第79話 宣誓ハラスメント
芸術と言っても差し支えのない土下座を見せた人物。
それは無論、先日邂逅した男勇者こと関城タダオだ。
奴との遭遇は忌まわしき記憶としてフォルダー奥にしまい込んだっていうのに……なんでまたこんな……
そこまで思い至った時、俺はふと気付く。
こいつ――今何て言った?
「――おい」
「はい、なんでしょうかアニキ!」
「……そのアニキっていうのは止めろ。
――っていうか、なんでいきなり俺の弟子になりたいんだ?」
「そんなの答えはシンプルっすよ」
「ん?」
「モテたいからっす!」
――ズコ。
俺を含むパーティ全員が盛大にこける。
漫画みたいな擬音エフェクトが絶対発生した。
リアルでギャグ時空へ引き摺り落とすとか……マジこいつなんなの?
出てくる作品、間違ってない?
「えーっと……
それでモテたい、だと?」
「ういっす。
探索初日にして難関の第10階層主を突破した新進気鋭のパーティ、ソレイユ。
今、酒場は皆さんの噂でもちきりっす。
アオバダンジョンを攻略したとか鬼軍曹とか自爆勇者だとか。
しか~し、オレは違う。
そんな噂とかはどうでもいい。
このタガジョウダンジョンでもトップテンに入る美少女を従えるアニキの手腕。
そこに惚れ込みました!
是非、弟子に!
良ければオレにモテる秘訣を伝授して下さい!」
曇りなき眼で俺を見上げる関城。
その瞬間、俺はやっとこの男の本質を理解する。
こいつ――良くも悪くも本物の馬鹿だ。
その言動、行動には計算も打算もない。
刹那の感情というか本能に従う奴だと。
不思議とこういう奴は憎めない。
っていうか――周りが放っておけないのだ。
こいつ、俺がいないと駄目じゃね?
といった具合で。
悪い方に転がれば他人に寄生する屑人間だが……
良い方に転がれば英雄にもなれるタイプ(劉邦みたいな)。
ふむ、面白い。
「そこは私からもお願いするわ、ショウ君」
声を掛けられる前から気付いてはいたが、いつの間にかレイカさんが俺達の様子を窺っていた。
意地の悪い笑みを浮かべながら動向を探っていた様だが介入してくるみたいだ。
「どういう意味です?」
「短期間のお試しでいいから彼の面倒を見て上げてくれない?
彼、昨日パーティメンバーが怪我をしたのよ。
怪我自体は治療院で回復したけど……精神(MP)の憔悴が酷くてね。
仲間を欠いた彼はしばらくダンジョンに潜れなくなる。
それはダンジョン庁職員の私見――
というか行政側の意向として非常に痛手だわ」
「つまり――俺達のパーティに入れろ、と」
「察しが早くて助かるわ。
勿論、無期限じゃない。
三日。
この間だけ彼の面倒を見て上げて。
その後は私が色々フォローするから」
「オレからもお願いするっす!
ず~~~~っとは言いやせん。
アニキの傍で是非学ばせて下さい!」
珍しく真剣なレイカさんの頼みに、関城の真摯な土下座。
やれやれ……これは断れない雰囲気だ。
まあ、もとからこいつに興味が涌いてたんだけどな。
僅かな片鱗を見せているとはいえ、今はまだ無骨な原石。
だが――こういう奴は鍛え上げればどこまでも輝く。
俺は目線でふたりに同意を窺う。
コノハとミズキは苦笑しながら頷いてくれた。
「顔を上げてくれ、関城」
「はい」
「パーティ加入中、このふたりにセクハラをしないって誓えるか?」」
「そんなの当たり前っすよ。
馬鹿にしないで下さい。
アニキのお相手に手出しをするほどオレは見境なくないっす」
「(お相手……)」
「(この人意外といい人かも……)」
「ふたりは俺の恋人じゃない」
「(がっくし……)」
「(ショウちゃんのバカ……)」
「だが――掛け替えのない大事な存在だ」
「(しょ、ショウ!)」
「(ショウちゃん!)」
「それが守れるなら――俺がお前を鍛えてやる。
っていうか――弟子? にしてやるよ」
「マジっすか!?
誓うっす、オレは今日からアニキの一番弟子になりますんで!」
「――あら?
本当にいいの、ショウ君」
大喜びする関城に意外そう表情を浮かべて驚く魔女。
アンタが薦めてきたんだろうが。
突っ込みたいのをぐっと堪え関城に手を伸ばす。
がっちり握り返し立ち上がる関城。
こうして俺の望む形とは違えど――
短期間(三日間)限定で俺達は第二の勇者と共に戦う事になったのだった。
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