番外編 金剛石の夜②
「おはようございます、ミハルさん」
「おはようございます、コノハさん。
今朝は早いですね~」
庭先を箒で掃除する手を止め挨拶に応じてくれたのは緒方ミハルさんだ。
ショウちゃんのお父さんである狭間師範の内弟子の一人。
今時珍しい割烹着を着込んでいて、眠そうな細目が印象的な美人さん。
詳しい年齢は失礼だから訊いた事がないけど、10年前から見掛ける事から間違いなく20後半はいってると思う。
いつも穏やかに話す姿がいかにもおねーさん、といった感じ。
ボクにとっては色々悩み事を聞いてもらう相談相手でもある。
そんな彼女がボクを見つめ、何かに気付いたのか細い目が更に細くなる。
あわわ、鋭い。
「あらあら、うふふ。
略してあらふ。
なるほど……そういう事ですか……」
「な、何のことです?」
「いえ、別に何も。
うふふ……それならば朝早くなりますものね~」
「よく分からないな~ボク。
そ、それよりショウちゃんはいますか?」
「はいはい、あらふあらふ。
ショウくんなら朝の日課を終えて今シャワー中ですよ。
お部屋で待ってて貰って構いません」
「でも……」
「大丈夫ですよ、コノハさん。
わたくしがいい、と言ったのです。
ショウくんに四の五は言わせません」
「は、はい~
それじゃお邪魔します~」
ああいう目をした時のミハルさんに逆らうのは愚の骨頂だ。
急いでブーツを脱ぎ揃えると、階段を昇る。
履き慣れないストッキング先から感じる板間が凄く冷たい。
「ああ、そうそう……
ひとつ、よろしいですか?」
「は、はい!」
――きた。
完全に気を抜き油断し切った瞬間を狙う、絶妙の声掛け。
これだから達人は怖い。
ボクは悪戯が見つかった幼子のようにビクビク振り返る。
箒を掃く手を止めボクをニコニコ見つめるミハルさん。
一礼の後、何故かサムズアップをしてくる。
「頑張って下さいね、コノハさん。
ショウくんは朴念仁だから、はっきり言わないと駄目です。
押しても駄目なら押し倒せ。
ガンガンいかないと他のサブヒロインに盗られちゃいますよ?
好感度を稼いでフラグを立てましょう。
告白イベント絵まで持ち込めれば、ルート確定です☆」
何故か攻略サポートキャラみたいな事を言い出すミハルさん。
昔から人の恋愛を面白がる悪癖があるんだもん、この人。
そういうところが無ければ本当に理想のおねーさんなんだけどな~。
「き、肝に銘じます」
冷や汗を掻きつつどうにか笑顔らしきものを返すと、ボクは後ろを振り返る事無く一目散にショウちゃんの自室へと避難するのだった。
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