第76話 深夜テレフォン
夜遅くに鳴る電話。
大概それは凶事の知らせだ。
でも――たまには良い報せもあるから無視はできない。
寝ぼけ眼で連絡者の名前を確認した、私――御神アヤカは電話に出る。
電話先の声は間違いなく遠方にいる従姉妹のものだった。
「こんばんは、アヤカ」
「こんばんは、レイカねーさん」
「遅い時間に電話してごめんなさいね。
仕事が長引いてしまって……寝てたかしら?」
「ううん。
今、起きたところ」
「……起きた?」
「うん、仮眠してた。
これからご飯食べて朝までネットゲー三昧予定」
「貴女……変わってないようね。
順調に引き篭もり生活を満喫中っぽいし。
忠告しておくわよ?
今は若いからいいけど――その内、肌からくるから」
「まだ大丈夫……多分」
「そこで自信なさげなのは――
はたして謙虚さの現れなのか……あるいは自覚症状が出てきたのか」
「うっ……
相変わらずレイカねーさんは痛いところをいつも的確に突くわ」
「フフ……性格悪いもの。
そんな貴女に朗報です」
「なに?」
「彼女……
ついにタガジョウダンジョンに来たわ」
「――例の?」
「そう、貴女の幼馴染ちゃんが委譲した自爆魔法を受け継いだ娘。
探索開始わずか一月半でアオバダンジョンを攻略。
これは貴女の幼馴染ちゃんに並ぶ記録ね。
行政の注目度も高いわ」
「残念だけどミドリはもう戦わない」
「分かってるわ。
スザクダンジョン攻略時にそう明言されたし……
クラスはともかく勇者としての力は喪われたでしょうから。
だからね、そんな貴女にお誘い。
バイトしてみる気はない?」
「バイト?」
「そう、彼女の手助けをしてほしいのよ。
新しい娘が入ったとはいえ彼女のパーティメンバーはまだ三人。
どうしてもバランスを欠いている。
そこに貴女が加われば多分こっちのダンジョンも攻略できそうなの」
「他の勇者達は期待できない?」
「そう、ね。
資料だけでなく当人たちとも会ったけど……難しいわね。
ひとりは本能に忠実過ぎるし、もうひとりは夢想家過ぎる。
現実が視えてないのね。
タガジョウが墜ちたら後がないのに」
「レイカねーさん……」
「貴女に愚痴っても仕方ないわね。
幸い彼女たちがアオバダンジョンを攻略したお陰で余裕が出来た。
だから急ぎじゃなくてもいいから、一度こっちに来て手伝って貰えない?
腕利きの方々が隣県の火消しに駆り出されて人手不足なのよ」
「……分かったわ。
あと三日したら行くから待ってて」
「助かるわ。
住むところとかは気にしないで大丈夫。
ちゃんと手配しておくから。
それに……彼も紹介したいし」
「遊び人の?」
「遊び人だった、よ。
男は嫌いだけど……彼はまあ、別かな?
今は行政期待の星、新進気鋭のホープ。
何せ世界でも数少ない唯一職だもの……貴女と同じ、ね」
「その事だけど……
レイカねーさん、何か隠してない?」
「そうね。たとえばこんな事?
彼と貴女は同じ祖先をもつ血縁関係者――だとか」
「やっぱり……
薄々気付いてはいたけど」
「秘匿するほどではないけどね。
貴女が業魔に与しないか心配だったのではっきりとは言えなかった」
「生憎、誰かさんのお陰で捻くれた性格に育ったもの。
あんな奴等に味方したりはしないわ」
「頼もしい返事ね。
じゃあ――早めによろしく。
そうじゃないと九綾流星刃(ナインエッジ)の製作費、利子を付けて払ってもらうから。
あ、無理なときは身体で支払ってもらうわよ」
「それは怖い……
っていうか壊されそう、色々と。
なので早めに向かいます」
「――そう? 残念。
そういえば何故三日後なの?」
「いま丁度ゲームのキャンペーン実施中。
これを逃す事は出来ないから」
「行動にブレがない……さすがね(溜息)。
じゃあ――待ってるわ、アヤカ」
「――ん。
ねーさんも頑張ってね」
親愛の意を込めて電話を切り、背伸びをする。
ここ数ヶ月の引き篭もり生活で確かに身体のキレが悪くなった。
レイカねーさんの言う通り、身体を動かす方が賢明だろう。
冗談交じりに三日と言ったが、果たして勘を取り戻せるだろうか?
私はパジャマを脱ぎ捨てジャージに着替えると、同居人に一言告げて夜の街に走り出す。
手伝うと決めたからには――
最高のコンディションへと仕上げる為に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます