第13話 探索リターン
さんざん煽ってはみたものの、スライムは弱い。
さすがRPG界隈最弱の名を冠するだけはある。
攻撃パターンも貧弱で2つしかない。
取り込んだ空気を一気に噴出することで行う体当たり。
体液を酸化させ有害な飛沫を飛ばすブレスだけである(※1)。
よって上手く立ち位置を考慮すれば初心者でも無傷で狩れる。
イメージとしてはビー玉の入った水風船を思い浮かべればいい。
正面を避け攻撃。
核となる魔石を弾き出すか崩壊すれば討伐出来る。
初戦こそ遅れを取ったコノハだったが、元々の運動神経は悪くない。
要領を掴むと槍を使って次々と現れたスライムを倒していく。
そういえば……たまに付き合いで遊技場に行くけど、こいつのビリヤードの腕前はかなりのものだった。
一点を見据える集中力。
脇を絞った的確な突き。
素人としては腰の入った攻撃。
ふむ、どうやらかなり相性がいい。
武器にも合う合わない、向き不向きがある。
コノハに槍を選んだのは間違いじゃなかった様だ。
そうこうしてる内にコノハの身体が白色の輝きをあげる。
「あれ? ショウちゃん、何これ?」
「おっ。位階値(レベル)が上がったな。
おめでとう、コノハ」
「わっわっわ。
ホントに? やった~♪」
槍を上に掲げ、小躍りするコノハ。
その身体に残っている草花で擦り切れた僅かな傷、激しい運動で失われた体力なども輝きと共に瞬時に回復していく。
これはレベルアップの恩恵の一つだ。
レベル上昇時のHP回復。
MPこそ回復はしないがかなりの大怪我も瞬時に全快する。
この地方を担当した超越者も粋な仕様にしてくれたものだ(※2)。
状況によりけりだが、ボス戦や群れ狩りの際にはわざとレベルアップをする寸前で経験値を貯めておくというのも戦法の一つではある。
俺は喜びに夢中なコノハが忘れている魔石の回収を行いながら声を掛ける。
「2レベルになったことで特技も覚えたはずだ。
今日は一端戻ることにしよう。
ステータスの確認も重要だ」
「う~ん。
何だか今、すごく調子いいんだよね、ボク。
もうちょっと戦いたいかも」
「それが危ないんだ、コノハ。
ダンジョンに入って1時間近く戦ってるんだぞ?
出口が近いこのエリアはいいが……他の階層なら戻る時も同じくらいの戦闘回数をこなさなきゃならない。
余力のある内に戻る事を常に考え、習慣化しないと」
「あ、確かに」
「パーティの仲間が脱出魔法(リ〇ミト)を習得してるなら話は別だがな。
それだって戦闘中は使えないから安全地帯を確保する力が必要だ」
「なるほどね。
戦闘で消耗し尽くしちゃったら、限定的な勝利を得てもその後が困るんだ」
「一応、工房の魔道具で補う事もできるけどな。
割高だからお勧めはしないぞ」
「? どのくらい?」
「最低でも百万単位。
ものによっては数千万」
「え¨っ……ホントに?」
「ああ。
上位パーティともなればそれだけ稼げるし安全マージンにも気を遣う」
「ほえー……凄い世界だね」
「それに今のお前の状態はルーキーにありがちな興奮(ハイテンション)状態だ。
俗に言う『ギアが入った』ってやつ。
近い精神状態で熟練者たちが言うゾーンっていうのがあるが……
身体機能が上昇し精神は研ぎ澄まされる。
全てが思い通りになる様な万能感を感じているんだろう?
けどな、それは諸刃の剣。
今こうしてる間もお前の心と身体はゴリゴリ消耗している。
言うなれば最大HPとMPの上限値が失われていくイメージだ。
無理はしない方がいい」
「うん。
何だか変だったね、ボク。
ちょっと調子に乗っていたかな?」
「無理もないさ。
初陣でこれだけ成果を上げれば上出来だ。
勇者の名は伊達じゃないな」
「もう……
やめてよ、ショウちゃん。
そんな風に言ったら恥ずかしいよ?」
「はは。
俺は厳しいけど褒めるとこはちゃんと褒めるぞ。
んじゃ魔石も回収したし……戻るとするか」
「は~い」
元気に返答するコノハと共に帰路につく。
こうして勇者コノハの初探索は無事終わりを迎えるのだった。
※1
スライムに噛み付かれた!(原文和訳)
※2
北海道担当の超越者は多分縛りプレイが好きなゲーマー気質。
レベルが上がっても回復しない。
更に宿で休息するまでステータスすら上がらない仕様。
(たまに老化するのも恐ろしい)
海外に至ってはそういう概念すらない>レベルアップで回復。
魔法習得者も多いし二ホンは恵まれている。
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