第3話 登録ライセンス


「ここがダンジョン前申請所、通称【酒場】だ」

「わあ……」


 速乾コンクリートで固められた鉄筋仕立てのビルに入る。

 そこに広がる光景にコノハは感嘆の声をあげる。

 無理もあるまい。

 俺も17歳になり初めてここに来た時は同様だった。

 ダンジョンの入り口を塞ぐ為に設けられた関所兼申請所の中。

 そこはいかにもニホンらしい役所の内装である。

 カウンター前には揃いの制服を着た職員が愛想笑いを浮かべ応対している。

 どこの地方都市でも見掛けるであろう光景。

 だが――行き交う人々の姿が違った。

 金属鎧を纏った戦士、ローブ姿で杖を手にした魔法使い。

 年齢や性別、格好に違いはあるも――皆一様にいかにもファンタジーチックな装いをしている。

 これはハロウィンのような仮装じゃない。

 実用性を追求して最終的に辿り着いた極致なのだ。

 ダンジョン内に限らず【職業(クラス)】を与えられた者には、何らかの思い込み的な力が作用するらしい。

 つまり最先端素材を使用した防具より、自分が「こういった格好の方が強い!」と思う装備の方が何故か効力を発揮するのである。

 さらに武器に至っては銃器類より直接武器の方が業魔にダメージを与えられる。

 特にそれはレベルが上がるにつれ顕著に表れた。

 以来、ダンジョン内ではアーミールックないかにも軍隊風の格好は撤廃され、個人個人が好きな装いをするようになったのだ。

 そうなると一番強そう、有効そうな装備は何か?

 その結果がこのファンタジーな風景である。

 ステータスという、個人の持つ力を数値化する信じられない技能。

 それに表示された値を見て、さすがの各政府も諦めたらしい(※1)。


「す、すごいね~ショウちゃん!

 まるで異世界転生したみたいだよ!」

「まあ転生者がギルドで登録するのは鉄板だな。

 っていうか、よく知ってるな」

「だってショウちゃんがそういうの好きでしょ?

 だからボクも真似して結構読んだもの。

 あっ。もしかしてここでパーティを組んだりもできる?」

「ああ。

 奥に喫茶コーナーっていうか、パブみたいな場所があるだろう?」

「うん。何あれ?」

「ル〇ーダでもギ〇ガメッシュでも好きに呼べばいい。

 俺は単純に【酒場】って呼んでる。

 あそこで仲間を募り、パーティを結成する。

 んで、その後工房で装備を整えてダンジョンへ潜るんだ。

 ほら――まずは受付で手続きをして来い。

 初回だから簡単な説明をしてくれるし、探索者証を発行してくれる筈だ。

 いくら勇者でも探索者証を入口で提示しないと中へは入れないぞ(※2)」

「は~い。

 じゃあちょっと待っててね~」


 ニコニコ顔で頷くと、コノハは放たれた矢の様に受付へ向かう。

 俺は空いているイスに腰掛けると項垂れる。

 寝起きに騒ぐコノハを宥め、強引にここまで連行された。

 今日はおそらくこのままコノハのお供をさせられるだろう。

 何かと優柔不断なコノハだが……思い込んだら梃子でも動かないっていうか、頑固だからな。

 この先の苦労を思って、俺が思わず深々と溜息を洩らしたその時――


「もしかして……ショウ?」


 聞き覚えのある、凛とした声が俺に掛けられた。

 

 






※1

 国によっては歴史的聖戦の装いで統一している所もある。

 汎用性はないがそこは集団の重み。それはそれで強い。


※2

 ダンジョン入口前詰め所には各国の精鋭が24時間態勢で待機している。

 ダンジョン内で飽和した業魔が外へと溢れ出るスタンピード。

 おぞましい事態への最終防衛ラインとして彼らは尊敬され、それに見合う高い実力とレベルを誇る。

 よって見習いに近い低レベルな者でもダンジョンへと投入するのは、業魔に対する間引きの意味もある。

 でもどんな高レベルでも探索者証が無ければゲートは開かない。

 強引に突破すると無期限の探索者証失効処分が下される。

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