ビギンズナイト㉑


「をを♪

 すっごい眺めね、これ!」

「マイカ、身を乗り出すと危ないのですよ?」

「まったくミコ。

 しっかしまさかルリアの召喚術をこんな風に使うとは……

 少年も策士ミコね~」

「そんな事はないですよ。

 ただ発想の転換、コロンブスの卵ってやつです」


 周囲を見回しはしゃぐマイカさんにそれを窘めるルリア。

 感心するミコに解説する俺。

 そう、俺達はゆっくりではあるが城壁を昇りつつあった。

 ルリアが召喚し続けていく骸骨の群れに抱かれながら。

 お気付きの方もいたかもしれないが……

 城壁を乗り越える俺の秘策とは、ネクロマンサーとしてのルリアの力をベースにしたものだった。

 幾度も見た軍団規模の骸骨召喚。

 その数は驚異的で逃げ場を塞ぐ事は出来るものの……無論、個々の力は弱く戦闘では大して役に立たない。

 でも、それも発想を変えれば別な用途に扱う事が出来る。

 ルリアが集中し続ける限り次々と召喚可能な骸骨。

 それを【横】にではなく【縦】に密集召喚すれば簡易的な昇降装置に転用できるのではないかと思ったのだ。

 以前からこの城壁は昇れると言われていた。

 実際、専門器具を用意し登頂したパーティもいたらしい。

 ただパーティ全員がそれを可能かと言われれば難しく……さらに登頂中は完全に無防備になる為、実用的ではないというのが定説だ。

 万が一飛行型業魔に襲われたら応戦出来ないのでそれは最もだと思う。

 しかしそれらを問題なくクリア出来る術があれば……

 それは逆に最も効果的な手段になるのではないだろうか?

 延々徒歩で三時間も歩く労力を軽減できる。

 これは探索者にとって計り知れない大きなアドバンテージだ。

 転移呪文を覚えてないパーティにとって基本各階層を行き来するのは人力だ。

 その場合ネックになるのは体力と精神力である。

 レベルが上がれば各ステータスは上がる。

 でも付随してHPや体力が上がるとはいえ、戦闘をしながら移動し続けるのは非常に疲れる。

 ましてや鎧などを装備している状態では猶更だ。

 あと一番怖いのは精神力(集中力)の問題だ。

 ダンジョン探索で緊張し続け……疲弊すれば、どんな達人もミスをする。

 要所要所で簡易結界による休憩を挟むとはいえ探索時間の短縮は探索者にとって何よりも重要な急務である。

 これも全てはルリアの力によるものだ。

 一見すると便利そうなネクロマンサーの力だが……実際のところ、そんな効率の良いものではないらしい。

 死霊術師は文字通り死霊を用いた術だ。

 ただそれは字面から想定される邪悪な術ではないのだ。

 死者を一方的に操る訳じゃない。

 戦う事、暴れる事でしか恨みを晴らせない死霊達を説き伏せ、共に戦う事を選んだ者達なのだ。

 自我が薄れた死霊に話し掛け、同意を得てストックしていき召喚する。

 それはとてつもなく根気がいるだけではなく……何よりも死者の嘆きに寄り添う覚悟がいる。

 ルリアは例外的に、強大な死霊術師であった師から眷族といわれる死霊を受け継いだらしいが……それだって大変な事だ。

 代償に払う日常の重さ。

 俺には視えないが常に死霊と共にある毎日。

 それはどれほどの重さなのだろう?

 思えば思うほど俺は無邪気に微笑むルリアを尊敬するのだった。

 ちなみに……

 死霊達は視えないだけでルリアの近くに常に何体かスタンバイしてるらしい。

 これにより昨夜の彼女のあられもない姿は彼女に知られる事となり……俺は下着を覗いたという不名誉を科せられる事になったのである……トホホ(涙)。


 

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