番外編 京都試練場異聞録③


「それじゃあ、まずはミドリの実力を見たいのだけど……」

 

 スザクダンジョンはオーソドックスな迷宮型タイプだ。

 出てくる業魔も階層が深くなればなるほど強くなる。

 ソロである私は4階層までしか潜ったことがないけど――

 比較的新しいスザクダンジョンは今のところ10階層まであるらしい。

 ミドリとパーティを組むならまず互いの実力を知らなくちゃいけないと思う。

 不思議なことに彼女は武器を所持していなかった。

 防具も勇者のトレードマークである宝玉付きのカチューシャ以外は、至って普通の軽装だし。

 まあ術師タイプの勇者もいるにはいる。

 勇者特有の魔法で戦う遠距離型だ。

 中には肉弾戦で戦う、拳こそがジャスティスという熱血勇者もいるにはいる。

 彼女がどのタイプかは不明。

 だけど気になるといえば気になる。

 これからパーティを組む同士、そこは遠慮していては始まらない。

 連携を図る上でも重要だし。

 だから率直に訊いてみた。

 ナチュラルな私の質問にミドリは何故か笑顔を強張らせた。

 そして機嫌を窺う様におねだりしてくる。


「い、いいけど……ね。

 その前にアヤカちゃんの実力も見たいな~なんて」

「別に構わないけど……」


 私は道具袋から武器を取り出す。

 鈍い金属色のそれは一見するとただの鉄球にしか見えない。


「え……なに、それ。

 アヤカちゃんはそれを投げて戦うの?」

「――ううん。

 これはね、投げるんじゃなくて……

 って、実際に見てもらった方が早いかな?

 お客さんが来たみたいだから見ててね」


 疑問を浮かべるミドリに対し、私は解説を一時中断し構える。

 私達の会話を聞き付けたのだろう。

 奥の通路からガシャガシャと武具を鳴らし駆け寄る気配。

 現れたのは6匹のゴブリンだった。

 矮小化した小鬼といった容姿で、各自お粗末な武具を身に着けている。

 先程から響く派手な音は武具が揺れる音だったのか。


「それじゃあ、やっつけてくるから」

「ちょ、ちょっと待ってアヤカちゃん!

 あいつらゴブリンだよ?

 そこに美少女のアヤカちゃんが突っ込むの?

 薄い本なら慮辱対象で18禁な展開になっちゃうよ、絶対!

 に、逃げた方がいいんじゃ……」

「不吉なことを言わないでほしいのだけど……」

「ご、ごめんね?

 アヤカちゃんフラグ立て上手だから、つい」

「……貴女には負けるわ。

 心配しないでもあいつらは雑魚。

 数の内にも入らない力量よ――」

「えっ……ちょ、まっ」


 制止しようとするミドリの声を後に全力ダッシュ。

 距離を詰めようとしたゴブリンたちの方へ逆にこちらから近寄る。

 十分間合いに入ったことを認識した私は、手にした金属球へ思念を送る。

 私の意思に応じ金属球から飛び出た柄を一気に引き抜き叫ぶ。


「九綾流星刃(ナインエッジ)・一の型、鞭状形態(ウイップモード)<紅夜>!」

 

 腕と共に振り抜いた柄の先に続くのは、金属球が変形した鞭状の刃。

 それは凶悪な切れ味で旋回範囲にいたゴブリンたちを両断、瞬殺する。

 抵抗する間もなくゴブリンたちは魔石を残し消滅した。


「こんな感じなんだけど……」


 残心後――

 危険がないことを把握した私は紅夜を再度金属球に戻しミドリに振り返る。

 固まってた。

 石化したみたいに動かないミドリに不安を覚える。


「あの……」

「なになにそれ~~~~!!

 アヤカちゃん、めっちゃくちゃ強い!?」

「――ええ、一応それなりには。

 貴女、知らないで私のところに来たの?」

「いや、知ってたけど!

 誰とも組まず単独でダンジョンへ潜る美少女遊び人の噂は有名だし」

「その言い方だと……

 何だかいかがわしい響きね」

「美少女なのは事実じゃん。

 でも噂だけじゃなくて本当に強いんだ……

 アヤカちゃんって今、なんレベル?」

「――今は12。

 もう少し努力すれば13になれると思うの」

「かはっ……まさか到達者寸前とは。

 ピンチのアヤカちゃんをカッコよく守って好感度を稼ぎ……あわよくば既成事実を作る切っ掛けにしようと図るボクの野望が崩れたぁ~」

「――あの、申し訳ないけど全部聞こえてるわよ?

 ミドリ、貴女はもう少し自重した方がいいと思うの」

「じゃあじゃあ、さっきの変形する武器は何!?

 あれも何か特殊なヤツなの?」

「あれはさっきも話に出たレイカねーさんがプレゼントしてくれたものよ。

 思念反応金属(オリハルコン)で出来た形状変化武器(オールウェポンズ)。

 担い手の要望と戦況に応じて武器の形が変わる。

 レイカねーさんはブラックスミスという上位職だから魔化が可能なの。

 姪っ子の私を心配して大分奮発してくれたみたい」

「え……いくらするの、それ?」

「量産化前の試作一品物だから……

 安くて――数千万円、かな?」

「数千万!?」

「魔化武具なら普通よ、その値段」

「……幼馴染に勇者になったとドヤ顔で告白しに行ったら――

 なんと自分を上回るチートだった件について(小声)」

「? なに?」

「ううん、なんでも――

 新しい小説のネタになりそうだな~って……ううう(涙)」


 何故かさめざめと泣き始めるミドリ。

 さっきから情緒不安定気味で怖い。

 まあウジウジしてても仕方ない。

 私は魔石を回収するとミドリに尋ねる。


「私の実力は理解できた?」

「うん、痛いほど」

「それで今度はミドリの実力を知りたいのだけど……」

「……笑わないでね」


 そっと差し出されたのはステータスをプリントアウトした用紙。

 能力値からスキルまで記載される優れものだ。

 ――どうしてこんなものを渡すのだろう?

 訝しげに思いながら私は用紙を受け取る。

 そして中身を読んで……驚愕してしまうのだった。




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