第4話 親密レディファイター


 呼び掛けに対し反射的に顔が上がる。

 しまった、と思うがもう遅い。

 観念した俺は声の主の方へ向き直る。

 そこにいたのは俺と歳の変わらない女性だった。

 長い黒髪を活動的なポニーテールに纏め、意志の強さを感じさせる柳眉が美人というよりはハンサムな印象を与える。

 しかし一番特徴的なのはその恰好だろう。

 出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。

 それでいてバランスの良いモデルのような肢体。

 彼女はそんな身体を曝け出していた。

 まるで水着の様に要所要所を覆っただけの鎧。

 俗にいうビキニアーマーで。


「相変わらず凄い格好だな……ミズキ」


 俺の軽口に女戦士――ミズキは、安堵するかのような深呼吸後、顔を真っ赤にして反論してくる。


「う、うるさい!

 諸悪の根源が何を言うんだ!」

「だってミズキが聞いてくるから正直に答えただけだぜ、俺は。

『女戦士の強そうな恰好ってどんな感じだ?』っていうから……

 やっぱビキニアーマーじゃね? って。

 まさか実践するとは思わなかったけど」

「不覚……あれは一生に一度の不覚だった。

 確かに伸び悩んでいた。

 とはいえ、私はいったい何故貴様に聞いてしまったのか……」

「一生の不覚が多過ぎだろ、お前。

 俺が知ってるだけで何度目だ、それ」

「くっ屈辱……

 しかも貴様のいやらしい視線が突き刺さっている気がする。

 ――いっそ殺すか」

「怖えな、いつもいつも。

 それにそこは普通「くっ殺(ころ)」だろ女騎士なら。

 まあお前は女戦士で、この杜の都トップクラスの探索者だけどさ」

「むふー」

「あっ、何か勝ち誇ってるし。

 そういうところが可愛くないんだぞ、お前は。

 あといやらしい視線は俺じゃなくて周囲の奴等だから。

 30を過ぎて魔法使いにクラスチェンジしようとしている人達には、今のミズキの姿は刺激が強いって。

 お前はもう少し自分の容姿を自覚しろ」

「そ、そうなのか?」

「まあな。

 でもその恰好のお陰でめっちゃ強くなったって聞いたぞ。

 10階層到達、おめでとう」

「それは貴様の手解きがあったから……」


 俺の言葉にミズキは悩む素振りを見せた後、真剣な眼差しで俺を見つめてくる。

 場所が場所なら告白か、と勘違いしそうだ。

 だが――ミズキの次の言葉が簡単に予測できるだけに、俺はただ静かに彼女を見つめ返した。


「戻ってこないか、ショウ?」

「戻らない」

「そうか……」


 その一言に籠められた、言葉に出来ない想いは痛いほど分かる。

 だからこそ俺は決意を揺るがす事なく答えられた。

 ミズキもその事が分かってるのだろう。

 爽やかな苦笑を浮かべると肩を竦める。


「残念だ。

 貴様がいればもっと深く潜れるのに」

「買い被り過ぎだよ。

 それに今の俺じゃ足手纏いになる。

 ちゃんと話しただろ?」

「そうだったな……すまん」

「別にいいさ」

「それで、今日は何をしに?」

「幼馴染が勇者になったんでね。

 そのお守り役?」

「貴様らしいな」


 苦笑を深くするミズキ。

 そんなミズキを遠くから「おね~さま~」と呼ぶ女魔法使いと女僧侶。

 見慣れたその光景に俺も思わず頬が緩む。


「ほら、後輩ちゃんたちが呼んでるぞ」

「むっ。もうそんな時間か。

 すまない、ショウ。

 私はこれからダンジョンに潜る」

「ああ、気をつけてな」

「貴様こそ、な。

 勇者は凄まじく強いが、肝心の能力の方はピーキーらしいぞ。

 まあ貴様なら……どんな奴でも上手に育てるんだろうが、な」


 意味深に俺へウインクすると、ミズキは颯爽と仲間の下へ向かった。

 ……ビキニアーマーで。

 形のいいヒップが防具の隙間からちらほら見え隠れしてるし。

 恰好をつけても台無しになるのがあの装備の怖いとこだな。

 



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