ビギンズナイト㉙


「危ないところ、でしたね……」

「――うん。

 今までで、一番の危機だったかもしれない」

「死ぬ覚悟をしかけたのです」

「回復が間に合って良かったミコ……本当に」

 

 ホームに帰還した俺達はロビーのソファーに倒れ込むと、言葉少なに語り合う。

 俺達は今、行政の緊急招集要請に応じた帰りだ。

 緊急招集とは全探索者を対象としたダンジョン招集命令である。

 緊急時にのみ要請されるコレは拒否権が無く、実質強制に近い。

 主な理由はダンジョンから業魔が溢れ返るスタンピードなどの際に発令される。

 一般職では太刀打ち出来ない業魔。

 こいつらを文字通り人壁として塞き止めるのが主な役割だ。

 今回は俺達とは別の、最深部に至っていたパーティがその兆候を察知し、行政へと伝達された次第だ。

 まずは斥候役として俺達の他、有望な高レベルパーティが偵察に向かったのだが……正直侮っていた。

 数は力だ。

 低レベル業魔も通常の数十倍となれば恐るべき脅威となる。

 最下層部までの探索はとても果たせず程良い所での帰還となった。

 慎重派のウチはそれでも幸運だったのだろう。

 帰還したパーティの中には犠牲者が出たところもあったらしく――急遽ダンジョン入口前に設けられた対策広場には、物言わぬ仲間の躯に縋り付いてすすり泣く声や獣の様に慟哭する雄叫びが響き渡っていた。

 次は自分達の番かもしれない……

 胸中をよぎる不安を抑え込み、装備を返納した俺達は、行政への調査報告後無言のまま足早に帰宅した。

 このままスタンピードに至るのは間違いない。

 今現在は行政配下のエージェント……

 俗に火消しとも呼ばれる彼らによって対処されている。

 広範囲殲滅呪文や一騎当千の武力を持つ彼らに掛かれば今夜は問題ないだろう。

 ただ彼らとて、ここだけの火消し役に徹する訳にはいかない。

 数少ない踏破者級の彼らを低レベルダンジョンで遊ばす訳にはいかないからだ。

 よって救援支援は明朝まで。

 明日の9時からは俺達アオバダンジョン探索者がその役割を務める。

 勿論壊滅してしまっては意味がないし人的資源の無駄遣いだ。

 だからこそ安全マージンを多めに取り、それぞれの担当地区が定められた。

 俺達ホロウパイレーツは八階層の守りを託された。

 このアオバダンジョン安全マージンは階層+3が適正である。

 ならば到達者の俺を除く全員が12レベルに達していた俺達は、余裕をもって業魔達を撃退できる筈だ。

 ただ――頭では理解していても気持ちが追い付かない。

 夕飯を食べ入浴した俺達は早々にベッドに向かったのだが……

 眠れない。

 先程聞いた、同業者達の嘆き。

 魂を切り裂く様な悲痛な声が頭から離れないのだ。

 自分が死ぬのはいい。

 そのくらいの覚悟は既に済ませている。

 だが、もしも誰かを喪ったら……

 俺は果たして正常でいられるだろうか?

 我を失い取り乱してしまうんじゃないか?

 取り留めもなくそんなネガティブなことを延々と考えていた時……

 トントントン

 というノックの音が自室替わりに使っているホームの部屋に響き渡った。

 古風な卓上時計に目を向けると既に零時過ぎ。

 こんな遅い時間にいったい何の用事だろう?

 一応警戒しながらドアを開けた先、その前にいたのは――


A

「あれ? どうしたんですか、マイカさん。

 こんな遅い時間に(宝生ルート⇒㉚へ)」


B

「んっ? 何か用事ですか、ルリア。

 こんな夜更けにそんな恰好で(閏峰ルート⇒㉛へ)」


C

「はっ? ミコ?

 何ですか、珍しく神妙な顔して(宇佐美ルート⇒㉜へ)」



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