第32話 ドラゴンスレイヤー
俺達は街から離れると、ユニに巨大な鳥になってもらい、その背に乗る。空を飛ぶことぐらい自分でもできるが、最初の方に、俺には感知できない透明な壁にぶち当たったせいで、出来るだけやりたくないという感情が先に来る。ユニの背に乗っていたら、もし同じことがあっても最悪な事にはならない。多分だが……
この世界は広いようで、実は箱庭のように狭い世界だ。直ぐに雲かと見まがう数の竜の群れが見える様になる。
取りあえずまだ遠い位置でユニに止まってもらう。よほど高レベルのドラゴンでもない限り、向こうからは発見できないはずだ。
「なあ、ざっと見ても一万体以上はいるよな……」
俺はドラゴンの数の非常識さに、再び軽いため息をつく。
「あれだければ、暫くは食べ放題ですね」
事態を引き起こしたルイーダは嬉しそうだ。
(どうしましょうか?お望みでしたら私の方で消しますが)
ユニが俺の考えを聞いてくる。
「念の為聞くが、特殊なドラゴンじゃないよな。ドラゴンの始祖とか神よかいうような……」
(それは大丈夫です。この世界の人間にも倒せるものです)
どうしようか、俺は少し悩む。無論勝てるかどうかではない。普通のドラゴンが何体集まろうとも、俺の敵ではない……はずだ。問題は消し飛ばしたら、ルイーダががっかりするんじゃないかと言う事だ。肉を食べただけでこれだけのドラゴンが発生したのなら、その肉が消えた時どういう反応を示すか分からない。
(ユニ。お前は異空間に物を収納できたりするのか。入れたら劣化しない空間が良いんだが)
(それ位、お安い御用ですよ)
考えた挙句、俺は半分は面倒臭いが、剣で倒し、残り半分をユニに消し飛ばしてもらうことにする。何とも我ながら玉虫色の結論だ。然しどうせ、ユニに頼まなければ、倒すことはできても、肉の保管は無理だ。俺の中に収納できるのは、解体してもせいぜい百体分ぐらいだろう。本来ならそれでもすごいはずなのだが、この二人といると劣等感に苛まれる。
「ドラゴンの肉は半分もあれば良いだろう。今から半分をユニに消してもらい、半分を殺して異空間に収納する。文句は無いよな」
聞くこともないのかもしれないが、こいつの場合、念を押しとかないと、予想外の事が起きかねない。
「はい、大丈夫です。半分でも沢山ありますもの。私、我慢強いんですよ」
……そうかもしれないが、とてもそうとは思えない。
(じゃあ、半分消してくれ)
俺はユニに頼む。ユニが何かを攻撃をするのは今回が初めてだ。職業柄というか何というか、どうしてもその攻撃方法には興味がわく。ルイーダのようにレーザーみたいなものを出して薙ぎ払うのか、それとも鳥に変化しているから、その身から無数の羽を飛ばして刺し殺すのか。
ユニは俺を主なんて呼んでいるが、ほんとのところどう思っているかなんて分からない。いざという時の為に攻撃手段を一つでも知っておいた方が良い。
そう考えていたが、ユニの攻撃は俺の予想しない方法だった。
(畏まりました)
その言葉と共にドラゴンの半数が消える。何か予兆があったわけじゃない。忽然と消えたのだ。ドラゴンも馬鹿ではないのだろうが、隣で同族が消えているというのに、騒ぎもしない。まるで最初からいなかったようだ。
(一体何をしたんだ?)
俺は内心の驚きを出来るだけ抑えてユニに聞く。
(仰せの通り、消しました。もう少し詳しく言うと、存在の許可を取り消しました。消えたものは最初からいなかった事になります。もちろん主様やルイーダ様には、影響を及ぼしませんので、見た目は忽然と消えた様に映ったと思いますが)
それを聞いて背中に嫌な汗が流れる。
(俺の存在もお前の許可があるからなのか?取り消せば俺も消えるのか?)
(我が主よ。それは不可能です。あくまでドラゴンを消せたのは、存在の有無の権限が私に有ったからです。まがりなりにも私が作った世界ですので。貴方様はそれから外れた存在です。ルイーダ様にも同じことが出来るはずです。寧ろルイーダ様の方が上です。ドラゴンの存在を消すことを認めなければ、私がいくら存在を消そうとしても消えなかったでしょう)
なんというか……攻撃を防ぐ手段が無いのを嘆くべきか、それとも俺が対象から外れているのを喜ぶべきか……
これも深く考えたらダメなやつなんだろう。俺は気持ちを切り替えて、体内から魔剣を取り出す。竜殺しにふさわしいドラゴンスレイヤーだ。
ユニにドラゴンの群れに近づいてもらい、接敵すると背中から飛び立つ。そして自在に空を飛びながら首を一撃で切り落としていく。
俺達に気付いたドラゴンは、ブレスや尻尾、カギ爪などいろんな方法で攻撃してくるが、俺はよけもせず、それらを切り裂く。
次々に俺の攻撃にドラゴンはなすすべもなく殺され、落下していく。そしてその途中でユニが設置した、異空間に続く穴に吸い込まれ、消えていく。
端から見たら、勇者のおとぎ話の戦いではなく、神々の神話級の戦いに見えただろう。何せ世界を滅ぼせるだけの数のドラゴンと、一人で戦っているのだから。
だが、その当事者である俺の心は高揚感とは程遠かった。なにせ俺のやっていることは、ただの肉の確保だ。言い換えればただの作業だ。目の端にルイーダが俺の戦いに、拍手を送っている姿が見えるが、嫌味にしか見えない。
俺は淡々と、ドラゴンを殺し続け、全てを殺しつくした。
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