第20話 悔恨リコレクション


 遊び人は強い。

 そう……世間で思われているよりも、ずっと。

 戦士ほどでないが力が強い。

 武闘家ほどでないが素早い。

 商人ほどではないが体力もあり、

 魔法使いや僧侶ほどじゃないが賢明でもある。

 だが――それは結局どの能力も中途半端、秀でた長所がないという事だ。

 バランス型である勇者の劣化版。

 互いに協力し、足りない箇所を補い合う事が前提のダンジョン探索では利点を見い出せない。

 何より不遇なのは……使える特技がない。

 他の職業が【正拳突き】【豪傑斬り】等のスキルや各種魔法などを覚えていくのに対し……遊び人が覚えるのは【遊び】、ただこれだけである。

 その効果は文字通り遊ぶだけ。

 幸運値が高ければたまに副次効果を発生するらしいが……不運な俺にはまったく縁がない。

 無論、ゲーム通り踏破者になれば最速で賢者にクラスチェンジできるらしい。

 しかし――

 命の掛かった探索に、誰がお荷物である遊び人を連れていくというのか?

 なので遊び人から賢者へクラスチェンジを果たした者はいるも、それは仲間か境遇に恵まれたお陰であり全世界でまだ数人しか実証されていない。

 基礎職のなかで一番の不遇職。

 それが遊び人なのである。

 だから酒場で仲間を集うも、誰にも見向きもされない。

 良くて同情や哀れみ、悪ければ露骨な蔑みを受ける。

 俺個人の持つ力でなく――職業で差別される。

 傲慢だった昔の俺はそこでキレた。

 なら一人でもやってみせるさ、となった。

 初戦で死に掛け、運良くあいつらに会わなかったら――

 間違いなく普通に死んでいただろう。

 あいつらとパーティを結成出来たのは、今でも凄い幸運だったと思うし、思い返すだけで誇らしい。

 けど――その時は自分の不甲斐なさに腹が立った。

 自分の弱さを職業のせいにしたくはなかった。

 だから――俺は頑張った。

 戦術を考え、

 身体を鍛え、

 精神を磨き、

 技術を練った。

 結果――同年代で最速の到達者となった。

 例え特技がなくとも――

 誰にも負けないという心さえあれば、これからも戦える。

 俺はこのまま最速で踏破者になってクラスチェンジをし、遊び人である俺を馬鹿にした奴らを見返してやる! 

 当時の俺は――そう自惚れていた。

 その報いは最悪の形で来た。

 ――業魔達のスタンピード。

 ある特定の条件下でのみ発生する天災である。

 普段はダンジョンから出てこようとはしない業魔が、群れを成して暴走――ゲートを突破しようとしてくる。

 急遽行政に緊急招集された俺達は八階層の守りを託された。

 このアオバダンジョン安全マージンは階層+3が適正である。

 ならば到達者の俺を除く全員が12レベルに達していた俺達は余裕をもって業魔達を撃退できると思っていた。

 ……甘かった。

 初めて迎えるスタンピードを、誰も彼も甘く見ていた。

 業魔達個々の強さはそれほどではない。

 パーティの連携を駆使すれば苦も無く退けられる。

 問題は――その数だった。

 斃しても斃しても涌き出る――業魔の群れ。

 連戦に次ぐ連戦は俺達を消耗させる。

 魔石を使用しMPを回復させ再度戦う。

 そのサイクルも緩やかに後れを見せていった。

 何故なら体力は回復できても磨り減った精神は回復しない。

 当時の俺達はその事に至れなかった……余裕がなかった。

 やがて――その時を迎えた。

 切っ掛けは俺達より深層部を守っていた有力パーティの崩壊。

 深層部で堰き止めていた業魔らが他の階層に雪崩れ込む。

 そうなれば、あとは文字通り雪だるま式だ。

 辛うじて支えていた戦線が崩壊し、次々と拠点が壊滅していく。

 俺達も例外ではない。

 危うい均衡が崩れ、撤退の判断を迫られた。

 脱出呪文使いがいなかった俺達は自力で地上を目指さなくてはならない。

 戦いながら懸命に後退し――俺はレベルアップした。

 到達者である13レベルを超える未踏の14レベル。

 俺は歓喜した。

 失った体力が回復し全身に負った傷が瞬時に癒える。

 各能力も向上すればもっと戦える――仲間を護れる、と。

 それは――愚かな幻想だった。

 今でも思い出す。

 業魔を切り伏せる筈の腕が――手品を披露しようと動き出すのを。

 仲間を庇うために走る脚が――盛大にズッコケ、ウケを狙うのを。

 抑えきれない衝動に俺は抗う事が出来なかった。

 当時の俺は知る由もなかった。

 受動選択制だった【遊び】――それが踏破者を超える14レベルからは勝手に発動する能動型へ移行していたことを。

 今でもそれは変わらない。

 通常状態ならいざ知らず――

 俺の身体は戦闘状態に入ると勝手に【遊び】だす。

 止めようとするには全身全霊を振り絞らなくてはならないほどに。

 最前線でパーティを支えていた前衛がそんな風になってしまえば――

 考えるまでもない、パーティの壊滅は間近だ。

 使い物にならない俺を見捨ててればまだ逃げれたかもしれない。

 でも――あいつらは逃げなかった。

 信頼してくれてたリーダーの奇行を目にしながら――

 それでも俺を守ろうと、必死になって戦い抜いた。

 救護の手は……ぎりぎり間に合わなかった。

 転移呪文で政府直轄下の高レベル所持者(エージェント)が駆け付けた時には……

 四人パーティ中、二人が死亡。

 もう一人も再起不能のダメージを負い……

 無様さを露呈し、生き恥を晒した俺だけが――おめおめ生き残った。

 




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