ビギンズナイト㉒

 

「硬った!

 もう~こいつら本当に装甲厚過ぎなんだけど!」

「まともにいったら刃が欠けますよ、マイカさん!

 関節とかの可動域、あるいは鎧の繋ぎ目を狙ってください!

 ルリアは引き続き足止めを!」

「了解なのです!」

「ミコ、準備はどうですか!?」

「もうちょっと……ミコよ。

 焦る男はモテないミコよ、少年」

「何でもいいから早くして!

 あたし、もう限界なんだけど!」


 第二階層城塞エリアで大変なのは城塞内部に入る事である。

 裏技ですんなり内部に潜入した俺達は早々とフロアボスと対峙していた。

 第三階層へ続く巨大な城門を守るのは亡霊騎士団。

 蠢く甲冑達が集団で武具を持って襲い掛かってくる。

 俗に言うリビングメイルの群れだ。

 このボスのタチの悪いところは、グループ全体でフロアボス扱いになるところ。

 つまり一体残らず撃破しない限り討伐扱いにならない。

 個々としてはそれほど強い訳ではない。

 しかし幾度も述べた通り、数は力だ。

 少なくとも50を超える鎧騎士を同時に相手取るのは至難の業。

 広範囲魔法を扱えない限りこの数は驚異でしかない。

 なので外道には外法。

 邪道だが、またもルリアの死霊召喚に頼った。

 召喚陣から涌き出るスケルトンの軍勢。

 数には数をぶつけ、奴等を分断。

 何とか少人数ごとに堰き止める事で対処し殲滅を図る。

 だが――予想以上に奴等は手強過ぎた。

 このままでは俺達の殲滅スピードを奴等の侵攻スピードが勝る。

 しかし俺達も無策ではない。

 状況を打破する術を巫女であるミコは持っていた。


「お待たせミコ~【聖域(サンクチュアリ】発動!」


 俺とマイカさんが戦ってる間、ミコは遊んでいた訳じゃない。

 くっそ長い瞑想を必要とする聖域の魔法を準備していたのだ。

 これこそ状況打破の秘策である。

 聖域の効果は多岐にわたるが……一番は範囲内にいる者全てに、聖なる加護による恩寵をもたらしHPを回復し続ける。

 ならばこれが不浄なるもの……

 いわゆるアンデットならどうなるか?

 そう、自己犠牲自爆魔法と並ぶ回復系に数少ない攻撃手段となる。

 聖域の範囲内に入った亡霊騎士達は継続的な神聖ダメージを受け……感謝の言葉を上げ崩れていく。

 攻撃魔法により無理やり破壊されたのではない。

 高位存在の導きにより成仏……輪廻に還ったのだろう。

 やがて先程の喧騒が嘘のように亡霊騎士達は全て消え去った。

 無論その中にはルリアが召喚したスケルトンも含まれている。

 勿論、この作戦を考案した時に巻き添えの危険性をルリアに確認したが……それはそれで構わないとの事。

 ファンデット(ルリアは召喚する亡者をこう呼ぶ)さんが少なくなるのは悲しい……けど、それで少しでも安らぎを得られるなら還せる魂は還したいとのこと。

 残念なことにファンデットの主体である、道半ばで倒れた探索者の魂はこんな魔法くらいで成仏するほど恨みが浅い訳じゃなく、ほとんどが残った。

 それでもこの魔法で導かれた者も幾人かいるだろう。

 そう考えれば少しは救いがある。

 亡霊騎士団が消えた瞬間、ゆっくりと開き始める城門。

 次なる第三層への入り口だ。

 大した怪我もなくフロアボスを切り抜けた事にハイタッチで喜び合う女性陣。

 俺にも勢い良く飛んでくるハイタッチに苦笑を浮かべ応じながら、俺は第二階層突破の実感を深々と噛み締めていた。

 

 


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