1年目:「解決」編
1:観戦者…U/ビギンズデイト
「今日も疲れたね。
お疲れ様、リオ
「お疲れ様、
確かに、マガオロ◯級だったわね」
「
でも
「話逸れてるしトロトロになってるわよ、
「ところで皆、これから予定ある?
良かったら、飲みに行かないかい?
「チョーイイネ!」
「サイコ~!」
「ゴチです、オカミさん」
「あんまり期待しなさんな。
あと、もう少し分かり易く答えておくれ。
私ゃあ、そっち方面まだ明るくないんだよ」
「『まだ』って
お教えしましょうか?
オカミさんなら、ジェットマ◯とか特に刺さると思いますが」
「しまった、墓穴掘った」
仕事終わりの休憩室にて。
後ろで賑やかに展開される話に耳を傾けつつ、
「あれ?
司令は、飲みに行かないんですか?」
ドアノブに触れたタイミングで肩を揺らす
最年少からの無邪気な一言だったのも手伝い、
名指しまでされた以上、素通りは
覚悟を決めた
「い、いやー……。
……どーかなぁ……」
……
思案に暮れていると、不意にスマホから通知音が届く。
差出人を確認した
「おんやぁ?
もしかして、彼氏と先約でも
「え!?
いや、まぁ……」
どっちかってーと、『
が、そんなリアルな実情を説明した所で、同情なりドン引きなりされるだけ。
かといって、
「大変……!」
「そうですよ!
司令、
「こっちの
また近い内に、気軽に誘うさ」
「御馳走は
たらふく食べて来てみせるから」
「だから、奢りじゃないってるだろ。
内の家計、圧迫するんじゃあないよ」
そんな神対応をされた手前、
「……
今度、埋め合わせするから」
「礼にゃあ及ばないさ。
行くよ、皆の衆」
「ガレット」
「ロジャー」
「ギョイサー」
「……店長。
早い所、有能な翻訳家をスカウトしてくれないかい?」
「あ、あはは……。
善処します……」
全面的に同意しながら、4人に手を振って見送る
他に誰も
ここに来て、プレ・オープンしてから
正式に店長に大抜擢されてから、早1週間。
にも
その現状に、
「っと……」
が、せっかちで束縛しいな彼氏は、どうやら落ち込む時間すら与えてくれないらしい。
そうこうしてる間に、またしても
重い足取りのまま、待ち合わせ場所のバーへと向かった。
※
「別れて
オーダーする前から、労いも挨拶も無しに、開口一番に切り出された。
一張羅を纒い駆け付け着席した
予想済みだったとはいえ、その精神的ダメージまでは織り込めていなかった。
「
さも僕が一方的に悪いみたいじゃないか。
断っておくけど、僕はあくまでも被害者だよ。
自分の立場を弁えなよ、
先に注文済みだった
その裏で、火に油も注いでいる
「驚いたよ。
特撮なんていう低俗な物を、まさか君の店で扱っているなんて。
あんなの所詮、子供番組じゃないか。
いつもいつも、似た
あまつさえ、最近では次から次へと、
悪行の片棒を
僕は恥ずかしいよ。今まで、こんな相手と付き合ってたなんて。
良くもまぁ、おめおめと僕の前に来れた物だ。
その胆力にだけは、一周して敬意を表するよ。
要件はこれで終わりだ。
さぁ。とっとと帰って、痛々しい連中と不気味な論争でも繰り広げて来ると
テーブルの上にドカッと足を起き、行儀悪く「しっ、しっ」と手を払う
が、
そこで、
「……それだけ?」
握り拳を震わせ、血が出そうなまでに噛み締め、俯いていた顔を上げ。
「こっちの事情も苦労も汲まずに、いきなり一方的に呼び付けて。
着いたら着いたで、『
真冬の寒空の下、雪を掻き分け、滑らない
仕事の内容、
そっちが言う所の『恥ずかしい
自分から命令した
どう考えても、
てか、テーブルに足乗っけてる無作法な無法者にマナー説かれる
語気を荒らげ、面倒そうに頭を掻き、自嘲しつつ、
「こちとら、もう三十路だからさ。
親が揃って『結婚、結婚』、やいのやいのと
あんたの自己中にも目ぇ瞑って、適当に結婚して、早々に離婚してやる
バツイチにでもなりゃ、親も
でも……もう勘弁ならない」
グラスを奪い、怒りの形相で、
どよめきが走る店内。
同時に、
「
このスーツ、
「あんただって、
自分以外、どーでも
どーせそっちだって、世間体の
あーあ、
場違いにも呑気に伸びをしつつ、纏めていた髪を解き、電話帳などから
白いYシャツのシミを滑稽に思いながら。
「あんたの心のが、その服の何倍も汚いよ。
別れられて良かった。
二度と
サムズ・ダウンしつつ、預けていたコートを無言で回収し、
「……寒っ」
襲い掛かる猛烈な寒さに震えつつコートを纏い、ポケットに入れていたマフラーで口元を覆い、イヤ・マフも装着する。
そこまでは順調だったが、思い出した。
あの直後に家に帰れる
遅ればせながら飲み会に合流しようか。
一瞬そんな考えが浮かんだが、
そもそも店の場所も名前も知らないし、今から聞くのは都合
けど、このモヤモヤと爽快感の合体した気持ちを整理するには、やはり直帰では物足りない。
「お?」
そんな心境で周囲を見渡していると、丁度
古き良き、モダンな喫茶店である。
近付き、『エスペランサー』という店名の書かれた看板を見てみる。
どうやらアルコール類も置いており、あと1時間は営業中らしい。
「しめたっ」
ガッツ・ポーズをしつつ早速、入店する
店内には、ロマンス・グレーのマスターのみ。
雪が幸いし、人気も薄いらしい。
これは益々、
これも
正直、
どうせ明日は非番なのだ。今夜は、とことん飲み明かすとしよう。
そう決意し、童心に帰った
が案の定、何杯かで意識朦朧となり。
そして
しかも俗に言う、彼シャツ状態(下にカーデは羽織っている)で。
※
そんなこんなで、冒頭の数分前に至る。
「ん……」
中々に危険な状況に置かれながらも、呑気に目を開け上体を起こし伸びをする
きっと、高いベッドに新調したお陰だろう。
……いつ新調してたっけ?
「ん〜?」
薄ぼんやりした視界で、周囲を見渡す。
……
「うひゃおわぁ!?」
奇妙な悲鳴を上げつつ下がると、横からパリパリという音が届く。
横を見やると、喫茶店に
明らかにカラコンの入っている赤い両目。
どこか達観してる
大学生
ロング・パーカーにベスト、ネクタイ、極めつけに犬耳という、
普通じゃないオーラがヒシヒシと伝わってくる彼は、やがて
かと思えば、モニターの画面を落とし照明を
「……どーぞ?」
と、疑問系で手渡して来た。
「……」
受け取りつつも、
この謎過ぎる現状に、どこからメスを入れようか。
そもそも自分は、目の前の奇天烈くんと致してしまったのだろうか?
「……誓って言うけど、何もしてない。
一人酒してたら、
おまけに、『閉店の時間だから』って、店長が申し訳無さそうにしてたんで、あなたを連れて退店して。
住所聞いても呂律回らんくて聞き取れなかったから、
ほいで服は、酔っ払いながらも、あなたが自分で着た。
渡した後は、俺は席を外してた。
ちな、未開封かつ未使用品。
で、外で待たされてたら寝息が聞こえて来て。
俺は今夜、ここで特撮視聴する予定だったけど、あなたの様子が心配だったから。
もしもの時の
その反応見る限り、杞憂で済んだみたいで、良かった。
当たり前だけど、変な
証拠、保険として、一連の流れをムービーで撮ってたから、不安だったら確認してくれて構わない。
なお、プライバシー保護の
てな感じだけど。
他に
5chのスレタイみたいに締め。
男性は自分のスマホを、
奇抜な格好の割に、少し引きそうなまでに細やかな、彼の気配りに。
「……ううん。大丈夫。
疑って、ごめんなさい。
助けてくれて、ありがとう。
えと……」
「
あなたと同じで、30歳」
「タメェッ!?」
居住まいを正し礼を述べたは
続いて
「あれ?
「『トクセン』のホームページ」
「あ〜……」
などと、
『トクセン』。
現在、
まだ創設されたばかりであり、『新規の女性ファンを開拓する』というコンセプトも
「ここ、俺の別荘。
握手会とかが『
っても、東京で失業したと同時に家も手放したから、今日からはメインだけど」
「はぁ……」
……
ただ、『ベスコン』とは『ベスト・コンディション』の略称という解釈で
それと、『別荘』という割には、ちょっと設備が
カラオケの、
「ところで、
「
「じゃあ、
どうして、
ここに来て
「
今回の、3つの理由。
1つ。傷心のあなたを、見るに見兼ねた。
2つ。『優しさを忘れないで』って、特撮から教わった。
3つ。ライダーは助け合いでしょ」
「ごめん。
最後だけ、良く分からない。
オープンに本音を明かした
今までの流れからして、
そして自分は、肩書上は、特撮グッズを扱う店のボス。
つまり
ふと、そんな考えが
助けられて
それとこれとは、話が別である。
一方の
それどころか、得心した様子を見せた。
「だと思った。
それにホームページに、『前職はアパレル系』って書いてた。
またしても
ここまで露呈した以上、開き直ろう。
自らに言い聞かせ、ベッドの上で体育座りをしつつ、
「当たり。
他の
あとは、ペット・ショップの店長」
「
機械や物に話す人は見た
あれはもう、
実際には、『プレパン』からの派遣社員だけど」
「いやホントに鋭いな、おめさん。
「お互い様でしょ?
長かったり説明不足だったり唐突だったりと極端な俺の話も、飽きずに諦めずに真剣に聞いてくれてるし」
「そう?
「うん。
俺も、
「いちいち
彼の無邪気なオーラに当てられたか、久しぶりに臆面も
面と向かって喋った
ここまで異性を意識せず、それでいて最低限、適切な距離とラインは守り、向こうから過度に近付いて来たりはしない。
どこまでも都合だけが
「で?
「
「前の会社で『ファスト系』って言われる
いや、ファスト映画は見てないけど。あくまでもネタバレ記事とか感想読み漁ったり、食事もバーガーやポテトばっかだったけど、それで満足するってーか……。
その上、特撮は門外漢だけど、それでも
「……
それ、大分クリティカルな殺し文句……。
最後以外……」
それまで気怠げ、無表情だった
依然として顔を赤らめたまま、
映ったのは、
「これ、
ほら、あれでしょ! 菅田◯暉!」
「デビュー作」
「だよね!?
うひゃー!
「10年以上前。
俺は、もう一人の相棒が推しだけど」
と、こんな調子で、温度差も交えつつ、オーコメ風に視聴開始する二人。
が、やがて
「……ねぇ。
「探偵物だから。
「特撮のターゲットって、子供じゃなかったっけ……?」
「最近では、大人や主婦層に向けても作られてるから。
子供は、ヒーローは勿論、派手なアクションや爆発だけでもキャッキャするし」
「進化してるなぁ……」
「ライダーだけに、時代に合わせて『変身』してる」
「座布団1枚」
2分後。
「ねぇ。
「あの車、最初に轢き逃げされた人の怨念が宿ってる自動操縦型。
今回の被害者、山村 幸さんは、結婚詐欺師に騙されてたのを知って傷心中に、ストリート・ギャングの運転する車に轢かれた。
けど直前に、ガイア◯モリってアイテム使って、精神だけ怪人化した結果、それが車に乗り移った」
「幸さん、不運
あと、てんで子供向けじゃなさ
「中の人の趣味。
別世界でも、『愛していた彼女が実は敵の操り人形、つまり死人で、自室で不気味な化け物や胎児を書いてた末に、主人公の腕の中で死ぬ』ってシナリオ書いてた人だから」
「子供向けって、
「このサブ・ライターさんの手掛けたライダー、半分
「ねぇ、子供向けって
そして前編が観終わり、後編の半分に差し掛かり。
「お前ぇ!
ちゃっかり自分だけ生き延びやがってやぁ!」
「そもそも、こいつが今回の巨悪なのにね」
「
おめーが責任持ってパープル・ヘイ◯止めろや、恥知らずがっ!
あーもぉ無理……!
ちょっと湯島、殴って来るぅっ!」
「
スクリーンに罪は
更に後編も観終わり。
「湯島ぁっ!!
きさっ……貴様ぁぁぁぁぁ!!」
「ちな公式続編で、結婚詐欺に遭った女性が出て来てて。
原因こいつ説が
「湯島ぁぁぁぁぁっ!!」
「ポテチ食って気ぃ紛らぁすしかねぇな」
「おーともよ!」
冷静に考えれば意味不明な上に、口調が変わってる
なのだが、そこにツッコめるだけの冷静さを、今の
従って、
が、そこまでして
といっても、信憑性の
「……
これ、市販じゃないよね?
見るからに、手作りだよね?」
「これが
「誰ウマっ!」
まさかの器用っ
「どう?
大人になってから改めて味わった、特撮の感想は」
食べ終え(
「『真っ先に見せるのが、こんな激重回かよっ!』ってのは置いといて。
正直、面白かった。
内のスタッフが
「俺の解説、邪魔じゃなかった?」
「まさか。
感謝してる
照れているのか、後頭部を掻き
やや経って、きちんと向き直り、正面から
「……ありがとね、
特撮に触れる切っ掛けを、
「その名前、ちょっと
あと、無理も
特撮が子供の物で、世間からの風当たりが未だに強いってのは、不動の事実だし」
「それだけじゃなくってさ。
……ごめん。ちょっと自分語り、
あと、思いっ切り寝ても
「どぞ」
「……ん」
ベッドに横になり天井を見上げる
いつしか、そこにはプラネタリウムが広がっていた。
またしても、
「
ずっと、バリバリ働いてた。
激務に追われながら、『いつか絶対、自分のブランド持つんだ』って、年甲斐も
で、気付けば、こんな歳になって。
夢は所詮、夢のままで。
そろそろ覚悟はしてたけど、『
で、いざ付き合い始めたら、中々の相手で。
こんな田舎に個人経営アパレルなんて
その果てに、
でも結局、裏口で。
コレジャナイ感を覚えながらも必死に働こうとしてたら、他の有能な研修仲間を差し置いて、
知識も時間も
けど
メイン業務である以上、そんな理由で調べないのは契約違反、卑怯だって自覚してて。
もっときちんと勉強したかったし、自分の不案内っ
ぼちぼち本気で、
要はさ……限界だったんだよ。色々と。
相当、ヤミ
落涙を袖で隠し、
「……違うよ。
だって俺ずっと、『トクセン』で見てたから」
彼女の両手を包み、
「
子供のごっこ遊びに即興で付き合ったり、大友の話に合わせたり。
迷子が泣いてたら、
店内放送とか飾り付けとかも、積極的に行ったり。
店員さん
レジ応援だって、誰より早く、多く来てたり。
必死に商品知識身に付けようとした結果、ピグモ◯Tシャツとガラモ◯Tシャツの違いは分かる
ピーク・タイムだからってダイナーに駆り出されても、不満そうな素振り見せずに笑顔振りまいたり。
「あ……」
ここに来て、やっと、
今の自分にとって、
自分を認め、労い、褒め、甘やかし、休ませ、楽しませ、助け、導いてくれる理解者。
「今日一日だけだけど。
たった、数時間だけだけど。
そんな短い間、遠巻きに眺めてた俺でさえ、
読んで字の
特撮だったら、ゆっくり知って行けば
あなたは今でも偉いよ。
そう思ってるから、同僚さん
「
あんたにゃ関係無いだろぉ!?」
どこまでも際限なく注がれる優しさに耐え切れず、
「関係
「……どうせ、それも受け売りの
「
「お前
逐一、
「ベストマッチなのかもね、俺達」
「知るか……。
あんた
「いーんじゃない?
そーゆータイプが1人
「お前、
「ちな俺、結婚願望とか特に
そこそこ特撮に明るくて、ファスト的に
1時間で足りるショート・スリーパーで在宅勤務だから、呼び出しフリーで定期連絡可能。
極め付けに、趣味及び得意分野は家事。
果てしなく便利な優良物件だと思うけど、どう?
今なら入居者枠、1つだけ空席かつ絶賛募集中で、敷金礼金家賃無しだけど?」
「入るぅ!!」
「はい、契約
「ありぃ!!」
片方は緩く、もう片方は激しいテンションでハイタッチする
この物語の主役コンビは、こうして出会ったのだった。
「ほいじゃあ
今日から、よろ。
同居人、俺の特撮話の相手として」
「……ん?」
※
テーブルに所狭しと置かれた、Wを模した数々の料理、ドリンク、スイーツ。
それを目の前にして、
こやつ
それはもう、ちょっと引く
「で、
箸を動かしながら尋ねる
一方の
「俺、特撮話の
それが今の俺にとって、一番の望みだった」
「
「かなぁ」
「でもそれだったら、
優しいし、イケメンだし、金持ちだし、イケボだし、イケカジだし。
マドラーで掻き混ぜながら、率直に確認する
「俺、ネタバレ我が魔王だから。
故意でも無自覚でも食らわせちゃうタイプだから。
特撮に興味持ってくれる相手が何人か
「あー……。
ところで、
「様式美ってか、本能ってか、義務ってか」
「なら
思い返してみれば、確かにネタバレのオンパレードだった。
事前知識も
これを嬉々として受け入れられる逸材は、そうは
「テニミ◯とかモデルとかオオカミくんとかジュノ◯とか、若手の登龍門とか言われて。
主演だって人が、裏話とか積極的に暴露してくれる
イケメンとか人気声優とかレジェンドとか大物アーティストとか
それでも未だに、特撮は恥ずかしい物という風潮は強く、根強い。
BLに比べて、市民権を確立
「それは、まぁ……」
確かに、BL漫画や映画、それ系の免疫や興味や理解の
タイトルや表紙、あらすじなどで直感的にビビッと来た作品が、蓋を開けてみれば耽美だった
事実、隠れ腐女子、可愛い系男子などを主人公に置いた漫画や映画、ドラマなども多く見掛ける
何気
というか、そっち系の友人
そんな多様性、プライバシー、プライベートを重んじる時代において、特撮はどうだろうか?
特撮をテーマにした漫画や小説、アニメや映画なども増えた気はする。
が、世間の認識は改められたかと言うと、否である。
それ
となれば、特撮について語れ、ましてやネタバレ大歓迎な相手など、ごく少数だろう。
ここに来て、
自分にとっては「それだけ?」な
「ごめん、
「……
「だとしても。
これからは、注意する」
「
「ちょっとは気にするんでしょ?
だから、ごめん。
「……うん。
ありがと」
それが、
分かってる。
隠していたい、引かれたくない、遠慮したい、線引きしたい、互いに気付いていない部分も、まだまだ
どれだけ意気投合したとしても、一緒に暮らすとなれば別問題なのだ。
でも。それでも
自分に特撮を教えてくれるとか、気が置けないとか、気配り上手とか、家事万能とか、大金持ちだとか。
理由なら、山程
けど、そんなのより
悲しみと絶望に暮れていた自分を敬い、救いの手を差し伸べてくれた
今度は自分が、彼の力になりたいのだ。
正直、自分にメリットなんて
ネタバレ耐性と、特撮への興味と、ピタリと合う波長と、彼の唐突さへの読解力と、少しばかりの運の
取り分け
無論、幼馴染とか、前前前世からの運命とか、まして一夜の
おまけに、公私共にダメダメと来た。
正直、役満レベルだろう。
けど。
そんな自分を受け入れ、受け止め、執拗に必要だと、彼が思ってくれるのなら。
それだけの利点が、彼にとって、自分にも
「
改めて、お願い。
特撮の
まだ出会って間もないけど……もう
理屈でも、本能でも」
気後れ中の
丁度、彼がしてくれた
「
そりゃ、生活習慣も、生まれた環境も、仕事も趣味も、
そもそも、異性である以上、
「
普段の無表情を崩し、
「確かに、まだ特撮には明るくないけど。
こっちが
伝言ゲームばりに脈略
ツッコミに対しての答えが説明不足でも、
昨日の
俺にとって……ここまで貴重な人、他に
ただ、今の不満点を強いて挙げるとするなら……」
「ん?」
「……ご飯、早く食べて
冷めちゃう」
「お・ま・えっ……!
そういうとこだぞっ!
握っていた手を放し、グシャグシャと彼の髪を撫でる
二人の食事の時間は、そうして賑やかに過ぎて行き。
「
「言っとくが、譲らんぞ!?
「皿洗い
その力説はどうかと思うけど笑えるってのはさておいて。
ちょっと、話が」
食器洗い中に声をかけられた
彼がテーブルを指差したので、「大事な話が
「善悪のニュースが
「『どっちとも取れるニュース』って
「『どっちでもあるニュース』、かな」
お喋りな彼にしては珍しく勿体
彼に当てられ、
先程までの流れから推測するに、契約解消とかではないと思うが、それでも不安は色濃く残っている。
緊迫した空気の中、重たい口を
「あの、
※
噴水広場のベンチに座り、仲良さそうに語らう、二人のカップル。
絵になるかどうかはさておき、これだけなら
惜しむらくは男の方……
「……あ?」
そんな彼の前に突如、怪人が降り立つ。
緑と茶色、触手、
そんな、謎かつ特徴的なレイヤーを、道行く人達は嘲笑。
中には、法律違反なのを知ってか知らずか、無断撮影する者まで現れる。
「
この、卑劣な裏切り者め……」
「な、
それに反し、次第にギャラリー、野次馬も増えて行く。
心当たりしか
ニュアンスこそ異なれど、怪人擬《もど》きの一挙手一投足に一同が期待する中。
彼は
「1つ。いつも傍に
2つ。抗う決意が1ヶ月、
3つ。その
「彼女は自分の詰みを数えたぜ……マツ。
さぁ、今度は」
特に制裁の
「……
てか、誰?」
「『鷺島』の『ま』と、『常習』の『つ』を合わせて、『マツ』なんじゃない?」
「そこじゃねぇ。
てかお前、余裕
「もう
早く帰ろうよ」
「ああ……」
彼女に促され、足早に去ろうとする鷺島。
そんな彼の背後からもう一人、誰かが接近しているなど、気付きもせずに。
「
今度こそ聞き覚えの
思わず、
振り返った先に
昨夜、にべもなく振ったキープ、
真っ白いワンピースと手提げ
先程の怪人と同じ仕草で
「おい。
……お前の詰みを数えろ」
言うや
哀れな不道徳男は、情けなくアスファルトに突っ伏しながら、
「お前……!?
「あのバーには、
そいつからタレコミが
まさかとは思うけど、『偶然、居合わせて、初対面で打ち解けただけ』なんて
会ってから数秒でダッシュしてキスしてたっていう、目撃情報も
要は、そういう
適当なこじつけで、面倒なのを切り離したかっただけなんだろ?」
「ぼ、暴行だ!
いきなり、女に殴られたぁっ!
誰か! 誰か、警察を呼んでくれぇ!」
この期に及んで
「性懲りも
あー……懲りる性が
なら、どうしようもない」
「黙れっ!
こっちは、被害者なんだよ!
目撃者だって
お前はもう、おしまいだ!」
「おしまいなのは
ここに来て、まさかの裏切り。
先程まで隣に
挙げ句の果てに、
「SNSって、超便利。
試しに写真添付して、お前の秘密、洗い浚いリーク、拡散してやったよ。
今までの、全員に」
「はぁ……!?」
その正体は全員、
フラッシュ・モブが始まりそうな人数を、これまで
「どの口が『警察』とか言ってんだ、この
「リクエスト通り呼んでやったよ、この結婚詐欺師!」
「
「これがラスト・チャンスだ!
こうして、因果応報でしかない公開リンチが開始された。
「じゃあ皆さん。
煮るなり焼くなり、お好きにどうぞぉ。
殺しさえしなければ、ご自由にー」
最後に、再びサムズ・ダウンする
「あー、スッキリしたぁ」
「失恋記念パーティする?」
「それ、最高。
メニューは?」
「
「
食べ物じゃないし。
でも、面白そう。帰宅がてら、概要よろ」
「りょ」
程なくしてパトカーのサイレンが聞こえ始めた頃、二人は撤収した。
帰り
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