第33話 滅亡前1
ドラゴンがすべていなくなり、サッパリとした空で、俺達は話し合う。
「取りあえず肉は確保したし、もう一度街に戻る気にもならない。特に異存が無ければ次の時代に進みたいのだが……何かやり残したことは有るか?」
「特にはないと思いますけど……」
ルイーダが少し考えて笑顔で答えてくるが、全く信用ならない。だが、疑ったからといって何もならないのが恨めしい。
「それではまた千年後に行きますね」
いつの間にか人型に戻っていたユニが、軽い感じで言う。
「ちょっとまった、念の為に言うが、発展してるんだったらそれで良いが、滅亡しかけていたらちゃんと止めろよ」
「もちろんです。仰せの通りに致しますよ」
本当だろうか?こいつもこいつで疑わしい。俺の事を主と言いつつ、良いように利用しているようにしか思えない。だが、こいつも俺がそう思ったところでどうにもならない。俺にできることは、兎も角なんとか滅亡しない世界が出来ることを祈るだけだ。
そんな事を考えていると、風景が変わる。どうやら次の時代に飛んだようだ。しばらく前までドラゴンが覆い尽くしていた空は、今度はどんよりとした雲が広がっている。今までは天気が良い時ばかりだったせいか、嫌な予感がする。
「もしかして千年後じゃなくて、滅びる前か?」
「はい、滅びの兆しはこの時代より前に有りましたが、最早この世界自力では修復不可能と判断しました」
やっぱり……
「で、現状はどうなっているんだ?」
「魔王なる存在が、負の力を集めて強大な力を振るっている世界です。人間は完全に支配されていますね。その絶望が更に魔王の力になるという、負のループに入っています。最早、ごくまれに誕生する、桁外れに強い個体をもってしても、魔王にはかないません。
今回は負の力と正の力のバランスが崩れたことが大きな原因ですね。原因が分かってますし、やり直しますか?」
「もしかして、ドラゴンの大軍が影響したのか?」
「おそらく。ルイーダ様は負の力を大分解き放ち、所謂邪竜と言われるドラゴンを大量に生み出しましたから……」
なんとなくそんな事だろうと思ったよ。
「ルイーダは、なぜ同じくらい正の力を解放しなかったんだ?」
「すみません。前にも説明したと思うのですが、正の力は監視しているだけで、支配下にあるわけではないのです。放っておいても何も悪い事は起きませんし。変に扱うと負の力と相殺して、私の力が弱まってしまうものですから……」
暫く普通に行動していたので忘れていたが、そういえばこいつは、この世で最も邪悪な存在だった。
「……どうせ消すのなら、一応その前に見て回ろう。次の参考にはなるだろう」
滅びることが確定している世界であっても、出来るだけ活用したい。
俺達は昔栄えた都市が有った方向に移動し、少し手前で地面に降りる。どんよりとした陰鬱な雲は、移動しても変わらず空を覆い尽くしている。昔は黄金色に輝く、豊かな小麦畑が広がっていたところは、雑草の生い茂る畑に変貌している。
畑の中に、ゆらゆらと動く人影を見たので、農夫かと思ってじっくり見てみたら、違った。いや、元は農夫だったかもしれない。それはボロボロの衣服を着て、所々見えている肌は明らかに腐っている。それだけなら疫病に侵されている可能性もあるが、顔の片目は完全に腐り落ちていて、空洞になっている。胸も肋骨が見え、その向こうにある内臓が腐っているのが分かる。いわゆるゾンビと言う奴だ。
「昼間からゾンビが徘徊しているのかよ……」
本当に世も末の世界だな、と思う。そういや、昼間にゾンビが平気で歩く世界も有ったな、と埒も無い事を思い出す。取りあえず走ってこないだけましとしよう。
都市に向かって道を進んでいくと、道端に死体が転がっていて、それを動物だか、モンスターだかが貪っている場面に何度か出くわす。そいつらは雑魚ばかりなので、襲ってきても怖くもなんともないが、こういう風景が続くと気分が良いとは言えない。
更に都市の方に近づていくと、昔と変わらない城壁が見えてくる。だが変わらないと見えたのは、最初だけだった。よく見たら、城壁のあちこちが崩れ、向こう側が見えている。更に城壁には人の死体が吊り下げられている。城壁だけではない。正門に続く道沿いには、磔にされた死体がずらりと並んでいる。
「趣味が悪いな。まあ、魔王というのはこんなものか」
俺は密かに考えていた復讐方法から、死体をさらすというのを外す。考えていた時は、嫌な奴をさらし者にしたら、気分が良いだろうと思っていたが、端から見ると趣味の悪い奴である。それと腐敗臭が辺りに立ち込めているのもいただけない。
見渡すと都市から少し外れたところに、いかにも魔王の城といった、いびつな形の建物がある。中に居る者の気配からして、あそこが魔王城だろう。他よりも一層暗い場所になっていて、おどろおどろしい雰囲気は出しているが、やはり恐怖は感じない。住みにくいだろうな、としか思わない。俺の感覚も大分普通の者とは変ってるのだろう。
正門まで来たが、門番は誰も居なかった。正門から見える大通りは、人影もない。建物はどれも手入れがされていなくてボロボロだ。ただ、人の気配だけはする。結構な人数がまだこの都市にいるようだ。
こぎれいな俺たちは完全に風景から浮いていた。
「何か思う事は有るか?」
この風景を作った張本人のルイーダに聞いてみる。
「特に何も。滅びる前はこんなものではないでしょうか。特に珍しい風景でもないですよね」
ルイーダは屈託のない笑顔でそう答える。せめて、怯えるそぶりでもすれば少しは可愛げがあるものを、と思わないでもないが、今更といえば今更だ。
建物はボロボロになっているものの、やっている商売は以前とほとんど変わっていないようだ。俺はとりあえず、住民の話を聞くため、以前オーク肉を食べた店に足を運んだ。
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