第84話 感嘆アドゥマイア


「信じられないかもしれないが、それは事実だ。

 超越者たるオーバーロードの一柱――

 つまりアリシアが否定しないのが何よりの証拠だ」


 戸惑うふたりに俺は止めを刺す。

 事実は事実、変えられない事なのだ。

 ならばいつまでも腑抜けてないで早急に対応策を取る必要がある。


「そうだよな、アリシア?」

「――はい。

 狭間君の言う通りです。

 別次元からの侵略者、業魔。

 人族廃滅を掲げる奴等の侵攻に対し、我々オーバーロードは探索網を広げ、銀河系規模で常に動向をサーチしています。

 通常は先兵が訪れ、それから小競り合いになり戦端が開かれる。

 この広大な銀河系は人族の揺籃です。

 今も産声を上げる種族が奴等に狙われ続けている。

 勿論同志である人類を手厚く保護した上で我々は戦います。

 その種族が個々の価値をどれほど示したかで援助具合は変わりますが。

 しかし……今回地球に侵攻してきた業魔はあまりにも唐突過ぎました。

 それゆえ事態に対し我々が張り巡らせた世界結界は急造のもの。

 勿論メンテナンスをまめに行ってはいますが、耐久性はありませんし……

 何より侵攻そのものを防ぐ壁にはなりえない。

 どれだけ尽力を注いでも結界の破綻は免れないのです。

 よって我々は決断しました」

「それは?」

「干渉による位階値の上昇です。

 通常であれば啓蒙により種族全体が徐々に目覚めるのを待ちます。

 魂のステージを上げ、巣立ちを迎え自立するのを見守る。

 いつの日か我々と共に銀河を護る同志となってほしいから。

 ですが今回はそんな猶予がありませんでした。

 我々が防衛に向かった際――

 すでに地球は容易に跳ね返せないほど侵攻されてしまっていた。

 だから我々は人類に問いただしたのです。

 

 業魔とは異界からの侵略者である。

 直接世界に干渉することは規則により禁じられている。

 されど――汝等が望むならば戦う力を与えることはできる、と。


 これは本来とても危険な手法……外法です。

 力に付随する意味と意義を自覚させず、ただ手っ取り早く、戦う力のみを与えてしまうのですから。

 種族のモラル観によっては内戦し自滅してしまう可能性さえあった。

 ただ……あなた方は我々の想像以上の存在でした。

 ゲームという媒介によるレベルやクラスが上手くいっているのもありますが……

 皆様、突発的な事態に対する適応力があり過ぎる。

 種族によっては我々を盲目的に崇めるのみで、ただ従う事を是とする。

 我々は神ではありません。

 ただあなた方より先を行くもの……先導者(メンター)なのです。

 我々を崇め奉る奴隷が欲しいのではない。

 我々の行っている事の意味を理解し、その上で賛同するか悩む事が出来る者。

 そう――我々は戦友を求めているのです。

 その点、あなた方は非常に優秀でした。

 自身を主と定め、個人個人が強固な意志を持ち戦う。

 高貴な使命があるのでしょう。

 我欲にまみれた欲望があるのでしょう。

 されどそれは些細な問題です。

 重要なのは各々が自分の意志で戦う事を決めた事。

 戦士の掟を魂で理解してることなのです。

 今、この地球は我々の注目の的ですよ。

 ここでの一戦が奴等業魔との闘いに一石を投じるかもしれません。

 惑星規模の余波が戦域全体に広がる事もあるので」


 いつになく上機嫌でティーカップを傾けるアリシア。

 饒舌なのは本心ゆえに、だからか。

 自分たちに比べ幼く未熟な種族を支援し見守るという苦行。

 その心労はきっと計り知れないものがあったに違いない。

 時折性格が悪くなるのはもしかすれば憂さ晴らしか。

 アリシアだってオーバーロードとはいえ『人』なのだ。

 そういう一面があっても良いに違いない。

 正直に言えばこれ以上負担を掛けたくない。

 でも俺は聞かなければならないことがあった。


「ならばアリシア、教えてくれ。

 ナイアルは……邪神ナイアルラトホテップは俺に言った。

 お前は不確定要素――運命の輪から逸脱した因子。

 確定された未来……因果律を変動させる者。

 それゆえに俺を使徒に選び、支援するのだと。

 俺は馬鹿だ。

 目の前の事を愚直に為す事しか出来ない。

 でも――全知全能に程遠いとはいえ人と位階値が違う超越者なら違うだろう?

 俺はこれからどうすればいい?

 どうすれば一番効果的に動ける?」


 俺の問いにアリシアはにっこり微笑む。

 その可憐な唇から紡がれた返事はある意味平坦である意味驚愕の内容だった。


「それに対する答えは簡単です。

 ――ダンジョンを攻略なさい。

 今よりもハイペースで、多くの者と一緒に」



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