第77話 誤解ドリーマー


 年頃の女の子が両隣に寝ている。

 客観的に見ればハーレム系主人公っぽいシチュエーションだろう。

 これがラブコメならイベントの一つくらい起きそうなのだが。

 しかもその二人がこれまた凄い美少女なのだ。

 幼馴染とはいえコノハは可愛い。

 普段性格のせいで忘れがちだが、黙っていれば文句なしのレベル。

 ミズキだって負けてはない。

 まるでモデルの様な容姿。

 それでいて気さくな人柄は多くの者を魅了してやまない。

 二人は知らない様だが……アオバダンジョンの探索者内には、ふたりの熱烈な隠れファンが多い。

 そんな輩にとって同じパーティメンバー、あるいは親しい会話を交わす男がどう映るのかは語るまでもないだろう。

 嫉妬まみれの怨嗟を幾度すれ違いに呟かれたことか。

 そんな特級の美少女たちと枕を並べ就寝する。

 恋愛に疎い俺でなくとも色々勘違いしそうだ。 

 しかし――俺は騙されない。

 今までこういう事は何回かあった。

 前のパーティの奴等が道場に泊まり込みで修業した時は俺も誘われた。

 コイバナにも参加した。

 星空や花火を一緒に見たり、遊園地や水族館も同行した。

 それでもフラグが立つことは無かった(涙)

 別に恋愛至上主義の恋愛脳じゃない。

 けど何かあるかな~と期待してしまった俺が愚かだった。

 一般的に女性が異性に求めるのは共感だという。

 前パーティ内において男は俺一人。

 きっと女性陣としては偏見のない男性の意見が聞きたかっただけなのだろう。

 酸いも甘いも嚙み分けた経験から俺は学んだ。

 二人にしてもそうだ。

 俺に好意らしきものを抱いてくれてるのは分かる。

 だけどそこで自惚れてはならない。

 きっとふたりが望んでいるのは頼りになるリーダーなのだから。

 そこをモテると勘違いしたら幻滅される。

 鋼の自制心を以てふたりへは接しなければならない。

 とはいえ湯上りの美少女がふたり。

 意識するなという方が無理。

 明日の事もある為、強引に眼を瞑り羊を数える。

 眠れる訳がないと思っていたが、比較的すんなり寝てしまった。

 だからそこに至った瞬間に思い出す。

 そう、これは起きたら忘れてしまう夢。

 俺に加護を授けてくれた外なる神の領域。

 なので俺は目前で優雅にティーカップを傾ける存在へ声を掛ける。

 使徒たる、自らの領分を示す為。


「……お久しぶりです、ナイアル。

 息災そうで何よりです」

「――ふむ。

 かくいうお前はまた腕を上げたな。

 招きに誘ったとはいえ――

 よくぞ我が元へ来たな、ショウよ。

 心より歓迎しよう」


 言葉とは裏腹に微塵もあたたかさ感じさせぬ声色。

 俺は全てを視通すようなその視線に内心の震えを隠しながら応対するのだった。







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