯ゆい

 その場にた全員の視線を独り占めにした友灯ゆいは、たちまちパニックに陥り。



「……夢?」



 現実逃避に走った。



「ユヒッ!!」



 一目散に友灯ゆいの元に駆け出す留依るい

 酔いが覚めた明夢あむ、謎のポーズを取っていた栞鳴かんなも、後を追う。



「ユヒ、ごめん!

 私、腐女子じゃないの!

 ただ、友灯ゆい英翔えいしょうくんみたいな、友達以上恋人未満な関係が好きなだけなの!」

「……はい?」

うちは、夢カプ厨!」

「はい?」

「我は、筋肉フェチだ!」

「あ、うん、それは知ってた」

流石さすが友灯ゆいも、そこまでじゃなかったんだね……。

 良かったぁ……」

彩葉いろは、言い方ぁ!!

 てか、ちょ、ちょっと待って!

 栞鳴かんなはともかく、二人の情報が処理し切れない!

 あたし今、過積載!」

「ユーさんと俺は、トモコイ以上シンエン未満の、トコシエです!」

「エイトォォォォォ!!

 荷物、増やすなぁぁぁぁぁ!!」

なにそれ、斬新、近代的、大好物、主食、バズらせたい、広辞苑に載せたい!!

 もっと詳しく!!」

留依るいが、壊れたぁぁぁぁぁ!?

 留依るいの、クールなイメージがぁぁぁぁぁっ!?」

 


 こうして、思わぬ形で発覚した、三人の秘密フェチズム

 


 翌日、病み上がりなのを気遣われ、大事を取って休みをもら友灯ゆい

 にもかかわらず、そこら辺の気の置けない三人により、楽しみ方、価値観を持たないまま、BL鑑賞すべく映画館へと強制連行され、精神的に病むこととなる。

 その中で、友灯ゆいは痛感した。

 隠し事とオープンのバランスは、実に難しいのだと。

 


 ちなみに、三人の趣味趣向を理解し寄り添った結果、友灯ゆいの仕事も受け入れられ。

 英翔えいしょうから教わったラインナップ、クリーン・ナップを紹介するに至った。

 彩葉いろは璃央りお紫音しおんの話し合いは結局、あまり意味を持たなかったが、それぞれ新たに同士が増えたので結果オーライである。





 彩葉いろはの活躍(?)により、どうにか友人達とも和解した友灯ゆい



 恋人、同僚、友人。  

 断捨離され、紐解かれ、打ち壊され。

 複雑化した人間関係は、ほぼ正されつつあった。

  


 次から次へと訪れる、強大なピンチ。 

 連日、課題と現実を突き付けられる、激動の一週間。

 残る試練は、あと一つ。



『大事な話がります。

 次のお休みに、顔を出しなさい。

 さもなくば、勘当です』


 

 そしていよいよ、最後にして最大の難関。

 互いに生きている以上、絶対ぜったいに避けられない、唯一の壁。

 家族が、立ちはだかる。



「……なにしたの?」

「……RAINレインのID、消したままだった。

 電話やメールで充分かな、って……。

 もしかしたら、それかな……」

「あーあ……。

 だから、言ったのに……」

「ドラエイもーん……」

「はいはい……。

 今度こそ、俺がユイ・ポイント稼ぎますよ」

なにそれぇ……」



 しかも、そんな、反抗期の学生染みた原因によって、引き起こされたかもしれない。

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