ビギンズナイト㉖

「あついぃ~ビール飲みたい~」

「あ、汗が滝のように流れるのです」

「体力が尽きる前に申請よろ~ミコ。

 回復仕切れないレベルになるとミコで対処できないミコだからね」

「氷属性魔石の残量は大丈夫ですか?

 マジで命に関わるので勿体無いとか言わず早めに交換して下さい」


 俺の掛け声に一同は力なく頷き手持ちの水筒から水分を補給する。

 同じく水筒を口にしながら、流れ出たミネラル分補充の為、俺は塩飴を口にする。

 道場内でのうだるような真夏の熱気と刺すような真冬の寒気。

 幼少の頃からの稽古で寒暖に関して結構耐性はある方だと思っていたが……

 まさかここまで酷いとは正直思わなかった。

 しかも身体全体を冷やす氷属性魔石を使用していてもこの暑さなのだ。

 事前に調べて諸々を準備していて本当に良かったとしみじみ実感する。

 お察しの通り俺達は今、砂漠エリアをてくてくと歩んでいた。

 時折砂漠に足を取られるが、極力体重を掛けない事で何とか歩けている。

 残心を残した摺り足。

 雪国の方々が自然と習得していく技法に近い。

 滑らず転ばず安定した歩法。

 インナーマッスルを活用した身体技法に呼吸法。

 僅か一週間という短い期間はいえ、地獄とお褒め頂いた日々はしっかり身になっているようだ。

 そう、体力的にも様々な懸念があった洞窟エリアだったが……

 訓練の成果もあり俺達は難なく踏破してしまっていた。

 連日行った基礎体力底上げの成果もある。

 だが一番の要因は――

 緊急時における処理速度が格段に向上した事、に他ならないだろう。

 業魔に限らず、不意に何かに襲われた等のトラブル時、どう対応するかを思考していたのでは間に合わない。

 考えるよりも早く何をすべきかを身体に教え込むしかないのだ。

 反射で最適解を導き出せるようにならなければ、刹那の攻防で遅かれ早かれ命を落とす羽目になる。

 それを鍛えるには、脳内の対処スピードの細分化と危機に対するセンサーの向上が急務だった。

 よって行った訓練は夜討ち朝駆けの奇襲である。

 神経を休ませる事無く油断した所を襲う。

 勿論俺がやってはセクハラになるので襲撃は姉弟子にお願いした。

 姉弟子はこういう事に非常に厳しい人である。

 生存確率を上げるというお題目があれば非情にもなれる。

 死ぬよりは訓練で血反吐を吐く方が百倍マシという理論だ。

 まあ本当にぶん殴っては流石に死ぬので、ウレタン竹刀でのケツバットだ。

 たかがウレタンと侮るなかれ。

 達人が振るうそれは恐ろしい撓りでケツに響く。

 女性としての尊厳もなく腫れたお尻を突き出し、四つん這いになる姿は……なんというかすごく痛ましい。

 自分もそうだっただけに共感してしまう。

 だがそれ故に適応も早かった。

 目が爛々と輝き餓えた獣の様に警戒し始める女性陣。

 常在戦場の心構えが出来たようだ。

 こうなればあとはセンサー内の敵意に自動的に反応するのみである。

 ハイドしている敵が哀れになるほどの撃破率で洞窟エリアを突破した。

 今はこのエリアの主ダンジョンであるピラミッドに向かっている途中である。

 暑さによる体力消耗を除けば出くわす業魔も十分対処可能なレベル。

 俺達は照り付ける太陽を憎悪しながらも探索の成功を確信していた。






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