第82話 効力レヴォケイション
「色々お聞きしたいでしょうが……
まずはこちらへどうぞ」
俺を見て意味ありげに微笑むアリシアは寺院内へと俺達を招き入れる。
そこにあったのは以前にも見た瀟洒なテーブルと椅子。
上には勿論、英国風ティーセットが鎮座していた。
残念ながらコノハを廃人にしかけたケーキセットは今回ないようだ。
内心コノハがしゅん、としたのを感じて苦笑する。
「立ち話も何でしょうからお掛け下さい」
勧められるまま俺達は着座する。
身体にフィットするクッションが心地よい。
無言のままティーセットへ紅茶を注ぎ、かいがいしく配るアリシア。
立ち振る舞いの美しさはまるで屋敷に仕える熟練の執事かメイドの様だ。
皆の前に湯気が立つ紅茶が並んだところでアリシアが口を開く。
「お待たせしました。
さあ――何なりとお尋ねください」
「アリシア……
俺がダンジョンを攻略したのは知ってるよな?」
「ええ、おめでとうございます。
コノハさんのご助力があったとはいえ、まさか【騎士(ナイト)】クラスの業魔を退けるとは思えませんでした。
あの時点でのあなた方の戦力数値では到底討伐は無理。
騎士クラスに対抗するなら最低でも踏破者レベルが6人は必要ですからね。
無謀としか思えない試み。
なのにあなたは討伐を為し得た。
ならば結論は一つ。
狭間君――使徒になったのですね?」
「――ああ」
「ならば納得がいきます。
我々のような亜神ではなく真の神。
世界法則、因果すら改編する無貌の一柱。
彼(か)のものに連なる契約者であり烙印者――使徒。
使徒ならば騎士クラス業魔など容易に退けられるでしょうから」
「そんなに便利なものじゃないけどな。
それにナイアルは俺へ自由に動けと告げた。
お前が動く事による因果律の変動。
揺れ動くカオスこそが混沌を司る神の使徒の証、と」
「――なるほど。
彼の動向は不明瞭でしたが……理由を聞けば納得です。
人類に敵対する意はないのですね?」
「奴自身は業魔の侵攻に興味すらないだろう。
ただ人類の存亡に関しては見過ごせないと言っていた」
「それは――何故?
彼の存在にとって人類など、塵芥の様な価値しかないのでは?」
「理由は……ただ一つ」
「――?」
「観客がいないとつまらん、だそうだ」
「ぷっ――あははははははは!
そうですか……
自身の行為を客観的相対的に捉えるには観測者たる人類――観客が必要、と。
なるほど、確かに彼の存在らしい答えだ」
「俺には非常に納得のいく答えだったけどな。
奴は凄まじい叡智と力を持ちながら、それ故退屈に飽いてる。
だからこそ滑稽で憐れな俺達が愛おしいのだと思う」
「――ええ、そうでしょう。
気紛れな神の気紛れな理由。
あなたが見初められた幸運を感謝しなくてはならないでしょう。
しかし彼の存在が敵対しないだけでも朗報です。
我々にとって時間は黄金のごとく貴重なので」
「――それだ、アリシア。
俺が訊きたいのは。
あなたは……知ってたんだな?」
「――ええ。
あなたのことも、これからの事も。
そしてわたし達が手助けできるのは僅かだという事も」
「だから、なのか?
だから超越者達は介入を最小限度に留めているのか?」
「――狭間君。
あなたがあの外なる神にどのように唆されたかは知りません。
ですが我々とて傍観しているわけではない。
出来る事を、ただ懸命に為すのみです。
あなたたちから見れば我々オーバーロードは万能に思えるかもしれません。
しかし我々とて未だ至らぬ身。
どうしようもない事はどうしょうもないのです」
溜息をつきながら紅茶を傾けるアリシア。
俺はその澄まし顔に激しい怒りを覚える。
いつになく感情的な俺を不審に思ったのだろう。
コノハとミズキが尋ねてくる。
「ちょっとちょっと、ショウちゃん。
さっきから意味が分からないよ?」
「――無作法なのは承知だが私も伺いたい。
話がよく見えないのだが……」
「――アリシア。
ふたりに話しても構わないのか?」
「――ええ。
到達者に至ったミズキさんと神の器候補者コノハさん。
是非ふたりにも理解して頂きたい」
「――ならばいいか。
コノハ、ミズキ。
ふたりとも心して聞いてくれ」
「――うん」
「――はい」
「業魔の侵攻を喰い止めている世界結界は知ってるな?
超越者たるオーバーロードが張り巡らせた存在改竄弱体化の境界」
「勿論だよ」
「探索者研修で習うんだ。
当然だろう?」
「ならば話は早い――
それが近日――崩壊する」
「――え?」
「――は?」
「持って半年――
早ければあと数ヶ月で、世界結界は完全に効力を失ってしまう」
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