番外編 京都試練場異聞録⑤
>第二階層
「九綾流星刃(ナインエッジ)・二の型、槍状形態(スピアモード)<紫雨>!」
ザクザク
「ぎゃああああああああ!!」
>第三階層
「九綾流星刃(ナインエッジ)・三の型、剣状形態(ソードモード)<蒼穹>!」
ズバズバ
「ぐおおおおおおおおお!!」
こうして途中、色々遭ったけど――
私とミドリは何とか第四階層、その手前まで来る事が出来た(ふう)。
「……いや、アヤカちゃん滅茶苦茶強いじゃん。
これならボクいらないどころか、ソロの方が効率いいんじゃ……」
「今までは、ね。
残念ながら――ここから先はそうも行かないの」
これまでは迷宮型ダンジョンという事もあり、周囲の動向へと気を配りながら基本ヒット&アウェイを仕掛ける事ができた。
不利な数や苦手な業魔は物陰に隠れるなりしてやり過ごす事も可能。
でもスザクダンジョン第四階層は別だ。
このフロアは運動場を幾つも繋げたような長大な広場。
そこには無数の業魔が巣食っている。
俗に言うモンスターハウス型エリアなのだ。
俊敏さには自信がある私もさすがにここを突破するのは難しい。
勿論、命の危機を顧みなければ話は別だけど……そんな事をしても意味がないし、行った先の第五階層で間違いなくゲームオーバーだ。
だから私は無茶をしないという事を前提に低階層で経験値を稼いできた。
しかし――それも限界を迎えていた。
得られる経験値が極端に少なくなってきているみたいだった。
これはきっと雑魚狩りをしても魂の位階は上がらないというオーバーロードの警句なんだろう。
なので今日は少しだけ無茶をしてみようと思う。
幸いこの時間は探索者が誰もいなくなる時間帯。
ミドリの力を試すには絶好の機会だ。
「じゃあここで待っててね、ミドリ――
私、ちょっと行ってくるね」
「行ってくるって……
アヤカちゃん――階層を繋ぐ階段以外は危険地帯だよ!?
それなのに一人であんな無数の業魔を相手に……」
「――大丈夫、見てて」
軽く膝を曲げて屈伸。
ついでにアキレス腱もゆっくり伸ばす。
ん……反応は上々、絶好調。
久々にギアを上げてみよう。
私は出だしから全力疾走――
トップスピードに乗せ広場へ駆ける。
無論、愚かな獲物が来たのを見過ごす訳がなく――
牙を剥いて襲い掛かってくる業魔。
奴等とは本格的に交戦はしない。
けれどタゲ取りとヘイトを得られるよう、軽く一撃のみを入れていく。
憤慨したのか、広場を走る私の後を業魔達は追い掛けてくる。
ふふ……うまくいったようだ。
私はその後も同様の行為を繰り返し――
荒くなった息が切れる前に、ミドリの待つ安全地帯へと駆け込む。
間一髪、階段前で雪崩を打ってもんどりうつ業魔達。
俗に言うトレイン状態で、まあ蠢く蠢く。
その数はおよそ500は軽く超えるだろう。
「どどどどどどどどうするの、アヤカちゃん!
とてもじゃないけど、こんな数相手に出来ないよ!?」
「そうね、困ったわね」
「な、何を落ち着いてるのさ!
もし何かしらの偶然でスタンピードが起きたらボク達死んじゃうんだよ!?」
「貴女は死なないわ、勇者だもの。
上手くいかなくても私が死ぬだけよ」
「――え?」
「ねえ、ミドリ――」
「な、なに?」
「貴女――本気で自分を変えたい?」
「ふえっ?」
「役立たず、期待外れ――
自分は前線に出ないのに……おそらく貴女をそう罵り馬鹿にした奴等。
そんな無責任な人々を見返してやりたい?」
「ぼ、ボクは……」
「うん」
「ボクは……自分を変えたい。
見返してやりたいとか――そういう気持ちじゃない。
ただボクは不甲斐ない今の自分が嫌だ。
弱さに負けて卑屈気味になってしまった自分が嫌だ。
だってせっかく勇者に選ばれたんだよ?
なのにこのままは嫌。
何の役にも立たないまま終わるのは――ぜえったい嫌だ!」
「うん、上出来よ……
その心意気、忘れないでね?」
「――うん」
「そんな貴女を変える魔法の言葉があります」
私は取り出したメモを中が見えない様にミドリへ渡す。
不思議そうにメモを見下ろすミドリ。
こんな状況で何を、と思ったのだろう。
「目を閉じて3秒後――
目を開けたらこのメモに書かれた言葉を口にして。
それだけで貴女は醜いアヒルから綺麗な白鳥になれるわ」
「な、なんだか怪しいけど……
うん――分かった。
アヤカちゃんを信じてみるね!」
素直に目を閉じて数を数え始めるミドリ。
そんな彼女を後に、私は再度全力疾走。
急ぎ降りて来たばかりの階段を昇る。
きっかり3秒後、階下に響くのはメモに書かれた言葉。
それはまさしく運命を変える魔法の呪文。
「え~っと、なになに……
――【メ〇ンテ】?」
その瞬間――まばゆい閃光と共に、まるでダンジョンそのものを揺るがす様な爆音と爆発が第四階層に炸裂するのだった。
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