第12話 初陣チュートリアル
それは冒涜的な笑みを浮かべる異形だった。
泪滴型の体は悪臭を放つ粘液で構成され……背徳的な動きをする度にまるで蛞蝓(ナメクジ)の様な痕を残す。
中央に浮かぶのは烏賊や蛸を連想させる無機質な眼。
邪な紅に染まったソレは、まるで次なる犠牲者を求めるかのごとく鈍い朱の輝きを上げている。
名状し難き異形なるもの、それこそが業魔の――
「可愛い♪
何あれショウちゃん! めっちゃ可愛いよ~☆」
……せっかくの描写が台無しである。
俺は緊張感無くはしゃぐコノハの肩に手を置き、少し窘める。
「こら、コノハ。
いくら最弱とはいえアレも業魔だ。
少しは緊張感を持て」
「え~あれがそうなの?」
「ああ、この階層最弱とはいえ立派な業魔……個体名【スライム】だ。
外見に囚われ油断するなよ?」
RPG界隈のキングオブ雑魚、スライムが俺達の前にいた。
このアオバダンジョンはいわゆるド〇クエ型の業魔が出やすい。
これは業魔の力をぎりぎりまで弱体化させる為に超越者達が苦慮した結果らしい。
本来の奴らはもっと強く別の形をしているが、俺達の世界に侵攻しようとする際には超越者達が張った【世界結界】に力を削がれ、ああいった形で出現する。
それに見た目も重要だ。
悪魔や完全なる異形相手では、戦う人間の精神が持たない。
だからこそ、このように分かりやすく戦いやすい姿に変容させるのだと。
余談だが関東~東北は恵まれている。
低階層で首を撥ねるウサギが出現する北海道や、低確率とはいえ、本来は深階層にいる黒騎士が初戦に出てくる関西より、順を追って成長できるからだ。
今回はどうやら再出現(リポップ)の瞬間に居合わせてしまったらしい。
「勿論、分かってるよ。
だからボクに任せて!」
「あ、こら」
制止する間もなく槍を構え突撃するコノハ。
色々アドバイスが必要かと思ったが――
うーん……仕方ない。
実地で学んでもらうとしよう。
「いくよ~やあ!」
「(ぷよぷよん)」
「うわ、かわされた!」
「(ぷよぷよん)」
「きゃん、攻撃された!」
「(ぷよぷよん)」
「ひうっ! スライムが鎧の中に!」
「(ぷよぷよぷよぷよん)」
「あっ、やだ……そこは……」
「(ぷよぷよぷよぷよぷよん)」
「やっ……だめぇ~~~(びくびく)!!」
盛大な溜息の後――俺は腰元の刀を一閃。
核である魔石を切り離された為、熔解していくスライム。
俺は粘液塗れになって痙攣しているコノハを救出してやる。
「ゴホッゴホッ。
ひどいよ、ショウちゃん!
もっと早く助けてくれたっていいじゃない!」
「――馬鹿か、お前は」
「え?」
弾き出したスライムの魔石を回収。
それをコノハに握らせながら俺は静かに叱る。
「今はたまたま熟練者である俺が助けられる場所にいたからいい。
だが、もし集団で業魔に襲われたり誰か怪我をしてたりして――パーティに余裕がなかったらどうするんだ?
誰もお前を助けてくれる人はいないぞ?」
「あっ……」
「厳しいようだがそこは自覚を持て。
勿論パーティは互いを助け合う関係だ。
けど――その為には最低限自分の役割を全うする義務がある。
お前は勇者として前衛で直接業魔と戦うんだろ?
なら後衛に被害が及ばぬよう――必死に守らなければならない。
何があって、もだ。
その存在が忠告も聞かず突撃し、尚且つ返り討ちにあってどうする。
だから馬鹿と言ったんだ」
「あう……ごめんなさい」
「分かればいい。
まあ――今回は相手も悪かった。
ゲームに出てくるスライムとは違い……現実で現実で戦うスライムは、実をいうとかなり厄介だ。
物理耐性・打撃半減。
斬撃系は有効だがお前の槍は貫通系だ。
戦う際にはよく狙いを定めなくてはならない。
更に個体差や種族差にもよるが魔法や特殊能力を使う奴もいる。
そういった事にも注意しなくちゃならないしな」
「――うん、分かった」
「その様子なら次は大丈夫だな?
よし、チュートリアルはこれで終了だ。
本格的な探索に入るぞ」
「了解!」
逸る気持ちは分かるがそれだけでは生き残れない。
落ち着きを完全に取り戻したコノハと共に俺達は再度探索に取り組む事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます