ビギンズナイト最終話 終わりの始まり
――翌朝。
心地良い疲れにいつまでも寝ていたい誘惑を根性で退ける。
眠さに負けそうになる瞳を開けたら……
目の前に彼女の顔があった。
どこかあどけなさを残した彼女の貌。
奇麗だな。
守りたいな。
純粋に、そう思う。
やがて――俺の視線を感じたのだろう。
形の良い睫毛を震わせ彼女が双眸を開く。
恥ずかし気に顔を合わせ、照れ合う俺達。
結ばれた喜び以上に――恥ずかしい。
まあ、土壇場とはいえ自分の想いに気付けた。
生に対する執着が無い訳ではない。
しかし――もしこの想いを知らずに死んでいたら、きっと後悔していた。
勇気を出してくれた彼女にはどれだけ礼を述べても足りない。
両想いになれた幸福を含めて。
彼女を幸せにしたいと思う。
さて、問題は――
他の二人になんて説明すべきか。
絶対声が漏れていたよな……あの時は懸命で忘れていたけど。
同じことを思い至ったのだろう。
あっ……と引き攣った微笑みを浮かべる彼女。
昨夜とは違う理由で震える手を優しく握り締め、俺達は起き出す。
階下に降りると食卓テーブルで二人は既に待っていた。
期待した目を向ける二人に昨夜の経緯――
恋人になった旨を告げる。
パーティ内の恋愛は基本御法度。
連携や回復順番に齟齬が発生するから、というのが建前だ。
何より二人の信頼を裏切ったという申し訳なさが先立つ。
だが――予想に反し二人は喜んでくれた。
囃し立て、
煽られ、
手を出したことを詰られもしたが――
最終的には祝福してくれた。
赤面しながら祝いの言葉を受ける彼女の姿を覚えている。
何故か俺は床下で正座させられていたが。
きっとこれこそが心身ともに充実した、俺の黄金期。
例えいかなる苦難が立ち塞がろうとも切り抜けてみせる。
そう……思っていた。
愚かにも。
身の程知らずにも。
自らの思い上がりが破滅へ繋がるとも知らず。
そしてやってくる絶望の刻。
断片的にしか思い出せない死闘の数々。
「いったいどれだけの数が――!」
「もう――弾が無い!」
「ファンデットさん達も限界なのです!」
「回復が追い付かないミコ!」
「防衛線を突破された――!?」
「撤退を視野に――」
「逃げて下さい――」
「支えきれない――」
「なんだ、これ――身体が――」
「どうしたの!?」
「おかしいのです!?」
「まさかこれが副作用――」
「俺を見捨てて早く逃げて!」
「バカ!」
「出来ない!」
「出来る訳ない!」
「すみません、すみません皆――
後を……頼みます……」
「ごめん、先に逝くね……
この子の事、お願い」
「精一杯頑張った……よね?
だったら褒めてくれるかな……」
「そっか……ミコたちは……
ここでおしまいミコか……」
「最後に……
傍にいてほしかったな……」
「寒い……
抱きしめてほしいのです……」
「もう一度、もう一度だけ……
逢いたい……逢いたいよ……」
……事の顛末は以上だ。
思い返す度に狂いそうになる焦燥と身を裂く苦しみ。
生き残った……
生き永らえてしまった俺に残された残酷な結末。
どれだけ嘆こうとも――決して還らない俺の過去。
幾度か――死ぬことを考えた。
ただ闇夜で光る燈火のようにあたたかい想い。
甘く切なく駆け抜けた青春の日々。
この思い出があるから、
喪いたくない過去があるからこそ……
未だ死なずにやっていけるのだろう。
だが――それも限界だ。
燻って引き篭もる日々に憂いる自分がいる。
過去を取り戻してくれ。
それが無理なら……誰か殺してくれ。
馬鹿な自分を惨たらしく貶めてくれ。
内罰的に。
あり得ぬ奇跡を求め――願い彷徨う。
そして――
責め苦のごとき拷問の日々の終わりは唐突に訪れた。
「ショウちゃん、どうしよう……
ボク、勇者になっちゃったよぉ」
ビギンズナイト最終話、いかがだったでしょうか?
主人公、狭間ショウの黄金期――栄光と破滅。
こうして物語は冒頭へと繋がっていきます。
お陰様でこのシリーズも大団円を迎えました。
応援して下さった皆様、本当にありがとうございました。
それではまた次の作品で。
ダンジョンが出来た世界で幼馴染が勇者(自爆魔法特化型)になったので、遊び人の俺は寄生しようと思う 秋月いろは @iroha3
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