第34話 検証インヴォーク


「わ~これが俗にいうステータス窓?

 異世界ものの鉄板だしテンション上がるよね♪

 ボクにも視えるなんて凄い特技だね、ショウちゃん!」


 ショックを受けている俺とは別に無邪気に喜ぶコノハ。

 お前、事の深刻さを理解出来てるのか?

 他者のステータスを覗く事が可能なんだぞ?

 秘匿すべき内容が筒抜けって事は、パーティの生命線にも関わる重要な事だ。

 自分で試しておいて戦慄し掛ける。

 だが――

 能天気なコノハの様子を見てると、深刻に考え過ぎかと思い直す事にした。

 実際、皆のステータスを常時開示しておけるならレベルアップ時の確認は勿論――HPMPの残量などリソース管理にも役立つ。

 それはつまり、戦闘中における優先すべき迅速な回復に繋がる。

 ゲームと違い――自己申告と回復役の判断に任せきりだった手法に新しいパターンが一つ加わったと思えばいいか。

 どうやら開示したステータスは俺と本人にしか視えない様だし――要は使い方次第だろう。

 しかし……気安く口外できないな、これ。

 特に行政側にバレたら最後だ。

 いつでもどこでもステータスを確認できる人物。

 おまけに唯一職持ちときたものだ。

 断言できるが、絶対色々な厄介ごとに巻き込まれる。

 これがフラグでないことを祈ろう。

 さて、残るはマルクパーシュとやらの検証か?


「これ、どういう意味なんだろうね?

 何だか厨二病っぽい説明が並んでるけど」

「気にしてるのにそれを言うのか」

「あっ、ゴメンね?」

「いや、でも実際それっぽいからな。

 こっちもさっきから発動させようとしてるが……何も起きん。

 MPすら減らないところを見るに――何かしらの条件が整わないと発動しない特殊タイプな特技かもしれん」

「あっ、そういうのがあるんだ?」

「結構な。

 戦闘中にしか発動しないものや、逆に平時でしか発動しないものもある。

 多分このマルクパーシュは、特定状況下でのみ発動するタイプだ」

「専門家のショウちゃんがそう言うならそうなのかも。

 じゃあその場での臨機応変な対応になるってこと?」

「専門家じゃないがな。

 まあ、そうだ。

 内容から察するに何かに介入、干渉できるっぽいんだが……

 いったいどういったものになるんだろうな。

 さすがにこればかりは俺でも分からん」

「なら――そんなに気に病まなくていいじゃない?

 分からないことを分かろうと努力するのは大事だけど……無駄な労力は、文字通り人生の無駄だと思う」

「お気楽だな~お前は」

「ショウちゃんがシリアス過ぎなんだってば。

 あんまり悩み過ぎると、おじさんみたいに禿げるよ?」

「親父の事は言うな!

 俺も気にしてるんだからな!」


 狭間家の家系で頭皮に困る人はいなかった。

 ただ――入り婿であった親父は別だ。

 40を過ぎたあたりから生え際が後退し始め、先日ついに面倒だからと永久脱毛してしまった。

 俺は亡くなったお袋似なので心配はしてない。

 ただ最近、寝起きの際に枕元の毛が……って、話が逸れた。


「まっお前の言う通りか。

 あんまり気にし過ぎてもしょうがないしな」

「そうそう。

 まず今日はショウちゃんのクラスチェンジをお祝いしようよ♪」

「だな。

 記念すべきソレイユの初勝利でもあるしな」

「うん!

 だから今日はファミレスじゃなくて、回らないお寿司を食べに行こうと思うんだけど……駄目?」

「いいな。

 軍資金もたんまり貯まったし、盛大に祝うか!」

「さすがショウちゃん~話が分かる♪」

「そこに痺れる憧れる~ってか。

 じゃあ予約入れたら早速向かうぞ。

 お前も早く用意しとけよ」

「あっ、待ってってばショウちゃん~」


 個室から出た俺達は帰宅準備に入る。

 今日一日で随分色々な事があった。

 自爆魔法の初お披露目。

 急激なレベルアップ。

 アリシアとの邂逅――クラスチェンジ。

 思い返してみればかなり濃い一日だ。

 心身のリフレッシュを図る為にも羽目を外すとするか。

 こうして俺とコノハは、地元の行きつけである回らないお寿司屋で――打ち上げという名の豪遊を楽しむのだった。










 ……ちなみに本日の稼ぎの10分の1が消えた。

 世の中には奢りだと分かると満腹中枢が壊れる奴がいるのである。

 コノハとは二度と回らない寿司屋へ来ないと、俺は固く誓うのだった。


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