ビギンズナイト㉔
「くあ~~~~~~~~~~~~~!!
一仕事終えた後の一杯は、まぢサイコーなんだけど!」
「何だか……くたびれたサラリーマンっぽいミコ」
「親父くさいのです」
「時々加齢臭がしそうな行動と言動を取るミコね、マイカは」
「しかも基本エロ親父風なのです」
「う~二人とも船長を虐めるぅ~( ;∀;)
ショウ君はそんな事しないよね? ね?」
「圧が……」
「反論を封じるのはズルいのです」
「ま、まあ――
それもマイカさんの魅力、ですし?」
「何で疑問形なの!
もういい、今日は呑む! 呑み尽くすから!」
「まっめでたい日だし……
悪酔いしなければいいミコよ?」
「許可なのです」
「……何だか二人とも優しくない?
もしかして――船長に惚れた?」
「もう酔っ払ってるのか、ミコ?」
「寝言は寝てから言え、なのです」
「あれ!?
やっぱ手厳しい!? っていうか辛辣過ぎない!?」
生ビールの入ったジョッキを抱えて百面相を見せるマイカさん。
ミコとルリアと俺は苦笑しながらも、テーブルに並べられた料理を思い思いに摘まみ始める。
ここはアオバダンジョン前申請所にある探索者交流所。
通称【酒場】である。
第三階層のフロアボスを何事もなく討伐した俺達は、出現したゲートを使って無事地上へと戻ってきた。
装備調整室こと【工房】へ装備を預けた後、シャワーを浴びてさっぱりした俺達は今回の戦利品の換金査定が出るまで打ち上げをすることにした。
アットホームなハウスでの宴会もいいがやっぱり酒場の方が面倒がなくていい。
酒場の名は伊達ではなく、大概の居酒屋メニューはここで注文できるし、勿論成人していればお酒を頼む事も可能だ。
冒頭のような軽いじゃれ合い後、今回の探索の成果に大騒ぎする三人。
タイプの違う美人が集まってるせいか酒場の中でも悪目立ちしてる気がする。
こっちを見て何やらコソコソ話し合う奴もいるし。
……見た目ほどハーレム要素はないんだよ、マジで。
女の中に男が一人。
セクハラという言葉の定義を、身を以て思い知るんだから……うう(涙)
そんなハイテンションな三人に合わせて会話をしていると、端末から呼び出し音が鳴り響く。
「おっ……査定が終わったみたいですね」
「んじゃ今日もお願いミコね、少年」
「申し訳ないけど……
ルリア達はこの獣を堰き止めるのに精一杯なのです」
「あによーあたしのどこが酔っ払ってるていうのー!?」
「あはは、分かってますよ。
現金は危ないんでいつものように振り込んでもらいます。
端数分は募金でいいんですね?」
「うん、頼むミコ」
「いってらっしゃ~い、なのです」
「ショウ君、いや~~~~~~~!!
あたしを捨てないで! 何でもする、尽くすからぁ!!」
「おら、マイカは黙ってここに座るミコ」
「もっと呑みやがれ~なのです」
「ガボガボ(了解)」
泣き上戸なマイカさんに絡まれ足止めされない様、俺はミコとルリアに礼を述べ、そそくさと酒場を後にするのだった。
「一つ聞きたいのだけど……いい?」
工房で換金を終えた俺(額は凄いことになっていた……金銭感覚がおかしくなる)だったが、出る直前に呼び止められた。
振り返った先にいたのは黒髪ロングの妙齢の美女。
俺の装備を用意してくれたここの工房主さんだ。
いったい何の用だろう?
特に用事もなかった俺は素直に応じる。
「あ、はい。
何でしょうか?」
「今回の探索で君達は第三層の階層主を斃したみたいだけど……
それは本当なの?」
「ええ、間違いなく。
魔核も持ち込んだんですけど」
「うん。先程ウルカ……換金所の主から聞いたわ。
だからこそ信じられないのよ。
貴方達のパーティ構成であいつ……
森林エリアを束ねるエントを討伐するには火力が足りない。
樹王型業魔であるエントは再生能力があるし……何より物理耐性がある。
正攻法ではかなり苦戦する筈なんだけど」
「ああ、それですか。
確かに真正面からぶつかったら手厳しいでしょうね。
なので裏技を使いました」
「裏技?」
「はい。
あいつは確かにHPも高いし物理耐性もあって厄介です。
でも――業魔として致命的な弱点がある。
樹王……エントなので根を張った場所から動けない。
ならば簡単です。
奴の攻撃の範囲を見極め、アウトレンジから叩けばいい」
「それは理論上そうでしょけど……どうやってそれを見定めたの?
あいつの攻撃範囲はかなりの広さなんだけど……」
「? まともにやらなければいいんですよ」
「え?」
「おおよその場所を把握してから近くの樹に登りました。
射線を確保できる高所から狙えばいいだけでは?」
「そ、そう……なるほどね。
でも――疑問は残るわ。
どうやってエントのHPを削ったの?」
「? HPなんて削ってませんよ?」
「――はっ?」
「奴のHPが高く自動回復することはデータベースで事前に調べて知ってました。
ならば――どうするか?
HPと双璧を為すステータス……MPを削ればいい。
パーティにネクロマンサーがいるのは知ってるんですよね?」
「え、ええ」
「彼女は物理攻撃担当の骸骨(スケルトン)召喚だけでなく、精神攻撃担当の死霊(レイス)召喚も扱えます。
しかも膨大な数を同時に連続で。
ほら、なら答えは簡単です。
物理攻撃しか出来ないエントに、死霊による精神攻撃(ドレインタッチ)による、MPダメージを防ぐ術はない。
時間は掛かったけど問題なく対処出来ましたよ。
一番の苦労は運動が不得意な彼女を樹に登らせる事でしたかね。
まあこれも骸骨召喚で切り抜けましたが」
「なるほどね……理解したわ。
セオリーを無視した盲点を突くような対処法……
可愛い顔して意外と戦術家なのね」
「ん~っていうか、避けられるリスクは限りなく排除したいだけです。
ダンジョンは甘くないのでどうしても力押しになってしまいますが」
「それで最速で中堅探索者の仲間入りしてるんだから恐れ入るわ。
僅か2週間、実質3回のアタックでもう7レベル?
ちょっと規格外だわ。
だからこれは忠告……一応、耳に留めておきなさい」
「はあ」
「貴方達は強い。
その強さに見合うレベルもスキルも実績もある。
けど――それ故、やっかみの対象になるわ」
「というと?」
「使えないと評判の遊び人が新参のパーティを結成して成り上がっている。
これは昔から燻っている輩にとって面白くない事態だわ。
だから陰でコソコソ噂する……身に覚えがない?」
「ああ、だからさっき酒場で」
「ほらね。
そういう毒にも薬にもならない輩の嫉妬……それは思いの外、探索の足を引っ張るものなのよ。
だから気をつけなさい……
貴方達の活躍が目覚ましいだけに私はそれが心配だわ」
「はい、ありがとうございます。
でも……大丈夫ですよ」
「?」
「彼女達は強いし、それに……」
俺の貌に何を見い出したのだろう?
工房主の瞳に恐れと当惑が浮かぶのを、どこか客観的に見い出す。
変だな……俺は至極当然の事を述べるだけなのに。
「もし俺達に敵対するようなら――
誰であれ、全力で潰すだけですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます