ビギンズナイト③


「パーティへ編入できないって……

 いったいどういう事ですか?」


 装備調整室で初期装備を受領。

 動きやすい皮鎧を着込んだ俺は受付で当惑していた。

 別名酒場とも称されるここはパーティのマッチングも行っている。

 得られたクラスやレベルに応じて自分に適したパーティを紹介してくれるのだ。

 クラスメイトや友人同士で組む者が多い中、俺は甘さを捨てる為に敢えて新環境に身を置くべく既存パーティへの編入紹介を申請していたのだが……

 少し声を荒げた俺の詰問に、受付の事務員さんはすまなそうに頭を下げる。


「申し訳ありません。

 狭間様の申請は問題なく認可されたのですが……」


 言い淀む彼女の表情に事態を察する。


「編入を全て断られた、と」

「――ええ。

 狭間様の得られた【職業】遊び人。

 こちらは探索者としてダンジョンへ赴くのに何の問題もないのですけど……」


 弁解じみた事務員さんの言葉に周囲の者達が露骨に顔を顰める。


「うあ……マジかよ、あいつ」

「遊び人のクセにダンジョンに潜る気なの?」

「寄生する気満々じゃん」

「冗談でもキツイぜ。

 役立たずが同行して何の役に立つんだよ」


 囁き合う悪意。

 胡乱げな視線。

 遊び人に伴う弊害はネットでおおよそだが調べていた。

 パーティのお荷物。

 ごく潰し等々。

 だが、遊び人は意外と強いのだ。

 そう……世間で思われているよりも、ずっと。

 戦士ほどでないが力が強い。

 武闘家ほどでないが素早い。

 商人ほどではないが体力もあり、

 魔法使いや僧侶ほどじゃないが賢明でもある。

 だが――それは結局どの能力も中途半端。

 つまり秀でた長所がないという事だ。

 バランス型である勇者の劣化版。

 互いに協力し、足りない箇所を補い合う事が前提のダンジョン探索では利点を見い出せない。

 何より不遇なのは……使える特技がない。

 他の職業が【正拳突き】【豪傑斬り】各種魔法などを覚えていくのに対し……遊び人が覚えるのは【遊び】、ただこれだけである。

 その効果は文字通り遊ぶだけ。

 幸運値が高ければたまに副次効果を発生するらしいが……不運な俺にはまったく縁がない。

 無論、ゲーム通り踏破者になれば最速で賢者にクラスチェンジできるらしいが。

 しかしそんな事を声高に語っても偏見に満ちた認識は改められまい。


「分かりました。

 ならば結構です。ソロで潜ります」


 俺は探索者証を乱暴に手にするとカウンターを後にした。


「狭間様、お待ちください!

 ソロは大変危険です!

 最低ペアを組んで頂かないと――」


 必死に俺を止めようとする事務員さんの声をわざと聞こえない振りをする。

 愚かにも、その時俺の胸中を占めていたのは――

 本人の能力じゃなく、くだらない偏見に踊らされる奴等にソロでもいける実力を示し、見返してやる――というドロドロした溶岩にも似た傲慢さだった。




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