第21話 抱擁カンファルトゥ
救援後、意識を失った俺。
次に視界に入ったのは見知らぬ天井。
それはダンジョン前にある治療院のベッドの上だった。
俺はそこでお通夜の席の様な顔をした役人から、スタンピードの鎮静化と……共に戦った仲間の訃報と再起不能を知らされた。
役に立たない俺だけが……のうのうと生き残った。
神妙な顔でお悔やみを告げる役人の声は耳に入らなかった。
最下層部を守っていた魔女……レイカさん達も見舞いに来てくれた。
彼女らに責任はない。
彼女らは最後まで自分の持ち場を守り抜いた。
悪いのは、より上層で壊滅し均衡を崩したパーティである。
頭で理解はしていても……心が納得しなかった。
俺は無機質に慇懃無礼な返答をするだけだった。
何も言わず彼女達は立ち去ってくれた。
煩わしくないその関り方が嬉しかった。
頑健さだけが取り柄の俺は三日後、家に帰された。
そんな俺を地元では英雄だと囃し立てる。
やめろ……俺はそんな立派な存在じゃない。
生き恥を晒す、ただの道化師だ。
俺は最低限の付き合いだけを行い、引き籠る様になった。
激戦で消耗した心と身体を癒している。
周囲は勝手に誤解した。
訂正はしなかった。
全てが――どうでもよかった。
後日、報酬として大金が振り込まれた。
そんなものはいらなかった。
幾らでも支払う……あいつらを生き返らせてくれ。
あの日々をもう一度返してくれ。
俺の悲痛な思いは――叶う事はなかった。
「これが俺の戦えない理由――パーティを組めない問題だ。
ダンジョン探索で俺は戦力にならない。
見ての通り、身体が勝手に【遊び】出すから。
幾度か人目を忍んでソロで潜ったこともある。
けど――駄目だった。
低階層はまだ何とかなる。
しかし中階層以上は無理だ。
3回に1度くらいしかまともに戦えないのでは、たとえ到達者超えの実力を所持していても話にならない。
だからあれから2ヶ月が経とうとしてるのに……
俺はお前に誘われるまで、ずっと家で燻っていたんだ。
もっと……俺にしかやれない何かが出来た筈なのに」
語り終えた俺はコノハを正面から見据える。
黙したまま俯いているその姿から表情は窺えない。
――呆れられたか?
あるいは幻滅したか?
地元で英雄なんてもてはやされた俺の、虚飾無き実像。
本当の俺なんてそんなものだ。
だが……こうして話してみて分かった。
俺の中で灼熱の様に渦巻く、ドス黒い怒りの存在を。
あいつらの……理不尽に散った仲間の仇を討ちたい。
命の代償を業魔に、ダンジョンに支払わせてやりたい。
その為には――力がいる。
今の俺じゃない、上級職へとクラスチェンジする為の力が。
「だからコノハ、俺こそ頼みたい。
探索に必要な知識・技術は教えるし、雑用だろうが何でもやる。
俺をお前の――って、どうした?」
無言で近付いてくるコノハ。
問うより早くゆっくりと俺の頭へ腕を伸ばしてくる。
決して強くはない。
でも……その力に、俺は抗うことが出来なかった。
慈母に抱かれる赤子の様に優しく抱き抱えられる俺。
い、いったい何を?
動揺する俺の頭を丁寧に撫でるコノハ。
そして――
「辛かったね……ショウちゃん」
淡々と、それでいて労わりに満ち静かに囁かれた言葉に――
鼻の奥がツンとして……視界が歪んだ。
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