第23話 鍛錬ブートキャンプ
とはいえ、すぐに強くなれる筈もなく――
まずは応用に至るまでの基礎訓練である。
正式にパーティを組んだ俺達(パーティには個別名称が必須で、登録したパーティ名は【ソレイユ】である。なんでその名前? サンフラワーでいいんじゃない? とコノハに突っ込まれたが……うるさい。お前の笑顔に救われたからだとか言えるか、馬鹿)だったが、しかしすぐにダンジョンへは潜らなかった。
では何をしてるのかというと……
狭間家の道場を使い、まずコノハを徹底的にしごくことにした。
これは実戦前に余計な癖がつくことを避ける為に必要な訓練である。
我流でもレベルを上げればそこそこは戦える。
しかし――どれだけ恵まれても所詮は一流止まりである。
才覚ある一部を除き超一流には至れない。
ステータスの高さに任せて「うおおお!」では深層部でおのずと限界がくるのだ。
先の先まで見越して動く技量が高レベル帯の前衛には求められる。
俺の成長が著しかったのも基礎がしっかりしてたからだ。
先人が築き上げた膨大な戦闘経験。
最適化された生存への所動作。
それが武術であり俺はそれを幼少の頃から叩き込まれていた。
これを覚えているのと覚えてないのでは、闇夜に明かりがあるかないかくらい進むべき道が違う。
だが今から学ぶのには漠然とした道や、将来的に役立つ型などでは間に合わないし有意義でない。
よって――鍛える事を絞る。
正確な攻撃を身体に覚え込ませる反復。
的確な回避を瞬時に行うための反射。
冷静な状況を刹那に判断する識別。
最低限戦闘に必要な技能の数々。
元々運動神経が悪くない(バスケ部レギュラー)コノハは瞬く間に頭角を現し……最初は泣き言しか出なかった訓練にも徐々についてこれるようになった(途中「おかしいよ、こんな筈じゃ……」「もっと甘々の空間が……意識し合う二人で……」等と死人の様な顔色で呟いていたのが印象的である)。
確かに普通の女子高生だったコノハには厳しい内容だったかもしれない。
けど――実戦じゃ何が起きるか分からない。
鬼狩りをしていたという曽婆様の話が本当なら、「死ぬほど鍛えるしかない」のである。
俺も教官役として心を鬼にして接している。
ここで恨まれるくらい何でもない。
絶望に心を打ち砕かれるよりは。
後悔しない明日の為に――今の地獄を生きてもらう。
「うっし、コノハ。いい調子だ。
今日はあと20セット追加、その後10キロランニングだ!」
「ひいいいいいいいいい!
ショウちゃんの鬼! 悪魔! 人でなしいいいい!!」
酷い言われようである。
そういえばあいつらにも同じことを言われたな。
頼まれたから鍛えてるのに……心外だ。
我が家の日課に比べればまだ大人しい内容なのに。
だが……まあいい。
俺も同じメニューをこなしてるんだから文句は言わせない。
途中心が折れそうになるコノハのお尻を竹刀で追い回しながら――俺は市内を共に伴走するのだった。
仕上げは実戦による実践である。
道場稽古では腕は磨かれても勘が養われない。
10日後、俺とコノハは再び第一階層に舞い戻っていた。
この10日間でさわりとはいえ基礎的な事はある程度仕込んだ。
あとは実戦を通して――技量を上げていくしかない。
「じゃあ、コノハ。
何かあったら助けにいくから――まずはやってみ?」
「任せてショウちゃん!
特訓の成果をばっちり見せるね♪」
……不安だ。
何でこうもフラグを立てに行くのだろう?
それでも俺は黙って見守る事にした。
「――うきゃああああ!
大ナメクジの触手があああああ!!
服、服に入る~入ってきちゃうう!」
「――やああああああ!
一角兎の角がああああああああ!!
刺さる、駄目な所に刺さっちゃうう!」
「――いやあああああ!
ジャイアントトードの舌があああ!!
絡む~ぬるぬるは嫌ああああああ!!」
……何でそうなる?
業魔を引き寄せるフェロモンでも出してるのか、お前。
それとも――あれか。
やたらエロい目にあうラブコメヒロインか何かなのか?
盛大な溜息と共に――俺は毎度毎度薄い本に出てきそうな展開になる前にコノハを救出してやる。
涙目になりながらもガッツをみせるコノハ。
その根性だけは大したものだ。
もっとも――手助けが必要なのは初見の相手だけで、要領の良いコノハすぐに業魔の弱点を突くようになる。
あの訓練は無駄ではなかったようだ。
ほぼソロに近い形で順調にレベルを上げ……
俺達はついに目的地へ着いた。
「ここが第二階層、通称ロ〇リア……」
第一階層の大草原とは違い、長大な城塞都市の姿にコノハは感嘆の呟きをもらすのだった。
『名前 咲夜コノハ
職業 勇者(特技特化型)
LV 5
HP 27(+12)
MP 14(+7)
筋力 10(+6)
速力 21(+9)
体力 15(+10)
賢明 15(+3)
幸運 66(+6) 』
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