番外編 京都試練場異聞録②


「ここが京の都スザクダンジョン、その入口よ」


 ゲートを抜けた先にある仄暗い暗闇。

 ぽっかり空いた穴を前に、私は後ろを振り返りミドリに説明する。

 さっきから彼女は心ここにあらず、といった感じでどこか虚ろだ。

 初の探索という事で緊張しているのだろうか?

 少し、不安になる。

 朝の襲撃の後――結局彼女に推される形でパーティを結成してしまった。

 まあ学兵としての探索ノルマの期日が迫っていたし、丁度良かったかも。

 勇者に選ばれたという彼女と一緒なら、最初は大変でも安心できるし。

 基本ソロ探索だった私にとって初の仲間だ。

 成り行きでも大事にしたい。

 ただ……さっきから一向に反応が無いのが気になってしまう。


「ミドリ……大丈夫?

 全然返答がないのだけど……」


 私は彼女に近づき顔色を窺いながら尋ねた。

 反応は劇的だった。

 顔を赤らめ、俯くミドリ。

 風邪だろうか?

 状態に応じては探索を止めて戻った方がいいかもしれない。

 その時――心配になる私を遮るように、ミドリが閉ざしていた口を開いた。


「かっ……」

「か?」

「可愛い~~~~~~~~!!!」


 喜色を浮かべ絶叫するミドリ。

 な、なに? どうしたの!?

 眼が血走ってるというか……イっちゃってない?

 ……正直怖い。


「おかわわわわわわいいいいいいいいいい!!

 なんでなんでどうして!?

 どうしてアヤカちゃんの装備はバニー服なの?」

「――え?

 私の【職業】が遊び人、だから?

 親戚のレイカおねーさんに探索用装備の相談をしたら、女遊び人は絶対バニーこそが正装、可愛いは正義だっていうから」

「ああ、神!

 親戚のレイカおねーさまとやら……貴女は神か!

 麗しきアヤカちゃんの御髪に輝くチャーミングなウサ耳!

 ナイスバディを煌めかせるセクシーなバニースーツ!

 神の采配が選びたもう黄金律が今、ここに!」


 うん、変態だ。

 真剣に心配した私が馬鹿だった。


「ごめんなさい、鈿女ミドリさん……

 喜色をあげてるところ大変申し訳ないのだけど――

 気色が悪いので、少し離れてくれませんか?」

「ああ、アヤカちゃんが冷たい!

 っていうか、敬語は止めて!

 マジに何だか凹むから」

「えーだって関わりたくない」

「ボクが悪かったから!

 この通り土下座しながら足の指を舐めたりもするから! レロレロ」

「……先に行くね」

「ああ、そんな汚物を見るような眼差しまで。

 ボクへの評価株が氷点下を突破しそうな勢いでストップ安に!

 けど……だけども……

 それはそれで、いい♪」


 何やら一人で悦に入る幼馴染だった人を後に――

 私はすっかり重くなった足取りでダンジョンへ足を踏み入れるのだった。

 ……はあ、先行きは不安だな~。




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