最終話 瑠璃神の遺産
星々の燈火が幻想的に煌めく天蓋の宮殿。
そこは人が知覚できる域を遥かに超えた次元にある業魔の領域。
蛍火の様な燐光を放つ女性型思念体……神とも呼ばれる存在は恭順の意を示し平伏する者たちへ冷然と告げる。
「さあ、報告をなさい――」
「畏まりました。
汚れし人族が地球と称する地への侵攻状況ですが、北米地域で激しい抵抗にあってはいるものの、欧州・中央大陸への浸食度は予定通りです。
忌まわしきオーバーロード達が張り巡らせた結界の効力も残りわずか。
このまま順当に行けば、我等の勝利は目前かと」
「――極東地域は?」
「は?」
「ニホンと呼ばれるあの島国への侵攻はどうなっているのです?
何やら予想外の事態が起きたと聞きましたが……」
「そ、それが――」
「それが?」
「ここ数週間で橋頭堡であるダンジョンが次々と沈黙。
魔軍司令が討たれたのを皮切りに不可解なほどです」
「……理由は判明しているのかしら?」
「はい。
奴等が勇者と呼ぶ神の器。
その幼生体がどうにも難物でして……
破壊に特化した力を所持しております」
「瑠璃神の遺産――」
「……は?」
「何でもありません。
引き続き侵攻を続けなさい。
全ては美しき調和の為に」
「はっ。美しき調和の為に」
列強と呼ばれ、いずれも恐るべき力を秘めている業魔達だったが――彼女には遠く及ばない。
女神の気紛れによって存在を消されるかもしれない。
現に調子に乗り女神の不興を買い消失したものを目の当たりにしている。
自分たちはそうなるまい。
恐縮し急ぎ立ち去る配下達。
誰もいなくなった宮殿で女神は孤独に呟く。
「貴女が謳った人族の自律と自立……
いったいどこまで祟るのかしら。
精々足掻いてくれると嬉しいわ……ねえ、瑠璃?」
業魔の目論見通り――
オーバーロードらが張った世界結界は数か月後遂に崩壊を迎える。
急造の品にしては寧ろよく持ち堪えたものだと後の研究者は褒め称えた。
結界崩壊に応じ勢いを増す業魔の侵攻。
本来の力を取り戻した業魔に人は為す術もなく滅ぼされるかと思われた。
しかし――そうはならなかった。
超越者達はこの事を事前に予測し対抗策を練っていたのだ。
それは世界結界の改善。
現状の維持が難しい、なら別の要素を付け加える。
結果、付与されたのは地球規模の能力抑制と成長促進。
別次元から侵攻する業魔の力を減衰するだけではない。
地球で応対する能力者達の力に常に枷を掛け続け成長を促す。
つまり力を抑えられていたのは業魔だけでなく人も一緒だったのだ。
結界消失後、全盛期の力を振るう業魔。
しかし枷から解き放たれた人は10倍以上の力を発揮する。
何より結界消失により、次元侵略に対する未開種族の防衛という、大義名分を得た超越者達による本格的な参戦。
戦いは拮抗した。
人族にとって長く苦しい戦いの始まりである。
その中でも物語に関わったその後の彼等の活躍を紹介しよう。
>関城タダオ【粘液の暴君主】
狭間ショウと行動を共にし、覚醒した関城。
粘液魔法の特性を完全に把握した彼は後に粘液の暴君と呼ばれる様になる。
津波規模で召喚される溶解毒性の粘液。
敵対者にとって悪夢のような魔法は軍勢規模での殲滅を可能にしたのだ。
更に能力者に付与される身代わり粘液クッションは数多くの者の命を救った。
その割に尊敬を集めなかったのは本人の性格である。
相方である北条の度重なる激しいツッコミを受けても生涯変わる事はなかった。
>北条フミノ【雷速の蹴撃者】
関城タダオのお目付け役として行動を共にするフミノだったが、度重なる愚行に対する激しいツッコミによりいつの間にか自身の腕前を上げていた。
高レベル者に対するパーティアタックが効率の良い安全なレベルアップに繋がる事を発見した偉大な功績ともいえる。
これにより人類は大きく躍進した。
しかし本人はセクハラとストレスに際悩む日々で配置換えを希望。
キレを増すツッコミについた異名が雷速の蹴撃者。
本人は毒舌交じりに運命の結婚退職を望むようになる。
>御神レイカ【付与の魔女皇】
付与魔法をさらに磨いた彼女。
遂に正式完成版【漣】シリーズの量産に乗り出す。
上司である工藤と共に共同開発したこれらの武具は、業魔との戦いにおいて大いに人類サイドを助ける事となる。
しかし美少女好きという人として駄目な点は変化がなかった。
数多くの勇者を毒牙に掛けた事から畏怖を込めて魔女皇と呼ばれる様になる。
>御神アヤカ【流星の舞刃姫】
完全なる引き篭もり生活を夢見るアヤカだったが環境がそれを許さない。
省エネ気質の彼女の性格に反して対集団戦闘に長けた彼女はダンジョンの切り込み隊長として戦域を支え続ける事となる。
九つの属性を自在に操るその武具ナインエッジは、ダンジョンマスターらにとって怨敵と称される程となる。
本人はさっさと引退して自堕落な生活に戻りたい。
それ故に戦う際の彼女は戦慄すべき強さを誇る。
鈿女ミドリとの仲も良好で、稼いだ金で近々新居を構える予定。
>倉敷ミズキ【戦場の姫騎士】
姫騎士プリンセスナイトとして戦場を駆ける彼女。
凛とした姿に立ち振る舞い、何より特技である鼓舞。
それは彼女を見る者、声が聞こえる者の能力を底上げするだけに留まらず戦意高揚により精神状態侵害系のデバフをシャットダウンする貴重なスキルだった。
勇者と共に常に過酷な戦場に立つ姿から戦乙女とも呼ばれる様になる。
しかしプライベートは甘々。
同棲を始めてからは、虎が猫にクラスチェンジした!?
と双子に驚かれるようになる。
どこまで進展したかは秘密らしい。
>咲夜コノハ【迷宮の破壊神】
本来カタチを持たぬ神に至る器、勇者。
しかしコノハは自爆魔法を昇華させダンジョン破壊魔法に特化した。
それはいうなれば破壊神としての力の顕現化である。
無慈悲ともいえる彼女の活躍により、後に極東地域の迷宮は全て沈黙。
業魔サイドにとっては理不尽の顕現としか言い様がない。
また彼女に感化され神として目覚める者が続出。
業魔による侵攻作戦は根本的な見直しを迫られるようになった。
最近想い人と同棲を始めた。
優柔不断なその対応に一喜一憂するも、幸せらしい。
>狭間ショウ【境界の道化師】
数多くの迷宮主を討伐するだけでなく、数多の熟練探索者を育て上げた手腕は人類サイドだけでなく業魔サイドにとっても脅威と称された。
特に彼の主催するダンジョンブートキャンプにより多くの踏破者を揃えられたことが人類の反抗作戦に繋がった事が後の研究でも定説となっている。
境界の道化師の異名通り、彼の力により業魔世界への逆侵攻が可能となり、戦況は専守防衛から積極的能動型へと移行。
業魔との落としどころを探る為にも、彼とその仲間達の力は今後も重要な位置処となっていく。
過去を乗り越え、遂に恋愛する事を決意。
しかし生来のヘタレっぷりがここにきて発露。
双方の溜息を受けつつも生温かく迎え入れられている。
しかし同業者からはリア充死ね、爆発しろなどの呪詛を常に投げ掛けられるようになり最近信念が揺らいできている。
父である狭間ムサシと共に後に人類の守護神である瑠璃と邂逅。
業魔の意味、そして人類の存在意義を知るが……
これはまた別の物語である
ダンジョンが出来た世界で幼馴染が勇者(自爆魔法特化型)になったので、
遊び人の俺は寄生しようと思う ~END~
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