番外編 金剛石の夜①


「ふああ……

 うう~よく寝たぁ~」


 12月23日、早朝。

 寝起きのボクを優しく手招きする布団の誘惑を根性で跳ね除ける。

 今日は探索業はお休みの日だ。

 本来なら惰眠を貪ってもいい日。

 しかしそれはそれで――気になる日でもある。


「明日はクリスマスイブ……

 ショウちゃん、何か用事があるかな~?」


 あるいは誰か、とか……

 見知らぬ誰かと楽しそうに微笑み合う幼馴染の顔――

 想像だというのにボクは少し胸が苦しくなる。

 口ではどうあれ、ショウちゃんは優しい。

 顔だってカッコいいし――何より強い。

 ボクにとって憧れであり……誰よりも大切な人だ。

 最近、張り詰めた空気が和らいだのか、話し掛けやすくなったと女性探索者の間では評判だ。

 アオバダンジョンでも数少ない到達者にして踏破者。

 元々注目を浴びやすい。

 ショウちゃんと挨拶して、きゃあきゃあ騒ぐ娘も出てきたくらい。

 気付かぬは本人ばかり、かな。

 朴念仁な困惑顔で対応方法を求めてくる様子を思い浮かべ苦笑する。

 高レベル所持者にありがちな傲慢さも、驕りもない。

 分け隔てなく丁寧に接する。

 それが彼の人気の秘密だろう。

 誰にでも優しいショウちゃん――狭間ショウ。

 優しいという事は美徳だと皆は言う。

 でも――そうじゃない。

 本当に大切な人がいればそんな風には振る舞えない。

 何かを切り捨てでも得たいと願う渇望。

 心を震わすほど揺れ動く情動。

 そんな対象がいれば冷静じゃいられない。

 今の、ボクみたいに……

 嫉妬とも切なさともつかない感情に苛まされるボクのように。

 ボクはショウちゃんの特別にはなれないのかな?

 鏡に映る少女にそう問い掛ける。

 ボブショートの活発そうな少女。

 今は瞳を震わせ不安そうに私を見つめている。

 駄目だな、こんなんじゃ。

 ボクはボクらしくいかなきゃ。

 元気いっぱいで前向き。

 ボクが望み、ショウちゃんが好きな――自分になる為に。


「今日は……頑張ってお誘いするからね、ショウちゃん」


 ボクの、ボクによる、ボクだけの秘密。

 忘れられない聖夜を目指し、ボクは一人決意するのだった。




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