第19話 仕様スタンダード
破壊力はシリーズⅡクラス。
その他の仕様はキャラバンに準ずる。
長い時間を掛け自己犠牲自爆呪文をシミュレーションし判明したのは、以上の検証結果だった。
業界用語があって少し分かり辛いかもしれない。
だが――これは凄い事である。
通常こういったチート呪文は相手――特にフロアボス――によっては無効化されたり、経験値や魔石などのドロップアイテムが入らないことが多い。
それはゲームなら当然の仕様だ。
命の価値が下がるし、何より戦闘に関する緊迫感が消え去り、ただのルーチン作業になり果てるからだ。
しかし――しかしである。
今のこの世界で現実に……
しかも自爆魔法を使っても死なない勇者がいたらどうなるか?
比類なき威力を持つ呪文による殲滅。
まさにワンサイドゲームになる。
今回検証した結果、雑魚業魔クラスならまさに必殺。
中ボスクラスでもほぼ一撃という結果になった。
さらに恐ろしい事に――魔石は砕け散ってしまうので回収は難しいが経験値は問題なく取得できるという壊れ仕様。
ゲームならバランスの悪いクソゲー間違いなし、って感じだ。
「――という訳で、コノハ。
もしお前がその呪文を自在に使いこなすようになれば――
これからの戦いはまったく違うステージのものになる」
「ううう……
でも、何だか良心の呵責が」
「そんなもんは捨てろ。
皆を、何より自分の命を守ることを優先するんだ。
パワーアップはしておける時にしておくもんだぞ」
「そういうもの?」
「ああ、間違いない。
自分の無力さを噛み締める様な後悔はしたくないだろ?
ただ――お前の自爆魔法も通常通りに使用したのでは効率が悪い。
だからちゃんとした運用を考える必要はあるな」
「どういう事?」
「雑魚敵1匹にそんな呪文を使っていたら効率が悪過ぎる。
スライムの集団に自爆呪文はオーバーキルだし閃光魔法(ギ〇)で充分だ。
何より怖いのは……
上の階層に行けば呪文を遣う間もなく即死させられる可能性が高いって事だ。
超越者の祝福を受けた勇者は死なない。
しかし復活呪文が無ければ――戦闘中に復帰は出来ない。
つまり呪文を唱えるより早く殺されたら無意味なんだ。
まずその事を認識しろ。
業魔は強く――恐ろしい。
小さな兎型ですら容易に人の首を刎ねるんだぞ?(※1)
基礎的な体捌きとかはやっぱり必要になる。
しばらくは地道な修行だな」
「そっか……
それなら――皆の努力を嘲笑う結果にならないね。
うん。決めた。
ボク、頑張ってショウちゃんに付いていく」
「その事だが……コノハ」
「な~に、ショウちゃん?
そんな怖い顔して……どうしたの?」
「お前――これから俺とパーティを結成する気か?」
「勿論。
昨日は駄目だったけど……今日はいいでしょ?
それとも何か問題があるの?」
「――いや。
パーティの結成自体は至極簡単だ。
お互いが心の中でパーティ結成を願い、探索者証を重ね合わせればいい。
それだけでパーティが結成され、以後の戦闘で得た経験値は等分割になり、更にはフレンドリーファイア……魔法の巻き添えも発生しなくなる」
「良い事尽くしじゃない?」
「まあ元々業魔より弱い人間が戦う為の手段の一つだからな。
昔のダンジョン探索はソロプレイしか出来なかったからボスとの戦闘が大変だったらしい。
協力プレイは出来るけど、レイドボス戦仕様じゃないからHP管理や味方の攻撃で死に掛けるのも頻繁だったらしいし」
奴ら業魔が少しずつ賢くなってきている様に――俺達人類サイドの技術も日々進化している。
パーティの結成はその最たるものだろう。
個で敵わない相手も集団で立ち向かえば斃せる。
卑怯という事なかれ。
これは生存戦争なのだ。
ありとあらゆる知識と技術を総動員して、業魔に立ち向かわなくてはならない。
「じゃあ――問題ないよね?」
「いや、問題はある」
「――え?」
「お前……
俺の【職業】が何か、知ってるか?」
「……知らないけど、すごく強いんでしょ?
ご近所でも評判なんだから、ショウちゃんは。
杜の都、最年少にして最速到達者(レコードホルダー)。
ショウちゃんなら踏破者も夢じゃないっておばさんたちが騒いでた。
だから……何かな?
う~んと、侍? もしかして忍者とか?」
「……【遊び人】だ」
「えっ?」
「遊び人なんだ、俺は」
「そ、それって……」
「論より証拠、見せてやる。
俺の特技をな」
俺は再度、業魔の幻像を展開。
そして――
戦う意思を示すと共に、今まで必死に抑えていた衝動を解き放つ。
「な、何をしてるの……ショウちゃん……?」
業魔の幻像を前に砂遊びや漫才をする俺の姿を見ながら、コノハは恐れおののく様に呟いた。
※1
フラノダンジョンの首狩り兎。非常に恐れられている(低階層に出没する為)。
その他、特徴的な業魔としては、種族名:躍るコインによる0点ブレス。
一部の変態さんを除き嫌がられている(耳元でため息くらいのダメージ)。
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