第37話 魔王と勇者3
俺達は魔王城へと着いた。早速魔王からの覗き見が有ったので、睨みつけて文句を言ってやった。まあ、突然押し掛けたのはこっちの方なので、向こうからしたら文句を言われる筋合いは無いのだろうが、俺の知ったことではない。
魔王城は、普通と言えば普通の城だった。ドクロと茨で飾り付けられたら城門。アチコチに死体が吊り下げられた城壁。ご丁寧に、上空には大きなカラスのような鳥が、不気味な声で鳴きながら旋回している。
「この魔王は小物かな」
「どうしてそう思うのですか?」
俺の呟きを聞いたルイーダが問いかける。
「これ見よがしに、人間の恐怖を煽り立てるような城にすんでるからさ。経験則だがな。本当にヤバい奴は普通に見える城に住んでるものさ」
ついでに言うと普通に見える奴もヤバい。筆頭が目の前にいる。
門を開けると城内にはいる門まで真っ直ぐな道がある。その道は特に悪趣味な飾り立てはされていない。寧ろかなり簡素だ。ちょっと意外だった。大きな城ではあるが、玄関まで数㎞とかいう程のものでもない。2、3分も歩くと、特に妨害に出会うことなく城に入ることが出来る。
エントランスホールを通り、天井の高い廊下を過ぎれば、突き当りが魔王の居る広間だ。城壁の中は意外とシンプルだったので、俺は魔王の評価を上方修正する。
ただ突き当りの観音開きの大きな扉は趣味が悪い。これもドクロが至る所に描いてある。庭がシンプルで好感が持てただけに残念だ。
扉を開けると、女性が縛られ天井から吊るされようとしている途中だった。
「おや?作業中か。大人しく待ってろと言ったはずだが、分からなかったのか?」
俺達が現れると、椅子に座ってメイドに指示を出していた魔王が、少し慌てた様子で聞いてくる。
「お、お前たちこの部屋にどうやってきた」
「どうやってと言っても、門から真っ直ぐ来ただけだが?」
「城門から先は結界が張られていて、道は迷宮へとつながっていたはずだ。私と私の認めるもの以外は、この城の地下迷宮へと飛ばされるはず」
「ああ、あれか」
なんか分からなかったが、確かに城門のところに空間の歪みがあった。通行の邪魔になるので消滅させたが、どうやら本当は地下迷宮から攻略していくものらしい。だが、例え知っていたとしても、そんな面倒な手順を踏むつもりはない。
「邪魔だったので消した。目的はお前に会うことで、別にダンジョン探索がしたかったわけじゃないからな」
「ほう、あれを消せるとは……なかなかお前は見込みがあるようだ。先ずはゆっくり旅の疲れをいやしたまえ、万全の状態のそなたと戦いたい。私は強くなりすぎてしまったようでね。先ほどの戦闘でも高揚も何もしなかった。私は血沸き肉踊るような戦いがしたいのだよ」
俺達が現れた時の慌て方が嘘のように、魔王は鷹揚に玉座に座り、そう言ってくる。だが、旅の疲れもなにも、10㎞も歩いていない。戦闘もしていないので、全くと言って良いほど疲れていない。強いて言えばこの世界の存在が俺を疲れさせる。
それにこいつは余裕ぶってはいるが、本当にぎりぎりの戦いをしたいわけじゃないわけに決まっている。ある程度強い敵をいたぶるような戦いがしたいだけだ。余りにも相手が弱いと、自分の強さが感じられないのだ。なぜそう思うか。それは俺自身がそうだからだ。
「俺は戦闘を楽しむ気はないんだ。お前が俺を楽しませるほどの力があるとは思えないしな」
庭を見て、評価を上方修正をしたが本来は人間が入ることを想定してないので、飾り立てていないだけの様だ。それに気配を読む限り、こいつは俺の足元にも及ばない。
「これはこれは、思ったよりせっかちな勇者殿だ。だが、急いては事を仕損じるぞ。お前達の前に来た勇者は敗れ去り、仲間だった女達は私の手の中にある。なに、久々の生きのいい女たちが手に入ったのだ。準備に何日かかろうと私は気にしない。その間十分に歓待することを約束しよう」
魔王がそう言うと、天井に吊るされた女たちの顔が恐怖で歪み、猿轡でふさがれた口から必死で何か訴えてくる。多分助けてくれと言っているのだろう。
しかし、魔王とも有ろうものが、女に不自由するとは情けない。まあ、街の惨状を見れば、生き生きとした女性が少ないのは分かるが、それは魔王自身が招いた結果だ。
「歓待か。多少興味は惹かれるものは有るが、それよりも確認しておきたいことがあるんだよ」
独断と偏見かも知れないが、女に困るような魔王の歓待などあまり期待できない。なので、俺は自分の都合を優先させる。
「ふむ。それはなにかね?私にできることがあれば何でも言ってくれたまえ。出来るだけの事はしよう」
「そうか、では遠慮なく」
俺はこぶしに軽く力を込めて、魔王の顔面にパンチを入れる。魔王の顔が歪み、玉座ごと後ろに吹き飛ぶ。
「ぐ、貴様!」
起き上がった魔王は、目を吊り上げ、口から牙をのぞかせている。かなり怒っているようだ。
「さっきまでのすました顔より、良い顔になったじゃないか。血沸き肉踊るような戦いがしたいんだろう。かかって来いよ」
「貴様はただでは殺さん。いたぶり尽くし、殺してくれと嘆願させてやる」
この程度の挑発で、ここまで怒るとは、やっぱり小物だった。第一本当に強いのなら、俺の先程のパンチぐらい軽くいなしていただろう。
魔王は禍々しい剣を空中から取り出すと、俺に斬りかかる。
「先ずは腕を貰う」
だがその斬撃は俺にとって余りにも遅い。剣が振り下ろされた時、俺はそこには居なかった。
「よくぞわが一撃をかわした。次はどうかな」
だが魔王が次の剣を振るう事は無かった。何故なら、剣を握ったままポトリと両手が落ちたからだ。
「腕が、俺の腕が!」
「騒ぐなよ」
そう言って俺は両足を切り飛ばす。何か武器を使っている訳ではない、素手で十分だった。
「やっぱり俺って強いよな……」
小物だといったが、一応はこの世界を滅ぼすだけの力があった魔王だ。平均よりはちょっと上だろう。そんな奴でも俺には文字通り手も足も出ない。何か叫んでいる様子だったが、構わず頭を踏みつける。
この世界に来てからと言うもの、兎すら一撃では殺せず、劣等感でモヤモヤとしていた気分が少し晴れる。ある意味、こいつの存在自体が良い歓待だった。下手に美味い酒や料理を振る舞われるより、よほど気分が良い。
「おっと、忘れるところだった。お前が集めた負の力ももらうぞ」
俺は体内から漆黒の剣を取り出す。魂を食らう剣ソウルイーターだ。
「な、なにを……」
魔王が何かまだ言ってくるが、構わず胸に剣を突き刺す。剣は魔王の力を吸い上げ、それに従い、魔王は干からび遂には灰になった。
「ご用件はお済ですか?」
ユニが尋ねてくる。
「ああ、まあ、こんなもんだな。もう何時でもリセットしてもらって構わない」
負の力を集めたという割には、大した事は無かったが、本当に膨大な負の力を集めていたら俺では手が出なかったので、結果オーライといったところだろうか。ソウルイーターで吸い上げることで、少しとは言え自分の力も増えた。
ユニは俺の答えを聞くと、この世界を消すために、目を瞑り集中した。
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