番外編 京都試練場異聞録⑦


「しっかし敵わんな……

 アヤカちゃんはそないに強うなって、どないするん?」


 寺院の奥、祭殿の様な台座に輝くクリスタルはそう語り掛けてきた。

 似非臭い男性的な関西弁。

 多分上辺だけを真似たものだろう。

 生まれが関西でない私はその事に敏感だからすぐ分かった。

 でもクリスタルそのものから漂うのは間違いなく桁外れの神気(オーラ)。

 となればリージョンコード対応、ということなのかな?

 詳しくは知らないけど。

 なんでもこのクリスタルはこう見えて超越者と繋がる端末らしい。

 踏破者になった私は初めてここに来てその説明を受けた。

 この地域担当のアルテマと名乗ったオーバーロードの質問。

 私は考えるまでもなく即答する。


「あら、決まってるでしょ」

「ん?」

「ダンジョンを攻略するつもりよ」

「おお……やる気満々やな。

 ――それはあれか。

 名誉が欲しいとか、誰よりも強い力が欲しいとか――」

「いいえ――

 攻略ボーナスである報奨金と単位免除で引き籠りたいの」


 私は人付き合いが苦手だ。

 ずっとソロだったのも、正直一人の方が気が楽だったからという意味もある。

 誰かの顔色を窺って生きていけるほど器用じゃないのは自覚してるし。

 率直な私の返答に何故か困惑するアルテマさん。

 どうしたんだろう……?

 何故か端末先で冷汗を流してる姿を幻視してしまった。


「そ、そうかいな……

 それはまあ――随分と利己的な理由なんやな」

「戦う事に大義名分はいらないわ。

 探索業は業魔との生存競争。

 弱い方が負ける、ただそれだけよ」

「ドライな考え方や」

「現実的と言って」

「いかんな~今時の若い者はもっと夢を持っていかんと……

 って、おっさんぽいな。やめやめ。

 それでな、アヤカちゃん――

 君、遊び人やったけど、実は……」

「業魔の血を引く者、なのでしょ?

 今より昔、世界結界がまだ作用していない頃に人と交わった業魔……

 つまり魔族の系譜に連なる証。

 職業という加護でなく、枷を負わせることでその本質を縛る為のもの。

 遊び人は賢者になり力を得るのではない。

 むしろ枷から解き放ち――魔族としての特性を解放するだけ」

「……知ってたんかい」

「ダンジョン省に勤める親戚から聞いたわ。

 私が小さいころから疎まれたのもお母さんの血筋が問題だって」


 古来より世界に紛れ込む、はぐれ業魔を退治してきた御神家。

 政府とも協力し合うそこそこ重要なポジションに位置する一族。

 傍流とはいえ、そんな父と結ばれた業魔の血を引く母。

 私はそんな二人の間に生を受けた。 

 しかし御神家にしてみれば討伐対象との混ざりもの。

 それ故か、私は幼少の頃より忌み子として一族から蔑まれてきた。

 まあ――それで悲観的になるほど私は絶望してない。

 自分に何かしてくれる訳でもないし、言いたいことは言わせておけばいい。

 勿論、私自身が悪意に鈍いのもあるけど……

 中にはレイカねーさんの様な理解者もいるから。


「それで――クラスチェンジはもう終わりなの?」

「さっきクリスタルに触ったやろ?

 それでおしまいやで」

「……盛り上がりも何もないのね

 今時、格安のソシャゲですらなにか派手なエフェクトがあるわ」

「七色の光が乱舞するとか、高らかにファンファーレが周囲に鳴り響くとかの演出があった方が良かったん?

 物足りないかもしれんけど――直接クリスタルに触れた段階で転職は終了や。

 あとは通常空間に復帰した瞬間から君は上位職に就く様になる」

「上位職……」

「そう、君が選んだ君だけの可能性【唯一職(オンリージョブ)】

 舞刃姫(ブレードダンサー)。

 計算されない未知なるもの。

 これまでの前例は全世界規模ですら2名。

 手堅い【賢者】とは違い、正直どうなるか分からんで?」

「いいのよ。

 その方が面白いし」

「はっ。敵わんわ……

 君らのその好奇心(ワクワク)と探求心(ドキドキ)は、我々もホンマ見習わんとアカンな。

 ま、唯一職の名と能力は各自違うものの……その誰もが強力無比なる力の持ち主となっておるからな。

 アヤカちゃんなら大丈夫やろ。

 探索業を続けて、いつかコアを砕いてや」

「……えっ?

 何を悠長な事を言ってるの?」

「あん?

 そりゃどういう――」

「私と相方が本気を出す以上――

 スザクダンジョンは今日、壊滅させるわ」

 

 





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