ビギンズナイト㉘


 アオバダンジョンを探索する日々は続いた。

 しかし……せっかく最下層に到達したというのにパーティのリーダーであるマイカさんは攻略を急ぎはしなかった

 迷宮主であるダンジョンマスターを討伐し、この地域の業魔浸食率を下げることが探索者に求められる急務である。

 その為にはもっとアタック回数を増やし一刻も早くダンジョンコアを砕かなければならない筈なのに。

 攻略どころか既に踏破済みの階を改めて丹念にマッピングし、初心者向けの地図作成をしたり同業者(こないだのミズキ達)に乞われダンジョンブートキャンプを行う始末(勿論、鬼教官役は俺だ)。

 パーティの参謀役として苦言を申し上げることもあったが……

 彼女たちは困ったような不思議な笑みを浮かべ受け入れるだけだった。

 当時の俺は随分憤慨したものだ。

 だが、今になって思えば俺が子供だったのだろう。

 彼女たちは後に続く者たちの育成を兼ね――自分に出来る最善を尽くしていただけだったのに。

 利己的で目先の欲を優先すると、手痛いしっぺ返しを喰らう事がある。

 この事がまさにそうだ。

 俺がもう少し……もうちょっと真剣に取り組んでいれば、あの悲劇は防げたかもしれない。

 探索者全体のレベルを上げていれば、あるいは……

 幾ら後悔してもし切れない俺の過去。

 悔恨と慚愧が身を刻む。

 そして――その日がやってくる。

 業魔たちによる強襲侵攻。

 俗に言う、スタンピードの日が。



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