ビギンズナイト㉓
「んあ~ホント鬱蒼と繁ってるね、ここ」
「もう~歩きにくいのです」
「うえ~最悪ミコなんだけど~」
「まあもう少しです。
頑張っていきましょう」
「今日の目標はこの階層のボスまでだっけ?」
「ええ。
そいつを斃すと地上へ戻れるゲートが出現するらしいです」
「んじゃ、とっとと斃そう。
そうして地上に戻ったらあたしは一番にシャワーを浴びたい!」
「同感なのです」
「マイカにしてはまともな提案ミコね。
ん? 何を顔を赤らめてるミコか、少年?」
「……頼むから湯上りに下着姿でうろつくのはやめて下さい、マジで」
「お? 想像しちゃった?」
「妄想逞しいミコね。
ふっ……これも若さミコ」
「妄想じゃなくて全て現実にあった話でしょ!
先日の事なのにもう忘れちゃったんですか!?
っていうかミコと俺は一つしか違わないじゃないですか!」
「ふふ~ん。
ミコのナイスバディは思春期ボ~イには刺激が強過ぎたミコね」
「あはは、幼児体型なのに?
セクシーなのは船長みたいな身体つきよね?」
「むきー!
ミコはこれからもまだ伸びるミコ!
胸だってお尻だって不二子ちゃん並になってみせ……」
「体型の話は……やめましょうと何度も言ったのです」
「「はい!!」」
「っていうか、うるさ過ぎですよ皆さん」
歪んだ半月を口元に浮かべるルリアに必死に謝る二人を見ながら、俺は深々と溜息を零した。
亡霊騎士団の守っていた巨大な城門を抜けた先――
即ち、アオバダンジョン第三階層。
そこは蒼々とした森林がどこまでも続くエリアだった。
馴染みのある手入された日本の森林ではない。
欧州の山奥にあるような深い原生林である。
先人達の努力もあり何とか道らしきルートは開かれているも、足元に絡みつく草や張り出した樹々の枝が非常に邪魔で気を削がれる。
空が見えず日光も遮られる為だろうか?
気を抜くと自分の立ち位置を喪い方向を見失ってしまいそうになる。
そしてさらに苛つかせるのが散発的に襲ってくる獣型業魔だ。
こいつらは草原や城塞エリアとは一転、急に奇襲を掛けてくるようになった。
無論、通常のフィールドなら遅れを取る事はないだろう。
だが索敵センサーに僅かに反応する小動物類が多いこの森林エリアではどうしても反応が一手遅れる。
全ての存在に警戒するのは実用的ではないからだ。
まるでそれを見計らったように奴等は巧みに物陰に潜む。
樹々の陰。
巨岩の洞。
草花の茂みなどに。
実力差があるから敗北することはないものの、いつ襲われるか分からないという可能性は心を著しく消耗させる。
普通に組まれるバランス型パーティなら散策で疲弊し兼ねない程だ。
まったくこの先行きの不安さは森林なのに立派なダンジョンだ。
だが――俺達のパーティには索敵に優れたマイカさんがいた。
彼女は海賊とはいえシーフ系の職業を授かっている。
罠の解除や迷宮構造把握等と並び、隠れ潜む敵の探知などお手の物だ。
斥候としてパーティを先行。
このエリアの特色を掴むと未然に潜んでいる業魔の位置を看破してくれている。
しかしこの場合、先行する分一方的に狙われるので危険も伴うものだが……
彼女は【海賊】なのだ。
ほどほど戦って自衛が出来る上、高価であるが魔石銃もある。
飛び道具を活用すれば距離を取って外敵をあしらうくらいは容易だ。
そして何より、隠れ潜む場所さえ分かればこっちのものである。
タネの割れたお化け屋敷と同じ。
場所が分かっている脅威など張りぼて以下。
ただのコケ脅しに過ぎない。
余裕を以って戦闘に当たる事が出来る限り俺達に憂いは無い。
俺達は愚痴を言い合いながらも第三階層を順調に攻略していくのだった。
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