2:観戦者…E/ビギンズエイト
どうしてかは、分からない。
どうやって来たのかも、それまで
それでも、
「おーい。
大丈夫ですかー?」
自分を呼んでると
それに導かれ、呼び起こされ。
「……?」
視界を広げ、辺りを見回し、
自分は一体、
「んー……。
まだ、本調子じゃないのかな……」
横たわっていた自分に合わせ、
妙に近いというか、初対面の
「……平気、です」
優しく手を払い、起き上がり、軽くストレッチする。
やはり、目立った異常は
「そっか。
なら、
快活に笑う女性。
明るい中に、どこか闇を秘めた、印象的な表情だった。
「おっと、いけね。
ごめん。
それと、これ。
良かったら、遊びに来て」
腕時計を見、
それは、『トクセン』とやらの場所のチラシだった。
「……俺に?」
「うん。
君、特撮好きっぽいから。
ほら。君の
指を差され見てみれば、確かにセブンガ◯のアクセサリーが視認された。
それはそうと、中々の観察眼の持ち主である。
「
気と興味が向いたら、来てみて。
歓迎する。
て
言うだけ言って、女性は走り去った。
お礼を告げようと、手を伸ばす
しかし、
「お客様。
大丈夫ですか?」
分かり切っていたが付近に、
どうやら、今の今までのは、夢だったらしい。
問題
「なら、
お酒は、
どうやら、酔っ払った大学生とでも勘違いされた
自分は
「にしても」
そこには
「
まさか、睡眠中まで手放さないとは」
「……?」
確かに、特撮は好きだし、ここに来た目的の一つではある。
しかし、妙だ。
一体、自分はいつ、チラシなんて掴んでいたのだろう。
ここで寝ていたのも、単に長旅で疲れていたに過ぎないのに。
近くに、大量に置いてあった
「……」
長考した
駅員さんに
新天地での生活を、
※
駅から程近く。山の上に位置する、仕事斡旋所『アッセンボー』。
四色から構成された派手なボサボサ髪と、童顔と不相応に物憂げな雰囲気。
来室と同時に、その場に
そんな
どうやら、システムが分からないらしい。
「あの、お客様。
立場上、カウンターの、筋骨隆々の男性が声を掛ける。
自分が呼ばれていると気付き、
「……すみません。
一つ、確認、
「はい。
受付の男性も、笑顔で対応する。
「ここって、仕事の依頼とかも、
「!?」
男性スタッフは驚いた。
遊んでばかりの大学生がオール明けにバイト探しにでも来たのかと思えば、まさかの雇用側。
が、そこはプロ。
そんな心中を開けっ広げなどにはせず、にこやかに返答する。
「ええ。
ご案内致しますので、お席にどうぞ」
リードするも、
スタッフが不思議がっていると、
「……すみません。
もっと、静かな場所、ありませんか?
極度の人見知りか、はたまた人前で口にするのは
「畏まりました。
では、あちらにどうぞ」
少し考えた末に、奥の部屋へと招く男性。
「……ありがとう、ございます。
優しいスタッフさん」
本当に男性なのか、疑わしく思えるレベルの
お
ノックとかドアノブ握るとか、その程度で抑えられた。
「
ささ、どうぞどうぞ」
動揺した拍子に、
個室に入り、きちんとドアを締め、念の為、施錠もする。
こうして、部屋に
「ここは防音で、外部への音声は全て遮断され、盗聴の危険は有りません。
本来、高額のご依頼に限り、プライバシー保護の観点から使用を許可されるのですが。
有事の
「それ……大丈夫、ですか?」
「ご
これも仕事ですから」
明らかに異様なオーラに包まれた、ともすれば
この、誰もが嫌がるだろうミッションを平穏無事に終え、おまけに新たな依頼を承ったとなれば、誰も文句は言うまい。
一瞬、過ぎったブラックな思考を捨て、笑顔を作り直し、着席する男性スタッフ。
テーブルと椅子だけという、殺風景かつカツ丼の出てきそうな、取調べ室みたいな場所で。
かくして二人は向き合った。
「して。
早速ですが、ご依頼内容について」
「……すみません。
その前に、
おずおずと手を挙げ、話を切る
妙に注文の多い客だなぁと思いつつ、スタッフは笑顔で返す。
「はい。
「もっと、ラフに話せませんか?
こういう、フォーマルなのは、苦手で……」
「と、
「タメ口とか、そんな感じに」
「な、なるほど……」
ここに勤務して早5年。
今まで数々を相手取って来たが、こんなリクエストは
が、お客様の意向に沿えるのであれば、自分に
なれば、自分が取るべき行動は一つ。
大人、人間としてのマナーを守る為の最終確認である。
「差し
「30」
「いや、読み取り飲み込み早っ!
しかも、え、年上!?」
「……と見せ掛けて、20」
「いや、流石に無理
ルックス的には
見せ掛けられてないから、もう全っ然、これっぽっちも!
アイドルでもしてないレベルでサバ読んだでしょ!?」
「ケチ」
「俺ぇ!? 俺が悪いの、ねぇ!?
あと、
「いけず」
「止めるぉぉぉぉぉ!!
俺は……! 俺はノーマル、ノーマルなんだぁ!!
嫁も子供も
愛娘を安心して進学させる
頼むからこれ以上、俺を目覚めさせかけないでくれぇぇぇぇぇ!!」
という
数分後。
「マジ?
「大変だった」
「そりゃそうだろ、かなりの遠出だよ。
いや、お疲れさん」
「ありがと」
「てか、住む所は?
こっち、別に出身地でもないんだべ?
仕事もだけど、そっちだって
「今日、別荘が
「いや、抜かり
あざと
「今度、来る?
大歓迎」
「おー、行く行く。
でもま、その
「りょ」
持ち前のコミュ力も手伝い、すっかり打ち解ける二人。
が、閑話休題。
「で?
どんな仕事をお望みで?」
「特撮」
「……ん?」
「特撮の話を、聞いて
トントン拍子に進んでいた会話が、やにわにブレーキした。
術中に嵌まる形とはなってしまったが、それでも
が、それは自惚れ。完全ではなかったと、身を以て思い知った。
「えと……
それが、仕事?
え、他には?」
「特に」
「ですよねー」
拍子抜けも
そんな業務内容なら今時、小学生の小銭すら稼げないではないか。
前代未聞の業務内容が
でも、仕事は仕事。
それに(不覚、不可抗力とはいえ)、仲良くなった義理もある。
与えられた役割は、きちんと果たさなくては。
そう言い聞かせ、兜の緒を締め直す。
「
「ん」
スタッフからの質問に、人差し指を上に向けて立てる
1000円か。まぁ、そんな所だろうと油断し、メモしようとした次の瞬間。
「100万」
ズコーッ!!
派手に音を立て、テーブルに頭を打ち付ける男性。
まさかの展開の連続に、頭が追い付かなくなりつつあるも、ツッコまずにはいられない。
「いや、おっかしいだろぉ!?」
「足りない?」
「そうじゃない!
特撮トークするだけだろ!?」
「んーん。
住み込み、生活費込み、使用人込み、確定申告の代理込み」
「
込み込み
賃貸じゃないんだぞぉ!?
特に確定申告、最高かよっ!
てか、使用人って
「ん」
「あんたかよぉ!!
家事まで
あんた
「偏見を持たない、あんまりディスったりアンチしない人が望ましい。
特撮に興味持ってくれない人はお断り。
SNSハシゴしてたり、裏アカ持ってる人は、要検討。
色々とだらしない人は無理。
プライバシー尊重しない、自分の要望ばかり押し通して来る、下ネタばっか連発する、パーソナル・スペース守らない人は、論外」
「いや、多っ!?
フワッとした内容に反して条件、多っ!?
と思いきや、ほぼ常識的な
「ちな、日割りも可。
成績によっては昇給、ボーナス付き。
業務中以外は、犯罪以外は何してても構わない。
有給、長期休暇も
あと、掛け持ちも可能」
「はいはーい!!
俺! 俺とか、どーだ!?
特撮興味
「……どうせ一緒に住むなら、女の人が
「そらそーだ!」
「あと、赤髪ロングかつオレンジ色の目で、ツッコミ
「いや、またしても限定条件多っ!!
しかも、常識的じゃないし、最後の要るぅ!?
「……
……直感?
……
「いや、知らんのかーいっ!!
てか、結婚相談所じゃねぇから、ここ!
そして
「すごーい」
プライドも体面もかなぐり捨て調子に乗った結果、
こうして男性スタッフの夢は、志半ばで、
「っくしょー!
悔しいぜ!
「これ、
友達として、いつでも遊びに、おいでやす」
「サラッと体
でも、ありがとよ!
今度、ダチとして、家族で行くわ!」
「うん。
待ってる。
対応してくれたのが、あなたで良かった」
「……それは、俺も思う。
受付に
「……?
掛け持ち、自由……」
「あんだけ楽に稼げりゃ専業主婦にジョブ・チェンジ一択だろ!?」
「『主婦』、じゃない。
あくまでも、『バディ』、『対等』、『同居人』止まり。
今は、男女平等の時代。もっと、尊重すべき」
「あんた意外と、しっかりちゃっかりしてんのなっ!?
だが確かに、失言だった!
今のは多方面に失礼だった!
すまん!」
「
ガッチリと握手を交わす二人。
こうして
なお、「希望者が殺到しパンクするから」という理由により、
※
職業斡旋所の仕組みが分からずとも、対応してくれた男性スタッフの浮き沈みが(彼にとっては)激しくても、大して動じない。
そんな彼でも、目の前の豪邸……
目の前に
「あの……」
「がははははっ!!
あんたが、依頼人
「話と違う……」
「んおぉ!?
「ここまでなんて、頼んでない……」
「がははははっ!!
そうは言われてもよぉ、
1億なんて大金その場で積まれちゃあ、こん
こちとら、ボッタクリじゃねぇんだからよぉ!!」
「そうなの……?」
「そうだよ!!
っても、スケジュールや人数、資材の都合上、これ以上でかくは
あ、これ、あれだ。
1話分のギャラ渡した積もりが、相手にとっては1クール分だった、アマゾン◯的なオチだ。
いや、でも今回は自分がスポンサーだったから、逆アマゾン◯的か。
……『逆アマゾン◯的』って、
他に使う機会、果たして
「おぉ!?
どうした!?
ビビって腰抜かしちまったかぁ!?」
「まぁ……」
「がははははっ!!
思ってたより素直じゃねぇか!!
気に入ったぜ、
気に入った。
その言葉は、
「……友達?」
「俺と、
がははははっ!!
こんな老いぼれで
「する」
「がははははっ!
まぁ
都会に揉まれて、疲れちまっただろ!!
こっちでは、ゆっくり、気長にやんな!!
おら、野郎共!! 我等が依頼人
とっとと挨拶しねぇか!!
そしたら各自、帰宅してシャワー浴びて着替えて家族も誘って、今夜はド派手に、どんちゃん騒ぎと洒落込もうぜっ!!
がははははっ!!」
……
ともすれば、工事現場の騒音より気になる
何はともあれ、賑やかな職人
こうして
※
続いて
ライダ◯のスーツやベルトの展示の他、他作品と様々なコラボもしている、町のシンボルの一つである。
ではなく。
「いやぁ、お待たせして申し訳ない。
まさか、私服でお越し頂くとは思わず」
「……こちらこそ、すみません。
今、他の服、持ってなくって。
こっちに引っ越しするまでの間に、着替えの服、全部、捨てちゃたみたいで」
「大変でしたね。
でも、それはそれ、これはこれ。
では気を取り直して、面接を始めさせて頂きます。
「どうぞ、
そう。
就職面接を受ける
「して、もり……。
……すみません。
お名前、
「あ……。
えと……」
どうやら、持参した履歴書の振り仮名欄を埋め忘れたらしい。
そんな心境を察したのか、面接官が気を回す。
「『モリマル』、さんですかね?
失礼しました。
モリマル。
=愛称。
=友達。
「あ、あれ?
違いました?」
「モリマルですっ。
どうぞ、どうか、
「あ、はい。
すみません、ちょっと圧、下げれますか?」
「頑張りますっ」
「
余計に圧が増すので」
本日、そして人生で3人目の友達(
が、その友達のお願いなので、
余談だが、
「では始めに、モリマルさんの
「『
「『
二人が口にした、『
それは、巷で大人気のゲームのサブスクの名前。
月1000円で、公式からの承認の下、名作レトロ・ゲーム、PCゲーム、ケータイ・ゲームなどが合法的に遊べるというアプリ。
課金前提の現代の風潮に正面から
発表とサービス開始が同時だったのも
その関係者が今、目の前に鎮座している。
「し、失礼しました。
私も『
「ありがとうございます」
「こちらこそ。
「『絆、関係を作る』というフランス語、『
それに、『変身する』という意味の『
この2つを合わせた造語で、『ユーザーの方々との絆を培うアプリに変身する』というコンセプトの元、自分が命名しました」
まさかのルーツ、名付け親の発覚。
確か、それらの情報は未発表な上、中々に凝っておりハキハキと受け答えしている所から察するに、考察や推測とは考え
つまり……本当に、関係者なのだ。
「なるほど。
「それぞれの著作権会社へのコンタクト及び承諾獲得。
スマホ版に移行する上での新しい操作性の確立。
デバッグ、テスト・プレイ、音量やアスペクト、スクリプトや時事ネタなどの微調整。
プレイヤーからのリクエストや質問、手紙の確認。
未完シナリオなどの補完、データ容量のコンパクト化。
海苔や光のカット。
悪質な違反者への対処。
SNSやホーム・ページでの情報発信。
ご新規
あとはお留守番ですね」
「……」
日本中でブームを巻き起こしたゲーム会社が、まさかのワンオペ。
長年、館長を勤めていた面接官でさえ不測、未曾有の事態である。
「えと……つまり、あれですか?
あなたが、孤軍奮闘し続けていたと?」
「いえ。
他に、何人か上司が
「『何人か』?
それに、『
「会った
自分をスカウトしてから毎日、接待に明け暮れていたので」
「な、なるほど〜」
……「それって他力本願のサボりってか、ただ遊び三昧だけしていた呑んだくれでは?」とか言っちゃいけない。
「
会社に住まわせてくれたり、『取り分は一人当たり50万で
お
「あ、そ〜……」
……「取り分多
「あと、仲良しなんですよ。
定時まで働いた後に、俺の奢りで、いきなり3次会まで誘われた
お酌とかの古臭いノリとか、無理やり連れて行かれたキャバクラで逆セク受けたり。
その後にハンドル・キーパーとして、深夜に四人の上司を送ったり、住所を事前に知らされなかった上に道案内もままならなかったので、何度もガソスタに行き、追加で酒や煙草も買いに行ったり。
終わって早々、一睡もしないまま、早朝から定時までの出勤を余儀なくされ。
経費は落ちなかったですけど、プライス・レスですよね」
「かなぁ……」
……「この人、
「ただある日、
そんな状況で住み込み、
「タイヘンデシタネー」
……「それって悪酔いした結果、
……「そんなセンセーショナルな事件なのに、『酔っ払いの
てか、この人、どんだけ純粋で優しいのっ!?
アクマイ◯光線受けても平気そうな
てか今の話がマジのガチに
そもそも、別の仕事求めてるのも、よりによって
今まで色々語ってたけど、それって、あなたの感想ですよね!?
もう完全に、『
罪悪感とか一切覚えなくて
こんな勿体
これ完全に、エグゼイ◯のオーディションで「君、
どう考えても、役不足にしかならない!
「あ、あのぉ……」
「すみませーん。
ちょーっと失礼して
「あ……はい……」
席を離れた面接官は、
案の
「あー、モリ……マルさん、お待たせしました。
あなたの上司の方々と連絡が付きまして。
これからは『
どうやら全員、のっぴきならない諸事情により、今のタスクは満足に
「そうだったんですか?
良かったぁ……お元気だったなら何よりです」
「ええ、
これからはモリ、マルさんに、『
従って、
「大丈夫です。
お手数お掛けしました。
お
心機一転し、これからは堂々と、『
「楽しみにしています。
「いえ。
失礼します」
「御機嫌よう。
ご健康とご多幸をお祈り申し上げます」
「館長も、お元気で。
次は、プライベートで来ます」
「いつでも、お待ちしております」
こうして館長に見送られ、
なお、彼のバイクが見えなくなった頃、ドッと押し寄せた精神的疲労により館長は気絶、
また後日。
のらりくらりと、
※
次に
事実、ドームらしき建物が建設中で、それだけで
ここに来た目的は二つ。
観光と、特撮好きの同居人(女性)探しである。
期待に心を震わせ、いざ入店。
「あ。
……お疲れ様です、お客様」
早々に、
中性的な、どこか自分と似た顔立ち。
爽やかで甘く、高い声。
細身で小柄。
優しそうなオーラ。
清潔感の有る手袋。
……と、
よく見ると、華奢と思われた腕は
更に、
つまり……俗に言う、
with細マッチョ。
それを撤回しよう。可愛ければ、それで
「あのぉ……お客様?」
上目遣いで、
色んな意味でショックを受けていた
「あ、あの……。
特撮は、お好きですか……?」
ガッチガチになった結果、お見合いっぽく尋ねる
店員さんは、少し驚き、顔を赤らめ気恥ずかしそうに伏し目がちに。
けれど、彼に
「……はい。
大好き、です……」
正直、「男の
今、はっきりと分かった。
男だろうと、カワイイはつくれる。
証拠に自分は今、オチかけていた。
大好きのタゲを、自分だと誤解してしまいそうになった。
「ちょっと。
危うく戻れなくなりつつあった
振り返った先には、同じく中性的な、長身とハスキー・ボイスが特徴の美形。
その胸には、「
……紛らわしくない?
と内心、思ったが
「リオ
見ての通り、商材運びだよ?」
「じゃなくて」
リオ
「……
急に消えたから、心配したでしょうが。
いつも言ってるでしょ? 『持ち場を離れる時は
ヅカ系女子、まさかの構ってちゃん&束縛しい発動。
まるでSFや冒険物の、主人公とヒロインの、感動の再会シーンみたいな
瞬間、二人はラブコメ・フィールドを展開。
「ちょ、ちょっと、リオ
今、仕事中……お客様が、目の前に……。
てか、ここ玄関……。
「知ったこっちゃない。
てな訳で、
意見、質問は認めない」
「きゅ、休憩、って……。
ど、どういう意味で……?」
「あら?
一体、この
あんたの口から直接、お聞かせ願おうかしら。
それとも……あんたの体で直接、確認した方が早いかしらねぇ……」
「……もぉ。
リオ
相手の上半身を妖しく指で弄り、耳つぶし、明らかにスイッチの入っている
そんな二人を眺めながら、
これ、お子様向けのショップでなくても
「おらおらぁ、
トッキュートなバイスケボーイきゅんのお通り様ですぅ!!」
今度は横から、雑な敬語が届いた。
続け様に「キキィィィィィッ!!」という物凄い音を立て、セブンガ◯の両目みたいなゴーグルを着けた、研究服の女性が現着した。
三人が耳を塞ぐ中、真っ先に声を掛けたのは
「
あんたねぇ。仕事中に何やってるのよ」
「それは、
「ほほぉ?
あんただったのね?
この
いい根性してるじゃないのよ、このすっとこどっこい。
そもそも、そんな手段があるなら、あんたが最初から来れば事足りたんじゃなくって?」
「そうです! 忘れる所でした!
見てください、これ!
ケーちゃんが仕上げたばかりの新作!
名付けて、『バイスケボーイきゅん』!
バイ◯のジャッカル◯ノムのデザインをベースに開発され、立体映像により劇中ばりに顔が動き、軽くなら飛行も可能!
コナンく◯も驚愕の超高性能ターボ・エンジンとソーラー搭載、
更に、ケーちゃんにキレられボコられながらも
もう、もう、もうっ……サイッキューでしょぉ!?」
「いや、
「あれだけ派手に飛ばして来たら、ねぇ……」
「ガーン!!」
何故か背中を向け、海老反りしながら叫ぶも、自信作をコテンパンに叩かれ、気落ちする
そのまま膝をつき、泣き出す始末である。
かと思えば、
「……何を言いますか!!
違います、バイスケボーイきゅん!!
君は一切、悪くないです!!
君の罪は、あくまでもサイキューな
そもそも!! 埃や垢、ニキビやフケ塗れになった
「そうはならんやろぉ」
「な〜る〜のぉ〜!!
悪いのは、こんなにラブリーでチャーミングでキャワワワワンダー!! なバイスケボーイきゅんの魅力を
こんな人達が同僚なんて、
「限度を知れよ、マッド色彩エンティスト」
「そのフレーズ!!
レッツ・イタダキ・ストライクです!!
実にキャッチーで美しく、おまけにトッキュートです!
そうです、
空ぅぅぅ前っ絶後のぉぉぉぉぉ!!」
バイスケボーイきゅんに耳を当て、泣きながら抱き締め、人を指差し、
そんな彼女は、
「もぉ、
そんなに騒いじゃ、めっ。
お客様にご迷惑でしょぉ。
ごめん、リオ
「40秒で戻って来なさい。
「分かったぁ。
騒がしくてしてごめんなさい、お客様……。
ゆっくり……は出来ないかもですけど、楽しんで行ってください……」
一騒動の後の結論。
見てる分ならともかく、あの愉快な三人は、同居人としては無し寄りの無しだ。
「うぇーん……うぇーん……」
台風一過の後、店内を物色していると、やにわに子供の泣き声が聞こえた。
見ると、迷子らしき少年が一人、ポツンと立っていた。
周りの客も気付いているが、思いあぐねている
止むを得ず、
「はいはーい。
どーしたのかなぁ?
お姉さんに、話してごらーん」
程無くして、女性スタッフが一目散に駆け付け、屈んで目線を合わせ、声をかける。
すると少年は僅かに泣き止む。
「
ママと、
「そっかぁ。
こんなに
そりゃ、お母さんも見失っちゃうよね」
「……トリガ◯……」
「と、トリガ◯?
って、どれだっけ?」
「ん……」
どうやら、それが気になっていたら、迷子になってしまったらしい。
「そっか。
じゃあ、お姉さんと一緒に、あっちでお母さん呼ぼっか?
それまで、そのトリガ◯さん、君が預かっててくれるかな?」
「……うん……」
「決まり〜。
君、お名前は?
私は、
「……カケル……」
「カケルくん!
じゃあ、お姉さんと一緒に、あっち行こっか!」
「……ん……」
立ち上がり、迷わずに手を差し出す
カケルくんは、少し
二人は、放送用のマイクの有るカウンターへと歩き始めた。
数分後、無事に合流を果たし。
その一連の様を傍観し、
「……」
現時点での最新作を知らない辺り、特撮の知識は薄い。
けれど、ここに
そして今の、別け隔てなく助けんとする心、姿。
彼女こそ、自分の同居人に適しているのではないだろうか。
※
職場を去り。
待ち合わせ場所に
戻って来て数分で恋人と別れ。
近くのバーに行く。
そんな
これは
彼女の働き
決して、犯罪行為などではない。
ちょっと、状況が
「あのぉ」
などと言い訳していたら、目の前に別の女性が立っていた。
慌てふためきつつも頭を下げ横に移動し、玄関へと通す。
驚くべき
「……!?」
素通り
交わされた会話の内容から二人が、『前々から面識が有る、婚約を前提とした、しっぽりとした関係』である
瞬間、
普段、怒りとは無縁の
勘弁ならず、
が、今は
先程、そして今の様子から察する限り、相手の女性には
悪いのは、
一時の激情に駆られ、ここで
確たる証拠も
それに、あの女性には申し訳ないが今、自分が優先すべきは、彼女ではない。
真相を知った自分には、
急ぎ、彼女に会わなくては。
そう思い立ち、二人や店員に不審がられぬ
が、そこで思わぬ壁に当たる。
看板をよく見ると、
つまり
しかし、にしては妙だ。
ドア越しに映る店内はまだ明るく、
ひょっとしたら、店長が気を利かせてくれたのだろうか。
こうしていても、埒が明かない。
意を決し、
彼女は、あられもない顔でカウンターに突っ伏しており、自分を見た途端、
ただならぬ形相をしていたからか、落ち着いた雰囲気のマスターが、
「いらっしゃいませ。
そちらの女性の、お知り合いの方ですか?」
「えっと……」
知ってはいるが、大して詳しくない。
知り合ってはいない関係性により、
そんな
マスターは、一杯のモクテルをテーブルに置いた。
「立ち話も
サービスさせて頂きましたので、どうぞお召し上がりください」
「……」
店に入る前に確認したが、ここの閉店時間は、数分前に過ぎている。
つまり、自分も
にも
そこまでの図太さ、愚鈍さを
「先程から、
自分は、優しくなどない。
彼女に同居人になって
現に今だって、
そんはエゴイストが、優しい
「
マジで営業中じゃねーか」
「だーから言ったろ?
明かり
落ち込む
二人は、通り道を塞いでいる
「すみません、お客様。
今日はもう、閉店でして」
「固ぇ
金なら持ってんだからよぉ」
店長の言葉を無視した二人は、店内を品定めし始め。
今にも蛇の
「おいおい。
上玉じゃねぇかよ」
「マジだ。
うっは、ツイてる!」
慇懃無礼な態度の目立つ二人は、
おまけに、カウンターに置かれていた、
「ざっけんなよ、
ノンアルなんか出してんじゃねぇよ!
もっと俺様に見合った、シャレオツなもん出せやぁ!
一銭も払ってやんねぇぞぉ!」
などと勝手にキレ、地面に投げ付け、グラスを割る。
堪忍袋の緒が切れた
「がっ!」
「ぐえっ!」
よりも早く、テーブルの下に仕込んでいた棍棒で、二人は頭を叩かれ、呆気
二人を一瞬で片付けたマスターは、瓶やグラスに当たらない範囲で、得物を回してみせる。
年齢を微塵も感じさせない、カンフー・スターも真っ青な見事な棍棒捌きを披露し、
「実に
近頃の
カウンター越しに二人を同時に棍棒で
こうして悪漢コンビは、雪が降り
どうやら、マグネット
一体、どんな内部構造なのだろうか。
そもそも、某アメリカのケツの盾ばりに物理法則を無視している
というか先程から、まるで
「お騒がせして申し訳ありません。
今、新しいドリンクをご用意致しますので、少々お待ちを。
それと、今ご覧頂いたのは、どうかご内密に。
私が手を下すのは、店の景観を損なう場合に限ります
「……はぁ……」
煮え切らない、
そして、(体が元通りになった)マスターの振る舞ったドリンクを頂く。
「して、お客様。
お見受けした所あなた様は、当店の本日の営業時間を把握した上で、お越し頂いた
やはり、彼女の
「まぁ……」
「やはり、そうでしたか。
最初から、確信しておりました。
「いや……」
「おや。
まだ、そういう関係ではありませんでしたか。
これは、失礼致しました」
「しかし、実に豪胆なお方ですね。
あれ程の賑やかさでも一向にご起床なされないとは。
この調子では、お一人でのご帰宅は困難でしょう。
かといって、タクシーをお呼びして財布を痛めさせるのも思わしくない。
それでは、当店がボッタクリの
「まぁ……」
「
「……」
先程から散見されたが、このマスター、どうも老婆心が強いらしい。
別に現段階、というか
「ふむふむ。
「まぁ……」
「彼女に
「はい……」
「あい、承知しました。
では今晩の所は、彼女は当店でお預かり致しましょう」
「……はい?」
そんな、「お取り置き」みたいな感覚で拾われても困る。
そして、いつの間に彼女を、お姫様抱っこしていたのか。
それまで防戦一方だった
「あの……。
それは
「お話を聞いた所、彼女は今、フリーという
であれば、この老いぼれにもチャンスが
「どこの世界の名医ですか……。
いや、少なくとも俺より
「はっはっはっ。ご安心を。
順を追って、
「すみません。
全部、分かった上で、狙って言ってますよね?
痺れを切らしつつある
そんな彼を、それまでの柔和な雰囲気を崩し、マスターが鋭い眼光で射抜く。
「では、
あなた様が、この女性をお
「……」
臆病、未熟、卑怯者。
が。
ここまで
というか。
「……ハメましたね?」
「はて。
近頃どうも物覚えが悪くて。
いやはや、お恥ずかしい」
記憶が
が、ここで彼の機嫌を損ねるのは望ましくない。
「ささ、ご準備を。
今から、あなた様のご自宅までお届け致しますので」
車の鍵を用意したマスターは、ドアの看板を『closed』に裏返し、支度を整える。
察するに、自宅まで送ってくれるらしい。
……だったら彼女の家に向かえば、と思ったが、意識朦朧としている
そもそも起きた所で、状況の説明も、混迷を極めている。
やはり、不承不承ながら、
無難、最善策かどうかはさておき。
こうして二人を乗せ、マスターの運転する車は一路、
余談だが、彼の家を見た結果、好き者な
その
数分後、『エスペランサー』の住所、電話番号の書かれた名刺がポケットに忍び込んでいたのを知り、驚愕する
ゲスト・ルームのソファーに
引っ越してから、何人もの友達が
ここに来て、どうやら厄介なタイプまで増えてしまったらしい。
※
不可抗力とはいえ、向こうにとっては面識の
最早、「異性とか関係とか特撮の知識とか結婚詐欺されてたとか置いといて、同居人になって
この
長考の末に、
我ながら
では、首尾良く証拠を提示するには、どうすべきか。
やはり、録音、録画か。
そう思い至り、
が……やや
確かに、これが
が、そういった考えも利己的ではないか?
自分の安全を図ろうとした結果、彼女の恥ずかしい面を捉えてしまうまいか?
良かれと思って
それっぽく述べて、スマホを差し出すだけで事足りる、信用に足るのではなかろうか?
そもそも、こうしてウダウダ悩んでる
今日一日で、色んな
おまけに、ここに来るまでの道中も、かなりの長旅だった。
極め付けに、時刻は
とどのつまり
「ん……ん〜……。
ごご……どごぉ……?
んぁ……? だれだ、おめぇ……」
眠気と疲れと目眩に襲われていた
まだ
焦点の定まらないままに、起き上がった
このままは、
明らかに客用の衣装ではないが、緊急時なので、多目に見るなり目を瞑るなりして
「……ん〜……。
あり〜……」
汲み取ってくれたのか、
部屋に戻り、(残ったお金で大工さんが購入してくれた)リラックス・カプセルへと入り、コンディションを整える。
1時間後。
快調になった
ドア越しに聞き耳を立てるも、何も聞こえない。
試しに少しだけ開け中を覗くと、ラフな服装になった
念の
こんな謎、スキャンダル過ぎる状況でも呑気に寝ていられる辺り、確かに彼女は大物だ。
そんな彼女に
だからこそ、辛坊ならなかった。
弱みに付け込み、こんな気の
それはもう、ともすればグロウルを上げそうなまでに。
はたと、
そういえば自分は、その事実を、渦中の
それこそ、彼女の
だが、しかし。
一体、どの
そんな風に頭を働かせていると、ふと全身鏡に自分の姿が映る。
明らかにWを意識したカラーリングの、髪と目が。
「……そうだ……」
自分の最オシたる番組に、今回の趣旨、需要と供給にベストマッチな回が。
正直、そのイヤミス的な作風も
おまけに、『トクセン』での
しかも、これから見せるのは、導入回ですらない。
何から何まで、悪条件。
けど、それ
つまり、彼女が真実を知る
行ける。もう、これしか
説明不足な部分は、自分が補えば
実況視聴を強制させられている理由も、それとなく繕えてしまえばいい。
でっち上げと言われようと、
細かい諸々は無しに、ただひたすらに自分は、今の彼女を救いたい。
あんなに気立ての
そんな世界、自分が変える、壊す、根絶やしにしてやる。
覚悟を決めた
続いて、自分的なオフっぽい、それでいてフィリッ◯っぽくも
仕上げに、大型スクリーンを配置し、部屋を暗転。
こうして、あたかも映画館、鑑賞中の
いざ、視聴開始。
あとは、本日の主賓、ターゲットが独りでに目覚めるまで待機していれば
そこまでして、
自分はもう、今の時点で、かなり
初日にして、まだ
彼女が、自分をどう思うのかは定かじゃない。
けど自分には、彼女とやって行くビジョンが見えており、実際に生活して行けそうだ。
そう考えると、
早く、目を覚まして
早く、彼女のリアクションが見たい。 早く、彼女に心から、自由に笑って
そうやって
思い入れが詰まった大好きな内容が、
これが、
後に
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