第33話 絶句フラグメント
ステータスオープン。
それは異世界ものなら最早定番といってもいい設定の一つだ。
自らの能力を自在に表示し、作品によっては自由にいじる事を可能とする。
大概の異世界ものはチート能力を貰って無双するのだが、その際に主人公や読者にその凄さを分かりやすく表示するための目安となる。
これに何故か不当に程度が低い扱いを受ける解析能力を加えれば、豪華異世界能力三点セットの完成だ(翻訳機能はデフォルト)。
という訳で、業魔の侵略に対しオーバーロード達の介入があった昔から、客観的に自己を判別するステータスへの要望~概念はあった。
問題はどの職業でもその能力は発現しなかったという事。
レベルは上がる。
特技は覚える。
各種パラメータも上昇していく。
経験則や実戦で強くなっていくのは実感できた。
しかしそれらを具体的に知る術が無ければ宝の持ち腐れだ。
各国行政機関の急務としてステータスの迅速な判別方法が求められ、超越者の協力と共に生まれたのが現在のダンジョン探索機関及びステータスリーダーである。
俺達の世代は、ひと手間掛ければ大した苦も無く己のステータスを知り探索に臨む事が出来る。
しかし探索の際のレベルアップ時など、地上に戻らずステータスを把握したい状況は多々あり、ステータスオープンは皆が渇望する能力のひとつだ。
って、惚けている場合じゃないな。
俺は恐る恐る立体映像の様なステータス画面に指を伸ばす。
……触(さわ)れる。
画面に触れ、試しに能力値欄脇をスワイプする。
それだけでパラメータジャグラーに表示されてる残存Pが減っていき、自在に割り振る事が出来た。
おいおい……マジか。
この能力、本物だ。
「どうだった、ショウちゃん?
上手くいっ……って、どこ行くの?
ねーってばー」
俺は無言でコノハの手を引きステータスリーダーのある広場から酒場に入る。
酒場にはパーティ内の密談や打ち上げなどに使える様、完全密閉型の個室が備えられている。
俺の姿に気付いた馴染みの奴等が何人か挨拶してくる。
目聡くコノハの姿も見い出しやっかみの声も掛かるが、今は無視。
軽く空いてる方の手を上げ挨拶を返すと、追加料金を支払い個室に入る。
「コノハ……」
「だ、駄目だよショウちゃん……
ボク達まだ高校生だよ?
それにこういったことは段階を経ないと……
でもショウちゃんが望むなら――」
コノハは俺に掴まれた手を指でもじもじさせながら呟く。
しかし自分で言っている内に覚悟が決まったのか、目を瞑り赤面しながら唇を突き出してくる。
見慣れた幼馴染とはいえコノハは可愛い。
状況が状況じゃなければ俺も少しはときめいただろう。
だが今はそんな場合じゃない。
俺は盛大に溜息をつくと最早恒例となったデコピンを一つ。
「あいった!
だから酷いってば、ショウちゃん!
目を瞑ってるときに攻撃されるのって凄く怖いんだからね!」
「毎度毎度、色ボケしてるからだ。
――よく見て見ろ。
この個室は青少年育成条例に基づき、ちゃんと外から見える仕様になってる。
このガラス張りの中でお前は何をするつもりだ」
「あう……ホントだ」
怪しげな目的に使われない為の自衛策だろう。
酒場の個室はガラス張りの内装仕様になっている。
使用目的上、防音はしっかりされている。
とはいえ、外から覗く気になれば丸見えの構造だ。
そこらにある一般的なカラオケボックスより余程健全な造りだろう。
ここはあくまで騒音を気にせず騒ぐ、打ち上げとか――
他人に聞かれたくない内密な話をする為に使われるのだ。
無論、今回の目的は後者である。
俺はコノハに助言通り、ステータスオープンを唱えたらステータスが表示された旨を伝える。
興奮していることもあり、何だか日本語が変だが(頭痛が痛い、みたいな)要領のいいコノハは俺の意を汲んでくれた。
「じゃあショウちゃんは――皆の羨望であるステータスオープンを自在に使える様になった訳?」
「ああ、いつでも状態確認を行える様になった。
これにパラメータをいじれるこのジャグラー能力を加えれば――まず大概の状況はクリア出来ると思う」
「それはもの凄いチートだねー。
でもボクからは視えないみたい」
「まあプライバシーの問題もあるしな。
そこは他者には視えない仕様なんだろう」
「そっかー残念。
でもこれなら……これからも戦い続ける事が出来そう?」
「お陰様でな」
「――うん。
改めて宜しくね、ショウちゃん。
そうだ、ボクのステータスも表示してよ」
「――はっ?
何を言ってるんだ、コノハ。
魔法を除いて、特技ってのは普通自分にしか発動しないんだぞ。
そんな他者に作用する訳が――」
察しのいい者なら充分理解出来るだろう。
――どこの世界のお約束(フラグ)だよ、と。
俺はコノハに向かい冗談ながら「ステータスオープン」と唱える。
次の瞬間――レスポンスをおかずに開いたコノハのステータス窓に、俺は三度絶句するのだった。
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