第26話 絶叫シャウト
その後何事もなく、無事俺達は地上に戻ってきた。
コノハと結成したパーティ【ソレイユ】は初陣にして大成功を収めた、そう言っても過言ではないだろう。
シミュレーション通り魔石は砕け散ってしまい回収は出来なかったが、そこそこのドロップアイテムを得る事が出来たからだ。
飲むだけでHPを回復することが出来るポーション。
瞬く間に転移できる帰還呪文が込められた翼。
探索にあれば便利なアイテムの数々。
さらに今の俺達では弱過ぎて役に立たないが、好事家にいい値段で売れる武具等。
あの後二人で苦心して回収したモノを換金する為――俺達はまず工房の【換金所】をくぐる。
そしてドロップアイテムの数々をカウンターに並べ、主を呼ぶ。
間を置かず開くカーテン。
そこには顔をヴェールで隠したいつもの主がいた。
ダンジョン探索の性質上、あるいはアクシデントに備え関連施設はいつでも対応できるように稼働してなくて困る。
探索中は時間間隔が曖昧になる為、出てきた探索者の相手をしなければならないからだ。役所の様に翌朝まで待たされるようでは迅速な攻略に齟齬が生じる。
付け加えれば、探索に伴う時間関連のトラブルは多い。
ダンジョン内では時間の流れすらも若干狂ってるのかもしれない。
ぶっ通しで戦い、夕方だと思い帰還したら翌朝だった経験もあるくらいだ。
さて話を戻し――24時間体制の工房に換金所。
工房の職員が交代制なのは分かるが……
換金所はいつ来てもこの人が応対してくれている。
同一人物なのか、はたまたクローンか双子か姉妹なのか。
謎は深まるばかりだ。
しかし一番重要なのは適正に換金してくれるかどうかである。
探索者たるもの命に関わらぬ細かい事は結構ルーズなのだ。
そんな件の主だが――俺の顔を見るなり、驚いた様に頭を下げ声を掛けてきた。
「お帰りなさいませ、狭間様。
首尾は……上々のご様子で何より」
「分かるのか?」
「――ええ。
先日とはお見受けするオーラが違いますもの。
そのご様子ですと……ついに踏破者(レベル20)に?」
「ああ、こいつのお陰でな。
紹介するよ。
新しい勇者コノハだ」
「初めまして、コノハ様。
わたくしはこの換金所の主、ウルカでございます。
今後とも是非、良いお付き合いを願いたいと思います」
「は、はい……
えっと……初めまして」
1年近くこの換金所に通っているが初めて主の名を聞いた。
それだけ行政側の注目も高いという事だろう。
せっかくのウルカさんの自己紹介だったが、意外と人見知りなコノハは俺の背後に隠れ、顔を赤面しながら応じるのみ。
多感期な幼児か、お前は。
俺はコノハを無理やり前に押し出し挨拶をさせる。
失礼な応対だがウルカさんは上品に微笑んで許してくれた。
売却に対する鑑定結果もかなり良く、アイテム以外は全て売り払うことにした。
その額――278万円。
……いかん、金銭感覚がマジでおかしくなる。
あまりの額に完全に思考停止でフリーズしているコノハをよそに、承諾のサインを行い、手渡しの現金は物騒なので二人の口座へその場でお金が振り込まれた。
平等に等分割して139万円の収入である。
前線で戦っていた頃でも1回でこんなに稼いだことはない。
今日からプチ富豪である。
俺は固辞したが、等分割にはパーティ結成時からコノハが拘った為このような仕様になっている。
若干心苦しいがコノハ言わせれば当然の権利らしい。
まあいい、これからの働きで返すようにしよう。
ウルカさんに別れの挨拶を告げ、次に俺達はステータスの計測を行う事にした。
前回はこれを忘れたせいで酷いショックを受けたからな。
これだけレベルも上がった事だしきっとコノハも新しい魔法を覚えた事だろう。
自爆魔法特化型なので汎用性のないメガ系なのは仕方ない。
だが、もし自己犠牲復活呪文(メ〇ザル)でも覚えていたら素晴らしい。
俺はまず自分の探索者証をリーダーに通す。
『名前 狭間ショウ
職業 遊び人(大器晩成型)
LV 20
HP 112
MP 33
筋力 54
速力 49
体力 66
賢明 39
幸運 11
特技 遊ぶ(パッシブ) 』
「わあ~ショウちゃんのステータス初めて見た。
凄い数値だねー!」
「あっ……そうだったか。
すまん、お前の事ばかりで情報を開示し忘れてた」
「――ううん。
ここ10日間付きっきりだったから仕方ないよ。
でもショウちゃんの凄さが分かっただけで充分。
やっぱりショウちゃんって凄い人なんだな~って」
「全部お前のお陰だよ、コノハ。
普通ならこんな急激なレベルアップは望めない。
地道に上げるなら半年近くはダンジョンに通い詰めないと無理だし、効率を求めて深層部に潜れば命の危険もある。
今の俺の力じゃ満足に戦えなかったしな。
お前がいたから――踏破者(ここ)までこれた」
「ちょっ――どうしたの?
やめてよ、ショウちゃん。
マジになるとボク、少し困るよ……」
俺の真剣な感謝の言葉に、頬に両手を添えタコみたいに身をくねらせるコノハ。
……どうやら照れてるらしい。
我が幼馴染ながら珍妙な奴だ。
まあ実際、感謝しかないんだがな。
あのままじゃ俺は――きっと腐っていた。
自分の無力さを嫌というほど思い知ったから。
絶望が人を殺す、とはよく言ったものだ。
多少強引とはいえドン底から引き摺り上げてくれたこいつには、いくら感謝してもし足りない。
「……ありがとな、コノハ。
これから何があっても頑張ろう」
「うん!」
「さて、じゃあコノハのステータスも見せてくれ。
多分新しい魔法を覚えた筈だ。
戦力となる持ち札の確認をしとかないとな」
「いいよ~。
はい、どうぞ♪」
『名前 咲夜コノハ
職業 勇者(特技特化型)
LV 14(+9)
HP 66(+39)
MP 35(+21)
筋力 25(+15)
速力 40(+19)
体力 26(+11)
賢明 23(+8)
幸運 77(+11) 』
お~軒並み上がってるな。
流石は勇者、バランスが良い。
さて魔法の方は……
『特技 自爆魔法L1 メ※ンテ 自己犠牲呪文
生命力を攻撃力に転換し、
敵全体に大ダメージ 術者は死ぬ 』
ふむふむ。
こいつはこれからも使いでがある。
俺達の更なるレベルアップに貢献してもらおう。
お、新しい魔法が追加されてる。
いったい何かな? 回復系だといいんだが……
『特技 自爆魔法L2 メ※ルーラ 街犠牲呪文
行った事のある街を犠牲に
ダンジョンに大ダメージ 街は死ぬ 』
「――何でだよ!!」
これで何度目か分からない俺のたましいの叫びに――
コノハも周囲の奴等も慣れたのか、不思議そうな顔を向けてくるのみだった。
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