第24話 特攻カミカゼ

 第一階層にある草原の果て。

 いかにもダンジョンらしい岩で区切られた洞窟を抜けると……

 まるで世界が変わった様に堅牢な城塞が姿を現す。

 それこそが第二階層城塞(ロ〇リア)エリアである。

 中世ヨーロッパの世界観丸出しというか……ファンタジーと聞いて人が思い浮かぶ景色の一端が具現化されたような風景だ。

 延々と続くこの城塞は本当に長大で、中国にある万里の長城に匹敵する広さではないだろうか。

 まあ、アレだ。

 進撃する漫画のウオール〇〇みたいな感じだ。

 城壁だけなく内部に都市エリアもあるのが謎である。

 井戸を含む様々な生活スペース。

 民家や商店っぽい建物。

 はては娯楽設備っぽい劇場や集会所などの広場などが見受けられる。

 ――無論、そこに住む異世界人はいないのだが。

 ダンジョン研究をしている学者によれば我々の意思投影を受けた異界化が行われた結果ではないか……との事だが真偽は分からない。

 俺たち探索者にとってはどうでもよい事だ。

 襲い来る業魔ら。

 それを撃破し前へ進むことこそが重要なのだから。


「見慣れない景色に心惹かれるのは分かる。

 だが――警戒を怠るなよ、コノハ。

 口を酸っぱくして何度も教えただろう?」

「常在戦場の心構えだよね。

 体は炎のように熱く、

 心は氷のように冷たく。

 風のごとく動き、

 山のごとき一撃を。

 ちゃんと覚えているよ、ショウちゃん」

「ならいい。

 この階層からは敵も急激に強くなる。

 第一階層がチュートリアルならここからが文字通り本番だな。

 油断するなよ。

 目的であるエリアまでは少し歩くぞ」

「そこが――例の?」

「ああ、お前の力を有効に活かせる所だ」

「うん、分かった。

 ボク、もう少し頑張るね」

「幸い俺の力は攻撃的な意思には自動発動するものの……防御行為までは反応しないようだしな。

 壁役(タンク)は俺が務める。

 お前は攻撃に専念しろ」

「了解!」


 槍を片手に元気よく返答するコノハ。

 つい先日まで両手持ちしか出来なかったのを考えれば随分と筋力がついたものだ。

 それに高いステータスにより裏付けされ、バスケで磨かれたフットワークを活用した槍捌きはなかなかのレベルに達している。

 しかし油断はならない。

 第二階層は城塞都市という世界観からも分かる通り、鎧を着た敵が出始める。

 というよりも動く鎧そのものか。

 奴らは皆、防御力が高い。

 高い攻撃力に加え、魔法に対する耐性も有する。

 よって第一階層で調子に乗った探索者が手酷くやられる事が多い。

 特にこいつに回復呪文を使えるスライムが伴ったりすると最悪である。

 ゲームと違って敵も仲間を庇いながら戦うので、スライムのMPが切れるまでの消耗戦になるからだ。

 こういった業魔らの遭遇の組み合わせは、時として中堅どころのパーティでも苦戦するので注意が必要となる。

 相変わらず薄い本みたいな展開になりそうになるコノハをフォローしつつ、俺達はついに目的地へと辿り着いた。


「ここが……?」

「そう、2ヶ月前のスタンピードの爪痕。

 俗にいうモンスターハウスだ」


 高い城壁の上から見下ろす。

 広範囲に渡り堅牢な城壁で囲まれたスペース。

 そこには有象無象の業魔が所狭しと蠢いていた。

 無限沸きこそしないものの、リポップポイントを設定されてしまった為、斃しても斃してもキリがない無間地獄。

 それこそ2ヶ月前のスタンピードの爪痕……モンスターハウスである。

 最終防衛ラインの手前、第二階層。

 スタンピードは瀬戸際で喰い止められていた。

 もしここを突破されていたら守りに不利な第一階層で泥沼の戦いを繰り広げる事になっていた訳だ。

 遮蔽物のない平原では高レベルパーティとて苦戦は免れない。

 当時懸命に戦ったパーティと――

 助っ人で介入してくれたマイクラ系能力者には感謝しかない。

 政府のエージェントである彼女はその力を十分に発揮し、業魔たちをここに閉じ込めたのだ。

 城塞エリアというブーストもありその目論見は何とか成功した。

 以来ここは立ち寄るものがいない禁断の地と化している。


「ここならお前の自爆呪文が最も効果的に作用する。

 あの中に飛び込んでメガンテを放てば一気にレベルアップ出来る。

 ただ……それはあくまで仮定の話だ。

 シミュレーションでは問題なかったが実際はどうなるか分からない。

 ――やっぱり怖いか?」

「うん、そりゃあね。

 話で聞くのと実際目にするのでは違うし」

「無理そうならやめてもいいんだぞ?

 安全マージンを取って堅実にレベルアップを図る手もある」

「けど――それじゃいつまで掛かるか分からないでしょ?

 ショウちゃんは優しいからそう言うけどさ……自分の無力さに一番歯痒さを感じているのもボクは知ってるから。

 自暴自棄なショウちゃんの姿は見たくないんだ。

 ボクの中のショウちゃんは強くて格好良くて……

 でも――どこまでも優しい人。

 二人でパーティを結成した時に誓ったでしょ?」

「ダンジョンを――攻略する」

「うん!

 だから――頑張る。

 ショウちゃんの為だけじゃないよ?

 ボクは勇者だもん。

 皆の希望だから――自分に出来る事は全力でやる。

 ただそれだけだよ」

「……分かった。

 ならばもう何も言わない。

 全力で行ってこい!」

「おう♪」


 念のために持たせた緊急脱出用の転移アイテムを手に、モンスターハウス目掛けて飛び込むコノハ。

 その姿が業魔たちの歯牙に掛かる前に――


「自己犠牲自爆呪文(め〇んて)!」


 コノハが叫び、自爆魔法が発動。

 目もくらむ眩い閃光と共に――

 灼熱の大爆発が視界を埋め尽くすのだった。 





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