番外編 京都試練場異聞録⑥


「これは……凄まじいわね」


 一人呟き広場を見渡す。

 ミドリの自爆呪文がもたらした結果に私は驚愕していた。

 あれほど蠢いていた業魔の群れ。

 それらが全て――消し飛んでいた。

 呪文一発で、文字通りの壊滅。

 想定を超える効果に言葉を無くしてしまう。

 先程にミドリの特技ステータスを確認した時――

 驚きと共に浮かんだのがこのモンスターハウスだ。

 業魔が密集したこの広場で自爆呪文を唱えたらどうなるか?

 魔法の仕様にもよるが一網打尽に出来るのではないか、と。

 その期待は良い意味で裏切られたと思う。

 逃げ場のない空間で放たれる圧縮された爆発。

 威力の程は盛大に炸裂した閃光を見るまでもなく明らかだ。

 魔法使い系の最上位範囲呪文ですらここまでの殲滅力はないだろう。

 禁断の秘儀ともいわれる自爆呪文。

 何故勇者のミドリがこの呪文を使えるのかは不明だ。

 けれどそのあまりの力に戦慄すら覚える。

 これなら――深層部の敵にすら通用するんじゃないかな?

 もっと有効に活用する為には……

 

「――アヤカちゃん!」


 思考の海に沈みかけた私を遮る様に声が掛けられた。 

 視界を覆う広大な空間を覆っていた白煙。

 それはどこからか吹く風に乗り――徐々に吹き飛ばされていく。

 ダンジョン内は異世界生活環境の一部でもある。

 きっと窒息しないように換気がしっかりしているのだろう。

 その中から勢い良く飛び出して来たのはミドリだ。

 予想通り――多少煙で煤けているも無傷な姿で。


「酷いよ、アヤカちゃん!

 さっきのメモはいったい何だったの!?

 言葉にしたら、いきなり私を中心に爆発したんだけど!」

「……おめでとう、ミドリ」

「――え?」

「貴女、気付いてないかもしれないけど――

 何回レベルアップしたと思う?

 現在のと合わせて11回。

 今日から晴れて到達者の仲間入りよ?」


 指摘通りレベルアップ時の発光現象が止まらないミドリ。

 無論、それは私も同様だ。

 あれだけの数の業魔を一気に討伐したのだ。

 それはとんでもない経験値稼ぎになる。

 発光回数を数えると、ミドリが11上昇でレベル14に。

 私は8つ上昇で20を超えた。

 これで転職可能な踏破者に至った訳だ。

 レイカねーさんから事前に聞いていた遊び人にまつわる機密情報の通り――

 13レベルを超えた瞬間から【遊び】スキルが勝手にパッシブ状態なった。

 ダンジョン省、杜の都担当のレイカねーさんの話では、有望な新人がやはり同様の状態に陥ってしまったらしい。

 攻撃的意志を感じると身体が勝手に動き【遊び】だす始末。

 確かにこんな状態ではまともな戦闘は望めないだろう。

 でも――防衛に専念するのは何とかなりそう、かな?

 ミドリの力と合わせれば地上に戻ることは出来ると思う。


「ぼ、ボクが到達者に――!?

 もう……屑じゃない。

 一人前の探索者になった、って事だよね?」

「ええ――そうよ。

 誰にも貴女を役立たず、なんて言わせはしないわ」


 呆然とした後――ミドリは涙を流し喜ぶ。

 晴れ晴れとしたその笑顔に心から安堵する。

 彼女の心に巣食う負い目を、掬って救えた――かな?

 韻を踏んだ感想。

 面白くなった私はミドリにつられる様に微笑む。

 何はともあれ――

 こうして初の自爆呪文戦闘は何事もなく無事終了した。

 殲滅し尽くした業魔達だけど――

 残念なことに明日になれば全てリポップしてしまうだろう。

 しかし――それは逆に考えれば幾度でも同様の事が可能。

 またここに来ればレベルアップを図れる。

 その効率の良さは、レベルアップに必要な経験値が最も多い勇者――ミドリが僅か一日で一気に到達者の仲間入りしたことからも明白だ。

 自爆呪文のチート仕様に呆れるしかない。

 そして私も転職に必要な20レベルの条件を満たした。

 訓練所に設けられた【寺院】に行けば今日にでも転職は可能だ。

 遊び人は武と魔法に長けた賢者にいきなり転職することが出来る。

 ――賢者になるか? それとも……

 ミドリのお陰で急に開けた未来。

 喜びのあまり抱きついてくるだけならまだしも、どさくさに紛れてキスをしようと迫るミドリの口元に、混乱草(シャブ)を詰め込みながら――私はこれからの自分の行く末をのんびりと考えるのだった。




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