ビギンズナイト㉕


「も、もう無理ぃ~体が持たない~」

「はあはあ……あ、足腰が立たないミコ……」

「こんなに激しいのは初めてなのです……うう(涙)」


 情交の喘ぎにも似たセンシティブな悲鳴を上げる三人。

 上気した肢体からはとめどなく汗が流れだし、ジャージに張り付く。

 息も絶え絶えな感じから限界が近いのが分かる。

 しかし――だからこそ、俺はそんな彼女らを笑顔で励ます。


「おやおや……まだ喋る気力があるんですね。

 それじゃ、あと10セット追加しましょう♪」


 俺の宣言に「鬼!」「アクマ!」「DTミコ!」などの、罵詈雑言が元気に返ってくる(酷い内容だ)が……これで彼女たちの生存確率が向上するなら安いものだ。

 持久走5キロに各種筋トレに柔軟体操。

 身体を苛め鍛えるメニューの数々を俺達は5時間ほど続けていた。

 何でこんな訓練をしているのかというと……

 基本的な体力向上を図る為である。

 森林エリアを抜けた俺達を待っていたもの。

 それは巨岩の下にぽっかりと空いた巨大な洞穴。

 如何にもダンジョンらしい洞窟エリアへの入り口だった。

 第四階層はこのような地下世界を主体とした探索になるらしい。

 ここでネックになったのは後衛であるルリアとミコの体力不足だ。

 回復魔法でHPは回復する。

 しかし完全に癒しきれない筋力の疲労等は徐々に澱のように溜まっていき、道行く足を引っ張る。

 また森林エリア以上に死角の多い洞窟は精神的疲弊も齎す。

 メンタル的な疲労はフィジカル面でもかなりの影響を及ぼすのだ。

 この洞窟を抜けた先、第五階層は砂漠エリアである。

 今から体力面で不安がある様では過酷な環境に適用できないし、何より生き抜く為のハングリーさがこれからは求められる。

 そこで白羽の矢が当たったのが俺とその家業だ。

 俺の家は警察や自衛隊御用達の古武術を教える道場である。

 短期間集中の基礎体力向上プログラムなどはお手の物だ。

 どこで知ったか知らないが、パーティの誼(よしみ)でカリキュラムを依頼され俺がコーチ役に任命された。

 ならば憎まれようとも任務を遂行するのみである。

 甘ったれた苦情をにこやかに聞き流すと俺は竹刀を地面に打ち下ろす。

 バシン! 

 鞭のようにしなった竹刀が派手に音を鳴り響かせる。

 途端、躾された猛獣のように身を竦める三人。


「そろそろ準備はいいですか?

 今回の訓練の目的は身体を限界まで追い込む事です。

 自分の限界を知る事で窮地にどのように振る舞えるかが分かります。

 それにより個人だけでなく集団としての強化を図る。

 更に超回復によるステータス向上も見込めるという嬉しい要素満載です。

 さっさと行きますよ、皆さん」

「うう、鬼がおる……」

「あ、アクマなのです……」

「DTの癖に……」

「こういう時お約束のお色気イベントはどこ!?

 船長たちの濡れシャツにドキドキするとか……

 透けブラわっしょい♪ とか」

「好感度メーターが見えねぇクソゲーなのです」

「フラグが全然立たないミコ……

 こいつ誘い受けだと思ったら鬼畜攻めだったミコ……

 見誤ったミコたちがお馬鹿ミコなの……??」

「はいはい。お喋り休憩はそこまで。

 楽しい訓練の始まりです。

 いくぞ、オラ! 声を出せ!!」

「「「ひいいいいいい!!」」」


 薄暗くなり始めた夕闇に、三人の悲鳴が仲良くコダマするのだった。



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