第95話 提案フィフティ

 

 掛ける言葉が見つからない。

 仲間を喪った哀しみ。

 それは他人にどうこう言われて癒されるものではないからだ。

 こうして涙を流すことが出来るだけ彼女はまだ良い方だ。

 もっと深刻な心理状態に陥ると、外の世界に対する反応が無くなってしまう。

 そう……ただ生きているだけの人形の様な有様に。

 悲しみを涙で昇華出来てるだけ彼女は強い。

 シクシクと泣き崩れる吾桑マフユ。

 だがいつまでもこうしている訳にはいかない。

 おそらく吾桑が張ったと思わしきキャンプ結界も長持ちはしないだろう。

 それに彼女から聞いた話の中で違和感を感じた。


「これからどうするんだ、吾桑」

「仲間の……皆の仇を討つわ。

 あたしにとってそれが最上の使命」

「ならば俺達と手を組まないか?」

「貴方……と?」

「そうだ。

 迷宮主を斃したいのは俺達も一緒。

 それに残酷な言い方だが君一人では仇を討つどころか犬死がいいところだ。

 それじゃ君の本懐を果たせないだろう?」

「確かにそうだけど……貴方を信頼できない」

「信頼する必要なんかない」

「え?」

「互いに利用するんだ。

 君は俺達の力を、俺達は君の力を。

 天秤に乗せられた賭けのレートはフィフティフィフティ。

 信条も心情も無視したドライな関係。

 パーティの契約期間は迷宮主を斃すまでの一時的なものでどうだ?」

「貴方達に……メリットがないじゃない」

「――いいや、あるさ」

「え――?」

「君の力があれば勝率が上がる。

 仲間を喪う可能性が少しでも減る。

 そして何より……涙で苦しむ娘がいなくなる」

「ば、馬鹿じゃないの――貴方」

「馬鹿じゃない。

 どこかの誰かの笑顔の為に。

 地に希望を。

 天に夢を。

 それは俺が昔、誓った言葉。

 喪ったあいつらに約束した想いだ。

 俺はその為ならいくらでも強くなれる。

 どんな手を使ってでも奴等を……業魔を斃す。

 だから吾桑――いや、マフユ。

 俺に力を貸してくれ。

 俺を利用してかまわない。

 共に――迷宮主を斃そう」


 床に倒れ伏す少女へ差し伸ばされる俺の手を。

 彼女は火傷に怯える様に躊躇いを見せるも――

 不敵に微笑み俺の手を掴むと、勢い良く立ち上がった。


「いいわ……狭間ショウ。

 皆の仇を討つ為に、貴方を――あたしの仲間にしてあげる。

 こ、光栄に思いなさい!」


 顔を真っ赤にしながら叫ぶマフユ。

 意地っ張りな少女の精一杯な虚勢。

 俺は苦笑が顔に出ない様、懸命に堪えながら了承の意を伝えるのだった。













「(さすがショウちゃん……秒殺だったね)」

「(ああ、鮮やか過ぎる手並みで何も口出せなかった)」

「(絶対【職業】間違ってる気がするんだ、ボクは)」

「(同感だ。意図しない天然な分、余計にタチが悪い)」

「(まあそういうところが魅力的なんだけど……さ)」

「(うんうん。でも私達の心も配慮してほしい)」

「(――ああ、さすがアニキ!

  いや、師匠っすね!

  あれこそオレが目指すべき頂き。頑張るっす)」

「「(をひをひ――それは違うわ)」」



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