ビギンズナイト①


 剣袋に入れた刀を背負い、部屋を見回す。

 簡素なベッドと勉強机以外は何もないシンプルな部屋。

 ただ……

 もしかしたらここには二度と帰って来れないかもしれない。

 相手が人外とはいえ、命を奪うという事は奪われる覚悟が必要だ。

 そう考えると背負った刀の存在が重く感じられる。

 よく手入れされているとはいえ蔵に眠っていた数打ちの一振り。

 普段より充分に使い慣れ、しっくりと手に馴染んでいる。

 とはいえ、これからこの刀に命を懸けると思うと感慨深いものを感じる。

 今日、俺は探索者としてデビューする。

 国民に課せられた義務とはいえ実戦は初めてだ。

 緊張しないといえば嘘になる。

 しかしそれ以上に鍛え上げた力を存分に揮う事への高揚が勝っていた。


「行ってくるよ、母さん」


 写真の上で微笑む、歳を取らなくなった母へ出発の挨拶を告げる。

 必要以上の感傷は戦いの邪魔になる。

 俺は後ろ髪を引かれる思いを断ち切り部屋を出た。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る